俺'sヒストリー

かつしげ

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第229話 2人だけの時間

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「ふぅーっ、それにしても暑いな。」

俺たちは出店巡りを終えて有料席へとやって来た。ゴザを敷いてあるから風流な出で立ちを醸し出てはいるが暑いものは暑い。

「本当ですねっ…汗でベトベトですっ…」

…だからさぁ、エロいんだって。言い方が問題なんだよ美波は。車に連れてっちゃおうかな。

「ウフフ、でもそれが夏って感じじゃない。そしてこのビールもね♪牡丹ちゃんのおかげで飲み放題の食べ放題でサイコ~♪」

「ふふふ、喜んで頂けたのでしたら嬉しいです。」

出店巡りをした時に牡丹は型抜き屋で団子の型抜きで一万稼いだのだ。当然テキ屋の親父は難癖をつけて来た。だが牡丹と楓さんが食ってかかって一触即発の雰囲気になったが、周りにギャラリーが居た事で親父は渋々一万を牡丹に渡したのだ。だが去り際にテキ屋の親父の目が据わっているのを俺は見逃さなかった。4人はキャッキャしてたけど俺はハラハラだったんだぞ。もう牡丹に型抜きをやらせるのはやめよう。俺の心臓に悪い。

「人が更に増えましたね。迷子にならないようにしないと。」

アリスが周囲を見ながら少し心配そうに話す。

「アリスは帰りは俺と手を繋いで帰ろうな。それなら迷子になっても俺と一緒だから1人にならないよ。」

「ぜひお願いします!!」

全く可愛いなアリスは。いつまで俺と手を繋いでくれるかな。中学生になったら洗濯物は別にしてくれって言われたらどうしよう。

「ふふふ、では私はタロウさんの反対側の手を予約致します。未来永劫。」

ーーどさくさに紛れて牡丹がちゃっかり慎太郎の手を予約する。しかし当然ながら待ったがかかる。

「牡丹ちゃん、それはダメよ。公平じゃないわ。」

「そうだよっ!…私だって繋ぎたいもんっ!!」

「いいえ、公平です。先着制は至って公平な制度だと私は思います。」

またくだらない争いをしてるな。こんな男の何が良いんだか。美女たちが争う程の価値なんて皆無だろ。ま、来年はみんな俺の家から去って行くだろ。寂しいけど仕方ない。うん。

ーー3人が争いをしていると夜空へ一発目の花火が打ち上がる。
ドーンという大きな音が鳴り響くと花火が弾け飛び、赤と緑の鮮やかな火花が夜空に流れた。

「うわぁ!!綺麗…!!」

美波の方が綺麗だよ。ま、そんな事絶対言えないけどさ。キモがられる事待った無しだもんな。

「心が洗われますね。美しいです。」

牡丹を見てる方が心が洗われるよ。そんな事も言えないけどさ。え?何で牡丹は今俺を見た?心の声が読めるとかじゃないよね!?怖いんだけど!?

「こんな綺麗な花火が見られるなんて去年の今頃は想像も出来ませんでした。生きてて良かったです。」

ぐすっ…泣かすなよアリス。これから何度でも見せてやるからな。

「お酒を飲みながら見る花火…風流ね…あ!見て!凄く綺麗ね。いつまでだって見ていられるわ。」

楓さんの事もずっと見られますよ。寧ろ見せて下さい。あなたの可憐な顔を。なんて事が言えるツラしてたらなぁ。はぁ…悲しい。




********************





「大丈夫ですか楓さん?」

「うーん…」

花火大会が終わり俺たちは人混みの中を歩いているが、楓さんが酔い潰れてしまったので俺がおんぶをしている。背中に楓さんの胸が当たっている感触が最高に心地良い。

「…手を繋ぐ予定だったのに。予約していたのに。」

牡丹がハイライトの無い目でブツブツ言っているのが怖い。後でフォローしとかないと家に帰ったら剪定バサミで殺られかねないな。

「人が多いからはぐれないようにな。万が一はぐれたら駐車場に集合しよう。電話で場所確認するよりも手っ取り早いからな。牡丹、美波。アリスの手を握っててあげてね。」

「はいっ!任せて下さいっ!」

「…ふふふ。タロウさんが私を頼ってくれている。その気持ちに応えなきゃ。」

牡丹がヤンデレモード入ってるけどこれで3人がはぐれる事は無いだろう。アリスが1人になったらヤバい事は誰だってわかるが、美波と牡丹を1人にさせたら悪い男たちが寄ってくるからな。ここはオレヒスの世界じゃないんだから大事件に発展する可能性がある。みんなの安全の為に俺がしっかり指揮系統を行わないとな。

ーーその時であった。

「オイ!!あそこにいるの水口杏奈じゃね!?」

「えっ!?ドコドコドコ!?」

ーー花火客の一部が騒ぎ始める事により列に乱れが生じる。そして人の波が唸りを上げるように大きな混乱へと変わっていく。

「押すんじゃねぇよ!!」

「痛い痛い!!」

ーー集団がパニックに陥り始める。人々の歩行速度が一気に上がる事により慎太郎たちにもアクシデントが起こる。
人の波が慎太郎たちの間を裂くようにして前進していくので慎太郎と美波たちは分断されてしまう。

「おおっ!?危ねーだろ!?って、美波、牡丹、アリス!?」

「タロウさん!?」

ーーお互いが近づこうとするが、人々の唸りにより更に離されていく。

「ダメだ…!!危ないからここから離れよう!!!駐車場に集合!!!いいね!?」

「わ、わかりましたっ!!!」

「気をつけて下さい!!!」

「た、タロウさん!?タロウさん!?邪魔ですねこの者たちは…始末致しましょう。」

「ぼ、牡丹ちゃん!?落ち着いて!!!」

ヤンデレモードの牡丹がヤバい事になってたけど美波がきっとなんとかしてくれるだろう。うん。

「とりあえずこの群れを抜けないと。倒されたりなんかしたら楓さんが怪我するからな。」

俺は横から抜け出して群衆から離れる事にした。大回りになるが屋台側から車に戻ろう。

「ウフフ♪お兄さんは私が怪我するとイヤなんですかー?」

背中にいる楓さんがご機嫌な様子で話しかけてくる。

「当たり前じゃないですか。」

「当たり前なんだ。ふぅ~ん♪」

楓さんが俺の頬を指でツンツンしてくる。

「重い?」

「重いわけないですよ。あれだけ食べるくせに何でこんなに軽いんですか。栄養はどこに行ってるんですかね。」

「ウフフ♪どこでしょ~?」

こんな酔っ払いでもクソ可愛いと思ってしまう俺は本当にチョロいな。

「タロウさん、大好きです。」

「…飲み過ぎですよ。相当酔ってるんだから自重して下さいね。」

「酔ってませんよ。」

「え?」

「私がこんなもんで酔ったりしません。」

俺は振り返って楓さんの目を確認する。目の焦点は完全に合っているしトロンともしていない。確かに酔っていない。

「気分は良くなってますけど酔ってませんよ。こうしたらあなたと2人っきりになれるかなって思ったからお芝居をしました。ごめんなさい。計算高い女は嫌いですか?」

「…計算高かろうがなんだろうが楓さんを嫌いになるわけないですよ。」

「ウフフ、嬉しいな。」

耳元でそんな可愛い台詞言われるとヤバいんですけど。これも計算か?それでもドキドキしてる俺はチョロすぎる。

「少しお話しませんか?2人だけの時間が欲しいです。」
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