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第81話 私の扱いって雑じゃないですか?
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日付が変わるまで残すところ1時間を切った。
私たちはモールを後にし、少し離れた所にあるホテルの一室に隠れている。何とか見つからないで事無きを得ているが楓さんの容態が悪い。肋骨が折れている事により炎症を起こし、発熱している。ここでは手当も何もできない。このままでは楓さんの命に関わる事になる。
アリスちゃんがいれば楓さんを救えるのに。私は苦しそうな楓さんを見て心が焼かれるような思いだった。
日付が変わるのもそうだが、早くイベントが終わって欲しい。リザルトに行けば楓さんの身体の傷は癒える。ここでなんとか残りの時間を消化したい。どうか…どうか神様…私たちをお護り下さい。
ーーだがそんな私の願いはあっさりと却下される。
ホテルの通路を歩く足音が聞こえる。その音が一歩一歩私たちの部屋へと近づいて来る。
そして間も無くその足音の音がほとんど聞こえなくなる。向こうも私たちの存在に気づいた。私たちは動いていないのに気づいたのだからかなりの手練れだろう。正直勝つのは難しい。
私たちの死が近づいて来た。ここまでか…
「美波ちゃん…」
「はい、どうしましたか?」
「行きなさい…」
「はい?」
「私がなんとか食い止める…その隙に窓から逃げなさい…」
「楓さん、怒りますよ?私は仲間を、友達を見捨てる事なんてできません。」
「美波ちゃん…でも…」
「楓さんと一緒に戦います。私を仲間だと、友達だと思ってくれているならそんな事は言わないで下さい。」
「…わかったわ。ありがとう。」
「次にそういう事言ったらオシオキしますからねっ。」
「ウフフ、どんな事をされちゃうのかしら。……ごめんね美波ちゃん。あなたを守れなかった。」
「そんな事ありません。楓さんは私を守ってくれました。楓さんがいなければ私は澤野に屈していましたし、今回だってここまでは来れませんでした。私は心から感謝をしています。」
「美波ちゃん…」
「それにまだ負けとは決まってません。最後まで諦めません。」
「そうね。抗いましょう。最後まで。」
ドアの外までとうとう迫っている。ドアが開いた時に私たちは斬りかかるつもりだ。
相手は相当な手練れ、奇襲が成功する可能性は低い。それでも私たちは最後まで諦めない。
でも…最後にタロウさんに会いたかった。
ーードアが開く。
それと同時に楓さんがゼーゲンでの全力の一撃を放つ。真っ暗な室内に剣と剣が重なり合う事によって火花が散った。
簡単にそれを受け止められてしまった。その一撃に力は無い。楓さんはもう限界なのだ。
だが私もそれに続く。一縷の望みをかけて。
私は剣を振り上げプレイヤーに斬りかかろうとした時に窓から月光が照らされ室内に明かりが灯る。
それにより三者の姿が映し出された時に私の手が止まった。プレイヤーの顔を見た時に私は感激のあまり涙が出そうになった。
「「た、タロウさん!?」」
楓さんと声がハモる。
「楓さん!?美波!?」
楓さんとタロウさんが鍔迫り合いをしていた手を止める。
「な、なぁんだぁ…」
私は力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「いや、ビックリしたよ。まさか2人だとは思わなかった。てか楓さん!?ボロボロじゃないですか!?楓さん?」
楓さんは安心したような、嬉しいような、それらが混ざり合ったような何とも言えない表情でニッコリとタロウさんに微笑むと意識を失ってその場に崩れ落ちた。
「楓さん!?」
「ちょっ!!楓さん!!!アリス!!!アリス来てくれ!!!」
タロウさんが呼ぶと、通路の先からアリスちゃんが現れる。
「ピンチですか?って、え!?美波さん!?楓さん!?」
「楓さんがマズイ!!回復を頼む!!」
「はっ、はい!!!」
アリスちゃんの身体から銀色のエフェクトが発動し、緑色の球体が楓さんに直撃する。トート・ツヴィンゲンで見た《回数回復》は黄色だったけど《全回復》は緑なのね。
みるみる楓さんの身体から痣が消えていく。熱も引いて真っ白だった顔に赤みがさす。そして楓さんの意識も戻る。
「楓さん!!大丈夫ですか!?」
「うえっ…!あ…はい…」
まだ体調が万全では無いのだろうか。楓さんの顔が真っ赤だ。ゼーゲンで能力が上がっているから《全回復》では追いつかないのかもしれない。
ていうか楓さん、タロウさんに身体を支えられてるけどお姫様抱っこみたいな体制になってるよね。いいなぁ…
「顔が赤いですよ!まだ熱が下がらないんじゃないですか!?」
そう言いながらタロウさんは楓さんのおでこに手を当てる。すると、
「あっ!!そ、そ、そんな事しなくても大丈夫ですから!!!」
「何言ってんですか、熱下がってませんよ!!」
「だ、だ、だ、大丈夫ですから!!!もう立てます!!!」
楓さんがタロウさんの腕の中から離れて立ち上がる。
いいなぁ…私もお姫様抱っこされたいなぁ。
「そ、それよりも!!!…やっと、合流できましたね。」
「…そうですね。長かった。2人が無事で良かった。」
私たちの間にすごく幸せな空気が流れる。互いに目配せをし、喜びを分かち合う。
「アリスちゃん、服がボロボロじゃない。激戦だったのね。」
アリスちゃんの服は汚れたり破れたりしてボロボロだ。タロウさんも。2人が苦労の末にここにたどり着いたのがよくわかる。
「アリスが凄く頑張ってくれたんです。アリスがいなければ俺は死んでいた。アリスが救ってくれたんです。」
「そ、そんな!大袈裟です!私は当然の事をしたんです。タロウさんの為になりたかったから…」
そう言いながらタロウさんはアリスちゃんの頭を撫でる。アリスちゃんもすごく幸せなそうな顔で……んんっ?なんか…2人の間の空気が…変わってないかな…?気のせい…だよね…?
「でも楓さんがここまでやられるなんてとんでもない奴が相手だったんですね。」
「凄く手強かったです。私とブルドガングだけでは負けていました。美波ちゃんがいたから勝てたんです。美波ちゃんが頑張ってくれたんです。」
「そんな…私は…」
「ううん。あなたのお陰よ。本当にありがとう美波ちゃん。」
「楓さん…」
「よーし!!じゃあ残りあと6時間ちょい!!ここを乗り切って祝勝会だ!!」
出発の時と同じようにタロウさんが円陣を組む体制になる。
「ウフフ。お酒を飲まないと、ですね。」
楓さんがタロウさんの左腕に自分の肩を乗せる。
「アイスクリーム食べたいです!すごく楽しみです!」
アリスちゃんがタロウさんの右腕に自分の肩を…ってそこは私の定位置じゃないのかな。解説してる場合じゃなかったよね。何やってるんだろう私…
「ハンバーグ作りますからねっ!楽しみにしていて下さいねっ!」
私も楓さんとアリスちゃんの腕に自分の肩を乗せる。
「おし!!じゃあ行くぞ!!」
「「「はい!!!」」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
現在の時刻は午前3時26分。
残り時間は2時間半ぐらいだ。あれから楓さんとアリスちゃんを部屋で寝かせて私とタロウさんで部屋の外で番をしている。特に誰か訪れるような感じではない。もしかしたら私たちで全滅させちゃったんじゃないかな。それならこのままイベントが終わるから安心なんだけどなぁ。
でもタロウさんと2人っきりというのも悪くないから複雑だ。タロウさん成分が不足してるからしっかり充電しないと。
「3時半か。このまま終了してくれるといいんだけどな。」
「そうですねっ!早く戻りたいです。」
「そうだね。美波のハンバーグも食べたいし。もう何日も美波の料理食べてないから変な感じだよ。」
…変な感じ。それってタロウさんも美波成分が不足してるから摂取したいって意味なのかな。つまりは美波を食べたいって意味なのかな!?
「美波も凄く頑張ったんだな。」
「私はそんな…楓さんが守ってくれたんです。楓さんが頑張ってくれただけで私は…」
「そんな事ないよ。美波は間違いなく頑張った。楓さんが言うんだから間違いない。それに美波が頑張る子だってのは俺が一番わかってるよ。」
タロウさんがそう言って真剣な目で私を見る。
…わかってる?それって『俺は美波の事は何でもわかってる。でも…カラダの事は知らない。だから俺に美波の全てを調べさせてくれ。』って事なのかな!?
いやいやいや。違うでしょ美波。暴走するのはやめなさいっ!!タロウさんはそんな意味で言ってないでしょ!!まったく。
でも…嬉しいな。タロウさんはわかってくれてるのかぁ。…ん?なんかこれって…良い雰囲気なんじゃないかな…?2人っきりだし…薄暗いし…ここで頑張っちゃうしかないんじゃないかな!?よ、よし!!!
「あっ、あのっ、タロウさん!!私っ…!!!」
ーーその時だった。コツンコツンという音が通路の先から聞こえてくる。
「…そう簡単に終わらせちゃくれないって事か。」
…なんか嫌な予感がするなぁ。私がタロウさんといる時に遭遇する確率が高いのって…
通路の先のドアが開き、姿を現したのは、
「シンさんに美波ちゃん、みーっけ!!」
…私の扱いって雑じゃないかな。
私たちはモールを後にし、少し離れた所にあるホテルの一室に隠れている。何とか見つからないで事無きを得ているが楓さんの容態が悪い。肋骨が折れている事により炎症を起こし、発熱している。ここでは手当も何もできない。このままでは楓さんの命に関わる事になる。
アリスちゃんがいれば楓さんを救えるのに。私は苦しそうな楓さんを見て心が焼かれるような思いだった。
日付が変わるのもそうだが、早くイベントが終わって欲しい。リザルトに行けば楓さんの身体の傷は癒える。ここでなんとか残りの時間を消化したい。どうか…どうか神様…私たちをお護り下さい。
ーーだがそんな私の願いはあっさりと却下される。
ホテルの通路を歩く足音が聞こえる。その音が一歩一歩私たちの部屋へと近づいて来る。
そして間も無くその足音の音がほとんど聞こえなくなる。向こうも私たちの存在に気づいた。私たちは動いていないのに気づいたのだからかなりの手練れだろう。正直勝つのは難しい。
私たちの死が近づいて来た。ここまでか…
「美波ちゃん…」
「はい、どうしましたか?」
「行きなさい…」
「はい?」
「私がなんとか食い止める…その隙に窓から逃げなさい…」
「楓さん、怒りますよ?私は仲間を、友達を見捨てる事なんてできません。」
「美波ちゃん…でも…」
「楓さんと一緒に戦います。私を仲間だと、友達だと思ってくれているならそんな事は言わないで下さい。」
「…わかったわ。ありがとう。」
「次にそういう事言ったらオシオキしますからねっ。」
「ウフフ、どんな事をされちゃうのかしら。……ごめんね美波ちゃん。あなたを守れなかった。」
「そんな事ありません。楓さんは私を守ってくれました。楓さんがいなければ私は澤野に屈していましたし、今回だってここまでは来れませんでした。私は心から感謝をしています。」
「美波ちゃん…」
「それにまだ負けとは決まってません。最後まで諦めません。」
「そうね。抗いましょう。最後まで。」
ドアの外までとうとう迫っている。ドアが開いた時に私たちは斬りかかるつもりだ。
相手は相当な手練れ、奇襲が成功する可能性は低い。それでも私たちは最後まで諦めない。
でも…最後にタロウさんに会いたかった。
ーードアが開く。
それと同時に楓さんがゼーゲンでの全力の一撃を放つ。真っ暗な室内に剣と剣が重なり合う事によって火花が散った。
簡単にそれを受け止められてしまった。その一撃に力は無い。楓さんはもう限界なのだ。
だが私もそれに続く。一縷の望みをかけて。
私は剣を振り上げプレイヤーに斬りかかろうとした時に窓から月光が照らされ室内に明かりが灯る。
それにより三者の姿が映し出された時に私の手が止まった。プレイヤーの顔を見た時に私は感激のあまり涙が出そうになった。
「「た、タロウさん!?」」
楓さんと声がハモる。
「楓さん!?美波!?」
楓さんとタロウさんが鍔迫り合いをしていた手を止める。
「な、なぁんだぁ…」
私は力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「いや、ビックリしたよ。まさか2人だとは思わなかった。てか楓さん!?ボロボロじゃないですか!?楓さん?」
楓さんは安心したような、嬉しいような、それらが混ざり合ったような何とも言えない表情でニッコリとタロウさんに微笑むと意識を失ってその場に崩れ落ちた。
「楓さん!?」
「ちょっ!!楓さん!!!アリス!!!アリス来てくれ!!!」
タロウさんが呼ぶと、通路の先からアリスちゃんが現れる。
「ピンチですか?って、え!?美波さん!?楓さん!?」
「楓さんがマズイ!!回復を頼む!!」
「はっ、はい!!!」
アリスちゃんの身体から銀色のエフェクトが発動し、緑色の球体が楓さんに直撃する。トート・ツヴィンゲンで見た《回数回復》は黄色だったけど《全回復》は緑なのね。
みるみる楓さんの身体から痣が消えていく。熱も引いて真っ白だった顔に赤みがさす。そして楓さんの意識も戻る。
「楓さん!!大丈夫ですか!?」
「うえっ…!あ…はい…」
まだ体調が万全では無いのだろうか。楓さんの顔が真っ赤だ。ゼーゲンで能力が上がっているから《全回復》では追いつかないのかもしれない。
ていうか楓さん、タロウさんに身体を支えられてるけどお姫様抱っこみたいな体制になってるよね。いいなぁ…
「顔が赤いですよ!まだ熱が下がらないんじゃないですか!?」
そう言いながらタロウさんは楓さんのおでこに手を当てる。すると、
「あっ!!そ、そ、そんな事しなくても大丈夫ですから!!!」
「何言ってんですか、熱下がってませんよ!!」
「だ、だ、だ、大丈夫ですから!!!もう立てます!!!」
楓さんがタロウさんの腕の中から離れて立ち上がる。
いいなぁ…私もお姫様抱っこされたいなぁ。
「そ、それよりも!!!…やっと、合流できましたね。」
「…そうですね。長かった。2人が無事で良かった。」
私たちの間にすごく幸せな空気が流れる。互いに目配せをし、喜びを分かち合う。
「アリスちゃん、服がボロボロじゃない。激戦だったのね。」
アリスちゃんの服は汚れたり破れたりしてボロボロだ。タロウさんも。2人が苦労の末にここにたどり着いたのがよくわかる。
「アリスが凄く頑張ってくれたんです。アリスがいなければ俺は死んでいた。アリスが救ってくれたんです。」
「そ、そんな!大袈裟です!私は当然の事をしたんです。タロウさんの為になりたかったから…」
そう言いながらタロウさんはアリスちゃんの頭を撫でる。アリスちゃんもすごく幸せなそうな顔で……んんっ?なんか…2人の間の空気が…変わってないかな…?気のせい…だよね…?
「でも楓さんがここまでやられるなんてとんでもない奴が相手だったんですね。」
「凄く手強かったです。私とブルドガングだけでは負けていました。美波ちゃんがいたから勝てたんです。美波ちゃんが頑張ってくれたんです。」
「そんな…私は…」
「ううん。あなたのお陰よ。本当にありがとう美波ちゃん。」
「楓さん…」
「よーし!!じゃあ残りあと6時間ちょい!!ここを乗り切って祝勝会だ!!」
出発の時と同じようにタロウさんが円陣を組む体制になる。
「ウフフ。お酒を飲まないと、ですね。」
楓さんがタロウさんの左腕に自分の肩を乗せる。
「アイスクリーム食べたいです!すごく楽しみです!」
アリスちゃんがタロウさんの右腕に自分の肩を…ってそこは私の定位置じゃないのかな。解説してる場合じゃなかったよね。何やってるんだろう私…
「ハンバーグ作りますからねっ!楽しみにしていて下さいねっ!」
私も楓さんとアリスちゃんの腕に自分の肩を乗せる。
「おし!!じゃあ行くぞ!!」
「「「はい!!!」」」
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現在の時刻は午前3時26分。
残り時間は2時間半ぐらいだ。あれから楓さんとアリスちゃんを部屋で寝かせて私とタロウさんで部屋の外で番をしている。特に誰か訪れるような感じではない。もしかしたら私たちで全滅させちゃったんじゃないかな。それならこのままイベントが終わるから安心なんだけどなぁ。
でもタロウさんと2人っきりというのも悪くないから複雑だ。タロウさん成分が不足してるからしっかり充電しないと。
「3時半か。このまま終了してくれるといいんだけどな。」
「そうですねっ!早く戻りたいです。」
「そうだね。美波のハンバーグも食べたいし。もう何日も美波の料理食べてないから変な感じだよ。」
…変な感じ。それってタロウさんも美波成分が不足してるから摂取したいって意味なのかな。つまりは美波を食べたいって意味なのかな!?
「美波も凄く頑張ったんだな。」
「私はそんな…楓さんが守ってくれたんです。楓さんが頑張ってくれただけで私は…」
「そんな事ないよ。美波は間違いなく頑張った。楓さんが言うんだから間違いない。それに美波が頑張る子だってのは俺が一番わかってるよ。」
タロウさんがそう言って真剣な目で私を見る。
…わかってる?それって『俺は美波の事は何でもわかってる。でも…カラダの事は知らない。だから俺に美波の全てを調べさせてくれ。』って事なのかな!?
いやいやいや。違うでしょ美波。暴走するのはやめなさいっ!!タロウさんはそんな意味で言ってないでしょ!!まったく。
でも…嬉しいな。タロウさんはわかってくれてるのかぁ。…ん?なんかこれって…良い雰囲気なんじゃないかな…?2人っきりだし…薄暗いし…ここで頑張っちゃうしかないんじゃないかな!?よ、よし!!!
「あっ、あのっ、タロウさん!!私っ…!!!」
ーーその時だった。コツンコツンという音が通路の先から聞こえてくる。
「…そう簡単に終わらせちゃくれないって事か。」
…なんか嫌な予感がするなぁ。私がタロウさんといる時に遭遇する確率が高いのって…
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