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第360話 不審
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深夜、リリからメールが入った。俺は急いで部屋を出ていつもの公園へと駆け出す。
季節は8月。当然ながら深夜でも身体に纏わりつくような暑さだ。それでも俺は全力で街を駆ける。
程なくして公園へと到着する。いた。探さなくてもわかるほどの圧倒的な存在感。街灯の当たらない暗闇なはずなのに、彼女がいる一部分だけは、まるでスポットライトでも当たっているかのように輝いている。
俺が息を切らせながら彼女を見つめていると向こうも俺に気づく。
「よっ!」
相変わらず女子力ゼロのタンクトップにホットパンツという格好。でも露出が多い分心配にもなる。
何だか気恥ずかしい俺は無言で手を挙げて彼女に挨拶をする。
彼女が小走りで俺に近づく。
「ん~?汗だくじゃ~ん。そんなにリリちゃんに会いたかったの~?いや~ん!!リリちゃん困っちゃ~う!!」
リリがいつものように身体をくねらせながら戯けたような言葉を出す。
でも俺はそんな彼女の言葉が心地良い。彼女の仕草や表情に癒される。
「うん、会いたかった。」
つい口から出てしまった。
彼女に見惚れていた事で頭を回転させる事なく、ただ思った言葉を口にしてしまった。
彼女も俺の言葉に驚いたのか、動かしていた身体をピタリと止め、俺をジッと見る。
「…そっか。」
「ああ。」
俺はそう言ってリリの身体を抱き寄せる。発汗して熱いせいか彼女の身体がとても冷たく感じる。だがしばらくすると俺の身体の熱もリリに伝わり、2人の体温が同じになっていく。
静寂に包まれた公園内で俺の耳に聞こえるのは俺とリリの呼吸音だけだった。
「…ごめん、これだけ汗かいてんのに抱きつかれたら気持ち悪いし臭いよな。」
「…気にならないよ。」
「…そっか。」
「…うん。」
沈黙が続く。
別に苦痛では無い。
それどころか落ち着くし、安らいでしまう。
俺はここにリリがいるという確かな感覚を感じていた。
「…ゼーゲン、ありがとう。」
「…ん。」
「ごめん…ミリアルドを殺せなかった。」
「気にしてないよ。謝らないで。」
「でもどうしてだ?リリの立場が悪くなるだろ?現にミリアルドとアインスにはバレた。」
「どうして…ね。どうしてだろ~ね。」
リリが少しづつ言葉を紡いでいく。
「自分の事よりも…大事だったからかな。タロウを助けないといけない。このままじゃ死んじゃう。どうにかしなきゃ。…そう思ったらゼーゲン渡してた。」
リリが俺の腰に手を回し、抱きしめ返してくる。
「でも後悔なんかしてないよ。タロウが生きててくれて良かった。この後にこれが露見して責め苦を負わされる事になっても私は大丈夫だよ。」
「大丈夫なんかじゃない。俺は”もう”リリを1人にはさせない。”今度こそ”俺はキミを守るから。」
俺はリリを抱き締める手を強める。離さない。絶対に離さない。”もう俺はあんな思いをさせたりしない”
「私はタロウが大切。”あの時”よりももっとその気持ちは大きくなった。”今度も”必ず私が……あれ?私、今何を言ってたんだっけ…」
「いや…俺も何を言ってたんだっけ…」
なんだろう。どうもこの前からリリと会った時に変な感じになるな。
「ま、いっか。」
「ずいぶん軽いなおい。」
「だってリリちゃん面倒くさいの嫌いだもん。」
「ま、リリらしいな。」
「あははっ!わかってるじゃ~ん!流石は私の弟子!」
ーー2人の間に幸せな空気が溢れ出す。
「でもリリに危害は加えられないはずだよ。俺にゼーゲンを貸した事に対する咎めも無ければ、情報が出回る事も無いと思う。」
「どうして?」
「アインスがそう言ってた。この件に関しては不問にするって。」
「アインスが…?」
リリが怪訝な顔を見せる。何か腑に落ちない点があるのだろう。だが俺はアインスが言った言葉の全てはリリには伝えない。いや、伝えられない。アイツが言った事が事実ならリリはツヴァイたちに弱みを握られているんだ。もしかしたら術式がかけられていて、第三者にそれを知られたらペナルティーみたいな事があるかもしれない。リリには言わない。俺がリリを救うんだ。絶対に。もう…”あの時”のようにはしない。
「…わかった。それなら気にしないようにするね。」
「うん。」
リリが俺から離れ、ポケットから何かを取り出し、俺の首に持ってくる。ハンカチだ。
「汗止まらないね~。」
「ちゃんと持っててくれてんだ?」
そのハンカチにはたこ焼きのワンポイント刺繍が施されている。俺がリリに大阪土産として買ってきたものだ。
「女子力上がった?」
「ちゃんとトイレから出た時に使ってる?」
「ううん。もったいないから服でピッピしてる。」
「ダメじゃん。俺、何の為に買って来たの。」
「だってもったいなくて。」
「ま、気持ちはわからんでもないけど。でも使ってくれた方がハンカチも喜ぶと思うよ?」
「そうかな?ハンカチさん、ハンカチさん。キミもそう思うかい?」
『そうだよ!ボクもリリちゃんみたいな超絶美少女に使ってもらえたら嬉しくて死んじゃうよ!』
「いや~ん!超絶アルティメット美少女だなんてリリちゃん困っちゃ~う!」
「1人で何をやってんのこの子。」
「さてと、それじゃリリちゃん帰るね。」
「自由だなおい。」
「ホントは修行してあげたかったんだけど用事思い出しちゃって。だからまたね。」
「そんならしゃーないか。そんじゃ、コレ。」
俺はラウムからリリのゼーゲンを取り出し、リリへと返す。
「ん。それじゃーーあ、そうだ。忘れてた。」
「どした?」
リリが俺の目を見ながら近づいて来る。俺はなんだかわからず目で追っていると、リリが俺の頭を両手で抑え、そのまま自分へ向けて引き寄せる。引き寄せられた先にあるのは唇だ。
「んんっ!?」
俺は訳がわからず声を出すが、唇が塞がれている為に言葉が出せない。それどころかリリが舌を入れて来るのでそれどころでは無くなる。俺の行動は完全に無力化された。
それがしばらく続いた後に唇が離され、ようやく言葉を出す事を許される。
「…何してんの?」
「ん~、なんかしたかったから?」
「ずいぶんと適当な理由だな。」
「あ!修行だよ修行!呼吸を読む修行!」
「今思いついた理由だよね!?」
「あちゃ~!」
「そのバレちまったみたいな顔やめようね。」
「それじゃリリちゃん帰るね。」
「自由だなおい。」
「じゃ、またね、タロウ。」
「おう。またね、リリ。」
相変わらずのフリーダムっぷりを撒き散らせながらリリが手をブンブン振って闇に消えて行った。
「…俺も帰るか。」
真っ直ぐ帰る俺だが、案の定玄関で牡丹が立って待っていた。
そしてすぐに風呂場へと連れて行かれ、全身をしっかりと洗われた。
季節は8月。当然ながら深夜でも身体に纏わりつくような暑さだ。それでも俺は全力で街を駆ける。
程なくして公園へと到着する。いた。探さなくてもわかるほどの圧倒的な存在感。街灯の当たらない暗闇なはずなのに、彼女がいる一部分だけは、まるでスポットライトでも当たっているかのように輝いている。
俺が息を切らせながら彼女を見つめていると向こうも俺に気づく。
「よっ!」
相変わらず女子力ゼロのタンクトップにホットパンツという格好。でも露出が多い分心配にもなる。
何だか気恥ずかしい俺は無言で手を挙げて彼女に挨拶をする。
彼女が小走りで俺に近づく。
「ん~?汗だくじゃ~ん。そんなにリリちゃんに会いたかったの~?いや~ん!!リリちゃん困っちゃ~う!!」
リリがいつものように身体をくねらせながら戯けたような言葉を出す。
でも俺はそんな彼女の言葉が心地良い。彼女の仕草や表情に癒される。
「うん、会いたかった。」
つい口から出てしまった。
彼女に見惚れていた事で頭を回転させる事なく、ただ思った言葉を口にしてしまった。
彼女も俺の言葉に驚いたのか、動かしていた身体をピタリと止め、俺をジッと見る。
「…そっか。」
「ああ。」
俺はそう言ってリリの身体を抱き寄せる。発汗して熱いせいか彼女の身体がとても冷たく感じる。だがしばらくすると俺の身体の熱もリリに伝わり、2人の体温が同じになっていく。
静寂に包まれた公園内で俺の耳に聞こえるのは俺とリリの呼吸音だけだった。
「…ごめん、これだけ汗かいてんのに抱きつかれたら気持ち悪いし臭いよな。」
「…気にならないよ。」
「…そっか。」
「…うん。」
沈黙が続く。
別に苦痛では無い。
それどころか落ち着くし、安らいでしまう。
俺はここにリリがいるという確かな感覚を感じていた。
「…ゼーゲン、ありがとう。」
「…ん。」
「ごめん…ミリアルドを殺せなかった。」
「気にしてないよ。謝らないで。」
「でもどうしてだ?リリの立場が悪くなるだろ?現にミリアルドとアインスにはバレた。」
「どうして…ね。どうしてだろ~ね。」
リリが少しづつ言葉を紡いでいく。
「自分の事よりも…大事だったからかな。タロウを助けないといけない。このままじゃ死んじゃう。どうにかしなきゃ。…そう思ったらゼーゲン渡してた。」
リリが俺の腰に手を回し、抱きしめ返してくる。
「でも後悔なんかしてないよ。タロウが生きててくれて良かった。この後にこれが露見して責め苦を負わされる事になっても私は大丈夫だよ。」
「大丈夫なんかじゃない。俺は”もう”リリを1人にはさせない。”今度こそ”俺はキミを守るから。」
俺はリリを抱き締める手を強める。離さない。絶対に離さない。”もう俺はあんな思いをさせたりしない”
「私はタロウが大切。”あの時”よりももっとその気持ちは大きくなった。”今度も”必ず私が……あれ?私、今何を言ってたんだっけ…」
「いや…俺も何を言ってたんだっけ…」
なんだろう。どうもこの前からリリと会った時に変な感じになるな。
「ま、いっか。」
「ずいぶん軽いなおい。」
「だってリリちゃん面倒くさいの嫌いだもん。」
「ま、リリらしいな。」
「あははっ!わかってるじゃ~ん!流石は私の弟子!」
ーー2人の間に幸せな空気が溢れ出す。
「でもリリに危害は加えられないはずだよ。俺にゼーゲンを貸した事に対する咎めも無ければ、情報が出回る事も無いと思う。」
「どうして?」
「アインスがそう言ってた。この件に関しては不問にするって。」
「アインスが…?」
リリが怪訝な顔を見せる。何か腑に落ちない点があるのだろう。だが俺はアインスが言った言葉の全てはリリには伝えない。いや、伝えられない。アイツが言った事が事実ならリリはツヴァイたちに弱みを握られているんだ。もしかしたら術式がかけられていて、第三者にそれを知られたらペナルティーみたいな事があるかもしれない。リリには言わない。俺がリリを救うんだ。絶対に。もう…”あの時”のようにはしない。
「…わかった。それなら気にしないようにするね。」
「うん。」
リリが俺から離れ、ポケットから何かを取り出し、俺の首に持ってくる。ハンカチだ。
「汗止まらないね~。」
「ちゃんと持っててくれてんだ?」
そのハンカチにはたこ焼きのワンポイント刺繍が施されている。俺がリリに大阪土産として買ってきたものだ。
「女子力上がった?」
「ちゃんとトイレから出た時に使ってる?」
「ううん。もったいないから服でピッピしてる。」
「ダメじゃん。俺、何の為に買って来たの。」
「だってもったいなくて。」
「ま、気持ちはわからんでもないけど。でも使ってくれた方がハンカチも喜ぶと思うよ?」
「そうかな?ハンカチさん、ハンカチさん。キミもそう思うかい?」
『そうだよ!ボクもリリちゃんみたいな超絶美少女に使ってもらえたら嬉しくて死んじゃうよ!』
「いや~ん!超絶アルティメット美少女だなんてリリちゃん困っちゃ~う!」
「1人で何をやってんのこの子。」
「さてと、それじゃリリちゃん帰るね。」
「自由だなおい。」
「ホントは修行してあげたかったんだけど用事思い出しちゃって。だからまたね。」
「そんならしゃーないか。そんじゃ、コレ。」
俺はラウムからリリのゼーゲンを取り出し、リリへと返す。
「ん。それじゃーーあ、そうだ。忘れてた。」
「どした?」
リリが俺の目を見ながら近づいて来る。俺はなんだかわからず目で追っていると、リリが俺の頭を両手で抑え、そのまま自分へ向けて引き寄せる。引き寄せられた先にあるのは唇だ。
「んんっ!?」
俺は訳がわからず声を出すが、唇が塞がれている為に言葉が出せない。それどころかリリが舌を入れて来るのでそれどころでは無くなる。俺の行動は完全に無力化された。
それがしばらく続いた後に唇が離され、ようやく言葉を出す事を許される。
「…何してんの?」
「ん~、なんかしたかったから?」
「ずいぶんと適当な理由だな。」
「あ!修行だよ修行!呼吸を読む修行!」
「今思いついた理由だよね!?」
「あちゃ~!」
「そのバレちまったみたいな顔やめようね。」
「それじゃリリちゃん帰るね。」
「自由だなおい。」
「じゃ、またね、タロウ。」
「おう。またね、リリ。」
相変わらずのフリーダムっぷりを撒き散らせながらリリが手をブンブン振って闇に消えて行った。
「…俺も帰るか。」
真っ直ぐ帰る俺だが、案の定玄関で牡丹が立って待っていた。
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