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第七章 アサルト・モジュール
パイロット失格からの復活
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誠は05式のメインシステムへの登録を終えても興奮が冷めやらずにいる自分を感じていた。
『専用機か……』
感慨深いものがあった。
特機パイロット候補を志願したものの、シミュレーターでの成績がギリギリで、教官からはパイロットとしてなら輸送機部隊以外に引き取り手が無いと言われていた。大学の先輩で同じく幹部候補生上がりの佐官には、彼の所属の装備開発研究部門に誘われたこともあった。そんな自分に、最新式アサルト・モジュールのパイロットの役割が回ってくるとは思ってもいなかった。
しかも乗るのは特殊な精神感応システムを搭載していると言う触れ込みの最新鋭機でである。
『神前君。ちょっと顔、ニヤケてるわよ』
明華のそんな声で急に我に返った。各種設定の終了を示すランプがモニター上に点灯していた。
『とりあえず今日はこんな所ね。ご苦労様』
「え?これだけですか?」
誠は正直もっとコックピットに座っていたかった。これは何かの冗談かもしれない。明日にはパイロットの任を解かれることも頭をよぎる。
『あのねえ、ハンガーでこいつを稼働状態まで持ち込んでどうするつもり?西園寺やベルガーの機体と相撲でも取るの?』
ハンガーの広さを考えれば、この機体を動かせばちょっとした騒動になることくらい誠にもわかった。誠は明華の言葉に押されるようにして、前部装甲とハッチを開いて、コックピットから這い出た。
「まあ、近く演習がある予定だから。その時に楽しみを取っておきなさいよ」
エレベーターを操作しながら明華はたしなめるようにつぶやいた。二人を乗せたエレベーターはそのまま地上に着き、かなめとカウラが言い争いをしている目の前に降り立った。
「なんだ?新入り。もう終わったのかよ」
かなめがいかにも不満そうに掴んでいたカウラの襟首を離す。
「二人とも何をそんなに揉めていたんですか?」
誠はエレベータから降りるとようやくつかみ合いを止めて離れた二人に話しかけた。
「別に良いだろ?」
そう言ってかなめはそのまま背を向けてグラウンドに向かおうとする。
「神前少尉にも関係が有るんだ。実は……」
「カウラは黙ってろ!」
かなめはそう言うと再びカウラの前までずんずんと詰め寄っていく。殺伐とした空気が二人の間に流れているのがわかる。
誠はただ何も出来ずに二人の上官たちが口を開くのを待っていた。
「西園寺。小隊長は私だ。実は……」
「かなめちゃん!カウラちゃん!」
カウラが説明を始めようとしたときハンガーの入り口から大声が響いた。
そこにはアイシャが運動服姿でこちらに手を振っていた。
「うっせえな!この腐女子!こっちは取り込んでんだよ!」
今にも食って掛かりそうな調子でかなめが噛み付いた。
「隊長がもう一段落ついたところだろうから、追加のランニングに行けって」
アイシャは悪びれることなくそう言った。
「話は後にするか……分かった!すぐ準備するから待っててくれ!」
カウラはぶつぶつ一人愚痴っているかなめを無視するように言った。かなめはカウラを一にらみするとハンガーの奥に歩き始めた。
「神前少尉、貴様も来い」
そうカウラに言われて仕方なく誠はグラウンドで明らかに疲れ切って走っている島田達の方に足を向けた。
「専用機か……」
誠の心はまだ自分の愛機にまとわりついていた。
『専用機か……』
感慨深いものがあった。
特機パイロット候補を志願したものの、シミュレーターでの成績がギリギリで、教官からはパイロットとしてなら輸送機部隊以外に引き取り手が無いと言われていた。大学の先輩で同じく幹部候補生上がりの佐官には、彼の所属の装備開発研究部門に誘われたこともあった。そんな自分に、最新式アサルト・モジュールのパイロットの役割が回ってくるとは思ってもいなかった。
しかも乗るのは特殊な精神感応システムを搭載していると言う触れ込みの最新鋭機でである。
『神前君。ちょっと顔、ニヤケてるわよ』
明華のそんな声で急に我に返った。各種設定の終了を示すランプがモニター上に点灯していた。
『とりあえず今日はこんな所ね。ご苦労様』
「え?これだけですか?」
誠は正直もっとコックピットに座っていたかった。これは何かの冗談かもしれない。明日にはパイロットの任を解かれることも頭をよぎる。
『あのねえ、ハンガーでこいつを稼働状態まで持ち込んでどうするつもり?西園寺やベルガーの機体と相撲でも取るの?』
ハンガーの広さを考えれば、この機体を動かせばちょっとした騒動になることくらい誠にもわかった。誠は明華の言葉に押されるようにして、前部装甲とハッチを開いて、コックピットから這い出た。
「まあ、近く演習がある予定だから。その時に楽しみを取っておきなさいよ」
エレベーターを操作しながら明華はたしなめるようにつぶやいた。二人を乗せたエレベーターはそのまま地上に着き、かなめとカウラが言い争いをしている目の前に降り立った。
「なんだ?新入り。もう終わったのかよ」
かなめがいかにも不満そうに掴んでいたカウラの襟首を離す。
「二人とも何をそんなに揉めていたんですか?」
誠はエレベータから降りるとようやくつかみ合いを止めて離れた二人に話しかけた。
「別に良いだろ?」
そう言ってかなめはそのまま背を向けてグラウンドに向かおうとする。
「神前少尉にも関係が有るんだ。実は……」
「カウラは黙ってろ!」
かなめはそう言うと再びカウラの前までずんずんと詰め寄っていく。殺伐とした空気が二人の間に流れているのがわかる。
誠はただ何も出来ずに二人の上官たちが口を開くのを待っていた。
「西園寺。小隊長は私だ。実は……」
「かなめちゃん!カウラちゃん!」
カウラが説明を始めようとしたときハンガーの入り口から大声が響いた。
そこにはアイシャが運動服姿でこちらに手を振っていた。
「うっせえな!この腐女子!こっちは取り込んでんだよ!」
今にも食って掛かりそうな調子でかなめが噛み付いた。
「隊長がもう一段落ついたところだろうから、追加のランニングに行けって」
アイシャは悪びれることなくそう言った。
「話は後にするか……分かった!すぐ準備するから待っててくれ!」
カウラはぶつぶつ一人愚痴っているかなめを無視するように言った。かなめはカウラを一にらみするとハンガーの奥に歩き始めた。
「神前少尉、貴様も来い」
そうカウラに言われて仕方なく誠はグラウンドで明らかに疲れ切って走っている島田達の方に足を向けた。
「専用機か……」
誠の心はまだ自分の愛機にまとわりついていた。
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