俺'sヒストリー

かつしげ

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第26話 私の王子様

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「やったー、美波ちゃん!」

「葵ちゃん!」

私は葵ちゃんと勝利のハイタッチを交わす。
とうとう初勝利を挙げた。すごい嬉しいなぁ!

「いやいやー、一時はどうなるかと思ったよー。よく無事だったね美波ちゃん。」

「《身代り》のカードを持っていたの。だから死なずに済んだのよ。」

「ほえー。そんなカード持ってたんだねー。」

ありがとう楓さん。楓さんのおかげで私は死なずに済みました。


「ま…マジかよ…あの山岡をやりやがった…」

村中が驚愕の表情で私たちを見ている。

「アンタまだいたんだ。とっとと帰んなよ。そんなボロボロのアンタじゃ勝てないって。」

葵ちゃんが見下すような口調で村中に言い放ち、村中は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

だが私たちは少し有頂天になっていた。これだけ派手に暴れていたのだから音が広範囲にまで響いているのが当然だ。それなのになぜ周囲を警戒しなかったのだろう。それは私の経験の甘さが露呈した瞬間だった。







「ほう、なかなかやるじゃねぇか。」





突如としてこの場にはいなかった人間の声がするので私たちは声のした方を反射的に振り返る。
するとそこには山岡たちの仲間である甲斐がいた。気配は疎か足音さえも聞こえなかった。いや、この砂浜で足音がしないなんてありえない。という事はそれだけ警戒が足りなかったという事だ。山岡を倒した事で完全に浮かれきってきた。

「2人がかりとはいえ山岡を倒すなんて大したもんだ。」

なんだろう…。先程まで戦っていた山岡も本来ならすごく怖い相手だ。だけど…この甲斐という男はあまりにも空気が違う。すごく怖い…

その時だった。葵ちゃんにより海へと吹き飛ばされた山岡が岸へ上がってきた。

「ひっ、ひぁっ…!!!」

足が動かないから腕だけで上がってきたのだろう。陸へ上がり必死に空気を吸っている。

「おい、山岡。どういう事だ。」

「あぁ…!?かっ、甲斐…さん…!これは…その…す、すみません…」

「お前もうヤクザ辞めろ。堅気の…それも女にやられてメンツもクソもねぇだろ。情けねぇ。」

山岡が拳を握りしめ何も言い返せないでいる。

「いや…。もうお前に用は無いな。ヤクザだけじゃねぇ、人間も辞めちまっていいぞ。どうせその足じゃ使い道もねぇしな。」

「あ…?まさか…俺を切るつもりじゃ…!?」

「お前は本当に使えねぇ奴だったよ山岡。」

甲斐が山岡の前に右手の掌を差し出す。

「テメェざけんじゃねぇぞ!!甲斐!!この野郎!!」

「もういい黙れ。」

甲斐がそう言うと、山岡の体がボンッという鈍い音を出し、砕け散った。辺りには血溜まりができ、トマトが潰れたような残骸が残っている。そのあまりにも凄惨な光景に、私は胃から嘔吐物が込み上げて来たが必死に堪えた。


「や、やりやがった…!自分の手下なのに…!付き合ってられねぇよ!!俺は女の所まで案内した!!抜けさせてもらうぜ!!」

「なんだお前?まだいたのか?お前なんか殺す価値もねぇ。とっとと失せろ、邪魔だ。」

「ぐっ…!侮りやがって…俺を侮りやがって…!!絶対後悔させてやるからな!!!」

そう言いながら村中が走ってこの場から去っていく。

「なんだありゃあ。情けねぇ野郎だ。さてとーー」

情勢は非常に良くない。一体どうやって山岡を殺したのだろう。あれが甲斐のアルティメットのスキルならお手上げだ。倒す事も、躱す事も、逃げる事すらも叶わない。私の背中を冷たい汗が伝うのを感じた。


「安心しろ。山岡を殺ったのはスキルじゃねぇよ。支配下に置かれている奴の生殺与奪は主人にある。殺す時にはああなる。ただそれだけだ。」

私の心を見透かされているかのような甲斐の言葉に心臓がギュッとなった。顔に出ていたのだろうか。顔に出して気取られていてはダメよ。しっかりしないと。
でも、わざわざタネを明かすなんて何を考えているのだろう。明かさなければそれだけ優位に立てるのに。やはりこの男も女を舐めているのだろうか。

「…わざわざそれを明かすなんてずいぶん余裕なのね。あなたも女を舐めているのかしら?」

「俺を山岡如きと一緒にするな。俺は差別はしない。女だろうが、子供だろうが、年寄りだろうが関係ない。全て平等に接する。当然、暴力も平等に与えるがな。そんな事より…お前、名前は?」

「あなたに教える必要はありません!」

「ツラに似合わず気が強いんだな。まあいい。おい、俺の女になれ。」

「…は?」

何を言ってるのこの人は。

「お前は恐ろしく美しい女だ。俺に相応しい。当然奴隷ではない。奴隷なんかじゃなく俺の女になれ。」

何その俺様口調は。こんな人なんて絶対嫌だ。そもそもタロウさん以外の人なんて嫌。

「嫌です。」

「フン、お前の意見なんて聞いてねぇ。これは命令だ。」

「な、何を勝手な事を言ってるのよ!?」

「そーだーそーだ!オジサンはマナーがなってないぞ!」

「ガキに興味はねぇ。お前もどっかに消えろ。気が変わらないうちにな。俺はコイツに興味がある。おい、さっさと名前を教えろ。」

「あなたに教える必要はないって言ったでしょう!馬鹿じゃないの!」

「…さっきから誰に口利いてんだお前。」

甲斐が突如とし怒りを露わにする。その目つきは常人では決して見る事の無い本気で人を刺すような鋭い目つきをしている。

「もういい、死ね。」

目の前にいた甲斐の姿が視界から消える。

スキルを使ったわけではない。エフェクトは発動していなかった。突然消えたのだ。

だが本当に消えるわけはない。視界の右端に何かが映っているのを感じ、右を向くと甲斐がいた。

甲斐は左の拳を私の顔をめがけて放っていた。

当たる

それに山岡よりも強力な指まで包んでいる手甲をしている。これが当たったら死んじゃうんじゃないかな。仮に死ななくてもすごく醜い顔になると思う。タロウさんに嫌われちゃうかな。ううん、タロウさんは見た目で判断するような人じゃない。でも…グチャグチャな顔でタロウさんの側にいたくないなぁ。


防ごうとしても手は追いつかない。避ける事も当然できない。私は目を閉じる事しかできなかった。













だが、甲斐の拳が私の顔に当たる刹那、私は誰かに腰を引かれその人の元へと手繰り寄せられる。

驚き、目を開けると誰かの胸の中に私はいた。

良く知る優しい大好きな匂いがする。



「何かあったら起こしてくれって言ったのにダメじゃないか。」


そこにいたのは、私をいつも助けてくれる王子様だった。
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