俺'sヒストリー

かつしげ

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第307話 第二次入替戦 慎太郎 side 2

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「ぐ、”具現”…!?テメェ…!?」

ーーバルムンクの存在を確認する事により笠原が狼狽え出す。自分が優位だと思っていた状況から対等に並ばれた事により笠原の中で敗北に対する不安が浮かんだ。それだけ”具現”が強力なのを使用者は人一倍理解している。理解しているからこそ不安になるのだ。

ーーだが狼狽える笠原に三間坂が声をかける。

「笠原さん、落ち着いて下さい。その男の腰に差してあるゼーゲン見れば理解出来ますよね?未解放です。貴方の方が遥かに上だ。狼狽える事なんて無いんですよ。」

ーー三間坂の言葉を聞き笠原は視線を慎太郎のゼーゲンへと移す。そしてそれを確認すると笠原に先程までの余裕が戻る。

「ケッ、んだよ!!雑魚じゃねぇか!!」

「そうですよ、雑魚です。貴方程の方が臆する必要なんてまるで無い相手です。」

「へっ、そうとわかりゃ、さっさと終わらせっか。」

「お願いします。みく、残念だったな。その男を始末したらさっきの続きだ。今のうちに裸になっておけ。これは命令ーー」

ーー三間坂が視線をみくに向けて脅すような態度で接していると慎太郎がみくの前に立ち、みくから三間坂が見えないようにする。そして軽くみくの方を振り返り、優しい顔でみくに話しかける。

「大丈夫だから。俺に任せて待ってて。」

「イケメンくん…」

ーー不思議とみくの身体から震えが消えた。それだけ慎太郎を信じられるのだろう。
だが、そんな慎太郎を見て三間坂は非常に不愉快であった。最早自分の所有物と認識しているみくを無許可で触られている、そんな感覚であった。

「すみませんが僕のモノに勝手に話しかけないでもらえますか?」

ーー三間坂が凄く嫌そうな顔で慎太郎に苦言を呈する。

「別にお前のモノじゃないだろ。」

ーー慎太郎はしれっと言いのける。

「はい?貴方馬鹿なんですか?人の話を聞いていましたか?笠原さんは僕にみくを譲渡するって言ったんです。それならもう僕のモノだ。確かに向こうに戻ってからという話でしたよ?でもね、普通はそれぐらいわかりますよね?そんな事もわからないぐらいに馬鹿なんですか?貴方大人ですよね?大人なのにそんな事もわからないんですか?これだからこの国は駄目になるんですよ。貴方のような無能者がこの国を下支えする主力なんです。この国が衰退するのは当然だ。ああ嘆かわしい。いっその事死んだらどうです?必要ありませんよ。つーか死ね。」

ーー三間坂が不満たっぷりの恨み節を重ねる。だが慎太郎は半笑いで切り返す。

「あははは、何言ってんだコイツー!この子はまだ誰のモノでもないけど?支配下プレイヤーへの処理って俺たちが向こうに戻る時にされるんですけど?運営が説明してましたよね?話聞いてましたー?いやー、最近のガキは理解力無いんだね。その程度の事も理解出来ないの?これだからこの国もダメになっちゃうんだわー。この国が衰退するんだわー。あー嘆かわしー。」

ーー慎太郎が三間坂の台詞をもじりながらの上手い切り返しを見せる。それによりプライドの高い三間坂が顔を紅潮させ、怒りを露わにする。

「笠原さん。この男を殺して下さい。実に不愉快だ。死体は僕がグチャグチャにするから触れないで下さいね。」

「自分で出来もしないくせに偉そうにしてんじゃねーよ、バーーカ。」

ーー慎太郎がさらに煽る。それにより三間坂の顔がさらに紅潮する。体まで震わせて怒りを露わにする。

「…ああァァァァ面倒くせエエェェ!!!もうテメェらみんなまとめてブッ殺しーー」

ーー三間坂が豹変し出す。だがそれを抑えるかのように夜ノ森葵がゼーゲンの剣先を三間坂の喉元へ突きつける。

『ミマサカサマ。御静かに願えますカ?これ以上騒ぐようでしたら葵に始末させマスヨ。』

ーーツヴァイの一言で三間坂を包む危険な空気が薄れていく。

「これはこれは失礼致しました。僕とした事が冷静さを欠いていましたね。笠原さん、よろしくお願い致します。」

ーー三間坂がニコッと笑い、一礼して先に着く。この男の情緒不安定な所はとても気味が悪い。だが今回の主役は彼ではない。





ーー舞台の主役は慎太郎と笠原へ戻る。

「…ちっとばかし話がズレちまったがまあいい。テメェをブチのめしてやればそれで終わりだ。」

ーー笠原が手に着けているゼーゲンを打ち鳴らし、気合いを込める。

「お前さっきから独り言ばっかりだけど精神おかしいのか?」

ーーここで慎太郎が笠原に対し、ようやく口を開く。

「あ?」

「あ、ごめん。おかしいに決まってるよな。おかしくなきゃいい歳してそんな頭にしてないもんな。」

「なんだお前。ナメてんじゃねぇぞオラァ!!ブッ殺してやるよ!!俺様の強さを思い知らせてやる!!!」

「強さね。んじゃ、俺も教えてやるよ。お前如きじゃ俺には絶対勝てないって事を。」

ーー慎太郎が金色のエフェクトを発動させ、弾け飛んだ金色のエフェクトが身体を包む。

「バルムンク。」

『なんだ?』

「3分だ。3分でケリをつける。長引いたらこの子が不安に思う。早く終わらせて安心させてあげたい。それにあんなに顔が腫れてるんだ。早く痛みを取ってあげたい。だから3分でケリをつける。」

ーーバルムンクが慎太郎を見る。

『フッ、我は主の優しい所が好きだ。』

「おう、ありがとう。」

『ならば1分だ。それで終わらせる。良いな?』

ーーバルムンクが軽く笑いながら慎太郎を見る。慎太郎もバルムンクに軽く微笑み頷く。

「オッケー。目標タイムはそれで決まりだ。行くぜ相棒。」

『ああ。』

ーー慎太郎とバルムンクが笠原とウールヴヘジンへ距離を詰める。

「調子こいてんじゃねぇぞ!!!ゼーゲンの差をわからせてやる!!!行くぞウールヴヘジン!!!」

『ああ!!』

ーー笠原とウールヴヘジンも慎太郎とバルムンクに応戦する。

ーー拳聖ウールヴヘジンがラウムから大きい付け爪のようなような物を取り出す。
そしてその聖爪を身に付け金色のオーラが一際輝きを強める。

『全力で来い、剣聖よ。楽しもうではないか。』

ーー心が踊る思いでいるウールヴヘジンとは対照的にバルムンクの表情は冷ややかだった。

『悪いが全力を出す必要は無い。我と貴様では差がありすぎる。それにわざわざ敵供がおる前で手の内を晒す事もあるまい。この一撃で決めてやろう。』

ーーそう宣言し、バルムンクは手刀を構える。ラウムから聖剣を出す事はせずに。

『…ふざけているのか剣聖?』

『我は至って真面目だ。』

『我の武人としての誇りを愚弄するかッ!?』

ーーバルムンクの態度にウールヴヘジンが激昂する。

『愚弄だと?先にあの女子を愚弄したのは貴様の主人であろう。』

『くだらん。そんな事のーー』
『ーーそのお喋りこそくだらん。さっさと来い。』

ーーバルムンクがウールヴヘジンの会話を遮る。ゴミを見るような目で。

『…良いだろう。ゼーゲンによる封印解放の無い貴様が俺に勝つなど思い上がりにも程がある。死んで後悔しろ。』

ーーウールヴヘジンを包む金色のエフェクトが黄金色に輝く。

『眠れ、ヴォルフ・ゲブリュル!!!』


ーーウールヴヘジンが奥義を放つと同時にその身体から血が噴水のように噴き上がる。ウールヴヘジンの間合いに音も無くバルムンクひ忍び寄り、胴を斬り、その戦闘能力の全てを奪った。ウールヴヘジンはもう立てない。絶対的なまでの強さを見せつけ剣聖バルムンクは拳聖ウールヴヘジンを葬り去った。




ーーそして、第二次入替戦終了の時がやって来る。


ーー襲い来る笠原の攻撃を慎太郎はガードをする事も無く全て躱す。決してゼーゲンで捌いている訳ではない。華麗に躱しているのだ。ゼーゲンを抜かない慎太郎を見て笠原は更に激昂する。

「テメェェェ…!!!何でゼーゲンを抜かねェ!?」

「お前如きにゼーゲンなんか使う必要ねーよ。」

「あァァァァ!?どこまでナメ腐ってやがんだオラァァァァ!!!やれるもんならやってみろや!!!」

「ああ、やってやるよ。」

ーー笠原の左フックを躱すと、大きく空いた笠原の左脇腹に慎太郎のミドルキックが炸裂する。

「オガハアッ…!?」

ーー笠原の体勢がグラつく。だが何とかそれを堪え、反撃に転じようとするが、慎太郎がそのまま身体を右に回転させ、遠心力を纏いながら笠原の右側頭部に回し蹴りをお見舞いする。そう、全てみくが行った技だ。慎太郎の体重と筋力ならヘビー級のキックボクサー相手でも十分ノックアウト出来る程の威力がある。

「アガッ…!?」

ーー完全に足に来た笠原はその場に崩れ落ちそうになるが、慎太郎が笠原の髪を掴み落ちる事を許さない。そしてそのまま自分へと引き寄せ膝蹴りを笠原の顔面に叩き込む。ガコンという鈍い音が闘技場内に響き渡る。何処かの骨が折れた音だ。だが一撃では終わらない。続け様に二発目の膝蹴りが笠原の顔面に入る。それにより笠原の前歯が数本へし折れ、地面にポロポロとこぼれ落ちる。最早勝負はついた。完全なまでの慎太郎の圧勝。決して笠原が弱い訳ではない。慎太郎があまりにも強すぎるのだ。

ーーその要因としては大きく3つある。
1つは、リリ・ジェラードの存在だ。彼女が慎太郎の師匠として鍛える事により慎太郎の力が飛躍的に上昇した事は間違い無い。公園での密会の時、ただの手合わせに見えたあの一戦も慎太郎の身体の軸のブレを直し、正しい身体の使い方、攻撃のアテ方を覚えさせ、戦闘の勘を増大させるものであった。当の慎太郎はそれに全く気づいていないが、無意識下でリリの攻撃の躱し方、攻撃のアテ方を理想としてイメージしていた。そしてそれもリリの計算通り。慎太郎ならばこうなるだろうという予測を立ててやっていた。
更には、呼吸の使い方を教える事により”具現”を会得させた。それが一番大きい。呼吸法はまだ初歩的なものだが、それ以外の能力を上げる事で”具現”を使えるようにさせた。これもリリの計算通りだ。入替戦までに会得出来るという確信がリリにはあった。リリという強力な師を得る事で今回の慎太郎があったのは間違い無い。

ーー2つ目として剣聖バルムンクの存在だ。
当然慎太郎も含め、誰もわかってはいないがバルムンクは他の英傑たちとは少し違う。牡丹のクラウソラスも同様だが、クラウソラスは存在自体が違う。それとは違う意味でバルムンクは他の英傑とは違うのだ。それにより使用者である慎太郎の能力上昇値が違うし、バルムンク自体の能力値も違う。だからこそゼーゲンの差を埋める事が出来たのだ。まあ、拳聖ウールヴヘジンが他の英傑よりも格下の存在である為に能力値が低かった事も要因ではある事を否定はしない。

ーーそして3つ目は…これに関しては入替戦終了後の”彼女たち”の会話で確認してもらいたい。今はこの戦いを見届けよう。


「あがががが…!?すびばぜんでした…!!許ひてくらはい!!!」

ーー笠原は慎太郎に許しを請う。歯が欠けた事により滑舌がおかしくなっている。だが慎太郎は許してはくれない。

「女を殴ってんじゃねぇよカス野郎が。あの子の2倍以上もあるような図体して何してんだお前。謝れ。あの子に謝れよ。」

ーー慎太郎が再度膝蹴りを笠原に喰らわす。口調こそ冷静に淡々と喋ってはいるが、完全にキレている。

「ああァァァァ…!!ごべんなざい…!!すびばぜんでした…!!」

「何喋ってんだお前。」

ーー慎太郎かさらにもう一度膝蹴りを喰らわせようとした時、ツヴァイが慎太郎の肩に手をかけ制止する。

『もういいデショウ。貴方の勝ちデス。』

ーーツヴァイに止められ慎太郎は大きく息を吐いて笠原の頭を掴む手を離す。慎太郎は肩に置かれているツヴァイの手を、肩を回して振り解き、そのままみくの元へ歩みを進める。みくに近づくと、女の子座りで事の顛末を見届けていたみくと目線を合わせる為、腰を下ろす。

「終わったよ。これでルール通り俺が君の所有者になった。大丈夫。俺は君に酷い事はしない。すぐに解放するから。だからもう安心していいよ。」

ーー優しい顔で話す慎太郎を見てみくの瞳からは涙が溢れる。

「うぅ…ありがとう…本当にありがとう…うわぁぁぁん…!!!」

ーー泣きじゃくるみくの頭を慎太郎は撫でる。それに反応してみくが慎太郎に抱きつく。

「泣かないでよ。それじゃすぐに解放するーー」
『ーーではこれにて入替戦は終了とさせて頂きまス。御苦労様デシタ。』


ツヴァイの終了宣言と同時に俺の意識が無くなっていく。またしてもコイツの身勝手な終わり方で勝手に締められて終わりかよ。ちゃんとこの子助けられたんだろうな。不安ーー





















「いつも以上に無茶苦茶な終わらせ方だねー。」

ーープレイヤーたちのいなくなった闘技場内に葵の笑い声が聞こえる。

「たーくんに悪態つかれたし、また別の女とイチャイチャしてるしでご機嫌ナナメー?」

ーー葵が意地悪そうな笑みを浮かべてツヴァイを弄り始める。

『うっさい。葵、怒るよ?』

「あははっ、ごめんってー。でもさ、ちょっと驚きだったよねー。たーくんが”具現”使えるなんてさー。」

『…まあね。まったくあの馬鹿。どれだけこっちが心配したと思ってんのよ。』

「私としてはなかなか面白いモノが見れたけどね。」

ーー何処からともなくサーシャとリリが現れる。

『2人とも来てたのね。』

「ええ、ちょうど田辺慎太郎があの変な男を殴り飛ばした辺りからね。」

「そうそう!女の子のピンチに颯爽登場する王子様!いや~ん!そんな展開リリちゃん困っちゃ~う!!」

『何でリリが困るのよ。』

「ま、それはいいとして…少し想定外ね。」

ーーサーシャが怪訝そうな表情をする。

「たーくんの事?だよねー、この数日でどうやったらああなるの?って感じ。」

『タロウが1人でああなったなんて考えられない。』

「誰かが教えたって事?楓ちゃん?それとも牡丹ちゃん?」

「違うわね。以前に見た時の田辺慎太郎とはまるで別物。軸のブレや身体の使い方もしっかりとしていたわ。相当な手練れじゃないとこの数日で直すなんて出来ない。」

「まさか…アインスが?」

「どうかしらね。あの男がそこまでやるとは思えないし。」

『私はアインスでは無いと思う。タロウの動きはサーシャやリリに近いように見えた。もちろん実力は違い過ぎるけど見ている時に一瞬2人の姿が脳裏に浮かんだの。』

「うーん、謎だねー。てかさ、よくゼーゲンの差を埋められたよね?剣聖もたーくんも異常に強かったじゃん。」

「あの男、少しだけ”覚醒”してたからでしょ。」

「えっ!?」
『やっぱり。』

ーーサーシャの言葉に葵は驚き、ツヴァイは納得する。

「激昂した事により少しだけ”覚醒”したのよ。瞳の奥に蒼白い焔が僅かに灯っていたから間違い無いわ。」

「マジかー。そんじゃ楓ちゃん”覚醒”させる必要ないじゃん。たーくん引き込むだけで終わる話でしょ。」

「無理ね。」

「何で?」

「田辺慎太郎はたまたま”覚醒”の兆しを見せただけよ。明日には出来なくなってるわ。」

「あー…ま、そんなもんかー。」

「でも期待は出来るわね。田辺慎太郎を鍛えている奴がいるのは確かよ。目的はわからないけど、それなら逆にやって貰えばいいわ。私たちに損は何も無いからね。」

『…なんかムカつく。』

「自分の知らない所でちょっかい出されてイライラしてるのー?それぐらい我慢しなってー。ね、リリちゃん?」

「ん~?私はマカロンが食べたいかな~。」

「え?あー、私もマカロン食べたいかもー。」

「それじゃマカロンでも食べに行きましょう。葵の奢りで。」

「えっ…!?ちょっと!?私っていつもそんな役ばっかりなんだけど!?」

「今日はリリちゃんが奢るよ~。」

「ええぇ!?リリちゃんが!?」

「あら、珍しいわね。」

「ちょっと良い事あったんだ~!だからそのおすそ分け~!」

「じゃ、リリちゃんに奢ってもらおーかな。」

「そうね。ほら、行くわよ。」

『…なんか納得いかないけど。また1人、女と仲良くなってるし。まさか教えてる奴も女じゃないでしょうね。』

「はいはいはい。考えても仕方ないでしょ。行くわよ。」

『…なんだかなぁ。』

ーーサーシャに背中を押されながらツヴァイが不満タラタラで闘技場から出て行く。

ーーこうして第二次入替戦は幕を閉じた。

ーーだがこの後に慎太郎を待ち受ける面倒臭い事はまだ終わっていないのであった。





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