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没落貴族に追い討ちが
しおりを挟む「ケイメラ・ウィンサルト、貴女とは今日限りで婚約破棄して貰おう」
それが今日、私の家にいきなりやって来たアウスエル・フィグラベーレ伯爵家の、親しみの挨拶より先に出てきた言葉でした。
~~~~~
私、ケイメラ・ウィンサルト王都から少し離れた田舎の森で、兄のライムズ・ウィンサルトと小さな屋敷に一緒に住んでいます。
とある事件で没落した後、私達はその屋敷に移り住み森を切り開いて、領民の皆様と一緒に様々な作物を作って領地を発展させてきました。
元々は王都でも名のある男爵家だった私達の家、それが没落する事になったのは詐欺で無理矢理に作らされた借金のせいです。
男爵家とは思えない程に人望があり、困っている人を見過ごせないという心の持ち主だった両親は、没落しそうで困っている貴族の話を聞き、その人を助けようとしました。
……その人が、私達を騙しに来た詐欺師だと知らずに。
話を聞き、その人の借金の保証人になると両親は宣言した後に、詐欺師の人は外国へ逃げ、私達の元に山の様な借金が残るだけでした。
人に裏切られたという事実と、家族に迷惑をかけた事を両親は謝り、結局、自らその命を絶つ事になりました。
両親が世を去った後、私達は王都にある屋敷を売り払い、今住んでいる別荘に移住する事となりました。
最初は大変でしたけど、手伝ってくれる貴族の方や私達について行くと言ってくれた領民の皆様のお陰で、何とか無事に生活する事が出来ました。
私は屋敷で書類や他の貴族との交友を深め、兄は領民の見守りと手伝いをし、たまに領民の皆様と楽しいお祭りをしたりしながら、日々を過ごしています。
一部の貴族からは農民貴族と馬鹿にされたりもしますが、私達が没落する事になったあの日、両親と親しみのあった貴族の方々や私達について行くと誓った領民の皆様のお陰で、今日も素晴らしい朝を迎える事が出来ました。
……そして、アウスエル様が何の連絡も無しに突然と家へ来て、いきなり婚約破棄を宣言し、私達の素晴らしい朝が終わりを告げます。
今日の朝、何時もの様に朝食の準備をしていると、ふと、窓の外に外国風の立派な馬車が見えました。
豪華な飾りに彩られた、王都でも滅多に見ない外国風の馬車は、間違いなくアウスエル様の馬車です。
元々、とある工房に馬車の製作を依頼してる途中で、アウスエル様が外国の馬車を取り寄せたせいで途中まで出来ていた製作を中止させ、その工房の長を怒らせたいわくつきの馬車です。
……結局、製作を途中で止めさせた馬車は金を払ってでもいらないと、代わりに私の物になったのでした。
そんな彼は何時も、私達の家に来る時は手紙で連絡を入れる筈ですが、今日に限っては珍しく突然の訪問をしてきます。
私達は慌てて迎える準備をし、そんな状況でもお構いなしに客間へ来たアウスエル様の最初の言葉は……挨拶ではなく婚約破棄の宣言でした。
「……連絡も無しに突然、私の妹へ婚約破棄を宣言するのですか。アウスエル様、訳を聞かせて貰いたい」
何時もは朗らかな表情のライムズ兄様も、今日は顔を怒りに染めながら必死に声を抑えて対応しています。
「訳も何もない。私の元に新しい婚約の話が来たから、ケイメラとの婚約を破棄しようと思っただけだ。そもそも、お前達なんかが私の家と結婚しようなどと思うのが間違っているのだよ」
「……新しい婚約の話ですか? ちょっと待って下さい、私達は既に持参金も準備して結婚式の費用まで用意してきたのですよ?」
突然の話に頭が真っ白になり、漸く口から出た言葉もアウスエル様は知らんぷり。
私の婚約を応援しようと他の貴族も領民の皆様も応援して下さったのに、こんな形で終わるだなんて……。
「金の事でうじうじ言っている様だが、大したお金も出せずにいる貧乏貴族に文句を言う資格はないのだよ。おっと、農民貴族の間違いだったかな?」
ライムズ兄様は言い返すのを我慢して、ぐっとこぶしを握り締め殴りかかるのを我慢していました。
「ふむ、何も言い返さんか。まぁよい。それより、この書類にサインをしてくれたまえ。君達は畑仕事で手が汚れてるだろうから、届けるのは私がやっておく。感謝する様に」
傲慢な態度で渡された書類にライムズ兄様は黙ってサインをし、アウスエル様は満足気にそれを見ながら受け取ります。
「書いたな。では、私はこれにて失礼するよ。最近は新たな婚約相手の対応に忙しいのでね」
アウスエル様はそう言って、準備した紅茶にもお菓子にも手を付けず家を去り、私達はその光景を唖然としながら見る事しか出来ませんでした。
「……取り敢えず、出したのを片付けましょうか」「……そうだな。朝食も途中だし、話は食べながらだな」
そうして私はライムズ兄様と一緒に冷めた朝食を食べながら、これからどうなるのかを話し合いました。
何時もは楽しく会話をしながら食事をするライムズ兄様も、今日ばかりは何時もの笑顔が消えていました。
「……ケイメラ、本当に申し訳ない。ウィンサルト家の為に嫌な婚約をさせた挙句、約束を破らせてしまうなんて」
「いいのよ。元々、無理のある結婚なのは分かっていたし、それに……彼、あんまり好きじゃなかったもの」
ライムズ兄様や領民の皆様を助けたいが為にフィグラベーレ伯爵家と政略結婚をする事にはなりましたが、正直、内心では嫌で嫌で堪りませんでした。
アウスエル様は貴族の間でも有名な金持ちで、親の七光りを利用してるせいなのか傲慢な性格で有名でした。
親の脛を齧って手に入れた、自身に似合ってないご自慢のネックレスで有名な彼は、何時も自分の自慢話ばかりしています。
何時でも何処でも他の話題に関係なく、自分の話したい事だけを喋る姿には辟易としていました。
そして私が一番に嫌だった事は……彼が一度も私の事を話してない事です。
例え望まぬ政略結婚だとしても、私は婚約の為に一生懸命に頑張ってきました。
金持ちが自慢の彼に相応しい婚約相手となる為に、ライムズ兄様や領民の皆様に頑張ってもらってまで身の丈に合わない豪華な品々を買い、結婚の日に備えました。
そんな私の事を周りに一度も話す事なく、彼は婚約破棄で全てを終わらせてしまいます。
正直……こんな事をする人と分かっていれば、自分から婚約破棄しようと思ったでしょう。
「性格は悪いし好みも合わないと、何もかも合わなかったもの。元から婚約破棄される運命だったのよ。さぁ、暗い話はお終い。今日も仕事は無くならないわよ」
「そうだな……有難う、ケイメラ。お陰で気分が軽くなったよ」
こうして私達は婚約破棄を乗り越え、普通の日常が戻ってくる……筈でした。
それが今日、私の家にいきなりやって来たアウスエル・フィグラベーレ伯爵家の、親しみの挨拶より先に出てきた言葉でした。
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私、ケイメラ・ウィンサルト王都から少し離れた田舎の森で、兄のライムズ・ウィンサルトと小さな屋敷に一緒に住んでいます。
とある事件で没落した後、私達はその屋敷に移り住み森を切り開いて、領民の皆様と一緒に様々な作物を作って領地を発展させてきました。
元々は王都でも名のある男爵家だった私達の家、それが没落する事になったのは詐欺で無理矢理に作らされた借金のせいです。
男爵家とは思えない程に人望があり、困っている人を見過ごせないという心の持ち主だった両親は、没落しそうで困っている貴族の話を聞き、その人を助けようとしました。
……その人が、私達を騙しに来た詐欺師だと知らずに。
話を聞き、その人の借金の保証人になると両親は宣言した後に、詐欺師の人は外国へ逃げ、私達の元に山の様な借金が残るだけでした。
人に裏切られたという事実と、家族に迷惑をかけた事を両親は謝り、結局、自らその命を絶つ事になりました。
両親が世を去った後、私達は王都にある屋敷を売り払い、今住んでいる別荘に移住する事となりました。
最初は大変でしたけど、手伝ってくれる貴族の方や私達について行くと言ってくれた領民の皆様のお陰で、何とか無事に生活する事が出来ました。
私は屋敷で書類や他の貴族との交友を深め、兄は領民の見守りと手伝いをし、たまに領民の皆様と楽しいお祭りをしたりしながら、日々を過ごしています。
一部の貴族からは農民貴族と馬鹿にされたりもしますが、私達が没落する事になったあの日、両親と親しみのあった貴族の方々や私達について行くと誓った領民の皆様のお陰で、今日も素晴らしい朝を迎える事が出来ました。
……そして、アウスエル様が何の連絡も無しに突然と家へ来て、いきなり婚約破棄を宣言し、私達の素晴らしい朝が終わりを告げます。
今日の朝、何時もの様に朝食の準備をしていると、ふと、窓の外に外国風の立派な馬車が見えました。
豪華な飾りに彩られた、王都でも滅多に見ない外国風の馬車は、間違いなくアウスエル様の馬車です。
元々、とある工房に馬車の製作を依頼してる途中で、アウスエル様が外国の馬車を取り寄せたせいで途中まで出来ていた製作を中止させ、その工房の長を怒らせたいわくつきの馬車です。
……結局、製作を途中で止めさせた馬車は金を払ってでもいらないと、代わりに私の物になったのでした。
そんな彼は何時も、私達の家に来る時は手紙で連絡を入れる筈ですが、今日に限っては珍しく突然の訪問をしてきます。
私達は慌てて迎える準備をし、そんな状況でもお構いなしに客間へ来たアウスエル様の最初の言葉は……挨拶ではなく婚約破棄の宣言でした。
「……連絡も無しに突然、私の妹へ婚約破棄を宣言するのですか。アウスエル様、訳を聞かせて貰いたい」
何時もは朗らかな表情のライムズ兄様も、今日は顔を怒りに染めながら必死に声を抑えて対応しています。
「訳も何もない。私の元に新しい婚約の話が来たから、ケイメラとの婚約を破棄しようと思っただけだ。そもそも、お前達なんかが私の家と結婚しようなどと思うのが間違っているのだよ」
「……新しい婚約の話ですか? ちょっと待って下さい、私達は既に持参金も準備して結婚式の費用まで用意してきたのですよ?」
突然の話に頭が真っ白になり、漸く口から出た言葉もアウスエル様は知らんぷり。
私の婚約を応援しようと他の貴族も領民の皆様も応援して下さったのに、こんな形で終わるだなんて……。
「金の事でうじうじ言っている様だが、大したお金も出せずにいる貧乏貴族に文句を言う資格はないのだよ。おっと、農民貴族の間違いだったかな?」
ライムズ兄様は言い返すのを我慢して、ぐっとこぶしを握り締め殴りかかるのを我慢していました。
「ふむ、何も言い返さんか。まぁよい。それより、この書類にサインをしてくれたまえ。君達は畑仕事で手が汚れてるだろうから、届けるのは私がやっておく。感謝する様に」
傲慢な態度で渡された書類にライムズ兄様は黙ってサインをし、アウスエル様は満足気にそれを見ながら受け取ります。
「書いたな。では、私はこれにて失礼するよ。最近は新たな婚約相手の対応に忙しいのでね」
アウスエル様はそう言って、準備した紅茶にもお菓子にも手を付けず家を去り、私達はその光景を唖然としながら見る事しか出来ませんでした。
「……取り敢えず、出したのを片付けましょうか」「……そうだな。朝食も途中だし、話は食べながらだな」
そうして私はライムズ兄様と一緒に冷めた朝食を食べながら、これからどうなるのかを話し合いました。
何時もは楽しく会話をしながら食事をするライムズ兄様も、今日ばかりは何時もの笑顔が消えていました。
「……ケイメラ、本当に申し訳ない。ウィンサルト家の為に嫌な婚約をさせた挙句、約束を破らせてしまうなんて」
「いいのよ。元々、無理のある結婚なのは分かっていたし、それに……彼、あんまり好きじゃなかったもの」
ライムズ兄様や領民の皆様を助けたいが為にフィグラベーレ伯爵家と政略結婚をする事にはなりましたが、正直、内心では嫌で嫌で堪りませんでした。
アウスエル様は貴族の間でも有名な金持ちで、親の七光りを利用してるせいなのか傲慢な性格で有名でした。
親の脛を齧って手に入れた、自身に似合ってないご自慢のネックレスで有名な彼は、何時も自分の自慢話ばかりしています。
何時でも何処でも他の話題に関係なく、自分の話したい事だけを喋る姿には辟易としていました。
そして私が一番に嫌だった事は……彼が一度も私の事を話してない事です。
例え望まぬ政略結婚だとしても、私は婚約の為に一生懸命に頑張ってきました。
金持ちが自慢の彼に相応しい婚約相手となる為に、ライムズ兄様や領民の皆様に頑張ってもらってまで身の丈に合わない豪華な品々を買い、結婚の日に備えました。
そんな私の事を周りに一度も話す事なく、彼は婚約破棄で全てを終わらせてしまいます。
正直……こんな事をする人と分かっていれば、自分から婚約破棄しようと思ったでしょう。
「性格は悪いし好みも合わないと、何もかも合わなかったもの。元から婚約破棄される運命だったのよ。さぁ、暗い話はお終い。今日も仕事は無くならないわよ」
「そうだな……有難う、ケイメラ。お陰で気分が軽くなったよ」
こうして私達は婚約破棄を乗り越え、普通の日常が戻ってくる……筈でした。
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