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第五章 別動隊は……
嫌われた闖入者
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「あっちは片がついたみたいだねえ」
東都中央銀座通り。経済で遼州の大国となったこの国の首都らしく、次々と着飾った人々が行きかう中心街。その大通りに面した人目で一等地とわかる場所にある、贅を尽くした建物。そこの一階にはイタリア系ブランドの宝石店が居を構えていた。
嵯峨はダンビラを肩に乗せたまま、じっとその前で立ち続けていた。周りの買い物客はその姿に怯えたように遠巻きにして、嵯峨の姿を眺めている。
すでに警察に通報した人物がいるようだが、駆けつけてきた警官は嵯峨が身にまとっている東和陸軍の制服の袖につけられた正親町連翹(おおぎまちれんぎょう)の部隊章を見て、その場で近づかないように野次馬の規制を始めた。
「シュバーキナ。俺が抜刀したら空気読んで入ってきてよ。まあ、抜くかどうかは気分次第だな」
『了解しました』
嵯峨は配置についているであろう警備部部長、マリア・シュバーキナ大尉に通信を飛ばした。そしてタバコを投げ捨てるのを合図に、軍服姿には場違いな高級感のある店の中に入っていった。
店員達は瞬時に彼の姿に警戒感をあらわにする。外から覗き込んでいる警官が彼を制止しなかった所を見ていたのか、とりあえず係わり合いにならないようにと自然体を装いながら嵯峨から遠ざかった。
店の中にいた客は嵯峨の手にある日本刀に驚いたような顔をしているが、すぐに店員が彼女達に耳打ちをして嵯峨から離れた場所に移動した。
嵯峨は慣れた調子でショーケースの間をすり抜けながら、ただなんとなく店を見回してでもいるような感じで店の中を歩き回った。一人の若い女性店員が、意を決したように店内中央に飾られた貴人に似合うような高級感漂うティアラの入ったケースを眺めている嵯峨に声をかけた。
「お客様。軍の方ですよね?他のお客様が……」
「ここで暴れるつもりはねえよ。ここのオーナー出しな。名目上のじゃねえよ。モノホンの方だ……て、あんたに言っても分からんか……そこのアンちゃん!」
懐に手を入れたままで、じっと嵯峨の方を見つめていた一人の店員に声をかけた。店員は瞬時にその手を抜くと、何事も無かったかのように嵯峨の方を笑顔で見つめた。その頬に緊張の色があることを、嵯峨は決して見落とさなかった。
「アンちゃんよう!俺みたいに怪しい人物が来たら案内する方のオーナー、今日来てんだろ?そいつのとこまでつれてってくんねえか?」
嵯峨は満面の笑みを浮かべながらそう言った。
アンちゃんと呼ばれた店員は初老の店長らしき人物に目配せををした後、両手をズボンのポケットに突っ込んで挑発的な視線を送っている嵯峨に歩み寄ってきた。
「お客様、店内であまり大声を出されても……。こちらになりますので」
「ああ、知っててやってんだ。気にせんでくれ」
嫌味たっぷりにそう言うと、業務用通路へ向かうアンちゃんの後ろについて嵯峨は歩いていった。彼に従って従業員出入り口からビルの奥へと進む。そしてそのまま人気の無いエレベータルームにたどり着いた。
東都中央銀座通り。経済で遼州の大国となったこの国の首都らしく、次々と着飾った人々が行きかう中心街。その大通りに面した人目で一等地とわかる場所にある、贅を尽くした建物。そこの一階にはイタリア系ブランドの宝石店が居を構えていた。
嵯峨はダンビラを肩に乗せたまま、じっとその前で立ち続けていた。周りの買い物客はその姿に怯えたように遠巻きにして、嵯峨の姿を眺めている。
すでに警察に通報した人物がいるようだが、駆けつけてきた警官は嵯峨が身にまとっている東和陸軍の制服の袖につけられた正親町連翹(おおぎまちれんぎょう)の部隊章を見て、その場で近づかないように野次馬の規制を始めた。
「シュバーキナ。俺が抜刀したら空気読んで入ってきてよ。まあ、抜くかどうかは気分次第だな」
『了解しました』
嵯峨は配置についているであろう警備部部長、マリア・シュバーキナ大尉に通信を飛ばした。そしてタバコを投げ捨てるのを合図に、軍服姿には場違いな高級感のある店の中に入っていった。
店員達は瞬時に彼の姿に警戒感をあらわにする。外から覗き込んでいる警官が彼を制止しなかった所を見ていたのか、とりあえず係わり合いにならないようにと自然体を装いながら嵯峨から遠ざかった。
店の中にいた客は嵯峨の手にある日本刀に驚いたような顔をしているが、すぐに店員が彼女達に耳打ちをして嵯峨から離れた場所に移動した。
嵯峨は慣れた調子でショーケースの間をすり抜けながら、ただなんとなく店を見回してでもいるような感じで店の中を歩き回った。一人の若い女性店員が、意を決したように店内中央に飾られた貴人に似合うような高級感漂うティアラの入ったケースを眺めている嵯峨に声をかけた。
「お客様。軍の方ですよね?他のお客様が……」
「ここで暴れるつもりはねえよ。ここのオーナー出しな。名目上のじゃねえよ。モノホンの方だ……て、あんたに言っても分からんか……そこのアンちゃん!」
懐に手を入れたままで、じっと嵯峨の方を見つめていた一人の店員に声をかけた。店員は瞬時にその手を抜くと、何事も無かったかのように嵯峨の方を笑顔で見つめた。その頬に緊張の色があることを、嵯峨は決して見落とさなかった。
「アンちゃんよう!俺みたいに怪しい人物が来たら案内する方のオーナー、今日来てんだろ?そいつのとこまでつれてってくんねえか?」
嵯峨は満面の笑みを浮かべながらそう言った。
アンちゃんと呼ばれた店員は初老の店長らしき人物に目配せををした後、両手をズボンのポケットに突っ込んで挑発的な視線を送っている嵯峨に歩み寄ってきた。
「お客様、店内であまり大声を出されても……。こちらになりますので」
「ああ、知っててやってんだ。気にせんでくれ」
嫌味たっぷりにそう言うと、業務用通路へ向かうアンちゃんの後ろについて嵯峨は歩いていった。彼に従って従業員出入り口からビルの奥へと進む。そしてそのまま人気の無いエレベータルームにたどり着いた。
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