先生は海の匂いがした 〜兄は僕を愛し、支配した。そんな兄が殺された。殺したのは兄の教え子であり、僕の同級生だった〜

西浦夕緋

文字の大きさ
上 下
31 / 111
誓いのキス

29

しおりを挟む
 唐突な一言である。または頓狂な。何の脈絡もない。
「何をまた」
 そう返しながらも自分の顔に笑みが広がっていることはよく分かった。喉のあたりがくっくっと笑っていた。崢がよくする笑い方のように。まるでそれが移ったかのように。
「変な奴」
「おまえの唇、すげえ柔らかいってことに気づいた。女みたいだった」
「そうか」
 崢の柔らかな目から視線をそらして篤史は空を見やる。

 子供らのはしゃぐ声が響いている。河川敷で遊んでいるのだ、彼らの目がここに届くことはきっとない。なぜなら崢と篤史は背の高い枯れ草に囲まれているから。見えるとしたら上空からしかないだろう、しかしながら青色の薄まった広々とした空、そこには何もなかった。
「どうせしたことねえんだろ」
「どうせって何だよ」
「あるとしたら兄ちゃんとくらいか」
「うるさい」
 篤史は崢に背を向ける。一体何をしているのか、またしてもおちょくられているわけか。夜な夜な見知らぬ男に身動きを封じられて無理やりキスされそうになる情けない中学生、それをおちょくる、学ランをやや着崩した、同い年の、かつての他校のエース、変化球の魔王。
「えなとすればいいだろう」
「おまえとしたい。な」
 得体の知れぬ男であった。篤史に変化球を仕込みたいのはよく分かった。一緒に甲子園に行きたいことも。だがそれ以外のことはよく分からぬままであった。分からぬままに背後から肩を抱かれた。

 潮の香りが鼻腔をかすめた。風が吹いているのだ。河川敷の向こうに広がる川は海と繋がっている。すぐ近くにそれはある。
「可愛いな」
 小さな声で崢は言った。ふっ、と笑って。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

雨と兄 〜僕を愛した兄ちゃんは、頭のおかしな人だった〜

西浦夕緋
ミステリー
雨に当たったら死ぬ。兄ちゃんはそう言って、僕を箱の中に閉じ込めた。 やがて僕は兄ちゃんの正体を知る。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...