俺'sヒストリー

かつしげ

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第525話 Another 12

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ダメホストの働きぶりを観察するのが飽きた私たちはエルドラドをあとにした。今はその流れで凱亜の家に向かっている。もちろん凱亜も一緒だ。アフターというやつを使えば早上がり?みたいなのができるらしいので使った。お金とられたけど。ま、別にいいんだけどね。

途中でタクシーを拾って凱亜の住むアパートへ到着する。年季の入ったアパート。昭和の香りがするような雰囲気だ。凱亜は妹の奈緒ちゃんの治療費に父親の借金返済を行なっているのでお金がない。ほとんどの稼ぎがそれらに消えていく。奈緒ちゃんの治療費は仕方ないけど父親の借金返済には私は疑問を持つ。そんなの凱亜が払う理由はない。でもそれは私が口を出す事じゃないのはわかっているのでなにも言わない。早く凱亜が色々な事から解放される日を願うだけだ。


「1週間ぶりぐらいに凱亜の部屋来た。」

「あー、もう1週間経つんだね。もう夏も終わりが近いなぁ。」

「おいアンナ、荷物持てよ。クソ重いんだよ。」


凱亜が大量の荷物を持ちながら私に文句を言っている。ご主人様に向かって生意気な奴だ。


「それお土産だからアンタ持ちなさいよ。」


凱亜が持つのは私が買って来た大阪土産。凱亜と奈緒ちゃん用だ。美穂のは私の家に置いてある。どうせ美穂は明日と明後日私の家に泊まるしね。


「お前こんなに買って来たのかよ。悪いな。」

「なんとかバームクーヘンみたいなのが有名みたいだから買って来た。あとなんか色々。」

「ほう。」


凱亜の目が光る。このダメホストは甘いもの好きだから困ったもんだ。


「そんなことより早く鍵開けて。はーやーくー。」

「うっせえな。待ってろ。」


凱亜がガチャガチャと鍵を回すとドアが開く。立て付けが悪いのが乱暴に開けないとうまく開かない。でもそれも味だよね。


「おっじゃまんぼー。」

「奈緒寝てんだから静かにしろよ。」

「お、おじゃまします…」


2DKの間取りの凱亜の部屋。ドアを開けるとすぐにキッチンがあり右にはトイレとお風呂。正面には2部屋。左が奈緒ちゃん。右がダメホスト。私たちはダメホストの部屋へとそのまま進む。
部屋の電気を点けるとあるのはテレビとベッドと本棚だけ。本棚にはゲーム機と漫画の本。それと私の写真集が3冊全てある。スケべな男だ。きっと私の水着写真をオカズにして夜な夜な自分を慰めているのだろう。とんでもない男だなこいつ。え?3冊ともシュリンク付いたまま?あ、ほんとだ。


「ちょっと凱亜。なんで写真集シュリンク付いたままなのよ。」

「ああ?見ねぇからに決まってんだろ。なんで家でまでお前見ないといけねえんだよ。」

「ひっどーい!!聞いた美穂!?このクズ最低だよ!?」

「あはは…」


美穂は困った顔で苦笑いをしている。
このクズホスト今度本当に燃やしてやる。立場わきまえてないよね。


「よしよし。天井のポスターはそのままだね。」


私は天井にこの前貼った大阪公演の宣伝ポスター(私の直筆サイン入り)がちゃんとあることを確認する。


「なになに?寝る時と起きた時に私を見たい感じ~?」


私は凱亜をからかうように言ってみる。すると凱亜はタバコを吸いながらしれっとした態度で、


「それ高く売れそうだからな。だから剥がすのやめた。」


こんな事言いやがった。


「このクソホスト!!」


私はクソホストを足蹴にする。本当にコイツはどうしようもない奴だ。


「ま、そういうくだらねェ話はいいんだけどよ。」

「全然くだらなくないんだけど。」

「いいから聞けよ。まだお前らに言ってなかったんだがーー」
「ーーなに?客の女でも妊娠させたとか?」

「えっ?」


私が冗談半分でそんな事を言うと美穂から変な空気が流れる。闇堕ちしたようななんとも邪悪な黒い霧のようなものがみえる。


「え?どういうこと?凱亜くん本当なの?」

「……。」
「……。」



…ちょっと冗談が過ぎたみたいかな。美穂が凄く怖い。このネタは美穂の地雷だったようだ。


「んなわけねェだろ。客の女なんかとそんなことすっかよ。」

「え?お客さんじゃなければするの?」

「……。」


このクソホストなんで黙ってるわけ?そこは嘘でもしないって言いなさいよ。


「……テメェ、アンナ。お前がくだらねェ事言うからめんどくせェ事になったじゃねェか。」

「…ハァ?アンタが疑わしい事してるから美穂があんな風になってんでしょ。いやらしい。信じらんない。」

「…いいから美穂なんとかしろよ。」

「…お願いしますは?」

「…調子乗ってんなよ性悪。」

「あ、ムカついた。もう知らない。美穂~、このクソがね~。」
「おい、わかった。やめろ。」

「お願いします。助けてください。可愛い可愛い杏奈様は?」


クソホストがこめかみをヒクつかせている。ふふん。立場わきまえろゴミホスト。


「……お願いします。」

「可愛い可愛い杏奈様は?」

「……可愛い可愛いアンナ様。」

「しゃーない。助けてあげるか。」


私は約束は守るからね。こんかクズでも私に従うなら助けてあげるか。


「美穂、軽い冗談だよ。いくら凱亜がどうしようもないクズでもそんな事しないよ。」

「……本当?」

「ほんとほんと。」

「……アンナちゃんがいうなら信じる。」

「よしよし。」


美穂は素直だからちゃんとなだめてあげれば信じてくれるからね。このクズだと美穂はなだめられないだろうけど。


「…はあ。話戻すぞ。」

「そういえばそうだった。話ってなんだっけ?」


凱亜が疲れたような顔で軽く私を睨む。ん?なにその態度?ご主人様に対して生意気じゃない?あとでお仕置きしよう。


「昨日店で仕事してっ時に耳にしたんだよ。『オレヒス』って言葉をよ。」


ふーん。ま、100万以上の人間がやってるならそういう事もあるでしょ。別に驚く程でもないような気するけど。


「それぐらいなら特別驚くような事でもないんじゃないかなぁ?」


私がそう思っていると美穂もそう思ったようだ。やっぱりそうだよね。凱亜がそんな風に言う程の事でもないでしょ。


「普通ならな。だが話の内容が問題だ。そいつは初回の客だった。今まで見た事ない奴だ。」


初回ってなんだろ。


「俺が接客してた隣にそいつはいたんだが、酒が入って気分が良くなったのかよくしゃべるようになってな。そうしたらホストに『俺'sヒストリーってゲーム知ってるか?』って聞いてきたんだよ。」


凱亜がまたタバコに火を点ける。コイツ一体1日何本吸ってるんだろう。てゆうかコイツの副流煙で私の寿命が減りそうな気がする。


「で、ホストは知らないって言った。そうしたら女がホストを勧誘しやがった。ここまでなら別に珍しくはない。だがな、女はその後にこう言ったんだ。『私たちは今同士を集めてる。新しい国を作る為に。旧体制の破壊をする為に。不要な”五帝”や”闘神”、リッターを排除する。そして”彼の方”を蘇らせるのだ。』ってよ。」

「……は?なにそれ?」


軽く聞いていた話のはずが全く笑えない話に変わった。美穂の顔からも笑みは消え、驚きを隠せない。


「その女がハッタリかましてりゃいいんだがハッタリじゃなけりゃ厄介だ。どの程度の規模の集団になってンのかは知らねェが多数いるとハッキリ言って不味い。」

「リッターとかの単語を知っているなら決して新参でも弱者でもないって思うべきだよね。」

「ああ。侮っちゃならねェ。俺はそう思ってる。」

「幻夜くんにも伝えるべきだよね。夜中だけどライン入れておく。」

「ああ。俺が昨日の内にお前らに教えりゃ良かったんだがとりあえず調べてからにしようと思ってな。んで今日の日中に動いてみたんだが尻尾はつかめなかった。悪い。」

「凱亜くんのせいじゃないよ。」

「てゆーか凱亜、アンタ余計な事しない方がいいでしょ。」


美穂と凱亜の会話に私が割り込む。すると2人が何言ってんだコイツみたいな目線を私に向けて来た。決して2人の世界を邪魔されたから怒っているわけではないと思いたい。


「ああん?なんでだよ?」


凱亜が不満そうな態度だ。ご主人様に対してホント生意気なんだけどコイツ。


「”五帝”知ってるんならアンタの事だって知ってる。もしかしたら顔だって知っている可能性だって高い。それどころかその女はアンタがエルドラドにいるのわかってて来たのかもしれないでしょ。」


凱亜と美穂はハッとしたような顔をした。そこまで予想しないといけない。そんなまさか、なんて事で済ませてはいけない。これは俺'sヒストリー。人の想像を超えたゲームなんだから。


「……確かにそうだな。そこまで考えなきゃならなかった。」

「最悪を考えよう。ここの場所も知られてるかもしれない。そうなると奈緒ちゃんが危ない。」

「ああ。チッ、ホテルにでも行くしかねェか。」

「ホテルはダメだと思う。人の出入りが多すぎるよ。悪手になる。」

「私の家に来ればいいよ。セキュリティーバッチリだし。そもそも私の事はプレイヤーには知られてない。それなら現状一番安全でしょ?」

「いいのかよ?」

「なに水臭い事言ってんのよ。私たちは仲間。でしょ?」

「……お前には頭上がらねェな。」

「これからは杏奈様って言いなさいよ?」

「テメェあんま調子に乗ってんな。」

「ハァ?」


私たちが険悪な雰囲気になっているのを美穂が宥める。これが私たちの”いつも”だ。この日常を壊させはしない。


「奈緒はアンナに任せた。俺は明日からそいつらについて調べてみる。特に俺をつかんでなさそうなら奈緒は家に戻すぜ。」

「ムリはしないでよ。アンタいなくなったら泣く人いるんだからね。」

「ああ。」

「それと……私たちも一時的にでも同盟結ぶ相手を探すっていうのはどうかな?」


美穂からの提案は意外なものだった。ずっと4人でやっていくと思っていた中でその提案は私は全く頭に入れてなかった。


「どうして美穂はそう思うの?」

「単純に数かな。その連中の規模がわからないからなんとも言えないけど仮に数百、数千といたらいくらアンナちゃんや凱亜くんでもやられるかもしれない。それなら他と共闘するのはアリかなって思ったからだよ。」

「まァ、美穂の考えもアリっちゃアリだな。最後の最後まで共闘してその後にバトルロイヤルってのも悪くねェ。」


まー確かに。アリといえばアリだ。アリかナシかでいっても当然アリ。


「美穂がそう提案するってことは候補とかってあるの?」

「頭に浮かぶのは当然強い人たち。寄生されたくはないからね。」

「そうだな。現実蘇我か?」


蘇我夢幻。ナンバーワンプレイヤーと名高い男だ。アインス経由で1度顔を合わせた事あるけど確かに凄い魔力だった。現段階では私の方が上だけど将来的にはわからない。蘇我の強さは底が知れない。油断はならない相手だ。正直蘇我は今倒した方がいいと私は思っている。今なら私だけでも余裕で勝てるだろうけど凱亜と2人でやれば万が一にも負ける事はありえない。脅威の目は摘んでおくべきだと思う。でもそれはアインスが許さない。今アインスを敵にするのは得策じゃない。先ずは力をつけないと。グリモワールを手に入れてリンドブルムの『本体』を使えるようになればアインスだろうとツヴァイだろうとサーシャ・オルデンブルクだろうと敵じゃない。


「蘇我夢幻は強大だけど1人だからね。それに現実的な話、蘇我夢幻は私たちと共闘せざるをえないでしょ?」

「まァな。アインスの野郎が俺たちと蘇我がモメんのは禁止してっからな。んじゃどうすんだ?」

「他の”五帝”を対象にするべきだと思う。その連中を相手にする場合、互いの利害が一致するし。」

「島村、天栄、芹澤らと接触するって事か?」

「それが一番の手かな、って私は思う。」

「だがツテがねェぞ?」


そこが問題だ。私たちは蘇我とは連絡を取ろうと思えば取る事が出来る。だけど天栄、島村、芹澤とは会った事もない。何より島村と芹澤はツヴァイ一派だ。敵勢力と会うのは相当難しい。


「ツテはあるよ。」


美穂の言葉に私と凱亜の目が見開く。


「私はこの前のイベントで”闘神”の坂本を倒したから恐らく入れ替わってるはず。イベントが始まる前に闘神の会合が開かれるんだからその時に島村と芹澤に接触できるよ。」

「なるほど。美穂ナイスじゃん。」

「だがリスクあんぞ?アインスのクソが言う通りなら奴等はツヴァイ側。とんでもねェクソッタレだって事になる。」

「それは私で見極めてみるよ。共闘できるなら少なくともあっちにだってデメリットは無いと思うし。」

「まーそうだね。今は凱亜が言ってる女の一味に対して用心するべきだろうし。最悪、島村だか芹澤だかは私が殺せばいい。」

「おっけ、わかった。とりあえずその方向で行こう。蘇我には俺から話を入れとく。まァ、あの野郎がおとなしく共闘なんてする訳ねェだろうがな。」



俺'sヒストリーも”選別ノ刻”を前にしてプレイヤーが大きく動き出してきた。凱亜が遭遇したというその女が属するクランはどのような思想で動いているのだろうか。私はひそかに何か嫌な気配を感じていた。

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