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第112話 絶望からの…
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戦闘が始まり十数分が経過した。それだけのわずかな時間で白い部屋が真っ赤に染まっている。剣聖バルムンクは拳聖ウールヴヘジンを8人倒し残りは2人となった。だがそこまでの道は決して平坦なものではなかった。いくらゼーゲンによる力の解放と田辺慎太郎の限界を超えた身体の酷使によりウールヴヘジンを圧倒する力を得たといっても数の暴力の前にはその差は無いに等しかった。ウールヴヘジンの攻撃により額は避け、流れ出る血により左目は塞がり半分の視界は奪われている。さらには直撃では無いとはいえ腹に喰らった一撃により肋は折れ、機動力と体力が奪われた。四ツ倉優吾も含めて3人を倒さなければならないバルムンクにとっては劣勢なのは言うまでも無い。バルムンクの心境としてはウールヴヘジン2人を早急に葬りたい、そして四ツ倉優吾との戦闘に備えたいというのが本音であった。その為には奥義を放つしか無い。それは理解しているつもりだが奥義を放
ってその後に戦う力が残っているかが問題であった。だが考えている時間は無い。直線上に3人が並ぶ瞬間を狙ってカタをつける。それがバルムンクの唯一の策であった。
「はあぁぁァァァッ!!!」
バルムンクがウールヴヘジンへ敢えて突っ込み隙を作る。それを好機とみてウールヴヘジンはバルムンクを前後に挟んで波状攻撃を試みようとする。それがバルムンクの描いた望み通りの展開とも知らずに。
「これで終わりだ剣聖よ!!眠れ、ヴォルフーー」
ーーウールヴヘジンたちが奥義を放とうとした時に眼前からバルムンクが消える。瞬間移動したかのように忽然と姿が消えた。一体どこに?などと考えている時間をバルムンクは与えてはくれなかった。渾身の力を振り絞り、超スピードでウールヴヘジンの背後を取ったのだ。そう、バルムンクが願った3人一直線の最高の形に。
「全ての剣の先に我は在るーーブラウ・シュヴェーアト!!!」
蒼炎の炎がウールヴヘジンたちを飲み込んだ。ありったけの力を振り絞った会心の一撃が室内を満たす。放ったバルムンクは片膝をついて事の顛末を見届ける。頼むから全員眠ってくれ、そうバルムンクは切に願っていた。
ーーだが現実は残酷であった。
「素晴らしい。流石は剣聖バルムンク。10のウールヴヘジンを相手にして全てを葬るとは。」
立ち込める煙の中から四ツ倉優吾は何事もなかったかのように涼しい顔をして姿を現わす。
「だがチェックメイトだ。もう貴様に俺と戦う力は残っていない。」
「…甘く見るなよ。我はまだ戦えーー」
ーーバルムンクから田辺慎太郎へとカラダの所有が戻る。
「うっ…ぐ…どうして…」
「当然だ。貴様の身体がもう限界なのだ。召喚系は身体への負担が大きい。それを使える体力が残っていなければ強制的に”憑依”は解除される。」
もはや慎太郎に戦える体力は残っていない。それどころか立ち上がる事さえままならない。勝負は着いたのだ。
*************************
「ああぁぁぁ…!!!タロウさんッ…!!!」
リザルト部屋に楓たちの悲痛な声が響き渡る。何も手が出せない場所でただ見てる事しか出来ない状況に気が狂ってしまいそうであった。
慎太郎の負けなのは理解している。この状況で打つ手無しなのも理解している。だがそれを受け入れる事など出来はしない。彼女たちの精神は崩壊する寸前であった。
「どうしよう…!!どうしよう…!!!」
アリスは泣きながら髪を掻きむしって打開策が無いか考える。だが何も見つからない。見つかる筈が無い。慎太郎の負けは誰が見ても明らか。慎太郎の死は誰が見ても明らかなのだ。
「うぅ…タロウさん…嫌…嫌だよぉ…」
美波は理解が早い分何の手立ても無い事を確信してしまう。それにより完全なる絶望が彼女を支配している。もう慎太郎の死は決定的。もう2度と慎太郎に会えない。それを悟ってしまった。
「お願い…お願いだから…その人の命を奪わないで…その人は私たちに必要な人なの…!!!」
楓の声は四ツ倉優吾には届かない。仮に届いたとしても四ツ倉優吾は楓の願いなど聞く筈も無い。
慎太郎の死は免れない。クランメンバーの彼女たちですらそれを理解した。
*************************
四ツ倉優吾が慎太郎の元へと歩み寄り、鞘から剣を引き抜く。
「貴様も剣を持つ者なら最期は潔く散れ。何か言い残す事はあるか?」
「…」
慎太郎も自身の死を悟った。楓たちがこのエリアに居ない以上自分を助けに来る事は無い。もうこの場に仲間は居ない。助けは来ないのだ。
慎太郎は一言楓たちに心の中で言い残した。『ありがとう』と。
「何も無いか。せめて苦しまずに介錯してやろう。」
四ツ倉優吾が剣を振り上げる。
『やめて…!!!イヤ…!!!イヤ…!!!』
リザルト部屋からは彼女たちの叫びが聞こえる。だが慎太郎には届かない。
慎太郎は目を閉じて最期を待つ。そしてもう一度、楓に、美波に、アリスに、そしてバルムンクに…感謝の気持ちを伝える。
「ありがとう。」
四ツ倉優吾が振り上げた剣を慎太郎目掛けて振り下ろした。
ガキィン
金属同士が当たる音がした。一体何が起こったのか確認する為、慎太郎は閉じた目を開けた。
ーーすると、
「まさかあなたが俺'sヒストリーのプレイヤーだとは思いませんでした。やはり私とあなたは運命で結ばれているのですね。」
女性が慎太郎に振り下ろされた剣を受けて助けている。その女性を慎太郎は知っている。
「な…なぜ貴様がここにいる…!?」
四ツ倉優吾はその女性がこの場にいることに驚愕している。
「どうして…ここにいるんですか…?」
慎太郎が彼女に尋ねる。すると女性が慎太郎へと振り向き微笑む。
「少し待っていて下さい。すぐに終わらせますから。」
ーー絢爛豪華と謳われる牡丹の華がここに咲き誇る。
ってその後に戦う力が残っているかが問題であった。だが考えている時間は無い。直線上に3人が並ぶ瞬間を狙ってカタをつける。それがバルムンクの唯一の策であった。
「はあぁぁァァァッ!!!」
バルムンクがウールヴヘジンへ敢えて突っ込み隙を作る。それを好機とみてウールヴヘジンはバルムンクを前後に挟んで波状攻撃を試みようとする。それがバルムンクの描いた望み通りの展開とも知らずに。
「これで終わりだ剣聖よ!!眠れ、ヴォルフーー」
ーーウールヴヘジンたちが奥義を放とうとした時に眼前からバルムンクが消える。瞬間移動したかのように忽然と姿が消えた。一体どこに?などと考えている時間をバルムンクは与えてはくれなかった。渾身の力を振り絞り、超スピードでウールヴヘジンの背後を取ったのだ。そう、バルムンクが願った3人一直線の最高の形に。
「全ての剣の先に我は在るーーブラウ・シュヴェーアト!!!」
蒼炎の炎がウールヴヘジンたちを飲み込んだ。ありったけの力を振り絞った会心の一撃が室内を満たす。放ったバルムンクは片膝をついて事の顛末を見届ける。頼むから全員眠ってくれ、そうバルムンクは切に願っていた。
ーーだが現実は残酷であった。
「素晴らしい。流石は剣聖バルムンク。10のウールヴヘジンを相手にして全てを葬るとは。」
立ち込める煙の中から四ツ倉優吾は何事もなかったかのように涼しい顔をして姿を現わす。
「だがチェックメイトだ。もう貴様に俺と戦う力は残っていない。」
「…甘く見るなよ。我はまだ戦えーー」
ーーバルムンクから田辺慎太郎へとカラダの所有が戻る。
「うっ…ぐ…どうして…」
「当然だ。貴様の身体がもう限界なのだ。召喚系は身体への負担が大きい。それを使える体力が残っていなければ強制的に”憑依”は解除される。」
もはや慎太郎に戦える体力は残っていない。それどころか立ち上がる事さえままならない。勝負は着いたのだ。
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「ああぁぁぁ…!!!タロウさんッ…!!!」
リザルト部屋に楓たちの悲痛な声が響き渡る。何も手が出せない場所でただ見てる事しか出来ない状況に気が狂ってしまいそうであった。
慎太郎の負けなのは理解している。この状況で打つ手無しなのも理解している。だがそれを受け入れる事など出来はしない。彼女たちの精神は崩壊する寸前であった。
「どうしよう…!!どうしよう…!!!」
アリスは泣きながら髪を掻きむしって打開策が無いか考える。だが何も見つからない。見つかる筈が無い。慎太郎の負けは誰が見ても明らか。慎太郎の死は誰が見ても明らかなのだ。
「うぅ…タロウさん…嫌…嫌だよぉ…」
美波は理解が早い分何の手立ても無い事を確信してしまう。それにより完全なる絶望が彼女を支配している。もう慎太郎の死は決定的。もう2度と慎太郎に会えない。それを悟ってしまった。
「お願い…お願いだから…その人の命を奪わないで…その人は私たちに必要な人なの…!!!」
楓の声は四ツ倉優吾には届かない。仮に届いたとしても四ツ倉優吾は楓の願いなど聞く筈も無い。
慎太郎の死は免れない。クランメンバーの彼女たちですらそれを理解した。
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四ツ倉優吾が慎太郎の元へと歩み寄り、鞘から剣を引き抜く。
「貴様も剣を持つ者なら最期は潔く散れ。何か言い残す事はあるか?」
「…」
慎太郎も自身の死を悟った。楓たちがこのエリアに居ない以上自分を助けに来る事は無い。もうこの場に仲間は居ない。助けは来ないのだ。
慎太郎は一言楓たちに心の中で言い残した。『ありがとう』と。
「何も無いか。せめて苦しまずに介錯してやろう。」
四ツ倉優吾が剣を振り上げる。
『やめて…!!!イヤ…!!!イヤ…!!!』
リザルト部屋からは彼女たちの叫びが聞こえる。だが慎太郎には届かない。
慎太郎は目を閉じて最期を待つ。そしてもう一度、楓に、美波に、アリスに、そしてバルムンクに…感謝の気持ちを伝える。
「ありがとう。」
四ツ倉優吾が振り上げた剣を慎太郎目掛けて振り下ろした。
ガキィン
金属同士が当たる音がした。一体何が起こったのか確認する為、慎太郎は閉じた目を開けた。
ーーすると、
「まさかあなたが俺'sヒストリーのプレイヤーだとは思いませんでした。やはり私とあなたは運命で結ばれているのですね。」
女性が慎太郎に振り下ろされた剣を受けて助けている。その女性を慎太郎は知っている。
「な…なぜ貴様がここにいる…!?」
四ツ倉優吾はその女性がこの場にいることに驚愕している。
「どうして…ここにいるんですか…?」
慎太郎が彼女に尋ねる。すると女性が慎太郎へと振り向き微笑む。
「少し待っていて下さい。すぐに終わらせますから。」
ーー絢爛豪華と謳われる牡丹の華がここに咲き誇る。
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