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第一部 「覚醒」 第一章 配属先は独立愚連隊?
電算室のいたずら好き
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「じゃあ誠ちゃん!後でね!」
紺色の髪をなびかせて長身のアイシャがサラとパーラを連れて部屋を軽快に出ていく。
『この部隊……普通じゃないな』
誠のバスを降りた時の直感は、アイシャ達ブリッジ三人娘に会って確信に変わった。
女性比率の高さは、『ラストバタリオン』の移民を積極的に受け入れた北方の大国、遼北人民共和国並みだった。同盟機構直属と言うことで正規部隊からの人員の供給が少なかった為、上層部の意に沿わないハズレ隊員に頼らなければならなかったと考えれば納得がいくのでそれはいい。
それ以上にこの部隊が異常なのは明らかに濃いキャラクターで埋め尽くされていることだ。これだけ濃い面々に出会うと、誠の隣で頭を掻いているどこから見ても小学生と言う風体のランが当たり前の常識人に見えてきた。
「はあ、とんでもねえ奴らに捕まっちまったな」
出て行ったアイシャ達の足音が聞こえなくなると、ランは持っていた野球雑誌を投げ出してばつが悪そうにそう言いった。
「そんなに悪い人達には見えませんけど……」
とりあえず誠はそう言ってみた。ランは誠の顔をまじまじと見た後、そのまま腰掛けていた自分の机から降りてさらにもう一度誠の顔を覗き込んだ。
「あのなあ、オメー明日、幹部候補教育課程の時の同期の連中に電話してみろや。アタシを襲ったペドフィディア扱いされるのがオチだぜ。あの三人組のおかげでアタシは陸軍内部じゃ『傾城幼女』という事で通ってる有様だ。まあそんなこと気にしとったら次の部屋には入れねーけどな」
ランはそう言うと気が向かないとでも言うように伸びをしながら部屋を出た。誠がついてくるのを確認してドアを閉める。そして天を向いてため息をつき、そのまま暗い廊下を歩き始めた。
初夏らしい粘りのある暑さが二人を包む。そんな状況で上官に明らかにやる気の無い態度を取られて誠は戸惑っていた。
「次は……あそこか……気が進まねーな」
ランはそういうと電算室と書かれた頑丈そうなセキュリティ付きのドアの前で立ち止まる。
これまでの防犯上はいかがなものかと思いたくもなる安っぽい扉とは違い、重厚な銀色の扉が誠の目の前にあった。
「コンピュータルームですか?」
ランに声をかけるが、彼はただ呆然と銀色の扉を見つめるだけで答えようとはしなかった。
『そだよ』
いきなりセキュリティのスピーカーから聞こえてきた声に思わず誠は飛びのいた。それはトウモロコシ畑で出会った吉田の声だった。誠の驚きを予想していたとでも言うようにランは含み笑いを漏らす。
『おい、新入り。どうだった幼女とのひと時は?』
こちらの行動をすべて把握してでもいるように、吉田の声がモニターから響く。誠が周りを見渡すと、天井から釣り下がっているいくつかのカメラを見つけることが出来た。おそらくはその画像で、二人のやり取りを確認していたに違いなかった。
「下らねえこと言ってんじゃねえ。それよりはやく部屋を開けねえか!デクニンギョウ!」
ランが語気を荒げる。
『そうだなあ、じゃあ『オープンセサミ』って言ってみ』
突然の吉田の謎かけに誠が心配をしてランの顔を見れば、明らかに怒りを押し殺していると言うような表情がそこにあった。
「アホか、そんなことに付き合ってられっか」
そう言うランの言葉が震えている。こう言う親分肌の人間が怒りの限界を超えるとろくなことにならない。そう言う自己防衛本能には優れている誠がランの肩に手をかけようとするが、さらにスピーカーからはせせら笑うような吉田の言葉が続いた。
『ちびちゃん……開けてほしくないわけ?そこは俺の管轄だ。何ならアイシャがシャムに無理やり描かせたお前が整備班員と組んずほぐれつしている画像を全銀河に配信してやっても良いんだぜ?』
吉田の嘲笑がスピーカー越しに響く。これはかなりまずいことになった。そう思った誠だが、逆にここまであからさまに馬鹿にされたランは冷静さを持ち直すことに成功していた。
「わかった『オープンセサミ』!」
ランが叫んだ。何も起こらない。
ここでスピーカーから吉田のせせら笑いでも聞こえたならば、ランの右ストレートがセキュリティーパネルに炸裂することになるだろう。はらはらしながら誠は状況を見ているが、吉田は何を言うわけでもなかった。
「糞人形!なにも起こらんぞ!」
痺れを切らしたのはランだった。そう言うとランは頑丈そうな銀の扉を叩き始めた。
『ああ、最初からそこ開いてるぞ、俺がちゃんと気を利かせといたからな』
せせら笑うよりたちの悪い言葉がスピーカーから流れてきて誠は冷や汗を書いた。ランは顔をゆがませてこの場にいない吉田のことを殴りつけるようにドアを叩いた。
「ならなぜはじめからそう言わねー!」
沈黙が薄暗い廊下に滞留する。ランはそのまま遅い吉田の答えを待っていた。ようやく冷静さを取り戻して、ずれた上着の襟をなおすくらいの余裕はランにも出来ていた。
『はじめに開いてるかどうか聞かなかった中佐殿が悪いよなあ。新入り君。お前さんの情報を登録するからセキュリティの端末に手をかざしな』
冷静さは取り戻したものの、吉田にこけにされたことの怒りで顔を赤くして震えているランを置いて誠はセキュリティの黒い端末に手をかざした。
『OK、じゃあごゆっくり』
吉田の馬鹿にしたような調子の一言にランは両手を握りしめて怒りをこらえている。
「じゃあ……入りますね」
仕方なく誠は重厚なコンピュータルームの扉に手をかけた。
紺色の髪をなびかせて長身のアイシャがサラとパーラを連れて部屋を軽快に出ていく。
『この部隊……普通じゃないな』
誠のバスを降りた時の直感は、アイシャ達ブリッジ三人娘に会って確信に変わった。
女性比率の高さは、『ラストバタリオン』の移民を積極的に受け入れた北方の大国、遼北人民共和国並みだった。同盟機構直属と言うことで正規部隊からの人員の供給が少なかった為、上層部の意に沿わないハズレ隊員に頼らなければならなかったと考えれば納得がいくのでそれはいい。
それ以上にこの部隊が異常なのは明らかに濃いキャラクターで埋め尽くされていることだ。これだけ濃い面々に出会うと、誠の隣で頭を掻いているどこから見ても小学生と言う風体のランが当たり前の常識人に見えてきた。
「はあ、とんでもねえ奴らに捕まっちまったな」
出て行ったアイシャ達の足音が聞こえなくなると、ランは持っていた野球雑誌を投げ出してばつが悪そうにそう言いった。
「そんなに悪い人達には見えませんけど……」
とりあえず誠はそう言ってみた。ランは誠の顔をまじまじと見た後、そのまま腰掛けていた自分の机から降りてさらにもう一度誠の顔を覗き込んだ。
「あのなあ、オメー明日、幹部候補教育課程の時の同期の連中に電話してみろや。アタシを襲ったペドフィディア扱いされるのがオチだぜ。あの三人組のおかげでアタシは陸軍内部じゃ『傾城幼女』という事で通ってる有様だ。まあそんなこと気にしとったら次の部屋には入れねーけどな」
ランはそう言うと気が向かないとでも言うように伸びをしながら部屋を出た。誠がついてくるのを確認してドアを閉める。そして天を向いてため息をつき、そのまま暗い廊下を歩き始めた。
初夏らしい粘りのある暑さが二人を包む。そんな状況で上官に明らかにやる気の無い態度を取られて誠は戸惑っていた。
「次は……あそこか……気が進まねーな」
ランはそういうと電算室と書かれた頑丈そうなセキュリティ付きのドアの前で立ち止まる。
これまでの防犯上はいかがなものかと思いたくもなる安っぽい扉とは違い、重厚な銀色の扉が誠の目の前にあった。
「コンピュータルームですか?」
ランに声をかけるが、彼はただ呆然と銀色の扉を見つめるだけで答えようとはしなかった。
『そだよ』
いきなりセキュリティのスピーカーから聞こえてきた声に思わず誠は飛びのいた。それはトウモロコシ畑で出会った吉田の声だった。誠の驚きを予想していたとでも言うようにランは含み笑いを漏らす。
『おい、新入り。どうだった幼女とのひと時は?』
こちらの行動をすべて把握してでもいるように、吉田の声がモニターから響く。誠が周りを見渡すと、天井から釣り下がっているいくつかのカメラを見つけることが出来た。おそらくはその画像で、二人のやり取りを確認していたに違いなかった。
「下らねえこと言ってんじゃねえ。それよりはやく部屋を開けねえか!デクニンギョウ!」
ランが語気を荒げる。
『そうだなあ、じゃあ『オープンセサミ』って言ってみ』
突然の吉田の謎かけに誠が心配をしてランの顔を見れば、明らかに怒りを押し殺していると言うような表情がそこにあった。
「アホか、そんなことに付き合ってられっか」
そう言うランの言葉が震えている。こう言う親分肌の人間が怒りの限界を超えるとろくなことにならない。そう言う自己防衛本能には優れている誠がランの肩に手をかけようとするが、さらにスピーカーからはせせら笑うような吉田の言葉が続いた。
『ちびちゃん……開けてほしくないわけ?そこは俺の管轄だ。何ならアイシャがシャムに無理やり描かせたお前が整備班員と組んずほぐれつしている画像を全銀河に配信してやっても良いんだぜ?』
吉田の嘲笑がスピーカー越しに響く。これはかなりまずいことになった。そう思った誠だが、逆にここまであからさまに馬鹿にされたランは冷静さを持ち直すことに成功していた。
「わかった『オープンセサミ』!」
ランが叫んだ。何も起こらない。
ここでスピーカーから吉田のせせら笑いでも聞こえたならば、ランの右ストレートがセキュリティーパネルに炸裂することになるだろう。はらはらしながら誠は状況を見ているが、吉田は何を言うわけでもなかった。
「糞人形!なにも起こらんぞ!」
痺れを切らしたのはランだった。そう言うとランは頑丈そうな銀の扉を叩き始めた。
『ああ、最初からそこ開いてるぞ、俺がちゃんと気を利かせといたからな』
せせら笑うよりたちの悪い言葉がスピーカーから流れてきて誠は冷や汗を書いた。ランは顔をゆがませてこの場にいない吉田のことを殴りつけるようにドアを叩いた。
「ならなぜはじめからそう言わねー!」
沈黙が薄暗い廊下に滞留する。ランはそのまま遅い吉田の答えを待っていた。ようやく冷静さを取り戻して、ずれた上着の襟をなおすくらいの余裕はランにも出来ていた。
『はじめに開いてるかどうか聞かなかった中佐殿が悪いよなあ。新入り君。お前さんの情報を登録するからセキュリティの端末に手をかざしな』
冷静さは取り戻したものの、吉田にこけにされたことの怒りで顔を赤くして震えているランを置いて誠はセキュリティの黒い端末に手をかざした。
『OK、じゃあごゆっくり』
吉田の馬鹿にしたような調子の一言にランは両手を握りしめて怒りをこらえている。
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仕方なく誠は重厚なコンピュータルームの扉に手をかけた。
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