俺'sヒストリー

かつしげ

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第85話 どんなあなたでも私は受け入れます

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角田を撃破すると結界みたいなものが消え、廃墟のあるビル街へと戻る事が出来た。
辺りを見渡すと美波だけじゃなく楓さんとアリス、それにブルドガングもいた。みんなに声をかけようとした時、楓さんが凄い速さで俺に抱きついて来る。

「か、楓さん!?」

「勝手にどこに行ってるんですか!?心配したんですよ!?」

「すいません。みんなの為になるかと思って勝手に動いてしまいました。」

「本当に心配したんですから…もう勝手に居なくならないで下さいね…?」

「はい、わかりました。」

…いや、楓さん。胸当たってんですけど。俺の腕に楓さんの胸の感触凄いんですけど。てか合流した時から考えないようにしてたけど楓さんの服乱れすぎじゃない!?ブラチラしまくりで目のやり場に困ってたんだけど!?それなのにこの距離でこの角度だから白ブラも谷間も見えて息子が反応しそうで怖いんだけど!!
…もうさ、戻ったら襲っていいんじゃないかな。我慢できる気しないんだけど。
いやいやいや、ダメだ!!ダメだぞ慎太郎!!みんな俺を慕ってくれてるのに裏切っちゃダメだ!!…でもオカズぐらいはいいよね。うん。


「大丈夫ですかタロウさん!?」
「すぐに回復します!」

続いて美波とアリスも駆け寄ってくる。

「ありがとう。2人にも心配かけさせちゃったな。」

「私がもっと注意してればよかったんです…」

「そんな事ないよ。俺が勝手に行ったんだ。ごめんな美波。」

緑色の玉が俺を包んで傷が癒える。

「回復終わりました!痛みはありませんか?」

「大丈夫だよ。ありがとうアリス。」

俺たちの間にいい雰囲気が流れる。特に俺の左腕。


「なんやなんやクソ弱いな角田くん!!ザコやん!!」

澤野がこちらへと近づき。デカイ声で角田を罵る。
せっかく楓さんの胸を堪能…じゃなくて感動的なシーンだったのに口を挟むなよ。

「澤野、約束は守ったんだからお前も約束を守れ。オレヒスについて教えろ。」

だが澤野はすっとぼけたような顔をしながら首を傾ける。

「はぁー?何を言うてんねやシンさん。約束なんてまだ履行されてないやろ。」

「は?角田に会っただろ。そういう約束だった筈だ。」

「誰がこのゴミが会いたがってるゆーたんや。コイツやあらへんでシンさんに会いたいゆーとるんは。」

「は…?」

その時だった。ビルの影から姿を現わすモノがいる。そして一歩一歩こちらへ近づいて来る。

「相変わらずだなタロウ。角田如きに苦戦してるとかよ。ダセェ奴だなお前は。」

190cmを超える長身、100kgは優に超える巨体。ヤクザのような風貌。忘れる筈が無い。俺の人生においての最大の障害である男ーー

「三國…裕太…!!」

「何タメ口利いてんだ?殺すぞ?」

何でお前までいんだよ。そもそもコイツは失踪した筈だろ。生きてたのかよ。

「それにしても…コイツもダセェな。タロウなんかに伸ばされやがって。オラ!起きろ!」

三國が角田の腹を蹴り上げて叩き起こす。

「ゴハッ…!ゲホッ…!ゆ、裕太!?テメェ何しやがんだ!!」

「あ?何か文句あんのか?」

三國が角田に対して凄む。だが角田もそれに怖気ずくわけではない。三國に対して凄み返す。

「いつまでも調子に乗ってんなよ!!まだ番長のつもりかよ!!ああ!?」

「誰に口利いてんだお前。」

三國が歩みを始める。角田に向かってずんずん前進していく。
コイツのスタイルは柔道だ。その実力はオリンピック候補にも選ばれた程だ。だが柔道じゃキックボクシング相手には相当厳しい。それは戦った俺が一番わかっている。

近づいて来る三國に対して角田がハイキックを喰らわせて来るが三國は気にする様子も無く左手でガードする。それと同時に角田は右ストレートを放つ。俺の時と同じコンビネーションだ。だが三國はそれを右手で払い落とし角田の襟首を掴み変則的な背負い投げを放つ。角田は頭から垂直にコンクリートに叩き落とされ文字通り頭が割れた。コンクリートには赤や黄色の液体が染み渡って行ったが数秒後にはそれらと角田の身体はエリアから消えて行った。三國の圧倒的な勝利だった。

「カカカカカ!!弱!!角田くん弱っ!!キミはもうワイのクランに要らんわ。クビー!!!」

周囲に澤野の馬鹿笑いが響き渡る。

「おい、タロウ。わかったか?」

「…何がだよ?」

「柔道が弱いんじゃねぇ。お前が弱いんだ。テメェの弱さを柔道のせいにするんじゃねぇよ。」

「別にしてねぇよ。」

「テメェは根性がねぇんだよ。柔道を始めても長続きがしねぇ。俺に憧れて始めたはいいが、勝てねぇと思うとすぐ逃げる。情けねぇ野郎だ。」

「はぁ?お前に憧れてなんかいねーよ。自惚れんな。」

「逃げた先の剣道でも勝てないからまた逃げたんだろ?」

「逃げてねーよ!インターハイでベスト16までは行ったわボケ!!」

「で?」

「は?」

「それでどうしたんだよ?インハイでベスト16になってどうしたんだ?日本一は目指さねぇのか?世界一を目指さねぇのか?それ以上には行かれねぇから辞めたんだろ?逃げたんだろ?違うのかよ。」

なんなんだよコイツ。なんで俺がコイツに説教されなきゃなんねーんだよ。

「お前は昔からそれだ。少し嫌な事があればすぐ逃げる。努力をしない。言い訳だけは百人前。お前みてーのを根性無しのクズってんだよ。」

「…おとなしく聞いてればいい気になりやがって…!何でお前にそんな事言われないといけねーんだよ!!知ってんだぞ?お前が借金取りに追われて夜逃げした事ぐらいよ。逃げてるってテメーが一番逃げてんだろ!!!」

「それは親父が作ったモンだ。そのせいでオリンピックに行けなかった。だからそれを変える為にオレヒスをやってんだよ。狂った人生をやり直す為にな。それで俺はオリンピックに出る。お前みたいにちっぽけな理由でやってるわけじゃねぇんだよ。」

「何で俺の目的がちっぽけだってわかんだよ。」

「お前みたいなクズに目標なんかねぇだろ。それとも逃げた人生を変えたいのか?ハッハッハ!!昔のお前は本当に傑作だもんな。すぐ泣くし、殴られても反撃も出来ない、オマケに物を取られても返してくれとも言えない腰抜け野郎だったもんな。」

「カカカカカ!!なんやそれ!?ダッサ!!超ダサいやん!!そんなザコやったのに実力者ぶってんのかいなこの男!?カカカカカ!!!」

「黙れ…」

「一緒にいる女どももお前の正体知ったら離れて行くんじゃねぇか?ハッハッハ!」

「黙れって言ってんだよ!!!」

俺はラウムから剣を取り出し三國をブッ殺してやろうと走り出すが、楓さんに左腕を掴まれ動きを止める。

「何ですか楓さん!?離して下さい!!!」

俺は楓さんの顔を見る事ができなかった。それだけじゃない、美波とアリスの顔も見る事ができない。
俺は怖かった。昔の俺を知って3人がどんな顔で俺を見ているのか知るのが怖くてたまらなかった。俺は今の生活に凄く幸せを感じている。美波がいて、楓さんがいて、アリスがいる。正直この生活が好きで堪らなかった。それが崩れてしまうのが怖かった。1人になるのが怖かった。
楓さんが止める以上は何か言葉を発するという事だ。俺はその言葉は聞きたくない。怖い。また逃げ出したくなった。

でも…楓さんの発する言葉は俺が想像していたものとは全然違っていた。


「いいじゃないですか。言いたい奴には言わせておけば。」

「え…?」

俺は反射的に振り返ってしまう。すると楓さんの顔はとても優しい顔をしていた。いや、俺を安心させる顔をしてくれていた。

「昔のあなたの事は確かに知りません。ひょっとしたらあの男の言う通りの人だったのかもしれません。」

その言葉に俺は目線を逸らしてしまう。それは事実だ。三國は嘘は言っていない。俺はすぐ逃げ出す根性無しでヘタレなのは否定しようの無い事実だ。

「でも、だからなんなんです?」

また想像と違う言葉が楓さんの口から出るので反射的に目線を合わせてしまう。

「あの男の知ってるあなたと、私たちが知ってるあなたはもう別人です。あなたは逃げてなんかいませんよ。逃げ出す人間なら美波ちゃんを救ったりしない。逃げ出す人間ならアリスちゃんを救ったりしない。あなたは逃げずに立ち向かった。少なくとも私たちはそう思っています。」

「そうですっ!私たちはタロウさんがどんな人かわかっています。タロウさんの優しさをわかっています。自分よりも先に私たちの事を考えてくれている事をわかっています。」

声を発するので美波へと振り向く。楓さん同様に美波も俺を安心させる顔をしてくれている。

「私も同じです。タロウさんのおかげで私は幸せになれました。タロウさんが逃げ出す人なら私を救ってません。何の得も無いのに私を救ってくれた。タロウさんは私の誇りです。」

続いてアリスへと向く。アリスも同じだ。俺が安らげる顔をしている。

「それにーー」

楓さんが再度話し始めるので楓さんと目が合う。

「逃げ出したい時には逃げればいいじゃないですか。逃げたっていいんです。どんなあなたでも私は受け入れます。受け止めてあげます。辛い時、苦しい時には言って下さい。あなたを支えますから。ね?」

涙が出そうだった。楓さんの言葉はきっと俺が一番かけて欲しかった言葉だったのかもしれない。甘ったれだと言われるかもしれない。だけれど俺は楓さんの言葉に救われた。

「ハッ、馬鹿馬鹿しい。揃いも揃ってションベン臭え事言いやがって。頭おかしいんじゃねえのか?」

三國は自分の考えと合わない3人に不快感を露わにする。
だがそれ以上に不快感を露わにしている人がいる。

「頭がおかしいのはあなたじゃないの?」

「あ?」

「さっきから黙って聞いていたけど昔の話をペラペラと飽きもせずによく喋るわね。成長できないのかしら?その当時から時間が止まってるの?」

「なんだお前ナメてんのか?」

「それに彼の事をちっぽけとか言ってたけどあなたの方がよっぽどちっぽけじゃない。オリンピックって言ってたけどまさか過去に行けばオリンピックに出られるって思ってるのかしら?ウフフ。」

「何が言いたいんだお前?」

「あなた、父親の借金のせいでオリンピックに行けなかったって言ったけどそれだけが理由じゃないわよ。本当に基準に達しているなら誰か肩代わりしてくれる人がいた筈よ。でもいなかった。それはあなたがオリンピックに行く器じゃなかったって事。だから何回やり直しても無理。ウフフ、面白いわね。」

「喧嘩売ってんのかテメェ?もはや洒落じゃ済まさねぇぞ?」

「あなた何か勘違いしてるんじゃないかしら?私は今、凄まじく怒っているのよ?洒落じゃ済まさない?それはこっちの台詞よ。」

楓さんが金色のエフェクトを発動させる。

「彼を馬鹿にする事は許さない。万死に値するわ。」

「女の分際で男に逆らうとかいい度胸してんな。」

三國が楓さんと対峙しようとするが澤野がそれを遮る。

「待った待った待った。三國くん、それはアカンで。楓ちゃんとやるんはアカンわ。」

「どけ澤野。テメェも殺すぞ。」

「ここはワイに免じて頼むわ。それにもう時間や。また今度っちゅう事にしてくれ。な?」

気づかなかったが完全に空が白んできている。夜明けだ。6時まであと数十秒だ。イベントが終了を迎えている。

「チッ、まあいい。おい、タロウ。俺様みてぇな強虫とお前みたいな弱虫とは生物として格が違うんだ。肝に命じておけ。次に会った時は殺す。せいぜい道の隅に這い蹲って生きるんだな。」

「いつまでもあの時のままだと思うなよ三國。俺は負けない。お前とは背負ってるものが違うんだ。」

「フン。」

三國たちの姿が消えて行く。


そして視界が真っ暗になる。


すると闇の中からアイツが姿を現わす。


『さテ。リザルトを始めましょうカ。』
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