レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第七章 アサルト・モジュール

その道のプロ達の射撃

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 本部の建物が尽きた先、そこに射撃用レンジがあった。 

 そこにはトタンでできた日よけがあり、30mレンジ100mレンジ、それに500mレンジが並んでいるという、それなりに実用的なものだった。

 そこに不意に見つけた人影に誠は思わず立ち止まった。

 いつの間にか先回りしていた嵯峨が、30mレンジでいかにもだるそうな感じでタバコを燻らせていた。

「遅いねえ……ようやく着たか」 

 いつものことだが嵯峨の声にやる気が感じられない。

 誠が目をやると荷物置き場に見慣れた東和宇宙軍の制式拳銃、04式9mmけん銃と小口径の見慣れない拳銃が置かれているのが分かった。

「なんか変な空気だけど……マリア、何かあった?」

「くっだらねえ!さっさと始めねえか!」

 かなめはタレ目を見開いて挑発するような視線を嵯峨に送る。誠はそのまま射撃レンジの日陰に入った。高い湿度の中、日陰とは言え暑さは堪えた。誠の足元を見ながらカウラはガンベルトを巻く。

「でだ。お前等も知ってると思うが、神前は射撃が致命的に下手だ」

「マリアの姐御。何もそこまで言わんでも……東和出身者は似たようなもんだろ?」

 すでにかなめはホルスターから銃を取り出していた。そのまま握り具合を確かめるように何度も握りなおしながらそうがつぶやく。 

「まあねえ……神前の下手さは特別ってわけだ」

 マリアの言葉に一同は誠に目をやる。けなされてはいるが事実なので誠は頭を掻くしかなかった。誠はそのままレンジに置かれたゴーグルとイヤープロテクターをして射場を眺める。 

「まあとりあえずお手本だ、西園寺。撃ってみろ」

 全員がゴーグルとイヤープロテクターをしたのを確認するとマリアはそう言った。 

「新入り!とりあえず射撃ってのはこうやるんだ!」 

 言われるまでもないというように、かなめは拳銃の銃口を30メートル先のターゲットに向けた。

 電光石火とはこのことを言うんだろう。かなめの動きを見て誠はそう思った。実戦での拳銃の射撃の腕前は先日の人質騒ぎで分かっていたことだが、射場に来るとさらにそれは凄まじいものになる。

 3秒間の殆どフルオートではないかという連続した轟音が響いた。弾を撃ち尽くしスライドがストップしたが、かなめは素早く空のマガジンを捨て次のマガジンを装填しようとしていた。

「別にタクティカルリロードの実演なんて必要ないよ」 

 嵯峨が止めたのでようやく気が済んだとでも言うように、かなめはゆっくりと手にした予備マガジンを銃に入れスライドを閉鎖した。

 誠は視線をかなめからターゲットに移した。30メートル先の人型のターゲットの首の辺りに横一列に弾痕が残っている。狙わなければこんな芸当は出来ないことはわかるが、そもそも生身の人間にこんな芸当は出来る話ではない。

『よしてくださいよ、こんなのと一緒にされても……』

 誠はそう思いながら、正直、戸惑っていた。

「さすが、『胡州の山犬』の一噛みと言うところか?」

 満足げにマリアはターゲットを見つめている。 

「こんなのただのお座敷芸だぜ。まあ、生身の誰かさんには無理な話だろうがなあ?」 

 そう言ってかなめはカウラに視線を向ける。誠はかなめと一緒にされてはたまらないと視線を落とした。

「新入り、なんか顔色悪いぜ。お前のためにやってるんだ。しっかり見てろ。それじゃあ小隊長殿、生身でどれだけできるか見せてもらおうじゃねえの」 

 かなめは誠の思惑など気にする風でもなく、嘲笑うかのようにカウラにそう言って見せる。カウラもその言葉でスイッチが入ったかのようにエメラルドグリーンの瞳の色に生気が戻った。

 銃口をゆっくりと上げると、カウラは引き金を引いた。美しい力の入っていないフォームで二発づつの射撃を8回続けた。銃のマガジンが空になりスライドストップがかかる。

「ダブルタップのお手本だな」 

 マリアが静かにそう言った。嵯峨はといえばただ黙って標的を眺めている。

 誠はターゲットに焦点を合わせた。急所と思われる場所に確実に2発の弾痕を、8つ作っている。

 カウラは表情を変えるわけでもなく、静かに空のマガジンを外して銃を台の上に載せた。かなめはニヤつきながらそんなカウラを見つめていた。
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