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第383話 慎太郎無双
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「…は?」
ーー莉緒の口から出た言葉はそれであった。
現状起こっている事が理解出来ない。慎太郎が放る豪速球を受け止めきれない。
だが理解が追いつかなくても時間は待ってくれない。2球目がやって来る。
ーースパァーン
ーー表示された球速は153km。やはりスピードガンの故障では無い。間違いなく慎太郎は150kmを超える球を投げている。それは理解しているが身体が動かない。バッティングセンターで150kmの球は打った事はあるが慎太郎の球はそんなものとは格が違う。莉緒は160km以上の球のように感じていた。
だからといってただ突っ立っていても仕方がない。カウントは0-2と追い込まれている。振るしかない。
ーーそして3球目。慎太郎の豪速球を打とうと莉緒はバットを振るがカスる事も出来ず空を切った。
「ストライク!!バッターアウト!!チェンジ!!」
ーー最後の球は156km。完全に終わったと思われた悪い流れを断ち切り、一気にムードを変えた。この慎太郎の功績は非常に大きい。
「す…すごい…」
ーーベンチで治療を受けながら慎太郎の投球を見ていた楓。この数日野球に精通して来た彼女には慎太郎の凄さがはっきりとわかった。付け加えれば目はハートになり、更に慎太郎に対するラブ度は上昇しているのであった。
「センセー!!何あの球!?プロのレベルじゃん!!」
ベンチへ引き上げるタロウさんに未央が興奮した様子で話しかける。
「んー、自主トレはいつもしてたからな。」
ーーそう、慎太郎は野球部でもないくせに高校の時も毎日遠投100球、ランニング20km、坂道ダッシュ50本を剣道部の練習後に行う程の体力バカなのだ。更には家に帰ってハードな筋トレまでやるというキチガイでもある。
「もうね!!私は感動したよ!!ファンになりました!!」
「あはは、そうかそうか。よしよし。」
そう言いながらタロウさんは未央の頭を撫でる。微笑ましい光景ね。
ーーどこぞのヤンデレクイーンが見たら嫉妬に狂って未央ちゃん花壇にでも埋められそうだけどね。
「奈良坂先生、楓の手は大丈夫ですか?」
タロウさんが私の所へ来て隣で手当てをしてくれている保健室の先生に声をかける。
「打撲ですね。骨には異常無いと思いますが念の為に病院で検査をする方がいいかと思います。」
「大したケガじゃなくて良かった。心配したよ。」
そう言いながらタロウさんは私の頭を撫でる。不思議と彼に頭を撫でられていると手の痛みは消えてしまう。
「良かったね楓。」
未央が私の隣に座ってくる。
「心配してくれてありがとう。」
「ん?そっちじゃないよー。センセーに頭を撫でられて良かったねって事。」
未央が耳元で意地悪そうな顔で言ってくる。
「未央。」
「あははは。怒らない怒らない。」
まったく。
「さーて、あと3回で終わりだ。点差は1点。まずは追いつこう。」
タロウさんがナインに声をかける。
「6番の瞳子からだな。あのピッチャーからヒットを打つのは決して楽じゃない。実際問題未央しか打てないかもしれないがバットは振っていこう。振るだけでも相手は嫌なもんだ。どうせなら思いっきり空振りしちゃいな。」
「はいっ!やってみます!」
タロウさんが佐竹さんにアドバイスをおくる。点差は1点だけど残りは3回しかない。普通に考えれば未央に打順は回らないだろう。最終回に未央に回っても敬遠されて終わりだ。そうなると当然追いつくのは厳しい。でも私の打順にはタロウさんがいる。打つ方はどうかはわからないけど勝てるかどうかはタロウさん次第。私は全て彼に託した。見守ろう。彼の勇姿を。
ーー5回裏の2Aの攻撃。
3人は塁に出る事は叶わず三者三振で終わる。だが慎太郎のアドバイス通りみんなが思いっきりバットを振った。プレッシャーはかけられただろう。
ーー6回表。
シニアに在籍する本田莉緒がカスリもしない球を素人に打てるはずがない。全て三球三振の三者連続三振に打ち取る慎太郎。
ーーそして、6回裏の2Aの攻撃。
打順は9番の慎太郎に回る。バッターボックスへと入る慎太郎。その姿にキャッチャーの本田莉緒は警戒していた。慎太郎が放つスラッガーとしてのオーラを否が応でも感じずにはいられない。本当なら慎太郎を歩かせたいと思っているが万が一にもランナーをためてしまって未央に回る事になってしまったらと思うと躊躇してしまう。
莉緒はボール気味の外角低めスライダーを要求する。ボール球を引っ掛けてくれれば儲けものだと考えた。
だがーー
ーーボゴォン
ーー完璧に捉えたその球は大きな弧を描き場外へと飛んで行く。日本人離れしている慎太郎のパワーの前にボール1個外したぐらいのボール球では大した意味は持たない。ここで試合は振り出しに戻った。否。勝敗は決した。慎太郎の球を単打で打つ事はあるかもしれないが打線が繋がる事は無い。その前に未央か慎太郎にホームランを打たれるのが先だ。現に7回裏の未央の打席でサヨナラホームランを打たれ、2Aの優勝が決まった。
「しゃー!!」
ーー満面の笑みでダイヤモンドを回る未央。それをホームベースにて慎太郎たちが待ち構える。
「ナイス未央!!」
「流石です花山院様!!」
タロウさんを含めたナインが未央を出迎えて祝福している。
勝てたんだ。優勝出来た。未央とタロウさんのおかげね。私は何にもしてないもの。2人がいてくれなきゃ絶対優勝なんて出来なかった。ううん、違うわ。全員がいなかったら優勝なんて出来なかった。みんなが頑張ってくれたから優勝出来た。
「ほら!!楓!!」
未央が手招きをしている。
「芹澤様!!」
他のクラスメートたちも手招きをしている。
「楓、おいで。」
そしてタロウさんも。
私はベンチを飛び出しみんなの元へ合流する。
「ありがとう、みんな。みんながいたから優勝出来た。私は何も貢献出来なかったけど…本当にありがとう。」
私はみんなに頭を下げる。すると、
「何をおっしゃるのですか芹澤様!!貴女がいてくれたからこそ決勝に来られたのです!!」
「そうです!!それに芹澤様が田辺先生に繋いでくれたからこそ優勝出来た。貢献してないはずがありません!!」
チームメイトたちが私の言葉を否定する。
「そうだよ楓。この優勝はみんなが頑張ったからこそ出来たんだよ。朝練や休日練、誰1人としてサボらなかった。みんなの心が一つになったからこそ優勝出来たんだよ。この優勝に貢献してない人なんて誰1人としていない。みんなで勝ち取った優勝だよ。」
「未央…」
タロウさんが私の背中を優しく叩く。
「そうだよ。みんなで勝ち取った優勝だ。お前たちは最高のチームだよ。ほら、楓も輪の中に入りなよ。ね。」
タロウさんに促され、私はみんなの輪の中へ入る。
「ウフフ、本当に最高のチームね。」
「そーだね!!あ!!私と楓の事は名字の様付はもう禁止ね!!このメンバーはみんな名前で呼び合うこと!!それと敬語も禁止!!いい?」
「わかりま…わかった!!未央ちゃん!!楓ちゃん!!」
ーーナインたち全員が年相応の顔で笑い合う。それを慎太郎はとても嬉しく思いながら見つめていた。
「よし!それじゃみんなで写真撮ろうぜ!」
「おっ!いいねぇ!」
タロウさんの一声にみんなが集まり写真を撮る準備を始める。自発的に撮る集合写真なんて初めてだから凄く嬉しくな。
「奈良坂先生。すみませんが撮って頂いてもよろしいでしょうか?」
「良いですよ。」
タロウさんを中心にみんなが集まりポーズをとる。私と未央がタロウさんの両サイドで。
「では撮ります。」
ーーカシャ
ーーシャッター音とともに周囲が闇に包まれる。長きに渡る楓のシーンがクリアを持って終結した。
ーー莉緒の口から出た言葉はそれであった。
現状起こっている事が理解出来ない。慎太郎が放る豪速球を受け止めきれない。
だが理解が追いつかなくても時間は待ってくれない。2球目がやって来る。
ーースパァーン
ーー表示された球速は153km。やはりスピードガンの故障では無い。間違いなく慎太郎は150kmを超える球を投げている。それは理解しているが身体が動かない。バッティングセンターで150kmの球は打った事はあるが慎太郎の球はそんなものとは格が違う。莉緒は160km以上の球のように感じていた。
だからといってただ突っ立っていても仕方がない。カウントは0-2と追い込まれている。振るしかない。
ーーそして3球目。慎太郎の豪速球を打とうと莉緒はバットを振るがカスる事も出来ず空を切った。
「ストライク!!バッターアウト!!チェンジ!!」
ーー最後の球は156km。完全に終わったと思われた悪い流れを断ち切り、一気にムードを変えた。この慎太郎の功績は非常に大きい。
「す…すごい…」
ーーベンチで治療を受けながら慎太郎の投球を見ていた楓。この数日野球に精通して来た彼女には慎太郎の凄さがはっきりとわかった。付け加えれば目はハートになり、更に慎太郎に対するラブ度は上昇しているのであった。
「センセー!!何あの球!?プロのレベルじゃん!!」
ベンチへ引き上げるタロウさんに未央が興奮した様子で話しかける。
「んー、自主トレはいつもしてたからな。」
ーーそう、慎太郎は野球部でもないくせに高校の時も毎日遠投100球、ランニング20km、坂道ダッシュ50本を剣道部の練習後に行う程の体力バカなのだ。更には家に帰ってハードな筋トレまでやるというキチガイでもある。
「もうね!!私は感動したよ!!ファンになりました!!」
「あはは、そうかそうか。よしよし。」
そう言いながらタロウさんは未央の頭を撫でる。微笑ましい光景ね。
ーーどこぞのヤンデレクイーンが見たら嫉妬に狂って未央ちゃん花壇にでも埋められそうだけどね。
「奈良坂先生、楓の手は大丈夫ですか?」
タロウさんが私の所へ来て隣で手当てをしてくれている保健室の先生に声をかける。
「打撲ですね。骨には異常無いと思いますが念の為に病院で検査をする方がいいかと思います。」
「大したケガじゃなくて良かった。心配したよ。」
そう言いながらタロウさんは私の頭を撫でる。不思議と彼に頭を撫でられていると手の痛みは消えてしまう。
「良かったね楓。」
未央が私の隣に座ってくる。
「心配してくれてありがとう。」
「ん?そっちじゃないよー。センセーに頭を撫でられて良かったねって事。」
未央が耳元で意地悪そうな顔で言ってくる。
「未央。」
「あははは。怒らない怒らない。」
まったく。
「さーて、あと3回で終わりだ。点差は1点。まずは追いつこう。」
タロウさんがナインに声をかける。
「6番の瞳子からだな。あのピッチャーからヒットを打つのは決して楽じゃない。実際問題未央しか打てないかもしれないがバットは振っていこう。振るだけでも相手は嫌なもんだ。どうせなら思いっきり空振りしちゃいな。」
「はいっ!やってみます!」
タロウさんが佐竹さんにアドバイスをおくる。点差は1点だけど残りは3回しかない。普通に考えれば未央に打順は回らないだろう。最終回に未央に回っても敬遠されて終わりだ。そうなると当然追いつくのは厳しい。でも私の打順にはタロウさんがいる。打つ方はどうかはわからないけど勝てるかどうかはタロウさん次第。私は全て彼に託した。見守ろう。彼の勇姿を。
ーー5回裏の2Aの攻撃。
3人は塁に出る事は叶わず三者三振で終わる。だが慎太郎のアドバイス通りみんなが思いっきりバットを振った。プレッシャーはかけられただろう。
ーー6回表。
シニアに在籍する本田莉緒がカスリもしない球を素人に打てるはずがない。全て三球三振の三者連続三振に打ち取る慎太郎。
ーーそして、6回裏の2Aの攻撃。
打順は9番の慎太郎に回る。バッターボックスへと入る慎太郎。その姿にキャッチャーの本田莉緒は警戒していた。慎太郎が放つスラッガーとしてのオーラを否が応でも感じずにはいられない。本当なら慎太郎を歩かせたいと思っているが万が一にもランナーをためてしまって未央に回る事になってしまったらと思うと躊躇してしまう。
莉緒はボール気味の外角低めスライダーを要求する。ボール球を引っ掛けてくれれば儲けものだと考えた。
だがーー
ーーボゴォン
ーー完璧に捉えたその球は大きな弧を描き場外へと飛んで行く。日本人離れしている慎太郎のパワーの前にボール1個外したぐらいのボール球では大した意味は持たない。ここで試合は振り出しに戻った。否。勝敗は決した。慎太郎の球を単打で打つ事はあるかもしれないが打線が繋がる事は無い。その前に未央か慎太郎にホームランを打たれるのが先だ。現に7回裏の未央の打席でサヨナラホームランを打たれ、2Aの優勝が決まった。
「しゃー!!」
ーー満面の笑みでダイヤモンドを回る未央。それをホームベースにて慎太郎たちが待ち構える。
「ナイス未央!!」
「流石です花山院様!!」
タロウさんを含めたナインが未央を出迎えて祝福している。
勝てたんだ。優勝出来た。未央とタロウさんのおかげね。私は何にもしてないもの。2人がいてくれなきゃ絶対優勝なんて出来なかった。ううん、違うわ。全員がいなかったら優勝なんて出来なかった。みんなが頑張ってくれたから優勝出来た。
「ほら!!楓!!」
未央が手招きをしている。
「芹澤様!!」
他のクラスメートたちも手招きをしている。
「楓、おいで。」
そしてタロウさんも。
私はベンチを飛び出しみんなの元へ合流する。
「ありがとう、みんな。みんながいたから優勝出来た。私は何も貢献出来なかったけど…本当にありがとう。」
私はみんなに頭を下げる。すると、
「何をおっしゃるのですか芹澤様!!貴女がいてくれたからこそ決勝に来られたのです!!」
「そうです!!それに芹澤様が田辺先生に繋いでくれたからこそ優勝出来た。貢献してないはずがありません!!」
チームメイトたちが私の言葉を否定する。
「そうだよ楓。この優勝はみんなが頑張ったからこそ出来たんだよ。朝練や休日練、誰1人としてサボらなかった。みんなの心が一つになったからこそ優勝出来たんだよ。この優勝に貢献してない人なんて誰1人としていない。みんなで勝ち取った優勝だよ。」
「未央…」
タロウさんが私の背中を優しく叩く。
「そうだよ。みんなで勝ち取った優勝だ。お前たちは最高のチームだよ。ほら、楓も輪の中に入りなよ。ね。」
タロウさんに促され、私はみんなの輪の中へ入る。
「ウフフ、本当に最高のチームね。」
「そーだね!!あ!!私と楓の事は名字の様付はもう禁止ね!!このメンバーはみんな名前で呼び合うこと!!それと敬語も禁止!!いい?」
「わかりま…わかった!!未央ちゃん!!楓ちゃん!!」
ーーナインたち全員が年相応の顔で笑い合う。それを慎太郎はとても嬉しく思いながら見つめていた。
「よし!それじゃみんなで写真撮ろうぜ!」
「おっ!いいねぇ!」
タロウさんの一声にみんなが集まり写真を撮る準備を始める。自発的に撮る集合写真なんて初めてだから凄く嬉しくな。
「奈良坂先生。すみませんが撮って頂いてもよろしいでしょうか?」
「良いですよ。」
タロウさんを中心にみんなが集まりポーズをとる。私と未央がタロウさんの両サイドで。
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