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第九章 飲み会明けの機動部隊
バカ騒ぎの翌日
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「おはようございます……」
誠は詰め所に定時少し前に顔を出した。そしてそのまま顔面に腫れぼったさを感じながら、ようやっと自分の椅子に座った。部屋中の視線が自分に釘付けになっていることに、ただひたすら恥ずかしさばかり覚えて、誠はそのままうつむいた。
「どうだい、また一人で潰れた気分は?」
ランが昨日あれだけ飲んだでいたというのに、平然として誠に話しかけてきた。それ以前に誰一人として、昨日の乱痴気騒ぎの余韻など微塵も感じさせずに、誠を一瞥しただけで書類の整理を続けている。
「本当にすいません。僕は酔うと記憶が飛んじゃうんで、何か迷惑かけましたか?」
誠のその言葉についにかなめが噴き出した。それを聞くと誠は穴があったら入りたい気分だった。
「いいじゃん!面白ければ!」
かなめは彼女らしく、いたずら好きなタレ目を見せながらつぶやいた。
「かなめちゃんはああいうノリ大好きだもんね!」
「何言ってんだよ!シャム!別にこいつの裸なんか!」
シャムに突っ込まれると、かなめはすっかり当惑したようにむきになって否定する。
「また脱いだんですか?」
誠は恐る恐るカウラにたずねた。カウラは表情も変えずにうなづく。そして誠はがっくりと肩を落として机に突っ伏した。
「でも、やばいんじゃねえの?昨日、介抱して部屋に放り込んだのカウラとかなめだろ?菰田の奴がなんか動き出してるみたいだし……」
吉田はガムを噛みながら無責任にそう言った。
「菰田先輩が何か……」
「鈍い奴だな。あいつ馬鹿だから勝手にカウラのファンクラブ結成して、そこの教祖に納まってるんだぜ。俺もタクシーで帰ろうとしたら、もうお前等が誠を連れて出てっちゃった後だったからな、あいつ、かなり荒れてたぜ」
吉田のその言葉に誠の背筋に寒いものが走る。どこか粘着質な印象のある主計曹長の菰田の表情が脳裏に焼きついて離れない。
「ずるいよね、カウラちゃんだけにファンクラブがあるなんて!」
シャムの関心はそこにあった。それはいかにも彼女らしいと、落ち込み気味の誠も苦笑いを浮かべる。
「馬鹿!お前のもあるんだぞ」
「えっ!本当!誰が仕切ってるの?」
吉田の無責任な一言にシャムが食い付く。だが吉田はそれ以上話を広げるわけでもなく、いつもの調子でシャムの好奇の視線を集めて喜んでいる。
「馬鹿話はこれくらいにして。今度の演習の概要。ちゃんと読んでおけ」
カウラは吉田達の与太話を無視して、厚めの冊子を誠に手渡した。演習と言う言葉。その言葉の重みと手にした書類の重み。それを誠は実感しながら、どうにか浮いた雰囲気から逃れようと表紙を開いた。
「これが新入りの僕を迎えての初の部隊演習ですか……それにしても本当に胡州の第三演習宙域使うんですか?」
「それがどうした?」
誠のつぶやきにカウラが表情を変えずにそう聞き返してきた。それを見た誠は、まったくの無表情と言うものがどんな顔だか判るような気がしてきていた。
「あそこは前の大戦で胡州軍の最終防衛ラインとして激戦が行われて、大量のデブリや機雷なんかが放置されているって話じゃないですか?そんな所でいきなり……」
「何だ神前?ビビってんのか?情けねえなあ」
ニヤニヤと笑いながらかなめはあおるようにそう言った。彼女が激戦を乗り越えてきたことは良くわかるが、その人を小馬鹿にするような物言いには、さすがの誠もカチンと来ていた。
「別にそんなんじゃ……。分かりました!早速これ読みます」
「役所の文章は読みにくいからな。とは言えそれが仕事だ、今日中に頭に叩き込んでおけ」
カウラはそう言うと自分の席に戻って、再び書類に目を通し始めた。誠もまた難解な語句を駆使している演習概要の冊子を読み始めた。
誠は詰め所に定時少し前に顔を出した。そしてそのまま顔面に腫れぼったさを感じながら、ようやっと自分の椅子に座った。部屋中の視線が自分に釘付けになっていることに、ただひたすら恥ずかしさばかり覚えて、誠はそのままうつむいた。
「どうだい、また一人で潰れた気分は?」
ランが昨日あれだけ飲んだでいたというのに、平然として誠に話しかけてきた。それ以前に誰一人として、昨日の乱痴気騒ぎの余韻など微塵も感じさせずに、誠を一瞥しただけで書類の整理を続けている。
「本当にすいません。僕は酔うと記憶が飛んじゃうんで、何か迷惑かけましたか?」
誠のその言葉についにかなめが噴き出した。それを聞くと誠は穴があったら入りたい気分だった。
「いいじゃん!面白ければ!」
かなめは彼女らしく、いたずら好きなタレ目を見せながらつぶやいた。
「かなめちゃんはああいうノリ大好きだもんね!」
「何言ってんだよ!シャム!別にこいつの裸なんか!」
シャムに突っ込まれると、かなめはすっかり当惑したようにむきになって否定する。
「また脱いだんですか?」
誠は恐る恐るカウラにたずねた。カウラは表情も変えずにうなづく。そして誠はがっくりと肩を落として机に突っ伏した。
「でも、やばいんじゃねえの?昨日、介抱して部屋に放り込んだのカウラとかなめだろ?菰田の奴がなんか動き出してるみたいだし……」
吉田はガムを噛みながら無責任にそう言った。
「菰田先輩が何か……」
「鈍い奴だな。あいつ馬鹿だから勝手にカウラのファンクラブ結成して、そこの教祖に納まってるんだぜ。俺もタクシーで帰ろうとしたら、もうお前等が誠を連れて出てっちゃった後だったからな、あいつ、かなり荒れてたぜ」
吉田のその言葉に誠の背筋に寒いものが走る。どこか粘着質な印象のある主計曹長の菰田の表情が脳裏に焼きついて離れない。
「ずるいよね、カウラちゃんだけにファンクラブがあるなんて!」
シャムの関心はそこにあった。それはいかにも彼女らしいと、落ち込み気味の誠も苦笑いを浮かべる。
「馬鹿!お前のもあるんだぞ」
「えっ!本当!誰が仕切ってるの?」
吉田の無責任な一言にシャムが食い付く。だが吉田はそれ以上話を広げるわけでもなく、いつもの調子でシャムの好奇の視線を集めて喜んでいる。
「馬鹿話はこれくらいにして。今度の演習の概要。ちゃんと読んでおけ」
カウラは吉田達の与太話を無視して、厚めの冊子を誠に手渡した。演習と言う言葉。その言葉の重みと手にした書類の重み。それを誠は実感しながら、どうにか浮いた雰囲気から逃れようと表紙を開いた。
「これが新入りの僕を迎えての初の部隊演習ですか……それにしても本当に胡州の第三演習宙域使うんですか?」
「それがどうした?」
誠のつぶやきにカウラが表情を変えずにそう聞き返してきた。それを見た誠は、まったくの無表情と言うものがどんな顔だか判るような気がしてきていた。
「あそこは前の大戦で胡州軍の最終防衛ラインとして激戦が行われて、大量のデブリや機雷なんかが放置されているって話じゃないですか?そんな所でいきなり……」
「何だ神前?ビビってんのか?情けねえなあ」
ニヤニヤと笑いながらかなめはあおるようにそう言った。彼女が激戦を乗り越えてきたことは良くわかるが、その人を小馬鹿にするような物言いには、さすがの誠もカチンと来ていた。
「別にそんなんじゃ……。分かりました!早速これ読みます」
「役所の文章は読みにくいからな。とは言えそれが仕事だ、今日中に頭に叩き込んでおけ」
カウラはそう言うと自分の席に戻って、再び書類に目を通し始めた。誠もまた難解な語句を駆使している演習概要の冊子を読み始めた。
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