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第一部 「覚醒」 第一章 配属先は独立愚連隊?
ちっちゃな撃墜王の記録
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「ああ……吉田の……後は頼むわ」
そう言うとランは誠の隣の端末の椅子を引っ張って隣に座る。コンピュータの画面が突然点滅した。誠は驚いて立ち上がる。
『新人君。落ち着き給えよ。今、俺は外出中でね。情報に枝がつくと面倒だから後で設定しとくわ。それよりせっかくいい機材を前にしてるんだ。これでも見ててくれよ』
吉田の外部からの操作で端末の画面が切り替わる。映されているのは演習場と思われる瓦礫の山が広がる光景だった。ランはその急変を察知してさらに椅子を動かして端末へ身を乗り出した。
「この前の05式の慣らしの時のか?」
ランはゆっくりとそう尋ねた。表情に変化はないが誠もそれなりに真剣にランが画面を見ている事はわかった。
『まあねえ。俺は大事な場面は撮り逃さない主義なの』
吉田はマイペースにそう言った。そこでランはふと思い出したようにつぶやいた。
「さっきから外出中って、車か?テメー免停中じゃないのか?」
その言葉を聞いて誠は唖然としてランの顔を見つめた。
『それはなあ……中佐殿があのおっさんに告げ口したからだろ?それに……』
『大人しくしてください少佐。暴れるとハンドル取られるじゃないですか』
間抜けな吉田の言葉とうって変わった冷静女性の声が響く。その声を聞いたとたん、それまで吉田に乱暴な言葉を浴びせていたランの表情が急に柔らかくなった。
「運転手はベルガーか?また後輩をこき使いやがって」
ランがなんともあきれ果てたような笑みを浮かべていた。
『はい、中佐。吉田少佐を上豊川のラボまで送る予定です。義体のメンテだそうです』
誠にははきはきと話すカウラの声がこれまで会った異常な連中の中でひときわ澄んで聞こえてきた。
『まあそんなところでしてね。それより画面動かして良いすか?』
吉田はその言葉とともに演習場を映し出しているモニターの中が動き出した。
新型の運用試験の映像とあって、誠は真剣に画面を見つめる。画面のセンサー表示がすばやく入れ替わる。教育部隊の東和宇宙軍の現用アサルト・モジュール04式のシミュレータの動きとはまるで違う、見るものの追随を許さないほどの素早い画面転換が繰り広げられる。
「こんなに動くもんなんですか?」
「新入り。素人じゃ無理だな。まーエースと呼ばれるにはこの程度の芸当は当然だろ?」
ランの言葉にはどこかしら誇らしげな響きがあった。
一瞬、画面が止まって機体が動きを止めた状態になると、警戒音がけたたましく響き、同時にロックオンゲージが画面の全面を埋め尽くした。
「なんですか!これは!」
誠は思わず叫んだ。ランは興味深げに画面を除き見ながら淡々と言葉を選ぶようにして話し始めた。
「吉田は相手の動作パターン蓄積から数百手先まで読んでロックオンかけるからな。さらに一発一発の反動や、各パターンの誤差等が全て計算に入るからこんな画面になるんだろ。まあカウラや西園寺は前の97式特機改での模擬戦じゃ吉田に近づけたことも無いからなあ」
画面の中を白銀の機体が通り抜ける。ライフルの模擬弾が発射される。
白銀の機体はそのすべてを紙一重でかわして障害物に消える。ロックオン表示が消え、センサー類にエラー表示が並んだ。
「全弾回避ですか?しかもチャフばら撒いてセンサーエラー?相手は誰なんですか?」
誠がこれまで見たことも無いような機体動作。赤外線探知に切り替わった暗い画面を見つめながら誠は息を飲んでいた。
「ああ、あの白銀のパーソナルカラーは誰かなんて決まっってるだろ?遼南で騎士の称号を持つのは二人しかいない」
誠の頭にハンガーで見た白い機体が浮かんだ。
「ナンバルゲニア中尉……?」
あの小学生みたいなちびっ子が操縦しているとは思えない老獪な動きだった。モニターの吉田の機体もロックオンされたアラームが鳴ると同時に市街地のビルの残骸が次から次へと回転する。誠はめまいを感じながら画面に見入った。
「アタシはまだ05式は本気でぶん回しちゃいねえが、結構動けるもんだねえ」
すっかりランはパイロットの顔になって画面を見つめていた。
『まあねえ。といってもこっちは限界性能で動いてるんだ。シャムの奴がどうして避けてるのかわからねえけどよ』
吉田は淡々とそう答えた。背後に熱源を示すセンサーが点灯し、次の瞬間イルミネート・被撃墜の表示が並んだ。
「オメエは本当にシャムには相性悪いな。なんでだ?どのスキルも数字の上では数段上なんだろ?それにベルガーも西園寺もオメエ相手に一度も180秒持ったことないんだぞ?」
確かに吉田の狙いはすべて正確に着弾予想地点に命中していた。それを紙一重でかわしたシャムの動きが異常なのだと思えなくも無いが、05式のシミュレータでもシャムのあの動きが出来るなどとはこの画像を見た今でも誠には信じられなかった。
『そんなのこっちが聞きたいよ。まああいつはなに考えてるか分かるようで分からん奴だからな』
「まあシャムは例外だからほっとけ」
ランはそう言いながら苦笑いを浮かべた。
『ああ、着いたわ。それじゃあちょっくら義体のチェックしてくるわ、それと新入り。今その話題の人がお前の荷物をロッカーで……ってまあ雑談はこれくらいにしてと。うわ!隣で大尉殿が怖い顔で見てるよ。じゃあ後で』
吉田はそういうと通信を切った。
そう言うとランは誠の隣の端末の椅子を引っ張って隣に座る。コンピュータの画面が突然点滅した。誠は驚いて立ち上がる。
『新人君。落ち着き給えよ。今、俺は外出中でね。情報に枝がつくと面倒だから後で設定しとくわ。それよりせっかくいい機材を前にしてるんだ。これでも見ててくれよ』
吉田の外部からの操作で端末の画面が切り替わる。映されているのは演習場と思われる瓦礫の山が広がる光景だった。ランはその急変を察知してさらに椅子を動かして端末へ身を乗り出した。
「この前の05式の慣らしの時のか?」
ランはゆっくりとそう尋ねた。表情に変化はないが誠もそれなりに真剣にランが画面を見ている事はわかった。
『まあねえ。俺は大事な場面は撮り逃さない主義なの』
吉田はマイペースにそう言った。そこでランはふと思い出したようにつぶやいた。
「さっきから外出中って、車か?テメー免停中じゃないのか?」
その言葉を聞いて誠は唖然としてランの顔を見つめた。
『それはなあ……中佐殿があのおっさんに告げ口したからだろ?それに……』
『大人しくしてください少佐。暴れるとハンドル取られるじゃないですか』
間抜けな吉田の言葉とうって変わった冷静女性の声が響く。その声を聞いたとたん、それまで吉田に乱暴な言葉を浴びせていたランの表情が急に柔らかくなった。
「運転手はベルガーか?また後輩をこき使いやがって」
ランがなんともあきれ果てたような笑みを浮かべていた。
『はい、中佐。吉田少佐を上豊川のラボまで送る予定です。義体のメンテだそうです』
誠にははきはきと話すカウラの声がこれまで会った異常な連中の中でひときわ澄んで聞こえてきた。
『まあそんなところでしてね。それより画面動かして良いすか?』
吉田はその言葉とともに演習場を映し出しているモニターの中が動き出した。
新型の運用試験の映像とあって、誠は真剣に画面を見つめる。画面のセンサー表示がすばやく入れ替わる。教育部隊の東和宇宙軍の現用アサルト・モジュール04式のシミュレータの動きとはまるで違う、見るものの追随を許さないほどの素早い画面転換が繰り広げられる。
「こんなに動くもんなんですか?」
「新入り。素人じゃ無理だな。まーエースと呼ばれるにはこの程度の芸当は当然だろ?」
ランの言葉にはどこかしら誇らしげな響きがあった。
一瞬、画面が止まって機体が動きを止めた状態になると、警戒音がけたたましく響き、同時にロックオンゲージが画面の全面を埋め尽くした。
「なんですか!これは!」
誠は思わず叫んだ。ランは興味深げに画面を除き見ながら淡々と言葉を選ぶようにして話し始めた。
「吉田は相手の動作パターン蓄積から数百手先まで読んでロックオンかけるからな。さらに一発一発の反動や、各パターンの誤差等が全て計算に入るからこんな画面になるんだろ。まあカウラや西園寺は前の97式特機改での模擬戦じゃ吉田に近づけたことも無いからなあ」
画面の中を白銀の機体が通り抜ける。ライフルの模擬弾が発射される。
白銀の機体はそのすべてを紙一重でかわして障害物に消える。ロックオン表示が消え、センサー類にエラー表示が並んだ。
「全弾回避ですか?しかもチャフばら撒いてセンサーエラー?相手は誰なんですか?」
誠がこれまで見たことも無いような機体動作。赤外線探知に切り替わった暗い画面を見つめながら誠は息を飲んでいた。
「ああ、あの白銀のパーソナルカラーは誰かなんて決まっってるだろ?遼南で騎士の称号を持つのは二人しかいない」
誠の頭にハンガーで見た白い機体が浮かんだ。
「ナンバルゲニア中尉……?」
あの小学生みたいなちびっ子が操縦しているとは思えない老獪な動きだった。モニターの吉田の機体もロックオンされたアラームが鳴ると同時に市街地のビルの残骸が次から次へと回転する。誠はめまいを感じながら画面に見入った。
「アタシはまだ05式は本気でぶん回しちゃいねえが、結構動けるもんだねえ」
すっかりランはパイロットの顔になって画面を見つめていた。
『まあねえ。といってもこっちは限界性能で動いてるんだ。シャムの奴がどうして避けてるのかわからねえけどよ』
吉田は淡々とそう答えた。背後に熱源を示すセンサーが点灯し、次の瞬間イルミネート・被撃墜の表示が並んだ。
「オメエは本当にシャムには相性悪いな。なんでだ?どのスキルも数字の上では数段上なんだろ?それにベルガーも西園寺もオメエ相手に一度も180秒持ったことないんだぞ?」
確かに吉田の狙いはすべて正確に着弾予想地点に命中していた。それを紙一重でかわしたシャムの動きが異常なのだと思えなくも無いが、05式のシミュレータでもシャムのあの動きが出来るなどとはこの画像を見た今でも誠には信じられなかった。
『そんなのこっちが聞きたいよ。まああいつはなに考えてるか分かるようで分からん奴だからな』
「まあシャムは例外だからほっとけ」
ランはそう言いながら苦笑いを浮かべた。
『ああ、着いたわ。それじゃあちょっくら義体のチェックしてくるわ、それと新入り。今その話題の人がお前の荷物をロッカーで……ってまあ雑談はこれくらいにしてと。うわ!隣で大尉殿が怖い顔で見てるよ。じゃあ後で』
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