レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第六章 司法局実働部隊男子下士官寮

草野球クラブの概要

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「おい!シャムが食いすぎてつまみが無いぞ!アイシャ、それを供出しろ!」 

 かなめがそう言ってアイシャの手にしているポテトチップスに手を伸ばす。

「なによ!これは私が食べるのよ」 

 そう言ってアイシャは手に何枚ものポテトチップスを掴んで口に突っ込む。

「二人とも喧嘩しないでよ!もうすぐエンゲルバーグが……」 

 割って入ろうとするサラの一声に空いたままの扉から声が響いた。

「ヨハンです!ヨハン・シュペルターです!」 

 恰幅のよさでは部隊随一のヨハンが、ボール一杯のソーセージを持って入り口に仁王立ちしていた。

 彼はそのまま食べつくされた部屋の中央のつまみ類の空き袋をどかすと、湯気を上げている何種類もあるソーセージの盛り合わせを置いた。

 シャムが素早く黒い斑点が透けて見える大きなソーセージをキープする。カウラもつまみに手を出さなかったから小腹がすいているようで、赤い辛そうなのを手に取ると口に入れた。

「なんか狭くないか……若干一名のせいで」 

 かなめはそう言って、ヨハンに目をやった。

「うるさい!この部屋にこんな荷物持って来てる神前が悪いんだよ」

 ヨハンはそう言って壁一面の漫画とフィギュアの棚を指さした。

 場の流れを読んで島田が空いているグラスにビールを注いで回った。

「それじゃあ改めて……部長!」

 かなめがビールの入ったコップを手に、ランに声を掛ける。

「え?アタシか……ここは監督が……」

 ランは戸惑ったような表情でかなめを見つめる。

「一応、前任者から部長を引き継いだんだろ?じゃあ挨拶は部長がやんなきゃ」

 そう言うと待ちきれないというようにかなめは一口ビールを口に含んだ。

「……ったく、しゃーねーな。まあ、挨拶は面倒だから行くぞ。遼州司法局草野球同好会改め、草野球クラブの設立を祝して、乾杯!」 

『乾杯!』

 全員が息を合わせたようにグラスをかざす。

「僕も……入るんですよね?」

 誠の問いにランとかなめが大きくうなづいた。

「私は抑えに回るからお前がうちのエースだ」

 一本ウィンナーを食べ終えたカウラの言葉に誠は照れ笑いを浮かべた。高校時代は硬式野球で都立の星と呼ばれてニュースにも出たことがあることは、たぶんここにいる全員が嵯峨から聞いていることだろう。ただ、三年の夏に肩を壊し、持ち前の気の弱さもあって誠は大学では体育会は避けて、勝ち負けにこだわらないような軟式のサークルに所属していた。

「エースですか……」

 カウラにそう言われて誠は照れ笑いを浮かべた

「一応、春と秋にリーグ戦をやるんだ。参加してるのは菱川重工関係3チームと豊川市役所、それと西東都荷役にうちで計6チーム。いい加減万年二位どまりは卒業したんだがな」

 かなめの言葉に誠は苦笑いを浮かべながらグラスのビールを飲み干した。

「まあどこでも左腕は貴重だからな。そう言えば菱川のコーポレートグループに一人いたっけ?」

「ああ、一昨年まで都市対抗に出てた人でしょ?あんなスライダー誰が打てるのよ」

 ビールを飲みつつつぶやくランにアイシャは合わせるようにそう言った。

「でもこの一年ろくに投げてないですよ、僕」

 自信なさそうに言う誠にかなめは大きく首を横に振った。

「なあに、菱川のコーポレートグループ以外はどうせ素人集団だ」

「でもいつもあそこにはぼろ負けしてるじゃない。やっぱり監督の違いかしら」

「おい、アイシャ。喧嘩売ってるのか?」

「別に……でも先生なら抑えられるんじゃない?高校時代は140キロ後半出てたんでしょ?」

 かなめと絡むのに飽きたアイシャが誠に話題を振ってくる。

「たまたま有名校とやった時に出た記録ですよ。その時はファーボール連発して自滅しましたから」

 自信なさそうな誠の言葉にアイシャはニヤリと笑った後、誠の肩を叩いた。

「安心してよ、うちの守備はざるじゃないから。特に三遊間は鉄壁よ」

「ショートのシャムちゃんはいいとして……サードを守っている本人が言っても説得力無いわよ」

 黙ってビールをやっていたパーラの言葉にアイシャが言葉を詰まらせた。

「まあいいじゃないの。それより先生……まだ脱がないの?」

 アイシャの言葉を聞くと誠はこれまでの飲み会を思い出して顔が赤く染まっていくのを感じた。

「下らねーこと言ってねえで……まあここは部長のアタシの顔を立ててだ。ゆっくりこれからのことでも考えながら飲もうや」

 落ち着いたランの言葉で誠は安心してグラスの中のビールをあおった。誠は次第に酔いが回っていくのを感じながら島田から注がれたビールを飲み干した。

 誠は『仲間』という言葉をこの時初めて理解することになった。
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