俺'sヒストリー

かつしげ

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第278話 姉のターン

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【 2日目 PM 9:40 儀式の間 】


ーー儀式の間の空気の悪さが最高潮に高まりながらバルムンクのターンが進行していく。

『なななななな、何を言ってるのだ貴様は!?』

ーーノートゥングにいつもの威厳も余裕も無い。完全にテンパっている。とうとうノートゥングのキャラまでぶっ壊れ始めたこの展開。一体どうなるのだろうか。

「む?事実ではないか。」

『事実なわけがあるか馬鹿タレが!!!何で妾がシンタロウの事を好きになどならんといかんのだ!!!』

「フフフ。」

『何を笑ってるんだ貴様!!!』

「呼び方も変わっているではないか。」

『は?』

ーーノートゥングはテンパってはいたがバルムンクが意味のわからない事を言うので逆に冷静さを取り戻して来た。だがそれも束の間の話。今はバルムンクのターンなのだ。

「いつからシンタロウと呼ぶようになったのだ?それまで誑しとしか呼んでいなかったくせに。随分と心理的距離が縮まったのだな。」

ーーバルムンクのその言葉にノートゥングの時が止まる。無自覚にそう呼んでいた事に気付いたからだ。
ノートゥングにかつてないほどの焦りが生まれる。背中や腋に汗が伝い、心臓までバクバクいっている。もうノートゥングに出来る事は惚ける事しか無かった。

『…そんなもの普通の事ではないか。大した事ではない。』

ーーノートゥングは内心よく出来たと思っていた。今の言葉には焦りは無かった。これなら誤魔化せる。そう思っていた。

ーーだが世の中そんなに甘くは無い。

「ごめんノートゥング、私もそれが気になっていたの。」

『え?』

「私も同じく。」

『え?』

ーー美波と楓がバルムンク側に参戦する。

『な、何がだミナミ、カエデ…!?』

「だってタロウさんと2人っきりで出かけて帰って来たら名前で呼ぶようになるって変じゃない。」

『へ、変では無いぞ?それは奴にも世話になっているから感謝を込めてだなーー』
「ーー異議あり。被告はデタラメな事を述べています。」

『な…!?』

ーー楓が完璧に弁護士モードに入り出す。

「異議を認めます。原告弁護人は続けて下さい。」

ーー美波もなぜか裁判長モードに入り出す。

「被告は『世話になっているから感謝を込めて』と言いました。ですが、被告の性格上、感謝を感じるイコール、恋慕の情の数式が当てはまると思います。そして何より被告が田辺慎太郎を見る目が女の目だったからです。」

『待て待て!!何を訳のわからん事をーー』
「ーー被告人は黙りなさい。」

ーー美波の何ともいえない圧にノートゥングは屈して言葉を紡ぐのをやめた。

「逢瀬から帰った被告はとても嬉しそうな顔をしていました。それはきっと田辺慎太郎と過ごした時が楽しかったから。以上の事から被告が田辺慎太郎に好意を持っている事は明白。裁判長。判決をお願い致します。」

「有罪。」

『ちょっと待て!?裁判なら妾には弁護士はおらんのか!?』

「結審したから被告に弁護士は必要ありません。」

『控訴だ!!妾は控訴を要求する!!』

「これは最高裁判決なので控訴も上告も出来ません。」

『いつ三審もやった!?』

ーーこのままではバレる、どうしよう。ノートゥングは頭はそれで一杯であった。
だがそんな事よりもイベント中だというのにコイツらは一体何をしているのだろうか。
何より牡丹の殺気がオーバーフローしているのでこの場が殺戮場に変わりそうな勢いである。



ーー


ーー


ーー



「何の話をみんなでしているんでしょうか…?」

ーーバルムンクたちとは距離がある為、なんの身体能力上昇の効果も得ていないアリスの耳には彼女たちの声は聞こえていない。

「……魔女狩りをしているのではないでしょうか。」

ーーバルムンクたちの会話がバッチリ聞こえている牡丹は危険な香りをプンプンと撒き散らしている。

「戦闘も終わったようですし、私たちもみんなの所へ行きましょうか?」

「それはなりません。」

「え?どうしてですか?」

「タロウさんは私たちに後方にいるようお命じになりました。タロウさんの許可無く勝手に動く事はいけません。」

ーーそう、危険な状態の牡丹がここから動かないのは慎太郎が後方にいるように指示をしたからだ。牡丹は慎太郎から言われた事は絶対に守る。言われてない事だと暴走してしまう癖があるが、良くも悪くも牡丹の動きは慎太郎次第なのである。



ーー


ーー


ーー



「ノートゥングよ、素直になれ。」

ーー困ってテンパり具合がオーバーキルされているノートゥングにバルムンクが声をかける。

『…何?』

「良いではないか。好きになる事が悪ではあるまい。」

『……。』

ーーだがノートゥングはそれに答える事は出来ない。彼女自身それは悪だと思っているからだ。親友である美波の想い人、慎太郎に好意を持つなどあってはならない。それは裏切り以外に言葉は無い。だからこそノートゥングは全力で否定するのだ。

「ミナミに遠慮しているのだろう?」

「えっ?」

『ち、違う!!』

ーー見透かされたかのようなバルムンクの言葉にノートゥングは動揺し声を荒げる。

『妾が好きになるわけがない。それは貴様らの勝手な勘違いだ。』

ーーだが明らかに本心を話していないノートゥングの顔は寂しさを出していた。それに気づかない美波ではない。

「ノートゥング、本当の事を話して。あなたが嘘を言っている事ぐらいわかるわよ。」

『…嘘など言っていない。』

「ノートゥングはどう思ってるかわからないけど私はノートゥングがタロウさんの事を好きになってくれるなら嬉しい。だって親友同士で同じ人を好きになるなんてやっぱり気が合ってる証拠じゃないっ。楓さんも、牡丹ちゃんも、アリスちゃんもみんな同じ気持ち。それなら私はすごい嬉しいなっ。」

『ミナミ…』

「でもライバルが増えちゃうのは困るけどねっ。だからって譲ったりはしないよっ?ノートゥングも楓さんも牡丹ちゃんもアリスちゃんも大好きだけど絶対譲らないっ。私がタロウさんの一番になってみせるんだからっ!」

ーー美波がそう告げると楓もそれに応える。

「ウフフ、望むところよ。私は誰にも負けないわ。例えノートゥングが増えたとしてもね。これからは仲間でありライバルね。よろしくね、ノートゥング。」

『カエデ…』

ーーそして後方から牡丹は『誰が来ても関係ありません。私とタロウさんは運命で結ばれているのですから。ふふふふふ。』と、思っていた。

「ノートゥング、気持ちを皆に伝えよ。皆は分かってくれる。」

ーーバルムンクは笑顔でノートゥングへと語りかける。それを受けノートゥングがバルムンクへと視線を移し、決心したかのように口を開く。

『すまん、ミナミ。妾は…シンタロウが…好き…だ。お前に悪いと思って…この気持ちは隠し通そうと思ったが…出来ない…すまん…』

ーーノートゥングが伏し目がちに美波へとそう告げる。だが美波はノートゥングの肩を抱き、嬉しそうに口を開く。

「はいっ、よくできましたっ!ノートゥングもこれから私たちのライバルですっ!」

「ウフフ、そうね。」

『アタシは違うけどね。』

ーー美波も楓も、特に関係の無いブルドガングもなぜか嬉しそうだった。そしてノートゥング自身も胸のつかえが取れたような晴れやかな気分であった。

「ふむ。これにて一件落着だな。」

ーーそう呟くバルムンクに対してノートゥングは不満そうな顔をしながら口を開く。

『…おい。』 

「む?」

『…妾は貴様を好かん。腹立たしさがいきなり消える事は無い。』

「それは仕方がないな。我もお前に歩み寄る努力をしよう。」

『…だが…嫌いでは無い…勘違いするなよ…嫌いでは無いだけだからな…』

「フフ、そうか。」

ーーバルムンクの顔に笑みが灯る。美波、楓、ブルドガングもそれにつられて笑顔になる。とても良い雰囲気である。

「そうだ、ノートゥングよ。1つだけ忠告しておこう。あのような事はやるべきではないぞ。」

『何の話だ?』

「鉄の箱でのシンタロウとのキスの件だ。」

「「は!?」」
『へぇ。』
『な、何を言ってるんだ貴様は!?』 

ーーせっかくの良い雰囲気をぶっ壊してくれるバルムンクって一体何なんだろう。

「あの男は精神力が弱いからな。お前のキスがとても上手であった事が気になっているようだ。過去に男がいたら嫉妬しちまうなと心の中で叫んでおった。お前は見栄を張る事が多いからな。本当は男の手も握った事がない生娘なのに。」 

『な、何を言う!?妾は男など簡単に手玉に取れる程の熟練者だぞ!!男を悦ばせるテクニックなど朝飯前ーー』
「ーーシンタロウは生娘が好きなようだぞ。」

ーーバルムンクの言葉にノートゥングは視線を泳がせ、一瞬のうちに言葉を撤回する。

『……ま、まあ、書物で読んだだけだから知らんけど…な…うん。』

ーーノートゥングが髪を弄りながら乙女の顔をしてブツブツ言っている。だが2人の鬼が激しい怒りを放出しながらノートゥングへと近づいて来る。

「裁判長、求刑を言っていませんでした。私は死刑を求刑致します。」

「主文、被告を死刑に処す。」

『え…?あ!!ま、待て!!ミナミ!!カエデ!!アレはだな…!!』 

ーー美波と楓が指の関節を鳴らしながらノートゥングへと近づく。今の2人なら”具現”を遥かに超える力を有しているだろう。勝敗は火を見るよりも明らかだ。

「ふむ。やはり抜け駆けはいかんという事か。」

『バルムンク…!!!やはり妾は貴様が嫌いだ!!!』

ーーどこまでも呑気な奴らである。
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