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第四章 通過儀礼としての事件
アンチ・マテリアル・ライフル
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『伏せろ!』
かなめの合図と同時に、誠は男の手を振りほどいて地面に体を叩きつけた。
轟音が響き、肉のちぎれる音が、誠の上で響いた。
誠が振り向くと、壁の破片と一緒に男の上半身が吹き飛ばされて踊り場の方に飛んでいるさなかだった。階段下の三下はそれを誠達と勘違いして、サブマシンガンでの掃射を浴びせかけ、男の上半身は一瞬でひき肉になった。
誠はそのかつて人間だったものから目を反らして後ろの壁を見た。
そこには人の頭ほどある弾丸の貫通した跡が残り、コンクリートの破片が散乱している。
『どうだ?うまくいったろ?』
吉田の緊張感の無い言葉が、誠のイヤホンに響いた。その声で誠は状況を把握した。
かなめが時間を稼げと言ったのは、吉田が壁をぶち破るほどの威力のアンチマテリアルライフルで、男を狙撃する位置まで移動する為の時間稼ぎだったのだろうと。
「知ってたんだろ、叔父貴は?さも無きゃテメエがこんなに早くそこにいるわけねえもんな」
かなめは安心したように胸のポケットからタバコを取り出して一本くわえた。
『まあいいじゃないの?どうせ神前の『秘密』には遅かれ早かれ食い付く馬鹿が出てくることは分かってたことだ。それよりどうする?下のアホを片付けるのはカウラだけにまかせるか?』
タバコにジッポで火をつけるとかなめは誠の目を見てはっきりと言った。
「抜かせ!アタシがけりをつけてやるよ」
そう言うとかなめは銃をもう一度、確実に握りなおした。
『この人は楽しんでる……』
相変わらず残忍な笑いを浮かべているかなめを見て誠はそう確信した。
誠はかなめに視線をやりながらも、下での話し声に耳をすませていた。先ほどからもめている若いチンピラの声に混じって下から駆けつけたらしい低い男の声が聞こえる。
「どうするんですか?西園寺さん。三人はいますよ」
誠は銃を拾い上げながら、通路越しにかなめに話しかけた。
かなめは一瞬下を向いた後、誠に向き直った。
「お前、囮になれ」
そう言うとかなめは飛び切り嬉しそうな顔をする。まるで何事も無いようにその言葉は誠の耳に響いた。
「そんなあ……」
誠はかなめに渡されたチンピラの銃を手に握って泣きそうな顔でかなめを見つめる。
「あんなチンピラにとっ捕まるようじゃあ、先が知れてらあ。これがアタシ等の日常だ。嫌ならさっさとおっ死んだ方が楽だぜ?」
かなめは階下を覗き見てそう言い放った。下のチンピラ達はとりあえず弾を込め直したようですぐにサブマシンガンの掃射が降り注いでくる。
「どうしてもですか?」
誠の浮かない表情を見てかなめは正面から誠を見つめた。
「根性見せろよ!男の子だろ?」
かなめはそう言うと左手で誠にハンドサインを送る。突入指示だった。
「うわーっ」
そう叫んで誠はそのまま踊り場に飛び出すと、拳銃を乱射しながら階段を駆け下りた。
「馬鹿野郎!それじゃあ自殺だ!」
かなめは慌ててそう叫ぶと、すぐさま後に続いて立ち上がり、次々と棒立ちの三人の男の額を撃ち抜いた。
「うわあ、ううぇぃ……」
三人の死体の間に誠はそのまま力なく崩れ落ちる。
「冗談もわからねえとは……所詮、正規教育の兵隊さんだってことか?ったく。それにしても……下手な射撃だなあ」
誠の撃った弾丸が全て天井に当たっているのを確認すると、かなめは静かにタバコの吸い殻を廊下に投げた。
かなめの合図と同時に、誠は男の手を振りほどいて地面に体を叩きつけた。
轟音が響き、肉のちぎれる音が、誠の上で響いた。
誠が振り向くと、壁の破片と一緒に男の上半身が吹き飛ばされて踊り場の方に飛んでいるさなかだった。階段下の三下はそれを誠達と勘違いして、サブマシンガンでの掃射を浴びせかけ、男の上半身は一瞬でひき肉になった。
誠はそのかつて人間だったものから目を反らして後ろの壁を見た。
そこには人の頭ほどある弾丸の貫通した跡が残り、コンクリートの破片が散乱している。
『どうだ?うまくいったろ?』
吉田の緊張感の無い言葉が、誠のイヤホンに響いた。その声で誠は状況を把握した。
かなめが時間を稼げと言ったのは、吉田が壁をぶち破るほどの威力のアンチマテリアルライフルで、男を狙撃する位置まで移動する為の時間稼ぎだったのだろうと。
「知ってたんだろ、叔父貴は?さも無きゃテメエがこんなに早くそこにいるわけねえもんな」
かなめは安心したように胸のポケットからタバコを取り出して一本くわえた。
『まあいいじゃないの?どうせ神前の『秘密』には遅かれ早かれ食い付く馬鹿が出てくることは分かってたことだ。それよりどうする?下のアホを片付けるのはカウラだけにまかせるか?』
タバコにジッポで火をつけるとかなめは誠の目を見てはっきりと言った。
「抜かせ!アタシがけりをつけてやるよ」
そう言うとかなめは銃をもう一度、確実に握りなおした。
『この人は楽しんでる……』
相変わらず残忍な笑いを浮かべているかなめを見て誠はそう確信した。
誠はかなめに視線をやりながらも、下での話し声に耳をすませていた。先ほどからもめている若いチンピラの声に混じって下から駆けつけたらしい低い男の声が聞こえる。
「どうするんですか?西園寺さん。三人はいますよ」
誠は銃を拾い上げながら、通路越しにかなめに話しかけた。
かなめは一瞬下を向いた後、誠に向き直った。
「お前、囮になれ」
そう言うとかなめは飛び切り嬉しそうな顔をする。まるで何事も無いようにその言葉は誠の耳に響いた。
「そんなあ……」
誠はかなめに渡されたチンピラの銃を手に握って泣きそうな顔でかなめを見つめる。
「あんなチンピラにとっ捕まるようじゃあ、先が知れてらあ。これがアタシ等の日常だ。嫌ならさっさとおっ死んだ方が楽だぜ?」
かなめは階下を覗き見てそう言い放った。下のチンピラ達はとりあえず弾を込め直したようですぐにサブマシンガンの掃射が降り注いでくる。
「どうしてもですか?」
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「根性見せろよ!男の子だろ?」
かなめはそう言うと左手で誠にハンドサインを送る。突入指示だった。
「うわーっ」
そう叫んで誠はそのまま踊り場に飛び出すと、拳銃を乱射しながら階段を駆け下りた。
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「うわあ、ううぇぃ……」
三人の死体の間に誠はそのまま力なく崩れ落ちる。
「冗談もわからねえとは……所詮、正規教育の兵隊さんだってことか?ったく。それにしても……下手な射撃だなあ」
誠の撃った弾丸が全て天井に当たっているのを確認すると、かなめは静かにタバコの吸い殻を廊下に投げた。
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