レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第六章 司法局実働部隊男子下士官寮

闖入する女性陣

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「じゃあ行こうか」 

 そう言うと島田は食堂を出た。

 階段の手すりに手をかけた島田が立ち止まると振り向いた。いつもと違う真剣な表情の島田がそこにいた。

「島田先輩……?」 

 誠は西日に照らされて表情の読めない島田の顔をまじまじと見つめた。

「何も言うな。新人パイロット、初の生え抜きの士官候補生、うちでのお前の立場上、こういうこともあるだろうということは先刻承知の上だ……、だがなあ……」 

 そう言う島田の肩が震えている。

「先輩?」 

 誠は読めない島田の表情を前にして言葉に詰まった。

「羨ましいぞ!神前!」 

 島田が手すりに伸ばした手を誠の肩に乗せた。

「あ!遅いよ!マサトっち!」 

 様子を見に階段から下を眺めていたサラがそう叫んだ。

「すみませんね」

 そう言うと島田は駆け足で階段を登る。誠はその後に続いて自分の部屋に入った。

「遅いわよ!」

 アイシャの声に島田は頭を下げながらコップを配る。

 誠も手にしたロックアイスの袋を開けてコップに氷を入れ始めた。

「荷物運ぶ時から予想はついてたけど、濃い部屋だよな?」

 島田は手元に落ちていたアニメショップでもらった団扇で顔を仰ぎ始めた。 

「ほっといてください!」 

 誠はやかんのぬるい麦茶をコップに注ぐ。

「お茶菓子くらい欲しいわね。サラ、あなたよくここに来てるから場所とかわかるんじゃないの?」 

 アイシャの言葉にサラが飲もうとした麦茶を噴出しそうになった。 

「アイシャちゃん!それは言わないでって!」 

 カウラの視線がサラに向いた。

「何だ?サラの奴、誰かと付き合ってるのか?」 

 島田が大きく咳払いをする。誠とカウラはそれを見て笑いあった。彼は当然のようにサラの隣に座って麦茶を飲み干した。サラが麦茶の入ったやかんに手を伸ばそうとするのをアイシャが制してやかんに手を伸ばす。

 二人はパーラに目をやった。

 パーラがどこか浮かない表情を浮かべているのが誠にもわかった。

 カウラもそれを察して立ち上がると本棚や机を触り始めた。

「確かに、アイシャの部屋に似ているな」 

 カウラはそういうと一冊の同人誌を手に取った。アニパロの十八禁漫画、誠の額に汗が噴出す。

 カウラは顔色を変えずに誠に目をやった後、静かにそれを本棚に戻した。

「誠ちゃん!そう言うのは分からない所に紛れ込ませなきゃ」 

 アイシャがニヤつきながらそう言って、擦り寄ってくる。

「アイシャ!」

 パーラが手にしたコップを置くと叫んだ。 

「パーラちゃんたら一度男にだまされたくらいで……それともあれ?かなめちゃんと同じ百合趣味に走るつもり?」 

 サラは困った顔で隣の島田の膝を叩く。島田もアイシャを止めるべきか迷っているようにアイシャを見つめる。

「馬鹿なこと言うんじゃないわよ!あんたと組んでてそんなことしたら、どんな噂立てられるか、それに……」 

 まくしたてるようにそう言ったパーラの目には涙があふれてきている。

「それにしても……これってフィギュア作りの道具が入っているの?」

 話題を変えようとサラが部屋の片隅に箱を見つけたのを見て誠は首を振った。

「ああ、さすがにフィギュア作りは無理かなあと思って。プラモの道具は一通り持ってきましたけど。一応、原型製作のために作ったスケッチならありますよ」 

 誠はカウラの刺すような視線が気になってアイシャから離れて立ち上がった。アイシャはその腕をつかんで一緒に立ち上がる。

 今度は左腕に柔らかなアイシャの感触を感じてカウラを見る。今度はカウラはボールを見つめて右手の上で転がしていた。自然と誠の目はその胸に行く。

 夏季勤務服の薄い生地、そこには平原が広がっていた。

 また、悲しいさがで、パーラの胸を見る。明らかにカウラの平原とは違う盛り上がりが同じ夏季勤務服の下にあることがわかる。しかし、パーラはすぐその視線に気づいてきつい視線を投げかけてきた。
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