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謎の人に連れられるが
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そう言われて私は馬車に連れられ、王都まで連れて行かれる事になりました。
私がアウスエル様に譲って貰った馬車、それよりも遥かに高級そうな馬車に乗せられて。
「それでは、失礼します。……随分と高そうな馬車ですね、見た目は落ち着いていますが」
「君はあまり派手な物は好みじゃなさそうだからね。僕はこの馬車の方がいいと思ったけど、どうかな?」
「えっ? ……えぇと、いいと思います」
まさか馬車が自分へ送られる物だと知らず、驚きの声を自分は上げてしまいました。
「それはよかった。ケイメラ嬢に似合いそうなのがないか不安だったのでね。もし、一から造った方がいいというなら舞踏会には間に合わないだろうし」
「そうなのですか。こんな高価な物を送られて来るなんて、クローデル様の家は随分とお金持ちなんですね」
「良くも悪くもね。王都にいると皆が皆、僕の事を追いかけまわしてしつこくて。僕にとって落ち着ける場所はここぐらいだよ」
「大変ですね、お金持ちというのも」
それから馬車の中でのんびりと、会話を楽しみながら目的の店まで向かい……私はまた、驚かさせます。
その店の名前はアウスエル様が愚痴る様に言っていた、王都の中でも有名な高級店です。
幾ら金を出しても受け付けない選ばれた人の為の店で、アウスエル様はその店に行くのを夢だとすら言っていました。
そんな店にクローデル様は、まるで家に帰るかの如く気楽に向かって行きます。
「そろそろ到着だな。この店の店員は少々、頑固な所もあるが腕は確かだから安心してくれ」
「それは構わないのですが……本当に、貴方は何者なんですか? こんな店へ気軽に寄れるなんて……」
「王都でちょっと有名なだけな貴族だよ、僕は。それより舞踏会の日にちも迫ってるし、早くドレスを仕立てて貰わないとね」
そう上手くはぐらかされた様に言われた後、私はクローデル様に連れられ店に入っていきました。
店の中、私は豪華なドレスを悩みながら選び仕立てて貰っている間、女性の店員さんから珍しそうに話しかけられます。
「ねぇ、貴方の名前は?」「ケイメラです、ウィンサルト男爵家の」
「へぇ、あの方の知り合いみたいだからもっと名のある家だと思ったけど、意外だわ。予約やらを押し切って連れて来た人がこんな普通の子だなんて」
「予約を押し切ってですか? ……えぇと、ちょっと申し訳ないですね」
「いいのよ、珍しい物が見れたし。普段のあの方ならこんな事はしない筈なのに……貴女、惚れられてるのね」
「……!? 惚れられてるって、えっと……」
店員さんの衝撃的な話に言葉が詰まり、上手く返事が出来ません。
クローデル様は私の家に遊びに来たり家の仕事を手伝ってくれたり、一緒にいて楽しい知り合いという印象しかありませんでした。
そんな彼とは不思議と、今まで付き合うとか婚約するとかは考えた事もありません。
ですが、もしクローデル様と結婚できるなら……。
「……無理、ですね。私なんて農家貴族とすら言われてる様な家ですよ、あの方と釣り合う訳ないじゃないですか」
「そう? あの方は婚約活動中とか聞いてるし、丁度いいと思ったけどね。普段は紳士的な彼が、貴女の為にうちの店へ無理を通したのよ。
断ろうか思ったけど、あの人がそこまで惚れ込む相手が誰か気になって入店を許可したのよ。見てみれば本当にいい人じゃない」
「そ、そうですか……」
クローデル様の意外な一面を聞きながら、ドレスの仕立ては終わり私達は別の店に向かいました。
……店を出る時にお似合い夫婦と囃し立てられた事が、頭の中でずうっと反響したままですが。
美容師に舞踏会へ行く前に仕立ててもらう約束をしたり、舞踏の練習の為に専属の講師を雇ってもらったり、気が付けば家に帰る頃には日が暮れています。
「すっかり日も暮れて来ちゃったね。あまり連れ回すつもりは無かったけど、申し訳ない」
「いいのよ、私も色んな店に連れて行って貰えて楽しかったし。クローデル様、次に会えるのは舞踏会の日かしら?」
「そうだね……舞踏会の日の前に時間を作って練習をしようと思ってるから、もう少し前には会えると思うよ。それがどうかしたの?」
「えぇと、その……いえ、何でもありません。クローデル様、今日は本当に色々と有り難う御座いました。また、次の練習の日に」
「僕も次に会えるのを楽しみにしてるよ。では、次の練習の日に」
結局……私はクローデル様が婚約相手を探しているという話を聞き出せないまま、彼は馬車を屋敷の小屋に入れ馬を離して乗りました。
「二人共、随分と遅く帰って来たな。クローデル卿、もう夜も遅いから帰るのは明日にした方がいいんじゃないか?」
「ご心配どうも。その提案は有難いけど、帰るのが遅くなると心配するからね。それではライムズ卿、また今度。馬車は贈り物だから気にせずに使って大丈夫だよ」
「おう、それじゃあな。……馬車が贈り物か、金持ちのやる事は違うなぁ」
馬で駆けて帰るクローデル様を見送りながら、ライムズ兄様は不思議そうに小声でそう呟きます。
クローデル様が大層に高価な贈り物を、私なんかの為にする理由は分かりません。
ですが……それがどんな理由であろうと、受け止めたいと思いました。
~~~~~
普段から農家貴族と言われるぐらいに田舎で生活している私にとって、舞踏会というのはあまり馴染みのない場所です。
勿論、アウスエル様と婚約している時は、それではいけないと思って身銭を切って、彼の勧める講師を雇ったりもしました。
ですが……お高い受講料に厳しい指導、毎日の仕事を圧迫する練習の時間と悩みの種が増えただけで、碌に上達もせずお金だけが無くなっていきました。
だからこそ、私の中にはクローデル様が紹介した専属の講師に対する不安もあったのですが、そんな悩みもクローデル様と踊る日が来る時には無くなっていました。
「舞踏が苦手と聞いていたから少し不安な気もしたけど……杞憂だったみたいだね。安心したよ」
「それは良かったです。実を言うと、アウスエル様と婚約していた時に講師を雇った時は全然、踊れなくて。
こんなにも上手になったのは、クローデル様が素晴らしい講師を紹介してくれたお陰です。本当に有り難う御座います」
ライムズ兄様が部屋を片付けて用意してくれた家の一室で、私はクローデル様と踊りながら感謝の言葉を伝えました。
それを聞いた彼は顔のにこやかな笑みを絶やさず、なのに少し物悲しい表情をしています。
「……優しいんだね、君は。相手が婚約破棄をして新しい人に移った浮気者でも、様を付けて呼ぶなんて。
けど……せめて、僕と踊っている間だけは、他の男の名前を出さないで欲しい」
クローデル様はそう言うと少しだけ手を強く、けれどしっかりと握り締めます。
そしてそのまま足が止まり、私達は互いに顔を見つめ合っていました。
「……あの、それってどういう……」
心の中では分かっている筈なのに、口からはそんな言葉しか出てきません。
「……君を、幸せにしたいんだ」
「……貴方がそばにいる事が、私にとっての幸せですよ。さぁ、クローデル様、足を止めたままでは練習できませんよ」
「……おっと、悪いね。何分、私にとっては初めての事だから、どうにも緊張してしまってな」
そして舞踏の練習は何時もより遅くまで続き、何時もより楽しく出来ました。
招待状を受け取った時は不安で一杯だった舞踏会も、今となっては待ち遠しくてたまりません。
私がアウスエル様に譲って貰った馬車、それよりも遥かに高級そうな馬車に乗せられて。
「それでは、失礼します。……随分と高そうな馬車ですね、見た目は落ち着いていますが」
「君はあまり派手な物は好みじゃなさそうだからね。僕はこの馬車の方がいいと思ったけど、どうかな?」
「えっ? ……えぇと、いいと思います」
まさか馬車が自分へ送られる物だと知らず、驚きの声を自分は上げてしまいました。
「それはよかった。ケイメラ嬢に似合いそうなのがないか不安だったのでね。もし、一から造った方がいいというなら舞踏会には間に合わないだろうし」
「そうなのですか。こんな高価な物を送られて来るなんて、クローデル様の家は随分とお金持ちなんですね」
「良くも悪くもね。王都にいると皆が皆、僕の事を追いかけまわしてしつこくて。僕にとって落ち着ける場所はここぐらいだよ」
「大変ですね、お金持ちというのも」
それから馬車の中でのんびりと、会話を楽しみながら目的の店まで向かい……私はまた、驚かさせます。
その店の名前はアウスエル様が愚痴る様に言っていた、王都の中でも有名な高級店です。
幾ら金を出しても受け付けない選ばれた人の為の店で、アウスエル様はその店に行くのを夢だとすら言っていました。
そんな店にクローデル様は、まるで家に帰るかの如く気楽に向かって行きます。
「そろそろ到着だな。この店の店員は少々、頑固な所もあるが腕は確かだから安心してくれ」
「それは構わないのですが……本当に、貴方は何者なんですか? こんな店へ気軽に寄れるなんて……」
「王都でちょっと有名なだけな貴族だよ、僕は。それより舞踏会の日にちも迫ってるし、早くドレスを仕立てて貰わないとね」
そう上手くはぐらかされた様に言われた後、私はクローデル様に連れられ店に入っていきました。
店の中、私は豪華なドレスを悩みながら選び仕立てて貰っている間、女性の店員さんから珍しそうに話しかけられます。
「ねぇ、貴方の名前は?」「ケイメラです、ウィンサルト男爵家の」
「へぇ、あの方の知り合いみたいだからもっと名のある家だと思ったけど、意外だわ。予約やらを押し切って連れて来た人がこんな普通の子だなんて」
「予約を押し切ってですか? ……えぇと、ちょっと申し訳ないですね」
「いいのよ、珍しい物が見れたし。普段のあの方ならこんな事はしない筈なのに……貴女、惚れられてるのね」
「……!? 惚れられてるって、えっと……」
店員さんの衝撃的な話に言葉が詰まり、上手く返事が出来ません。
クローデル様は私の家に遊びに来たり家の仕事を手伝ってくれたり、一緒にいて楽しい知り合いという印象しかありませんでした。
そんな彼とは不思議と、今まで付き合うとか婚約するとかは考えた事もありません。
ですが、もしクローデル様と結婚できるなら……。
「……無理、ですね。私なんて農家貴族とすら言われてる様な家ですよ、あの方と釣り合う訳ないじゃないですか」
「そう? あの方は婚約活動中とか聞いてるし、丁度いいと思ったけどね。普段は紳士的な彼が、貴女の為にうちの店へ無理を通したのよ。
断ろうか思ったけど、あの人がそこまで惚れ込む相手が誰か気になって入店を許可したのよ。見てみれば本当にいい人じゃない」
「そ、そうですか……」
クローデル様の意外な一面を聞きながら、ドレスの仕立ては終わり私達は別の店に向かいました。
……店を出る時にお似合い夫婦と囃し立てられた事が、頭の中でずうっと反響したままですが。
美容師に舞踏会へ行く前に仕立ててもらう約束をしたり、舞踏の練習の為に専属の講師を雇ってもらったり、気が付けば家に帰る頃には日が暮れています。
「すっかり日も暮れて来ちゃったね。あまり連れ回すつもりは無かったけど、申し訳ない」
「いいのよ、私も色んな店に連れて行って貰えて楽しかったし。クローデル様、次に会えるのは舞踏会の日かしら?」
「そうだね……舞踏会の日の前に時間を作って練習をしようと思ってるから、もう少し前には会えると思うよ。それがどうかしたの?」
「えぇと、その……いえ、何でもありません。クローデル様、今日は本当に色々と有り難う御座いました。また、次の練習の日に」
「僕も次に会えるのを楽しみにしてるよ。では、次の練習の日に」
結局……私はクローデル様が婚約相手を探しているという話を聞き出せないまま、彼は馬車を屋敷の小屋に入れ馬を離して乗りました。
「二人共、随分と遅く帰って来たな。クローデル卿、もう夜も遅いから帰るのは明日にした方がいいんじゃないか?」
「ご心配どうも。その提案は有難いけど、帰るのが遅くなると心配するからね。それではライムズ卿、また今度。馬車は贈り物だから気にせずに使って大丈夫だよ」
「おう、それじゃあな。……馬車が贈り物か、金持ちのやる事は違うなぁ」
馬で駆けて帰るクローデル様を見送りながら、ライムズ兄様は不思議そうに小声でそう呟きます。
クローデル様が大層に高価な贈り物を、私なんかの為にする理由は分かりません。
ですが……それがどんな理由であろうと、受け止めたいと思いました。
~~~~~
普段から農家貴族と言われるぐらいに田舎で生活している私にとって、舞踏会というのはあまり馴染みのない場所です。
勿論、アウスエル様と婚約している時は、それではいけないと思って身銭を切って、彼の勧める講師を雇ったりもしました。
ですが……お高い受講料に厳しい指導、毎日の仕事を圧迫する練習の時間と悩みの種が増えただけで、碌に上達もせずお金だけが無くなっていきました。
だからこそ、私の中にはクローデル様が紹介した専属の講師に対する不安もあったのですが、そんな悩みもクローデル様と踊る日が来る時には無くなっていました。
「舞踏が苦手と聞いていたから少し不安な気もしたけど……杞憂だったみたいだね。安心したよ」
「それは良かったです。実を言うと、アウスエル様と婚約していた時に講師を雇った時は全然、踊れなくて。
こんなにも上手になったのは、クローデル様が素晴らしい講師を紹介してくれたお陰です。本当に有り難う御座います」
ライムズ兄様が部屋を片付けて用意してくれた家の一室で、私はクローデル様と踊りながら感謝の言葉を伝えました。
それを聞いた彼は顔のにこやかな笑みを絶やさず、なのに少し物悲しい表情をしています。
「……優しいんだね、君は。相手が婚約破棄をして新しい人に移った浮気者でも、様を付けて呼ぶなんて。
けど……せめて、僕と踊っている間だけは、他の男の名前を出さないで欲しい」
クローデル様はそう言うと少しだけ手を強く、けれどしっかりと握り締めます。
そしてそのまま足が止まり、私達は互いに顔を見つめ合っていました。
「……あの、それってどういう……」
心の中では分かっている筈なのに、口からはそんな言葉しか出てきません。
「……君を、幸せにしたいんだ」
「……貴方がそばにいる事が、私にとっての幸せですよ。さぁ、クローデル様、足を止めたままでは練習できませんよ」
「……おっと、悪いね。何分、私にとっては初めての事だから、どうにも緊張してしまってな」
そして舞踏の練習は何時もより遅くまで続き、何時もより楽しく出来ました。
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