5 / 37
1.ドキドキ!異世界転生しちゃったぞ!
罪悪感と心機一転
しおりを挟む
倒れた母を介抱し、不安げな父にどの程度覚えているのか聞かれ、答えを聞いて意識を飛ばしかけた父を呼び戻して、と落ち着くことのない両親との再会。ちなみに俺には妹がおり、状態が分からないからと別室待機していたところ起こったこの騒ぎが気になったらしく寝室までやってきた。
くりっとした目にふわふわのイエローオーカーの髪をした大変可愛らしい妹であるが、家令に状況を尋ねた後使いもにならない両親を一瞥しため息を吐いているあたりなかなか大物な気がする。
その予想は正しく、「お兄様。覚えていらっしゃるかわかりませんが、お兄様にとって魔力を制御できるようになることは生活に直結します。体調が良いからと後回しにせず、そちらの訓練も行ってみれば?」と記憶喪失を受け止めた上で俺のやるべきことを提案してきた。
いや、色々としっかりし過ぎてやないか? これが異世界の常識か? と横目でメイミさんを見てみれば、小さく首を横に振られた。なるほど、妹はすこぶる出来がいい、と。
そしてそのまま「これじゃ居ても意味がない」と妹は両親を引き連れ、出ていく背中を見送るとようやく部屋が静かになった。
「……俺、愛されてるんだね」
「左様でございます。ですので、何も憂うことなくお体を休ませてくださいカノン様」
「そう言う割にはスパルタ……なんでもないです」
思わず漏れた言葉にジロっと向けられたメイミさんの視線から逃げ、なんだかんだで疲れた俺はぼふりとベッドへ体を沈ませる。
……俺のせいじゃない。気が付いたらこうなっていて、どうしようもなかった。
そう考えるも、どうしたって罪悪感が心の中に湧き上がる。理由はどうあれ、俺はあの人たちから愛する息子を奪ったのだ。
本当は記憶が奥底に残ってるとか、いつか体から俺が弾き出されるとかもあるかもしれない。だが現状、紛れもなく彼らの『カノン』はいない。
しかも、返そうったってやり方も分からなければ出来るかすら不明。……まいった。
「っても、やっぱどうにもできんしな……」
いつの間にか外は暗くなり、灯りの消された部屋で丸まる俺の目には何も映らない。
何も、何も知っていることがない。
俺の不安のように広がる暗闇を振り払うよう瞼を閉じ、さらに小さくなった俺はいつしか眠っていたらしい。
次の朝目覚めると、窓の向こうは清々しい快晴。この世界に来てから朝は必ずメイミさんに起こされていたのだが、今日はその時間より幾分か早く起きれたようだ。
「すぅ…………太陽が眩しいのはどこも同じ、かぁ」
そっと窓に近づき窓を開け、目一杯空気を吸い込んだ俺は空を見上げて一人呟く。
異世界に来て違う体に入り、思っていたより心の整理が付いていなかったみたいだ。
そもそも、悩むにしても知識が圧倒的に足りていない。うじうじするのは大分気が早い選択である。
そんなことをしている暇があるならば、とにかく前に進む。里香直伝のポジティブ思考だが、昔もそれでなんとかなったのだから俺も前向きに考えよう。
そして家族や妹、何より『カノン』には悪いが、あまり以前がどうだったかというのは考えないようにさせてもらおう。なんといっても欠片も頭の中にないのだから『カノン』の模倣なんてできっこない。
そうでなくてもどこから手を付ければ良いのか分からないほど問題は山積みなのだ。いずれ『カノン』は俺という意識なのか肉体の持ち主なのか問題みたいなものが立ちふさがるかもしれないが、それはそれでその時にまた向かい合わせてもらいたい。
「さしあたって、やっぱ常識を知らんことにはな……」
実際何歳なのかは知らないが、要求されている内容から察するに今のところ俺は貴族の子供としてダメダメな存在。常識もどこまで元の世界と同じか分からないため、まずはそこから知っていこう。当たり前のことって聞かないとわざわざ教えてくれなかったりするしな。
それと、魔法だ。こればっかりは妹の言っていたように早急に学ぶ必要がある。なんといっても未知のモノ、うっかり使って大惨事、なんて御免被りたい。
「…………よし、やったるぞ!」
グッと拳を握り、俺が気合を入れたのと同時に部屋の扉が開く。俺が既に起きていたことにメイミさんが驚いていたが、俺はそのビックリ顔に向かってやる気を表すべく元気よく声をかけた。
くりっとした目にふわふわのイエローオーカーの髪をした大変可愛らしい妹であるが、家令に状況を尋ねた後使いもにならない両親を一瞥しため息を吐いているあたりなかなか大物な気がする。
その予想は正しく、「お兄様。覚えていらっしゃるかわかりませんが、お兄様にとって魔力を制御できるようになることは生活に直結します。体調が良いからと後回しにせず、そちらの訓練も行ってみれば?」と記憶喪失を受け止めた上で俺のやるべきことを提案してきた。
いや、色々としっかりし過ぎてやないか? これが異世界の常識か? と横目でメイミさんを見てみれば、小さく首を横に振られた。なるほど、妹はすこぶる出来がいい、と。
そしてそのまま「これじゃ居ても意味がない」と妹は両親を引き連れ、出ていく背中を見送るとようやく部屋が静かになった。
「……俺、愛されてるんだね」
「左様でございます。ですので、何も憂うことなくお体を休ませてくださいカノン様」
「そう言う割にはスパルタ……なんでもないです」
思わず漏れた言葉にジロっと向けられたメイミさんの視線から逃げ、なんだかんだで疲れた俺はぼふりとベッドへ体を沈ませる。
……俺のせいじゃない。気が付いたらこうなっていて、どうしようもなかった。
そう考えるも、どうしたって罪悪感が心の中に湧き上がる。理由はどうあれ、俺はあの人たちから愛する息子を奪ったのだ。
本当は記憶が奥底に残ってるとか、いつか体から俺が弾き出されるとかもあるかもしれない。だが現状、紛れもなく彼らの『カノン』はいない。
しかも、返そうったってやり方も分からなければ出来るかすら不明。……まいった。
「っても、やっぱどうにもできんしな……」
いつの間にか外は暗くなり、灯りの消された部屋で丸まる俺の目には何も映らない。
何も、何も知っていることがない。
俺の不安のように広がる暗闇を振り払うよう瞼を閉じ、さらに小さくなった俺はいつしか眠っていたらしい。
次の朝目覚めると、窓の向こうは清々しい快晴。この世界に来てから朝は必ずメイミさんに起こされていたのだが、今日はその時間より幾分か早く起きれたようだ。
「すぅ…………太陽が眩しいのはどこも同じ、かぁ」
そっと窓に近づき窓を開け、目一杯空気を吸い込んだ俺は空を見上げて一人呟く。
異世界に来て違う体に入り、思っていたより心の整理が付いていなかったみたいだ。
そもそも、悩むにしても知識が圧倒的に足りていない。うじうじするのは大分気が早い選択である。
そんなことをしている暇があるならば、とにかく前に進む。里香直伝のポジティブ思考だが、昔もそれでなんとかなったのだから俺も前向きに考えよう。
そして家族や妹、何より『カノン』には悪いが、あまり以前がどうだったかというのは考えないようにさせてもらおう。なんといっても欠片も頭の中にないのだから『カノン』の模倣なんてできっこない。
そうでなくてもどこから手を付ければ良いのか分からないほど問題は山積みなのだ。いずれ『カノン』は俺という意識なのか肉体の持ち主なのか問題みたいなものが立ちふさがるかもしれないが、それはそれでその時にまた向かい合わせてもらいたい。
「さしあたって、やっぱ常識を知らんことにはな……」
実際何歳なのかは知らないが、要求されている内容から察するに今のところ俺は貴族の子供としてダメダメな存在。常識もどこまで元の世界と同じか分からないため、まずはそこから知っていこう。当たり前のことって聞かないとわざわざ教えてくれなかったりするしな。
それと、魔法だ。こればっかりは妹の言っていたように早急に学ぶ必要がある。なんといっても未知のモノ、うっかり使って大惨事、なんて御免被りたい。
「…………よし、やったるぞ!」
グッと拳を握り、俺が気合を入れたのと同時に部屋の扉が開く。俺が既に起きていたことにメイミさんが驚いていたが、俺はそのビックリ顔に向かってやる気を表すべく元気よく声をかけた。
29
お気に入りに追加
453
あなたにおすすめの小説
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う
ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園
魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的
生まれ持った属性の魔法しか使えない
その中でも光、闇属性は珍しい世界__
そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。
そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!!
サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。
__________________
誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です!
初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。
誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします
槿 資紀
BL
傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。
自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。
そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。
しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。
さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。
リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。
それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。
リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。
愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。
今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。
いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。
推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。
不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる