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第86話 酔ってます?
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『リザルトを始めましょうカ。全員無事に終えられるとは流石は”闘神”のいるクランですネ。』
「私の力は微々たるものよ。タロウさん、美波ちゃん、アリスちゃん、みんなが頑張った結果なだけよ。」
アリスはめっちゃ頑張ったのは間違いないな。俺が保証する。美波もめっちゃ頑張った筈。俺が保証する。
俺は今回は全然活躍してないよなぁ。いや、待てよ…俺って活躍した事あったっけ…?バルムンクに助けられてばっかりじゃね?あれー?俺って無能なんじゃないか…?
『カカカカカ!仲がよろしいようで何よりでス。さテ、今回貴方方のクランは廃墟エリアにて戦功1位を獲得致しましタ。』
「わっ!やりましたねっ!」
「みんなでがんばったからですね!」
「ウフフ、そうね。」
スゲーな。やっぱ楓さんいると1位が当たり前なのか。これが勝ち組パワーか。敗北の味を知りたいってやつか。すげーなー。
『皆様かなりの戦功を獲得しておりますが今回の最優秀プレイヤーはタナベシンタロウサマでス。』
「え?俺?」
俺そんなに活躍してないだろ。アリスに助けてもらったんだぞ。俺の中じゃアリスがMVPだ。
『はイ。タナベシンタロウサマはプレイヤー12タイ、ゾルダート150体の合計162体を討伐しておりマス。』
「ええっ!?そんなにゾルダートを倒したんですかっ!?」
うん、バルムンクがね。
「私たちの所にはゾルダートが大発生していて大変だったんですけどタロウさんが凄く頑張ってくれたんです!」
だからバルムンクがね。実際俺の功績じゃないよな。知略で勝ったんじゃなくてバルムンクの力技でねじ伏せただけだもん。楓さんはほとんど自分の力で戦うし、美波は知略で貢献してるし、アリスは回復担当+魔法使い。俺…何にも役に立ってなくね…?バルムンクいなかったら死んでるだろ…このクランでの俺の存在意義って何…?無能なオッさんてリストラ候補じゃん。
「何を考え込んでいるんですか?」
俺がネガティヴモードに突入していると楓さんがこっそり話しかけてくる。
「いや…なんでもーー」
「『それは俺じゃなくてバルムンクがやったやつだろ。みんなは自分の力で頑張ってるのに俺だけ自分じゃ何もできていない。』ですか?」
…この人俺の心読めるの?エスパーかな?
「……」
「タロウさん、それはあなたの功績ですよ。バルムンクの力を使いこなしているのは間違いなくあなたの力です。それにちゃんとアリスちゃんを守ったじゃないですか。もっと自信を持って下さい。あなたの頑張りは私がちゃんとわかってますから。」
そう言って楓さんが俺に微笑んでくれる。
この人天使じゃね?童貞の俺にとっては破壊力ハンパないんだけど。それになんかさ…良い雰囲気じゃね?イベント終盤から凄い良い雰囲気じゃね?これさ、楓さんも俺の事ーーってあるわけないか。あはは。これだから童貞は。
「楓さんにそう言われるなら自信持てそうです。ありがとう楓さん。」
超ニコニコしてる。可愛い。押し倒したい。
『よってクラン全メンバーにダブルスーパーレア以上確定ガチャ券を進呈致しまス。通常報酬のメモリーダストはそれぞれ2個ずつ進呈とさせて頂きまス。特に何も御質問が無いのでしたらこれにてリザルトは終了とさせて頂きマス。御機嫌よウ。』
質問受け付けてねぇじゃねぇか!!!勝手に終わらせてんだろ!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー誰かに呼ばれている。
ーー誰だ?
ーー美波では無い。
ーー楓さんでも無い。
ーーアリスでも無い。
ーーでも知っている。
「タロウさん!!起きて下さいっ!!」
目を覚ますと目の前に美波がいた。相変わらず可愛い。
隣には楓さんもアリスもいる。ちゃんとみんなで帰って来られたんだな。
「おはよ…じゃないか。みんなお疲れ様。全員で帰って来られたね。」
「はいっ!」
「私たちが負けるわけありません!」
美波とアリスが元気よく答える。ん?何で楓さんはさっきからずっと俺見てニコニコしてんだ?
「さて、それじゃあ祝勝会と行きますか!!って、さっきから美味そうな匂いがすんだけど、もしかしてもうできてるの?」
「はいっ!タロウさんが寝てる間にみんなで作ったんですっ!」
マジか。どんだけ寝てんだよ俺。無能でグータラとかヤバすぎるだろ。
「ウフフ、お酒もちゃんとありますよ。肉料理にはやっぱりワインですよね。」
楓さんがしれっと後ろからワインを取り出す。
あ、だからニコニコしてたのか。酒酒言ってたもんな。
「じゃあ冷めないうちに食べようか。デザートのアイスも忘れずにな。」
「はい!楽しみです!」
祝勝会は深夜まで続きとても楽しい夜を過ごした。
美波のハンバーグは相変わらずの美味しさで俺は4つも食べてしまった。
アリスはアイスを満足そうに食べていた。また明日買ってきてあげよう。
楓さんはワインをガブガブ飲んでいた。それでも酔ってるようには見えなかったから強いんだろうな。俺は弱いからワイン一杯でも軽く酔っている。
こうして俺たちのクランイベントは幕を閉じたーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…寝つけない。さっき結構寝たせいか寝れない。軽く酔っていたんだけどな。喉が渇いたし水でも飲むか。
音を立てないようにそーっとドアを開けて部屋を出た。真っ暗になっているキッチンの電気を点けて冷蔵庫から水を取り出そうとした時に声をかけられる。
「寝つけないのですか?」
振り返ると楓さんが立っていた。
「すいません、起こしちゃいましたか?」
「いいえ、私も寝つけなかったので。寝つけないんでしたらお酒でも飲みませんか?その方が寝つけるかもしれませんよ?」
本当に酒が好きなんだな。でも寝つけないからそれでもいいか。こんな美女と飲むなんて銀座の高級店なら凄い金額取られるだろうからな。
「じゃあ少し飲みましょうか。でも俺は酒弱いからつまらないかもしれませんよ。」
「気にしませんよ。あなたとお話がしたいだけですから。」
「わかりました。ビールでいいですか?」
「はい。」
俺たちはテーブルに座りビールを飲み始めた。
なんか不思議な感じだな。少し前まではここに座るのは1人が当たり前だったのに今は楓さんさんと向かい合っているなんて。
「明日には帰らなくてはいけませんね。」
楓さんが凄く悲しそうな表情でそう言い出した。
「でも楓さん引っ越して来るんですよね?少し離れてしまいますけどまた一緒にいられるじゃないですか。」
「本当に引っ越して来てもいいんですか?」
しまった。アレって冗談だったのか。ガッツいてると思われたかな。
「俺は楓さんもいたら嬉しいですけどね。」
「わかりました!すぐに引っ越します!時間がかかったとしても週末は必ずここに来ます!」
「は、はい。」
楓さんは身を乗り出して俺に宣言した。顔が近いから堪らないんだけど。てかスッピンの方が可愛いとかヤバすぎだろ。いい匂いするし。あぁ…俺の理性よ持ってくれ…
「ウフフ、楽しみです。」
先程とは違い今度はニコニコと嬉しそうな顔に変わる。
ま、いいか。こんなに幸せそうにしてるなら俺はいいよ。処理はどうにかやるよ。
「楓さん、さっきはありがとうございました。」
「何の話でしょうか?」
「クランイベントの最後の時…三國の奴と対峙した時です。実は恥ずかしい話ですけどアイツが言ってる事はデタラメじゃないんです。真実なんです。」
楓さんは真剣な表情で黙って俺の話を聞いている。
「嫌な事があればすぐに逃げ出すし諦める、そんな奴でした。意気地無しだから反撃できないので三國や角田に殴られたりする事はしょっちゅうでした。でもそんな情けない自分を変えたくて中学では剣道と柔道をやり始めたんです。柔道の方は同じ道場に三國がいたから最終的には辞めちゃいましたけどね。別に逃げたつもりはないんです。アイツと同じ環境にいてもアイツの影を追ってるみたいで嫌だから辞めたんです。完全に逃げたようにしか見えませんけどね。」
楓さんは変わらず俺の話を無言で真剣に聞いてくれている。
「剣道は高校まで続けました。これでも県で優勝してインターハイ出場したんです。結果はベスト16でしたけどね。その後は…これについては言い訳はしません。逃げました。」
これに対して無言で聞いていた楓さんが口を開く。
「理由を聞かせてもらえますか?」
「理由は…くだらない事ですよ。三國がインターハイで優勝して、オリンピック候補にも選ばれて、地元の星みたいな扱いを受けてたんです。スポーツではアイツに勝てない。それを悟って辞めました。幸い勉強だけは人よりできたので茨城中央大に入れたんです。学歴だけなら三國にはコールド勝ちですけどね、あはは。」
酒にアテられたせいかペラペラと喋りすぎたな。本当にダセーな。こんな話されても楓さんも困るよな。
「…すいません。こんな話されても困りますよね。」
「そんな事はありません。あなたの事をもっと知りたいです。」
「…ありがとうございます。楓さんのその優しさに俺は救われたんだと思います。」
「優しさですか?」
「『逃げ出したい時には逃げればいいじゃないですか。逃げたっていいんです。どんなあなたでも私は受け入れます。受け止めてあげます。辛い時、苦しい時には言って下さい。あなたを支えますから。』その言葉に俺は救われた。美波とアリスの気持ちも当然嬉しかった。でも…あなたの言葉が一番嬉しかった。…あはは、甘ったれてますよね。すいません。ビールも空になりましたね。そろそろ寝ましょうか。」
無言で楓さんが立ち上がる。缶を片付けるのだろう。こんな話されてもなんて言ったらいいかわからないよな。悪い事してしまったな。
下を向きながらそう考えていると楓さんが動いていない事に気づく。どうしたんだろうと思い楓さんを見ると、優しく微笑みながら両手を広げて俺を見ている。俺はその意味がわからないので楓さんに尋ねる。
「楓さん?」
「ギュッてしてあげます。」
…え?何だって?ギュッとするとかなんとか言わなかったか?そこまで酔ってるのか俺。
「…酔ってます?」
「さあ?どうでしょうね。」
楓さんがちょっと意地悪そうな顔で俺に言う。
これ本気で言ってんの?ハグしようって言ってんの?
「ほら、来て下さい。」
「いや…だって…」
「もう。しょうがないですね。」
楓さんが俺に近づきそのまま俺を抱き締める。
俺は座ったままの体勢だったので楓さんの胸に顔を埋める形なる。頭を楓さんの胸と腕でホールドされてるから胸の感触が丸わかりだ。さっきイベントで味わったのなんか比べ物にならないんだけど。
…柔らかい。てかマズイだろこれ。10コも下の子に抱き締められてるとかどんなお店だよ。でも…凄い安心するっていうか落ち着くんだけど。
「タロウさんは頑張りましたよ。他の誰もがあなたを認めなくても私はあなたを認めます。甘えたっていいんです。私に甘えて下さい。私があなたを支えますから。」
ああ…これヤバイな…
「…楓さん。」
「…なんですか?」
「…抱き締めちゃってもいいですか?」
「…どうぞ。」
そのままの体勢で楓さんを抱き締め返す。腰細いな。
「…凄く安心します。」
「ウフフ、それなら良かった。したくなったらいつでも言って下さい。」
「楓さんもいいですよ。」
「…はい?」
「楓さんも逃げ出したくなったり甘えたくなったりしたら言って下さい。抱き締めてあげますから。」
「…酔ってます?」
「さあ?どうですかね。」
「…意地悪。」
「さっきの仕返しです。」
「…その時はしてもらいます。約束ですからね。」
「いいですよ。」
俺たちはしばらく無言で抱き合っていた。
そして目を合わせる事無く寝室へと戻った。
「私の力は微々たるものよ。タロウさん、美波ちゃん、アリスちゃん、みんなが頑張った結果なだけよ。」
アリスはめっちゃ頑張ったのは間違いないな。俺が保証する。美波もめっちゃ頑張った筈。俺が保証する。
俺は今回は全然活躍してないよなぁ。いや、待てよ…俺って活躍した事あったっけ…?バルムンクに助けられてばっかりじゃね?あれー?俺って無能なんじゃないか…?
『カカカカカ!仲がよろしいようで何よりでス。さテ、今回貴方方のクランは廃墟エリアにて戦功1位を獲得致しましタ。』
「わっ!やりましたねっ!」
「みんなでがんばったからですね!」
「ウフフ、そうね。」
スゲーな。やっぱ楓さんいると1位が当たり前なのか。これが勝ち組パワーか。敗北の味を知りたいってやつか。すげーなー。
『皆様かなりの戦功を獲得しておりますが今回の最優秀プレイヤーはタナベシンタロウサマでス。』
「え?俺?」
俺そんなに活躍してないだろ。アリスに助けてもらったんだぞ。俺の中じゃアリスがMVPだ。
『はイ。タナベシンタロウサマはプレイヤー12タイ、ゾルダート150体の合計162体を討伐しておりマス。』
「ええっ!?そんなにゾルダートを倒したんですかっ!?」
うん、バルムンクがね。
「私たちの所にはゾルダートが大発生していて大変だったんですけどタロウさんが凄く頑張ってくれたんです!」
だからバルムンクがね。実際俺の功績じゃないよな。知略で勝ったんじゃなくてバルムンクの力技でねじ伏せただけだもん。楓さんはほとんど自分の力で戦うし、美波は知略で貢献してるし、アリスは回復担当+魔法使い。俺…何にも役に立ってなくね…?バルムンクいなかったら死んでるだろ…このクランでの俺の存在意義って何…?無能なオッさんてリストラ候補じゃん。
「何を考え込んでいるんですか?」
俺がネガティヴモードに突入していると楓さんがこっそり話しかけてくる。
「いや…なんでもーー」
「『それは俺じゃなくてバルムンクがやったやつだろ。みんなは自分の力で頑張ってるのに俺だけ自分じゃ何もできていない。』ですか?」
…この人俺の心読めるの?エスパーかな?
「……」
「タロウさん、それはあなたの功績ですよ。バルムンクの力を使いこなしているのは間違いなくあなたの力です。それにちゃんとアリスちゃんを守ったじゃないですか。もっと自信を持って下さい。あなたの頑張りは私がちゃんとわかってますから。」
そう言って楓さんが俺に微笑んでくれる。
この人天使じゃね?童貞の俺にとっては破壊力ハンパないんだけど。それになんかさ…良い雰囲気じゃね?イベント終盤から凄い良い雰囲気じゃね?これさ、楓さんも俺の事ーーってあるわけないか。あはは。これだから童貞は。
「楓さんにそう言われるなら自信持てそうです。ありがとう楓さん。」
超ニコニコしてる。可愛い。押し倒したい。
『よってクラン全メンバーにダブルスーパーレア以上確定ガチャ券を進呈致しまス。通常報酬のメモリーダストはそれぞれ2個ずつ進呈とさせて頂きまス。特に何も御質問が無いのでしたらこれにてリザルトは終了とさせて頂きマス。御機嫌よウ。』
質問受け付けてねぇじゃねぇか!!!勝手に終わらせてんだろ!!!
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ーー誰かに呼ばれている。
ーー誰だ?
ーー美波では無い。
ーー楓さんでも無い。
ーーアリスでも無い。
ーーでも知っている。
「タロウさん!!起きて下さいっ!!」
目を覚ますと目の前に美波がいた。相変わらず可愛い。
隣には楓さんもアリスもいる。ちゃんとみんなで帰って来られたんだな。
「おはよ…じゃないか。みんなお疲れ様。全員で帰って来られたね。」
「はいっ!」
「私たちが負けるわけありません!」
美波とアリスが元気よく答える。ん?何で楓さんはさっきからずっと俺見てニコニコしてんだ?
「さて、それじゃあ祝勝会と行きますか!!って、さっきから美味そうな匂いがすんだけど、もしかしてもうできてるの?」
「はいっ!タロウさんが寝てる間にみんなで作ったんですっ!」
マジか。どんだけ寝てんだよ俺。無能でグータラとかヤバすぎるだろ。
「ウフフ、お酒もちゃんとありますよ。肉料理にはやっぱりワインですよね。」
楓さんがしれっと後ろからワインを取り出す。
あ、だからニコニコしてたのか。酒酒言ってたもんな。
「じゃあ冷めないうちに食べようか。デザートのアイスも忘れずにな。」
「はい!楽しみです!」
祝勝会は深夜まで続きとても楽しい夜を過ごした。
美波のハンバーグは相変わらずの美味しさで俺は4つも食べてしまった。
アリスはアイスを満足そうに食べていた。また明日買ってきてあげよう。
楓さんはワインをガブガブ飲んでいた。それでも酔ってるようには見えなかったから強いんだろうな。俺は弱いからワイン一杯でも軽く酔っている。
こうして俺たちのクランイベントは幕を閉じたーー
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…寝つけない。さっき結構寝たせいか寝れない。軽く酔っていたんだけどな。喉が渇いたし水でも飲むか。
音を立てないようにそーっとドアを開けて部屋を出た。真っ暗になっているキッチンの電気を点けて冷蔵庫から水を取り出そうとした時に声をかけられる。
「寝つけないのですか?」
振り返ると楓さんが立っていた。
「すいません、起こしちゃいましたか?」
「いいえ、私も寝つけなかったので。寝つけないんでしたらお酒でも飲みませんか?その方が寝つけるかもしれませんよ?」
本当に酒が好きなんだな。でも寝つけないからそれでもいいか。こんな美女と飲むなんて銀座の高級店なら凄い金額取られるだろうからな。
「じゃあ少し飲みましょうか。でも俺は酒弱いからつまらないかもしれませんよ。」
「気にしませんよ。あなたとお話がしたいだけですから。」
「わかりました。ビールでいいですか?」
「はい。」
俺たちはテーブルに座りビールを飲み始めた。
なんか不思議な感じだな。少し前まではここに座るのは1人が当たり前だったのに今は楓さんさんと向かい合っているなんて。
「明日には帰らなくてはいけませんね。」
楓さんが凄く悲しそうな表情でそう言い出した。
「でも楓さん引っ越して来るんですよね?少し離れてしまいますけどまた一緒にいられるじゃないですか。」
「本当に引っ越して来てもいいんですか?」
しまった。アレって冗談だったのか。ガッツいてると思われたかな。
「俺は楓さんもいたら嬉しいですけどね。」
「わかりました!すぐに引っ越します!時間がかかったとしても週末は必ずここに来ます!」
「は、はい。」
楓さんは身を乗り出して俺に宣言した。顔が近いから堪らないんだけど。てかスッピンの方が可愛いとかヤバすぎだろ。いい匂いするし。あぁ…俺の理性よ持ってくれ…
「ウフフ、楽しみです。」
先程とは違い今度はニコニコと嬉しそうな顔に変わる。
ま、いいか。こんなに幸せそうにしてるなら俺はいいよ。処理はどうにかやるよ。
「楓さん、さっきはありがとうございました。」
「何の話でしょうか?」
「クランイベントの最後の時…三國の奴と対峙した時です。実は恥ずかしい話ですけどアイツが言ってる事はデタラメじゃないんです。真実なんです。」
楓さんは真剣な表情で黙って俺の話を聞いている。
「嫌な事があればすぐに逃げ出すし諦める、そんな奴でした。意気地無しだから反撃できないので三國や角田に殴られたりする事はしょっちゅうでした。でもそんな情けない自分を変えたくて中学では剣道と柔道をやり始めたんです。柔道の方は同じ道場に三國がいたから最終的には辞めちゃいましたけどね。別に逃げたつもりはないんです。アイツと同じ環境にいてもアイツの影を追ってるみたいで嫌だから辞めたんです。完全に逃げたようにしか見えませんけどね。」
楓さんは変わらず俺の話を無言で真剣に聞いてくれている。
「剣道は高校まで続けました。これでも県で優勝してインターハイ出場したんです。結果はベスト16でしたけどね。その後は…これについては言い訳はしません。逃げました。」
これに対して無言で聞いていた楓さんが口を開く。
「理由を聞かせてもらえますか?」
「理由は…くだらない事ですよ。三國がインターハイで優勝して、オリンピック候補にも選ばれて、地元の星みたいな扱いを受けてたんです。スポーツではアイツに勝てない。それを悟って辞めました。幸い勉強だけは人よりできたので茨城中央大に入れたんです。学歴だけなら三國にはコールド勝ちですけどね、あはは。」
酒にアテられたせいかペラペラと喋りすぎたな。本当にダセーな。こんな話されても楓さんも困るよな。
「…すいません。こんな話されても困りますよね。」
「そんな事はありません。あなたの事をもっと知りたいです。」
「…ありがとうございます。楓さんのその優しさに俺は救われたんだと思います。」
「優しさですか?」
「『逃げ出したい時には逃げればいいじゃないですか。逃げたっていいんです。どんなあなたでも私は受け入れます。受け止めてあげます。辛い時、苦しい時には言って下さい。あなたを支えますから。』その言葉に俺は救われた。美波とアリスの気持ちも当然嬉しかった。でも…あなたの言葉が一番嬉しかった。…あはは、甘ったれてますよね。すいません。ビールも空になりましたね。そろそろ寝ましょうか。」
無言で楓さんが立ち上がる。缶を片付けるのだろう。こんな話されてもなんて言ったらいいかわからないよな。悪い事してしまったな。
下を向きながらそう考えていると楓さんが動いていない事に気づく。どうしたんだろうと思い楓さんを見ると、優しく微笑みながら両手を広げて俺を見ている。俺はその意味がわからないので楓さんに尋ねる。
「楓さん?」
「ギュッてしてあげます。」
…え?何だって?ギュッとするとかなんとか言わなかったか?そこまで酔ってるのか俺。
「…酔ってます?」
「さあ?どうでしょうね。」
楓さんがちょっと意地悪そうな顔で俺に言う。
これ本気で言ってんの?ハグしようって言ってんの?
「ほら、来て下さい。」
「いや…だって…」
「もう。しょうがないですね。」
楓さんが俺に近づきそのまま俺を抱き締める。
俺は座ったままの体勢だったので楓さんの胸に顔を埋める形なる。頭を楓さんの胸と腕でホールドされてるから胸の感触が丸わかりだ。さっきイベントで味わったのなんか比べ物にならないんだけど。
…柔らかい。てかマズイだろこれ。10コも下の子に抱き締められてるとかどんなお店だよ。でも…凄い安心するっていうか落ち着くんだけど。
「タロウさんは頑張りましたよ。他の誰もがあなたを認めなくても私はあなたを認めます。甘えたっていいんです。私に甘えて下さい。私があなたを支えますから。」
ああ…これヤバイな…
「…楓さん。」
「…なんですか?」
「…抱き締めちゃってもいいですか?」
「…どうぞ。」
そのままの体勢で楓さんを抱き締め返す。腰細いな。
「…凄く安心します。」
「ウフフ、それなら良かった。したくなったらいつでも言って下さい。」
「楓さんもいいですよ。」
「…はい?」
「楓さんも逃げ出したくなったり甘えたくなったりしたら言って下さい。抱き締めてあげますから。」
「…酔ってます?」
「さあ?どうですかね。」
「…意地悪。」
「さっきの仕返しです。」
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