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第四章 通過儀礼としての事件
成り行きで買い出しに……
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「ごめんなさい……」
シャムが心からすまなそうに頭を下げた。その向かい、詰め所の応接用ソファーに横になっている誠は、ただそんな少女の言葉に照れ笑いを浮かべるだけだった。隣に立っているかなめは軽蔑するような視線を目覚めたばかりの誠に向けてくる。そのまま穴にでも隠れてしまいたい。誠はそう思いながら手で顔を覆った。
「ったくだらしのない奴だぜ。どうせシャムの飛び蹴りなんて、まっすぐしか狙ってないんだから簡単にかわせるはずだろ?それを直撃食らってのびましたーなんて。それでよくウチに来たもんだな」
心配そうな顔を誠に向けていたカウラがかなめをにらんだ。
「西園寺!言いすぎだぞ!」
「へいへい、隊長さんは部下思いでいらっしゃること」
そう言うとかなめは不満げに自分の机のところにまで戻ると椅子に乱暴に腰掛け、机の上に足を乗っけた。椅子のきしむ音が響く。誠は自分がいる場所がわかって安心すると、そのまま上体を起こした。
誠が見回す視線の先では、まず、ランが難しそうな顔をしてクロスワードパズルを解いているのが見えた。その隣の吉田はかなめと同じく足を机の上に乗せて、風船ガムを膨らませながら貧乏ゆすりをしていた。
そのたるみ切った光景は、これが遼州星系の法の番人の詰め所の風景とはとても思えなかった。
せめて自分くらいは……そういう思いが誠を奮い立たせて、痛む首筋をさすりながらソファーから起き上がらせた。
「大丈夫か?」
心配そうにカウラがよろける誠を支える。
「なんだ、心配することないじゃん。それにしても暑いなあー……こういう時、新入りなら何かしようって思うんじゃないのかなあ……」
暑さで不機嫌なかなめが大声を上げる。
「西園寺!貴様!」
立ち上がろうとする誠を制するとカウラはかなめの席の隣に立ち机を叩いた。
「良いんですよベルガー大尉。食堂に行ってアイス取って来ます」
そう言うとカウラの心配そうな顔をこれ以上曇らせまいと、誠は立ち上がった。
「そりゃ無理だ。どこかのチビが昨日全部食っちゃったからなー」
そんなかなめの言葉に、ランと吉田も顔を上げてシャムの方を見つめた。
「えー!あたしが悪いのー?」
シャムが不満そうにそう叫んだ。
「そうだ、お前が悪い。もう一回、明華の姐さんのところ行って謝って来い」
足を机から下ろして吉田がそう言った。隣でランが腕組みをしながらうなづいている。
シャムはそのまま潤んだ瞳で誠を見つめる。どう見ても子供にしか見えない彼女にそんな目で見られることは、誠には耐えられなかった。
「分かりました!工場の生協まで行けばいいんですね!ナンバルゲニア中尉、バイク借りますよ」
「それなら俺はカキ氷……できれば着色料バリバリの奴で」
サングラスをかけなおすとすかさず吉田が叫んだ。
「じゃあアタシはモナカ。小豆じゃなくてチョコだぞ」
顔を上げて一言そう言うとランはクロスワードパズルを再開する。
「アタシはチョコの奴ー!」
すっかり元気になったシャムが元気良く答える。カウラはオロオロとそんな様子を見ているだけだった。
「カキ氷とモナカとチョコアイスですね。西園寺さんは何にしますか?」
誠は半分むきになってきつい調子でそうたずねた。しばらくの沈黙の後、眼を伏せるようにしてかなめはつぶやいた。
「イチゴ味の奴」
カウラはぶっきらぼうなかなめの言葉に肩をすくめた後、財布から一万東和円を取り出して誠に渡した。
「じゃあ私はメロン味のにしてくれ。少尉はまだここの生協で使えるカードができていないからな。金はこれで間に合うはずだ」
「はい!それじゃあ行ってきます!」
苦笑いを浮かべるカウラに見送られて、誠はそのまま詰め所を後にした。
シャムが心からすまなそうに頭を下げた。その向かい、詰め所の応接用ソファーに横になっている誠は、ただそんな少女の言葉に照れ笑いを浮かべるだけだった。隣に立っているかなめは軽蔑するような視線を目覚めたばかりの誠に向けてくる。そのまま穴にでも隠れてしまいたい。誠はそう思いながら手で顔を覆った。
「ったくだらしのない奴だぜ。どうせシャムの飛び蹴りなんて、まっすぐしか狙ってないんだから簡単にかわせるはずだろ?それを直撃食らってのびましたーなんて。それでよくウチに来たもんだな」
心配そうな顔を誠に向けていたカウラがかなめをにらんだ。
「西園寺!言いすぎだぞ!」
「へいへい、隊長さんは部下思いでいらっしゃること」
そう言うとかなめは不満げに自分の机のところにまで戻ると椅子に乱暴に腰掛け、机の上に足を乗っけた。椅子のきしむ音が響く。誠は自分がいる場所がわかって安心すると、そのまま上体を起こした。
誠が見回す視線の先では、まず、ランが難しそうな顔をしてクロスワードパズルを解いているのが見えた。その隣の吉田はかなめと同じく足を机の上に乗せて、風船ガムを膨らませながら貧乏ゆすりをしていた。
そのたるみ切った光景は、これが遼州星系の法の番人の詰め所の風景とはとても思えなかった。
せめて自分くらいは……そういう思いが誠を奮い立たせて、痛む首筋をさすりながらソファーから起き上がらせた。
「大丈夫か?」
心配そうにカウラがよろける誠を支える。
「なんだ、心配することないじゃん。それにしても暑いなあー……こういう時、新入りなら何かしようって思うんじゃないのかなあ……」
暑さで不機嫌なかなめが大声を上げる。
「西園寺!貴様!」
立ち上がろうとする誠を制するとカウラはかなめの席の隣に立ち机を叩いた。
「良いんですよベルガー大尉。食堂に行ってアイス取って来ます」
そう言うとカウラの心配そうな顔をこれ以上曇らせまいと、誠は立ち上がった。
「そりゃ無理だ。どこかのチビが昨日全部食っちゃったからなー」
そんなかなめの言葉に、ランと吉田も顔を上げてシャムの方を見つめた。
「えー!あたしが悪いのー?」
シャムが不満そうにそう叫んだ。
「そうだ、お前が悪い。もう一回、明華の姐さんのところ行って謝って来い」
足を机から下ろして吉田がそう言った。隣でランが腕組みをしながらうなづいている。
シャムはそのまま潤んだ瞳で誠を見つめる。どう見ても子供にしか見えない彼女にそんな目で見られることは、誠には耐えられなかった。
「分かりました!工場の生協まで行けばいいんですね!ナンバルゲニア中尉、バイク借りますよ」
「それなら俺はカキ氷……できれば着色料バリバリの奴で」
サングラスをかけなおすとすかさず吉田が叫んだ。
「じゃあアタシはモナカ。小豆じゃなくてチョコだぞ」
顔を上げて一言そう言うとランはクロスワードパズルを再開する。
「アタシはチョコの奴ー!」
すっかり元気になったシャムが元気良く答える。カウラはオロオロとそんな様子を見ているだけだった。
「カキ氷とモナカとチョコアイスですね。西園寺さんは何にしますか?」
誠は半分むきになってきつい調子でそうたずねた。しばらくの沈黙の後、眼を伏せるようにしてかなめはつぶやいた。
「イチゴ味の奴」
カウラはぶっきらぼうなかなめの言葉に肩をすくめた後、財布から一万東和円を取り出して誠に渡した。
「じゃあ私はメロン味のにしてくれ。少尉はまだここの生協で使えるカードができていないからな。金はこれで間に合うはずだ」
「はい!それじゃあ行ってきます!」
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