レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第一部 「覚醒」 第一章 配属先は独立愚連隊?

サイボーグの女性士官

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 誠は一輪車を押しながらどこ吹く風で口笛を吹く吉田について歩く。いつまでも続くかと思ったとうもろこし畑が尽きると、遠くにそれなりに大きな建物が見えた。その手前の格納庫の前では白いつなぎを来た整備員達が走り回っているのが見えた。

 中央には白いメカがある。近づけばそれが人型兵器『アサルト・モジュール』の上半身であることが分かった。作業員たちはその手前に置かれたトレーラーにクレーンで積み込む作業をしているのが見て取れた。

「おい、あそこまで駆け足!土産のトウモロコシの主な消費者は整備班なんだ。自分の整備に手は抜かれたくないだろ?」

 吉田にそう言われて、誠は一輪車を押して走り出した。剣道と野球で鍛えた腕力と脚力には自信があった。次第に大きくなるハンガーの前で上半身をクレーンで釣り上げられている『アサルト・モジュール』は、教練用のそれとは明らかに違う新型に見えた。誠はそれを見ると、自分でも自然と足が速まるのが分かった。

「失礼します!」

 誠は吉田を置き去りにして整備員の群れの中を縫うように一輪車を押して走った。トウモロコシが気になるのか、整備員達は見慣れぬ誠の顔を一瞥した後、彼の押す一輪車に山積みにされたトウモロコシに感心したようにうなづいた後、視線を玉掛け作業の最中の『アサルト・モジュール』に向けた。

 トレーラに連結されたトラクタの運転席の前に一人タバコをくわえた女性士官が立っていた。

「どうも……」

 両手のふさがった誠は敬礼をするわけにもいかず、頭を軽く下げながらそのわきを通り抜けようとした。

「新入り!早くしやがれってんだ!」

 おかっぱ頭の女性士官は誠の心理を無視するように怒鳴りつけてきた。

『タレ目だなあ』

 誠が彼女を見て思った最初の言葉はそれだった。耳の辺りで刈りそろえた黒い髪をなびかせながら、彼女は誠にくっついて来た。

 近づくとすぐにわかるほど酒臭い。誠は階級章で彼女が中尉であることを確認すると、恐る恐る声をかけた。

「あの……中尉殿……勤務中に飲酒とは……」

 人を挑発するようなタレ目で、その女性士官は誠を見つめる。胸のあたりの膨らみは巨乳で売ってる下手なセクシー女優より大きく、腰のくびれと相まって誠を少々怯ませた。半袖の制服の腕から覗く手には継ぎ目があり、彼女がサイボーグであることがわかった。だが、誠のその視線が説教をたれた新人対する苛立ちのようなものをかきたててしまったことに気付いた。

「ああっ?上官に向かって説教か?実にいい身分じゃねえか。それにアタシは特別なんだよ。それにしても遅えなあオメエ。貸しな!アタシが押してってやるよ」

 横柄な態度の女性士官はくわえていたタバコを地面に投げ捨てると、そのまま一輪車を奪い取り、人とは思えないようなスピードで格納庫の前の群衆の中へと消えていった。

 誠は我を忘れて立ち尽くしていたが、作業を終えた整備員が彼を見る視線に気づくと思い出したように走り出した。

 解体されたアサルト・モジュールの下半身のところまで駆けていくと、先ほどの中尉がタバコに火をつけながら誠を待っていた。

「新入り!」

 そのまま彼女は誠に近づいてきてぐっと顔を覗き込んできた。

「最新型アサルト・モジュールの解体なんてなかなか見れないだろ?しばらく見てくか?」

 中尉の言葉に誠は愛想笑いを浮かべていた。就業中の飲酒、指定場所外での喫煙。誠は直感で彼女が部隊の『トラブルメーカー』であることは理解した。

「なんだよ、じろじろ見やがって……サイボーグがそんなに珍しい……」

 因縁をつけようとする女性士官の視線が何かをとらえたように止まる。急に顔をこわばらせて彼女は口をへの字見曲げた。誠は女性士官の視線を追って振り向いた。
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