14 / 17
第四幕-1
しおりを挟む
「……報道部?」
大井町高校には、学校新聞があって。
発行元である報道部に突撃しようと、本町は相談してきた。
……今度は何の本を読んだんだ?
「そう。最近、九八四って小説を読んでね。最高。報道部で実際に試してみたい事があるの」
「それは分かるが……学校の中だろ? 俺に相談しなくても行けるじゃないか」
「折角なら一人より二人だし。仲間。それに、前永君と一緒なら上手く説明が出来るんじゃないかって」
「て事は……ただ、報道部を見に行くって訳じゃないな。本町、今度は何をやらかすつもりなんだ?」
報道部は、一応、俺も関わりがある。
入学してすぐ、物語の舞台の様な場所に突撃して問題を起こした本町と一緒に。
あの時の顔は、何て言うか……残念そうな者を見る目だったな。
大変でしたねと言ってくれたのは有難いが、実際の記事は只管に彼女への駄目出しで。
……もう一度、そこに向かうってのか。
「別に大した事じゃないけど、報道部でしか出来ない事だから。検証。本当なら新聞の会社とかに行きたかったけど……」
「……まぁ、真面な会社がお前の無茶ぶりなんか門前払いだろうな」
「そう! だからね、学校の報道部にしようと考えた訳。でもね、あそこまで悪く書かれてるのに頼めるか不安で……」
……何を頼みたいか知らないが、間違いなく怒られそうで。
そんな事を俺に頼むのもどうかと思うが、本町が直接、向かうのも不安ではある。
取り敢えず話を聞いて、上手く妥当な頼みに置き換えるのがいいだろう。
そう考えて、どんな頼みか聞く事にした。
「で、頼みってのは何だ? 試しに言ってみろ、俺がいい感じに伝えてやるから」
「ありがと、前永君。実はね……報道部に、新聞の捏造をして欲しいの。改竄。頼めるかな?」
「……先に俺へ話しておいて良かったな。間違いなく追い出されてたぞ」
本の内容が何だったのかは知らないが、間違いなく大問題になりそうで。
というか、目的が新聞の捏造って何なんだよ。
ジャーナリストとか報道する人を題材にした物語なら、寧ろ捏造を防ぐとかだろ。
「別に捏造って言っても、実際に学校で配る訳じゃないから。秘蔵。自分だけで楽しむし」
「だとしても、新聞を作ってる人が賛成するとは思えんぞ。下手すれば、また悪い様に書かれるし」
「だからね、前永君にこう、上手く、いい感じに伝えてくれないかなぁ~って」
「……無理だろ、それは」
頼みを上手く言い換えたりするにしても、その本筋が捏造なら。
報道部の人間が、俺達の言葉を聞く事は絶対にないだろう。
というか……俺も断りたい。
せめて、報道部で新聞の作り方を見るとかで我慢してくれないかな。
「というか、そもそも九八四って小説は何だ? どうして新聞の捏造って話になるんだよ」
「……興味出た?」
「悪い意味でな。取り敢えず、まずは物語の大筋だけでいいから教えてくれ」
「いいけど……その前に、前永君はディストピアって知ってる?」
「ディストピア? ……なんか聞いた事がある様な」
一つの国が独裁者に支配され、どこもかしこも監視され。
そんな状況で体制に疑問を持った主人公が、支配から逃れようとする話で。
……うん、確かそんな感じだった気がする。
大体、どんな感じか考えて、それを本町に尋ねてみると。
「正解。まぁ、正確な定義はもう少しあるんだけど、大体はそんな感じ。それで、九八四はディストピアという概念を作った最初の作品なの」
「成る程……つまり、九八四に出てくる独裁者の真似をして、どんな事を考えてるのか確かめてみたいと?」
「ん~、ちょっと違うかな。残念。真似をするのは主人公、報道部みたいに新聞を作って……は違うかな? 出来た新聞を改竄するって感じ?」
「感じ? ってなんだよ。随分と曖昧な答えじゃないか」
「ややこしい感じでね。疑問。体制側にいる人は皆、それを真実だと思ってるの。改竄された記録を」
「……無理だろ。改竄の記録は目の前に残ってるんだぞ? 仮に消したとしても、記憶は残ってるし」
「でしょ? だからね、独裁者はこう命令するの。改竄だし、それが真実だって」
……なんだろう、今までで一番、難解な話になってきたな。
改竄で、真実。
その言葉の意味を考えてみるも、どうにも頭に思い浮かばず。
「……ちょっと難しかったかな? 例えば、私は女子高生でしょ? けど独裁者が男子高生だと言えば、頭の中で女子高生だし男子高生って感じになって」
「……結論だけ言ってくれ。記憶の話は無視して、新聞の話だけ」
「もう少し話したかったけどなぁ……残念。兎に角、新聞を改竄して不都合な事を無くすって訳。例えば、私が前に工場に行ったでしょ」
「あぁ、高丸先生に怒られたヤツね」
「もし物語の中で私が独裁者なら、私は高丸先生に褒められたって書き換えるの。改竄。そしたら独裁者は安泰でしょ?」
「いや、無理だろ。誰もがそれを知ってるんだし……だから記憶の捏造って訳か」
「本の言葉で言えば、二重の考えって感じ。改竄される前も後も、どっちも正しいの」
「成る程な……でも、無理だろ」
大井町高校には、学校新聞があって。
発行元である報道部に突撃しようと、本町は相談してきた。
……今度は何の本を読んだんだ?
「そう。最近、九八四って小説を読んでね。最高。報道部で実際に試してみたい事があるの」
「それは分かるが……学校の中だろ? 俺に相談しなくても行けるじゃないか」
「折角なら一人より二人だし。仲間。それに、前永君と一緒なら上手く説明が出来るんじゃないかって」
「て事は……ただ、報道部を見に行くって訳じゃないな。本町、今度は何をやらかすつもりなんだ?」
報道部は、一応、俺も関わりがある。
入学してすぐ、物語の舞台の様な場所に突撃して問題を起こした本町と一緒に。
あの時の顔は、何て言うか……残念そうな者を見る目だったな。
大変でしたねと言ってくれたのは有難いが、実際の記事は只管に彼女への駄目出しで。
……もう一度、そこに向かうってのか。
「別に大した事じゃないけど、報道部でしか出来ない事だから。検証。本当なら新聞の会社とかに行きたかったけど……」
「……まぁ、真面な会社がお前の無茶ぶりなんか門前払いだろうな」
「そう! だからね、学校の報道部にしようと考えた訳。でもね、あそこまで悪く書かれてるのに頼めるか不安で……」
……何を頼みたいか知らないが、間違いなく怒られそうで。
そんな事を俺に頼むのもどうかと思うが、本町が直接、向かうのも不安ではある。
取り敢えず話を聞いて、上手く妥当な頼みに置き換えるのがいいだろう。
そう考えて、どんな頼みか聞く事にした。
「で、頼みってのは何だ? 試しに言ってみろ、俺がいい感じに伝えてやるから」
「ありがと、前永君。実はね……報道部に、新聞の捏造をして欲しいの。改竄。頼めるかな?」
「……先に俺へ話しておいて良かったな。間違いなく追い出されてたぞ」
本の内容が何だったのかは知らないが、間違いなく大問題になりそうで。
というか、目的が新聞の捏造って何なんだよ。
ジャーナリストとか報道する人を題材にした物語なら、寧ろ捏造を防ぐとかだろ。
「別に捏造って言っても、実際に学校で配る訳じゃないから。秘蔵。自分だけで楽しむし」
「だとしても、新聞を作ってる人が賛成するとは思えんぞ。下手すれば、また悪い様に書かれるし」
「だからね、前永君にこう、上手く、いい感じに伝えてくれないかなぁ~って」
「……無理だろ、それは」
頼みを上手く言い換えたりするにしても、その本筋が捏造なら。
報道部の人間が、俺達の言葉を聞く事は絶対にないだろう。
というか……俺も断りたい。
せめて、報道部で新聞の作り方を見るとかで我慢してくれないかな。
「というか、そもそも九八四って小説は何だ? どうして新聞の捏造って話になるんだよ」
「……興味出た?」
「悪い意味でな。取り敢えず、まずは物語の大筋だけでいいから教えてくれ」
「いいけど……その前に、前永君はディストピアって知ってる?」
「ディストピア? ……なんか聞いた事がある様な」
一つの国が独裁者に支配され、どこもかしこも監視され。
そんな状況で体制に疑問を持った主人公が、支配から逃れようとする話で。
……うん、確かそんな感じだった気がする。
大体、どんな感じか考えて、それを本町に尋ねてみると。
「正解。まぁ、正確な定義はもう少しあるんだけど、大体はそんな感じ。それで、九八四はディストピアという概念を作った最初の作品なの」
「成る程……つまり、九八四に出てくる独裁者の真似をして、どんな事を考えてるのか確かめてみたいと?」
「ん~、ちょっと違うかな。残念。真似をするのは主人公、報道部みたいに新聞を作って……は違うかな? 出来た新聞を改竄するって感じ?」
「感じ? ってなんだよ。随分と曖昧な答えじゃないか」
「ややこしい感じでね。疑問。体制側にいる人は皆、それを真実だと思ってるの。改竄された記録を」
「……無理だろ。改竄の記録は目の前に残ってるんだぞ? 仮に消したとしても、記憶は残ってるし」
「でしょ? だからね、独裁者はこう命令するの。改竄だし、それが真実だって」
……なんだろう、今までで一番、難解な話になってきたな。
改竄で、真実。
その言葉の意味を考えてみるも、どうにも頭に思い浮かばず。
「……ちょっと難しかったかな? 例えば、私は女子高生でしょ? けど独裁者が男子高生だと言えば、頭の中で女子高生だし男子高生って感じになって」
「……結論だけ言ってくれ。記憶の話は無視して、新聞の話だけ」
「もう少し話したかったけどなぁ……残念。兎に角、新聞を改竄して不都合な事を無くすって訳。例えば、私が前に工場に行ったでしょ」
「あぁ、高丸先生に怒られたヤツね」
「もし物語の中で私が独裁者なら、私は高丸先生に褒められたって書き換えるの。改竄。そしたら独裁者は安泰でしょ?」
「いや、無理だろ。誰もがそれを知ってるんだし……だから記憶の捏造って訳か」
「本の言葉で言えば、二重の考えって感じ。改竄される前も後も、どっちも正しいの」
「成る程な……でも、無理だろ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
失恋少女と狐の見廻り
紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。
人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。
一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか?
不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる