俺'sヒストリー

かつしげ

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第46話 出会い

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  まずは冷静にならないといけない。俺'sヒストリーが冗談のゲームでない事は理解している。この通知の文面から見てもプレイヤー同士の潰し合いを促している事は明白だ。という事は私を倒しに来るプレイヤーが当然いる。そうなると私にとって非常に都合が悪い。チュートリアルの時に無料で引かせてくれたガチャで私は3枚ともダブルスーパーレアを引いた。だが3枚とも攻撃をする為のスキルではない。私には攻撃する為の手段が無いのだ。プレイヤーに出くわしたら最期、私はゲームオーバーだ。このゲームのゲームオーバーが何を意味しているかはわからないが良い結末が待っていないのは確かだろう。私は絶対負けられない。絶対にお父さんとお母さんを救うんだ。こんなところで負けるわけにはいかない。
そして私にとって都合が悪い事はもう1つある。『前回のお知らせと重複します』この前回のお知らせを知らない事だ。恐らくプレイヤーの人数やこのイベントの詳細について書かれていたのだと思う。これだけでも他のプレイヤーに大きな差をつけられている。
だけど今はわからない事を考えていても仕方がない。私にできる事は逃げる事しかない。逃げてプレイヤーが20組以下になる事を祈ろう。現在の時刻は夕方6時を回り、日が暮れ始めている。暗くなってきているので視界は悪い。今の内に隠れられる場所を見つけよう。

  最初に居た場所から少し離れた所に岩場があった。この岩場に隠れられないか考えていると私の体がちょうど入るぐらいの岩場の隙間を見つけた。ここなら大人は来られない。ここで時が過ぎるのを待とう。タイミング良く完全に陽は落ちて闇が一帯を支配し始めた。
そういえばチュートリアルの時にラウムというアイテムボックスみたいな役割のものがある事を教わった。いざという時の為にせめて武器だけは持っていよう。
私はラウムを使ってみる、すると、中には剣の他にコンビニの袋に入ったコッペパンのようなものが3つに、500mlのペットボトルに入った水が1本入っていた。これは救援物資という事だろうか。だが水分がこれしかないのは相当に厳しい。何とか早く終わる事を祈り極力動かないようにしよう。

それから数時間が経った頃に動きがあった。近くに人の気配がする。2つの足音が私の近くから聞こえて来る。ここの場所がわかるわけない。落ち着いてやり過ごそう。きっと大丈夫。
だが私の思いとは裏腹にその足音は明らかにこちらへ近づいている。偶然ではない。この一帯は広範囲に岩場が連なっている。それを躊躇なくこちらへ向かっているという事は偶然ではない。私の居場所が見つかっている。このままでは捕まる。逃げないとーー

距離があるうちに私は隠れている場所から飛び出し足音の主とは逆方向へ全速力で逃げた。だが相手も私を追って来ている。1人は遅いがもう1人の方は速い。そしてその差は一瞬で詰まり私は地面へと押し倒される。

「いやぁぁぁぁ!!離して!!!」

私は懸命に抗う。だがーー

「待って!何もしないから!!大声を出さないで!!」

私はその言葉を聞くと同時に抵抗をやめた。

「ごめんごめん。争おうなんて考えてないんだ。仲間にならないか?」

「仲間…?」

「そうそう。もう1人がすぐ追いつくだろうから少し待ってよ。あ、来た来た。」

「はぁっ!はぁっ!いやー、速いな!あ、俺が遅いだけか。引きこもりだから運動なんかしてないしな。」

「小林さんは体重が重いからですよ。痩せましょうよ。」

「佐々木くん結構辛口だよね。ま、いーけど。お!すげー可愛いじゃん!ハーフ?プリガルのアテネみたいじゃん!!」

「なんすかそれ?」

「プリガル知らない?プリンセスガールズ。アニメだよアニメ。その主人公の女の子にすごい似てるよこの子。リアルに二次元の女が舞い降りたって感じ。」

「アニメは見ないすからね俺。でもすごい可愛いすよねこの子。君、名前は?」

「結城…アリスです…」

「アリス!アテネと響きが似てんじゃん!俺は小林敦司!いやー、いいねアリス嬢!」

「名前負けしてないね。俺は佐々木健斗だよ。」

小林という人は体がすごく大きい。大きいと言っても引き締まっているわけではなく、ただ太っているという感じだ。私を見る目つきが沼田に似ている。すごく気持ちが悪い。
もう1人の佐々木という人は細身の普通の人。一見優しそうに見えるけど目の奥がすごく怖い。
見た目や偏見で人を決めつけてはいけないけど生理的に無理だ。2人とも伯父や沼田、宇山と同じ人種に感じる。男の人はみんなそうなのかもしれない。男の人が怖い。でも今の私にはこの2人から逃げる事も戦う事もできない。私の命運はこの男たちに握られている。

「それでさアリスちゃん。俺たちと仲間にならない?このイベントを生き残るには仲間が必要だ。50組のプレイヤーの内、20組までしか生き残れない。それなら仲間を作った方が絶対的に有利だ。」

有利か不利かは置いといてもこの提案は断れない。断って見逃してくれるとは到底思えない。従うしかない。

「…わかりました。仲間になります…。」

「おっほほー!よしよし!よろしくアリス嬢!」

「良かったすね小林さん!よろしくねアリスちゃん!」

名前で呼ばないで欲しい。親しくもないのに名前で呼ばれるのはいい気はしない。それにこの人たちにアリスと呼ばれる事にすごい嫌悪感を抱く。
でも1人でいるよりは生き残る可能性が上がるのは確かだ。プラスに考えよう。私は負けるわけにはいかないんだから。

「それでね、情報を共有しておきたいんだけどアリスちゃんはどんなスキルを持ってるの?俺たちはレアが最高なんだよね。」

「私はSSを2枚持ってーー」
「マジかよアリス嬢!?SSって!!これ俺たち楽勝で生き残れんじゃね?」

「本当すね!」

「あの…でも…戦闘に使えるスキルじゃないんです。サポート用なんです。」

「んだよ!使えねーじゃん。喜んで損した。」

「すみません…」

「まあまあ。しやあないすよ。」

「ま、そうだな。んじゃラウムは?何が入ってた?」

「…コッペパン3個とお水です。」

「なーんだ。一緒かよ。SS持ってるから中身違うのかと思った。使えね。」

私ってどこに行っても同じような扱いをされるんだな。これが私の人生なのかと思うとすごく悲しくなる。

「じゃあ俺たちが見張りしてるからアリスちゃんは先に寝ていいよ。」

「え…?いいんですか?」

「いいよいいよ。ね、小林さん。」

「おう、休めよアリス嬢。」

見張りをやらされるかと思ったけどまさか先に休めるとは思わなかった。

「ではすみませんけどお先にいただきます。」

私は草の上に横になった。岩場よりも柔らかいから寝れそうだ。何とか生き残れればいいな。死にたくないな。

そんな事を考えている時だった。

私は突如手足を押さえつけられる。驚いて閉じていた目を開けると、小林と佐々木が私を押さえつけていた。

「なっ、なんですか!?」

「わかるだろ?アリス嬢は戦闘できないんだから俺たちが守るしかない。ボディーガード料だよ。」

「そうそう。俺たちが戦うんだからアリスちゃんは俺たちにサービスしなきゃ。」

私はバカだ。男の人なんてそんな事しか考えていないのはわかってたはずなのになんで寝ようとしてたんだろう。何とか逃げなくちゃ。

「嫌だ!!離して!!嫌だ!!」

私が暴れ始めた時に首元に剣を突きつけられる。

「うるせえよ!!おとなしくしろ!!」

私は恐怖で暴れる事をやめた。

「おとなしくなったな。さて、ヤろっか。佐々木くんって童貞?」

「あ、俺ヤッた事ありますよ。」

「へー、そうなんだ。俺、童貞なんだよね。」

「なら先いーっすよ!」

「いいの?悪いね。」

「その代わり早く頼みますね!」

「やっべ、超興奮してんだけど。ギンギンに勃ってるし。俺さ、めっちゃアリス嬢タイプなんだよね。ロリコンやべーかな?」

「大丈夫っすよ!男は若いのが好きなもんっすよ!」

「だよな。じゃ始めっか。アリス嬢、抵抗すんなよ。したらぶん殴っかんな!うし、とりあえず脱がすか。」

小林が私のブラウスのボタンに手をかける。


私の目からは涙が溢れてきた。


何で私ばっかりこんな目にあうんだろう。


私が何をしたの?


お母さん、助けて…


お父さん、助けて…


誰か…助けて…
















「その子から離れろ。」










「だっ、誰だ!?」

私も声がする方を反射的に振り向く。すると体の周りに金色のエフェクトがある男の人が立っている。

「おとう…さん…?」

一瞬お父さんかと見間違ってしまったが違った。お父さんよりもずっと若い。でも、纏っている空気がお父さんにすごくよく似ている。

「死にたくなければここから失せろ。」

「あ?誰だお前!?ぶっ殺されーー」
「やっ、ヤバいすよ小林さん!!」

「あ?何がだよ!」

「俺、ネットで見たんです!金色のエフェクトはアルティメットだって!」

「あっ、アルティメットって…!」

アルティメット。このゲームの最高位のレアリティの事だ。それを知って小林たちが動揺している。

「わっ、わかった!!アンタが先にコイツとヤッていいよ!!まだ何もしてねぇから新品だからよ!!コイツすげー上物だぜ?こんな顔の良い女なんて滅多にいねぇぞ?だから手を組もうぜ!!アンタと俺らが組めば絶対生き残れる!!それにアリスを俺らで共有すれば楽しい事しまくりーー」
「聞こえなかったのか?俺はここから失せろって言ってんだよ。」

男の人が小林に対して敵意を剥き出しにしている。そして金色のエフェクトが輝きを強めるーー

「くっ…!この野郎ーー」
「ダメすよ小林さん!!勝てるわけないすよ!!アリスなんか置いて逃げましょう!!」

「ちきしょう…!!」

小林たちが全速力でこの場から立ち去る。
私は上半身だけ力なく起き上がり男の人を眺める事しかできない。
男の人が私に近づいてくる。不思議と恐怖感も嫌悪感も無い。それはこの人を包んでいる優しい空気が私を安心させるのだと思う。
男の人が私の前まで近づき、しゃがんで私の頭を撫でる。

「もう大丈夫だよ。」

そう言われた時に私の目から涙が流れた。堰を切ったように私は泣き叫んだ。男の人は私が落ち着くまでずっと頭を撫でてくれていた。
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