俺'sヒストリー

かつしげ

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第49話 哀しい気持ち

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タロウさんが金色の光を放ち始めると、行進していたゾルダートたちが速度を速め一気に私たちの元へと辿り着く。フルフェイスの兜を被っているゾルダートたちの表情を読む事はできないが間違いなく標的をタロウさんに向けている。

「時刻は夜の11時を回っている。ここで使っても何とか持ちこたえられるだろ。…行くぜ。」

タロウさんの前方の空間に魔法陣と、幾何学的な文字が出現する。そして文字が輝き出すと魔法陣も同様に輝き出し、中心部からナニカが現れる。
そこから現れたのは青く美しい宝石のような瞳を持ち。長く綺麗な金色の髪をポニーテールにした高貴な女性だ。美波さんとは違ったタイプの綺麗な女性に私の目は釘付けになった。

『ふむ。久しいなシンタロウよ。息災か?』

「絶好調だよ。バルムンクはどうだ?」

『フッ、我も調子は悪くない。主とまた戦う事ができるからな。』

「バルムンクには物足りない相手かもしれないが…頼めるか?」

『無論。我は主の願いを断る事など無い。』

「ありがとう。頼んだよバルムンク。」

バルムンクと呼ばれる女性がタロウさんの身体と1つになる。それと同時にタロウさんの纏う空気が変わるーー


「さて…以前に葬った奴らよりもできるのがいるな。」

タロウさん…いや、バルムンクが鋭い目つきで銀色のエフェクトを放つゾルダートを睨みつける。

「だが我の敵ではない。騒ぎを大きくして他の連中に嗅ぎつけられても厄介だ。早急に終わらそう。行くぞ。」

攻撃宣言をして、ゾルダートたちが動くより遥かに早くバルムンクの攻撃が入った。
それなりにバルムンクとゾルダートたちとの距離はあった筈だが、一瞬の内に1体のゾルダートの懐に飛び込んで横一閃薙ぎ払い、胴体を真っ二つに裂く。さらに、薙ぎ払った剣の刀身から空気の刃みたいなモノが飛び出し、近くにいるゾルダートたち3体の胴体を斬り裂く。あっという間に4体のゾルダートが沈黙した。
斬られた赤色のエフェクトのゾルダートたちは地面に倒れるとそのまま蒸発したような煙を出し消えていく。

ーー残るはSS級のゾルダート1体。

SS級がバルムンクへと一気に間合いを詰める。明らかにS級ゾルダートとは動きの速さが違う。そして自身の剣を振り上げ、バルムンクへと剣が届くかという時に突如、SS級の剣が地面へと落下する。地面をよく見るとSS級の腕も落ちている。落下したのではない、握っていた腕ごとバルムンクによって斬り落とされていたのだ。
そう私の頭が判断したと同時にSS級の頭が地面に落ちた。
本当にあっという間の出来事だった。1分もかからずにゾルダートたちはバルムンクの前に屈したのだ。


戦いを終えたバルムンクが私たちの元へと戻ってくる。

「むっ。初めて見るな。シンタロウたちの仲間か?」

バルムンクが私に問いかける。タロウさんの身体ではあるが明らかにタロウさんではない物言いに一瞬たじろいでしまうが恐怖感は無い。

「はっ、はい!結城アリスです!」

「アリスか良い名だな。我とお前は同じ髪色だ、よろしく頼む。」

彼女なりにコミュニケーションをとろうとしたのだろうか。その不器用な言い回しに私は少しだけ笑ってしまった。

「こちらこそよろしくお願い致します!」

「ふふっ。2人とも仲良くなれそうですねっ!」

「本来ならば『がぁるずとぉく』とやらに華を咲かせたい所であるがミナミよ、日付が変わる間際とはいえ油断はできん。シンタロウは詰めが甘い所がある、日付が変わるまで頼んだぞ。」

「任せて下さいっ!」

バルムンクは私たちに軽く微笑むとタロウさんの身体から消えていく。

「…詰めが甘くて悪かったな。」

「ふふっ、お疲れ様ですっ!」

「お疲れ様です!」

「おう。日付が変わるまでまだ30分近くあるな。念の為ここから離れてーー」
「いや、もう遅え。」

どこからか声が聞こえる。私たちが辺りを見渡すと草むらから人が現れる。数は…5人!

「いつの間に包囲されたんだ?ってな顔してんな!俺たちのスキル《隠密》を使って潜んでたんだよ!ゾルダートを発見して逃げてる時にテメェらを見つけてな!」

「アルティメットを使ってんの見た時はビビったぜぇ?でも肝心のアルティメットがあと30分使えねぇんだろ?」

「ヒヒヒ!そんじゃあ俺たちでも楽勝で勝てるから出て来たってわけだ!!おいおいおいおい!!見てみろよあの女!!クッソイイ女なんですけどぉー!!!」

「堪らねぇ!!あんなイイ女好きにしちゃえんのかよ!!」

「ガキの方もイイ面してやがんな。でもなぁ、そういう趣味はねぇからなぁ。」

「まあまあ、俺たちは5人もいるんだぜ?順番待ち用に使えばいいじゃねぇか。」

「それもそうだな。ツラが良くて穴があれば問題はねぇ。」

「男は殺してアルティメット奪おうぜ!ヒュー!良い事尽くめだぜ!」

下衆な男たちが下衆な会話を繰り広げている。何で男の人ってこうなんだろう。本当に気持ち悪い。でもこの状況は非常に不味い。美波さんがどれだけの実力かわからないけど男5人相手に分が良いとは思えない。タロウさんのアルティメットが使えればこんな下衆な連中なんか……あれ?アルティメットが使えればいいんだよね…?

「…美波、ごめん。この前と同じ状況になってしまったな。俺が何とか食い止める、アリスを連れて逃げろ。」

「嫌です!私も戦います!」

「頼むよ美波。」

「こればかりはタロウさんの頼みでも聞けません!前回とは違ってタロウさんはダメージを負ってませんし、私もスキルを使えます!勝機はあります!だから…一緒に戦わせて下さい!」

「…わかった。諦めるのは早いよな。ぶちのめしてやろうぜ!」

「はいっ!」

「おーおー、やる気か俺たちと?」

「生意気な野郎だ。女犯してる所を見せつけてから殺してやるよ!」

「美波にもアリスにも指一本触れさせねぇよ。」

タロウさんが剣を抜き戦闘態勢に入る。


「アリス、お前はーー」


タロウさんがチラリと私の方を向いた時に、私から放たれた黄色い球体が直撃する。思いの外、威力が大きく土煙が舞ってタロウさんの姿が見えなくなってしまった。

「あっ、アリスちゃん!?」

横にいる美波さんが驚きの声を上げる。

「ヘッヘッヘ!!仲間割れかぁ?いい度胸してるガキだ。気に入ったぜ!」

「馬鹿を言わないで下さい。私がタロウさんを裏切るなんて例え死んだってありません。タロウさん!!アルティメットが使えるようになった筈です!!それは私のスキル《回数回復》です!!効果はスキルの使用回数を回復する事ができるんです!!」

「なっ、何だと!?」

下衆な連中が私の説明に驚愕している。当然だ。形成は一気に逆転した。そしてーー

「ふむ。アリスよ、大儀であったぞ。」

金色のオーラを纏ったタロウさん、もといバルムンクが土煙をかき消し姿を現わす。

「屑どもが。弱っている所を狙うなど卑怯の極みに他ならない。よもや覚悟はできているのだろうな?」

バルムンクの顔からは憤怒の感情が読み取れる。纏っている空気も周りが押し潰されそうなぐらいの凄まじいプレッシャーを放っている。男たちは震え上がり戦意などとうに喪失している。

「たっ、頼む…!勘弁してくれ…!悪かった!!」

「今回のイベントは数が減らねば終わらんらしい。ならば命を取るしかない。貴様らのような屑はこの世に不要だ。生きたければ全力で抗う事だな。」

バルムンクが剣を構える。情けをかけるつもりなど微塵もない。

「女の分際で調子に乗りやがって!!こっちは5人もいるんだ!!返り討ちにしてーー」

「五月蝿い。」

バルムンクが剣を横に振っただけで男たち5人の首が刎ね飛ぶ。命令を下す為の器官が無くなり、残った身体がだらしなく地面に崩れ落ちた。

「血が上りすぎているな。少し頭を冷やすか。まだまだ我も精進せねばならぬな。」

バルムンクはそう呟き消えたいった。身体の所有がタロウさんへと移り変わる。何事もなく終われて良かった。

「アリス。」

「はっ、はい!」

「ありがとう、助かったよ。アリスがいなかったら大変な事になっていた。」

「アリスちゃん、ありがとう!最初は驚いちゃった。でもまさか回復させるスキルがあるなんて。アリスちゃんはすごいねっ!」

タロウさんと美波さんから褒められた。2人の役に立てたかな?すごく嬉しいな。

「私、役に立てましたか?」

「アリスは物じゃないからさ、役に立つとかって言葉は俺は好きじゃない。アリスは俺たちの為に頑張ってくれたんだよ。仲間の為に頑張ってくれたんだ。」

そんな事を言われたのは初めてだ。伯母や伯父から散々『お前は使えない』『役に立つようにしろ』『役に立つ努力をしろ』そう言われ続けてきた。だから私もそれに応えなきゃって思ってきた。だから無意識にタロウさんたちに対しても役に立たなきゃって思ってきてたんだ。

この人はそんな風に思ってくれるんだな。
この人とずっと一緒にいたいな。


「ありがとうアリス。俺たちの為に頑張ってくれて。」


私はとても嬉しかったと同時に悲しかった。
この人との別れの時間が近づいている事を感じてしまったから。
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