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第三章 ドタバタの歓迎会
百合疑惑
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「あそこの店だって……。またあの糞餓鬼が待ってやがる……」
二階建ての『あまさき屋』と看板の出ている小ぎれいな建物。その前に、箒を持ったかなめに似た上方の紺色の制服姿の女子中学生が一人でかなめを睨み付けていた。
「おい、外道!いつになったらこの前酔っ払ってぶち壊したカウンターの勘定済ませるつもりだ?」
夕方の赤い光が白いワイシャツ姿の少女を照らしている。誠は少女と視線が合った。
少女はそれまでかなめに向けていた敵意で彩られた視線を切り替えて、歓迎モードで誠の顔を見つめる。そしてカウラに目をやり、さらに店内を見つめ。ようやく納得が言ったように箒を立てかけて誠を見つめた。
「この人が大師匠が言っていた新しく入る隊員さんですか、カウラの姐(あね)さん?」
少女は先ほどまでのかなめに対するのとは、うって変わった丁寧な調子でカウラに話しかける。
「そうだ、彼が神前誠少尉候補生。小夏も東和軍からうちに入るのが夢なんだろ?後でいろいろと話を聞くといい」
その説明を聞くと、店の前にたどり着いた誠を憧れに満ちた瞳で眺めた後、小夏は敬礼をした。
「了解しました。神前少尉!あたしが家村小夏というけちな女郎(めろう)でございやす。お見知りおきを!ささっ!もう大師匠とかも来てますから入ってください!」
掃除のことをすっかり忘れて、無駄にテンションを上げた小夏に引き連れられて、三人はあまさき屋の暖簾をくぐった。
外のムッとする熱波に当てられていた誠には、店内のエアコンの冷気がたまらないご馳走に感じられた。
「来ましたねえ……」
アイシャの落ち着いた言葉に誠達は迎えられた。涼しい風に和んでいる誠達の目の前でアイシャ、パーラ、サラの三人娘がたこ焼きをつついていた。小夏に連れられて入ってきた誠達、特にかなめを見つけるとアイシャとサラはにやけた様な顔をして、パーラは眼を伏せた。
「おい、テメエら。なんかつまんねえこと考えてんのか?」
かなめがまるで尋問するようにサラに目を向けて尋ねる。とぼけたようにあくびをしたサラがアイシャに目を向ける。すると彼女はすぐ目の前のTシャツ姿のサラを見つめてニヤニヤしながらかなめの方を向き直った。
「かなめちゃん、これなんだけど……」
アイシャが一枚の汎用端末用ディスクを掲げた。誠は何が起きたかわからなかったが、かなめの様子がおかしいことだけはわかった。見ているとかなめの目が一瞬点になった。そして次の瞬間、かなめはそれを奪おうと手を伸ばすが、アイシャはすばやくそれをかわした。
「いやあ、胡州陸軍の治安部隊にも友達がいてねえ……」
アイシャの慣れた言葉に誠とカウラは取り残されたように立ち尽くしている。かなめは何度と無くアイシャの手に握られたディスクを奪い取ろうとするが、アイシャは紙一重でそれをかわし続ける。
「アイシャ……表に出ろ!いいから……表に出ろ!」
かなめは取り上げるのをあきらめたようにテーブルに両手をつくと低い声でそう言った。
「そんな口の利き方して良いのかしら?かなめちゃん?これをシャムちゃんに渡して、そこから吉田少佐の手に渡ってそれで……銀河中にかなめちゃんの本性が……」
アイシャは話を進める。サラはその隣で笑っている。作務衣のような薄い紫の上着を羽織ったパーラは呆れてたこ焼きを口に入れたが、熱かったようで慌ててビールを飲み始めた。
カウラと小夏は話が読めないと言うように呆然と三人のやり取りを眺めていた。
「分かった!何が狙いだ?金か?それとも……」
明らかに焦っているかなめの様子を誠は不思議そうに見ていた。それを見て小夏は手を打って納得した。そして目の前の状況をただ眺めている誠の耳元で囁いた。
「旦那。あのど外道、ああ見えて女に人気がありましてね……百合って奴ですか?まあ、ど外道は確かに鬼畜だけどそんな趣味は無いってんで、ああいったやり取りになってるわけですよ」
耳を澄ましていたカウラが小夏の話を聞いて声を立てて笑い始めた。おそらくは百合な雰囲気を醸し出している盗み撮り映像でも入っているのだろう。アイシャはひらひらと笑みを浮かべながらディスクをゆらしてかなめを挑発する。
「なるほど……」
誠が納得したように頷いて眼を開けるとそこにはかなめの顔があった。誠は思わずのけぞった。そして、かなめの豊かな胸が誠の胸板に触れようとした瞬間、かなめは口を開いた。
「おい神前。今度の夏コミでアイシャが原作を書く漫画はお前が絵を描け。上官命令だ拒否は認めん。分かったな?」
凄まじく真剣な表情のかなめのうしろで、にこやかに手を振っているアイシャの姿があった。
「分かりましたから……そんなに顔近づけないでくださいよ。ちょっと怖いですし……」
そして誠は隣のカウラの顔を見た。感情の起伏の少ないカウラだが、明らかに誠とかなめを怖そうな顔つきでにらみつけている。
それを見つけると今度はかなめはカウラに向き直った。
「火の無いところに煙は立たないという言葉があるなあ」
わざと遠くを見つめているカウラの口からそんな言葉がこぼれた。それがツボに入ったようで、アイシャがけたたましい声で笑い出す。
「お前までアタシをドSな百合娘だと思ってるのか?ったく……」
そう言ってカウラを威嚇すると、かなめは再び鬼の形相でアイシャへ向き直った。
「おいアイシャ!いつかそのどたまにアタシの鉄砲で穴をあけて額でタバコ吸えるようにしてやるから覚えてろよ!」
誠が思わず引くほどの剣幕だが、アイシャは全く動じるところが無い。平然とたこ焼きを口に放り込むと悠然とかなめの顔を見つめた。
「いつまでそんな口が利けるのかしらー」
アイシャはまたディスクをひらひらと翻らせる。
「けっ!いい気になりやがって……覚えてろよ!」
かなめは歯ぎしりをして悔しがるが、勝者は明らかにアイシャの方だった。誠はただ目の前の突然の出来事に茫然としていた。
二階建ての『あまさき屋』と看板の出ている小ぎれいな建物。その前に、箒を持ったかなめに似た上方の紺色の制服姿の女子中学生が一人でかなめを睨み付けていた。
「おい、外道!いつになったらこの前酔っ払ってぶち壊したカウンターの勘定済ませるつもりだ?」
夕方の赤い光が白いワイシャツ姿の少女を照らしている。誠は少女と視線が合った。
少女はそれまでかなめに向けていた敵意で彩られた視線を切り替えて、歓迎モードで誠の顔を見つめる。そしてカウラに目をやり、さらに店内を見つめ。ようやく納得が言ったように箒を立てかけて誠を見つめた。
「この人が大師匠が言っていた新しく入る隊員さんですか、カウラの姐(あね)さん?」
少女は先ほどまでのかなめに対するのとは、うって変わった丁寧な調子でカウラに話しかける。
「そうだ、彼が神前誠少尉候補生。小夏も東和軍からうちに入るのが夢なんだろ?後でいろいろと話を聞くといい」
その説明を聞くと、店の前にたどり着いた誠を憧れに満ちた瞳で眺めた後、小夏は敬礼をした。
「了解しました。神前少尉!あたしが家村小夏というけちな女郎(めろう)でございやす。お見知りおきを!ささっ!もう大師匠とかも来てますから入ってください!」
掃除のことをすっかり忘れて、無駄にテンションを上げた小夏に引き連れられて、三人はあまさき屋の暖簾をくぐった。
外のムッとする熱波に当てられていた誠には、店内のエアコンの冷気がたまらないご馳走に感じられた。
「来ましたねえ……」
アイシャの落ち着いた言葉に誠達は迎えられた。涼しい風に和んでいる誠達の目の前でアイシャ、パーラ、サラの三人娘がたこ焼きをつついていた。小夏に連れられて入ってきた誠達、特にかなめを見つけるとアイシャとサラはにやけた様な顔をして、パーラは眼を伏せた。
「おい、テメエら。なんかつまんねえこと考えてんのか?」
かなめがまるで尋問するようにサラに目を向けて尋ねる。とぼけたようにあくびをしたサラがアイシャに目を向ける。すると彼女はすぐ目の前のTシャツ姿のサラを見つめてニヤニヤしながらかなめの方を向き直った。
「かなめちゃん、これなんだけど……」
アイシャが一枚の汎用端末用ディスクを掲げた。誠は何が起きたかわからなかったが、かなめの様子がおかしいことだけはわかった。見ているとかなめの目が一瞬点になった。そして次の瞬間、かなめはそれを奪おうと手を伸ばすが、アイシャはすばやくそれをかわした。
「いやあ、胡州陸軍の治安部隊にも友達がいてねえ……」
アイシャの慣れた言葉に誠とカウラは取り残されたように立ち尽くしている。かなめは何度と無くアイシャの手に握られたディスクを奪い取ろうとするが、アイシャは紙一重でそれをかわし続ける。
「アイシャ……表に出ろ!いいから……表に出ろ!」
かなめは取り上げるのをあきらめたようにテーブルに両手をつくと低い声でそう言った。
「そんな口の利き方して良いのかしら?かなめちゃん?これをシャムちゃんに渡して、そこから吉田少佐の手に渡ってそれで……銀河中にかなめちゃんの本性が……」
アイシャは話を進める。サラはその隣で笑っている。作務衣のような薄い紫の上着を羽織ったパーラは呆れてたこ焼きを口に入れたが、熱かったようで慌ててビールを飲み始めた。
カウラと小夏は話が読めないと言うように呆然と三人のやり取りを眺めていた。
「分かった!何が狙いだ?金か?それとも……」
明らかに焦っているかなめの様子を誠は不思議そうに見ていた。それを見て小夏は手を打って納得した。そして目の前の状況をただ眺めている誠の耳元で囁いた。
「旦那。あのど外道、ああ見えて女に人気がありましてね……百合って奴ですか?まあ、ど外道は確かに鬼畜だけどそんな趣味は無いってんで、ああいったやり取りになってるわけですよ」
耳を澄ましていたカウラが小夏の話を聞いて声を立てて笑い始めた。おそらくは百合な雰囲気を醸し出している盗み撮り映像でも入っているのだろう。アイシャはひらひらと笑みを浮かべながらディスクをゆらしてかなめを挑発する。
「なるほど……」
誠が納得したように頷いて眼を開けるとそこにはかなめの顔があった。誠は思わずのけぞった。そして、かなめの豊かな胸が誠の胸板に触れようとした瞬間、かなめは口を開いた。
「おい神前。今度の夏コミでアイシャが原作を書く漫画はお前が絵を描け。上官命令だ拒否は認めん。分かったな?」
凄まじく真剣な表情のかなめのうしろで、にこやかに手を振っているアイシャの姿があった。
「分かりましたから……そんなに顔近づけないでくださいよ。ちょっと怖いですし……」
そして誠は隣のカウラの顔を見た。感情の起伏の少ないカウラだが、明らかに誠とかなめを怖そうな顔つきでにらみつけている。
それを見つけると今度はかなめはカウラに向き直った。
「火の無いところに煙は立たないという言葉があるなあ」
わざと遠くを見つめているカウラの口からそんな言葉がこぼれた。それがツボに入ったようで、アイシャがけたたましい声で笑い出す。
「お前までアタシをドSな百合娘だと思ってるのか?ったく……」
そう言ってカウラを威嚇すると、かなめは再び鬼の形相でアイシャへ向き直った。
「おいアイシャ!いつかそのどたまにアタシの鉄砲で穴をあけて額でタバコ吸えるようにしてやるから覚えてろよ!」
誠が思わず引くほどの剣幕だが、アイシャは全く動じるところが無い。平然とたこ焼きを口に放り込むと悠然とかなめの顔を見つめた。
「いつまでそんな口が利けるのかしらー」
アイシャはまたディスクをひらひらと翻らせる。
「けっ!いい気になりやがって……覚えてろよ!」
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