レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
45 / 1,505
第七章 アサルト・モジュール

いつもの訓練風景

しおりを挟む
 吉田は忙しそうに走り回る事務職員を見送り、そのまま隊舎の取ってつけたような粗末な階段を降りて、自分の05式丙型の解体整備をしているハンガーを抜け隊舎の前のグラウンドに出た。

 運動服姿の誠、カウラ、アイシャなどが警備部員と混じってランニングをしていた。その様子をランとマリア、それにランニングのメニューを課されていない、サイボーグのかなめが見つめている。吉田は一人、いかにもタバコを吸いたそうにしているかなめに目を向けた。

「なんだ、連中もちゃんとトレーニングしてるじゃないか」

「そりゃあね。年中いろいろ言われてりゃ叔父貴や中央の連中がアタシ等が野球の練習ばかりしてるっていう噂ぐらい聞こえてくるよ。……で、次はこっちの練習でね」

 かなめの前には荷物を載せた台車があった。台車にはガンベルトとホルスターが入っていた。駆け寄ってきたカウラはそのままガンベルトを台車から取る。

「あのー、僕の分は?」 

 かなめがアイシャに台車を押し付けるのを見ながら誠は尋ねる。

「上官を荷物運びに使うつもりか?早くしろ!それとちっちゃい姐御!叔父貴が報告書、書き直せって言うから机に置いといたぜ!」 

 そう言うとかなめは誠の左手を握って歩き始める。カウラはそれに続いて台車を押した。

「まったくあのおっさんは勝手なことばかり言うな」 

 そう言うとランはあきらめたような調子でそのまま吉田のところへ歩き始めた。

「事務仕事がんばれや、ちっちゃいの」 

 吉田はそう言うと疲れたような表情のランの肩を叩いた。

「射撃訓練がんばってね!」

 そう言って誠達のランニングを遠目で見ていたアイシャが誠に手を振る。一方のランは、今度は恨めしそうな視線をかなめに向けた。

「ちっちゃいの!文句はあたしに言っても無駄だぜ。叔父貴に言いな!新入り、カウラ!行くぞ!」

「私も見学させてもらうぞ」

「なんだよマリアの姐御まで来るのか……」

「小火器の訓練は警備部(うち)が主導しているんだ。当然だろ?」

 思いもかけぬ闖入者にかなめは渋い表情を浮かべるが、美人が増えるとあって誠は幸せな気分になっていた。 

 かなめは少しばかり怒ったような顔をしながら、誠、カウラ、マリアの三人を連れてそのままハンガーの裏の雑草が生い茂る間にできた踏み固められた道を歩いて、裏手にある射場に向かった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

処理中です...