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誓いのキス
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羽毛布団に慣れていた。だからこそせんべいのような硬いベッドに後頭部が打ちつけられて痛かった。思わず目を瞑り、開けた時には世界が反転していて、崢の目が篤史の目を真っすぐに見下ろしており、その背後には天井があった。
「おまえな」
崢の声が降りてくる。静か過ぎる声だった。篤史を見下ろす表情も、また。
「俺が助けなきゃ今頃こうなってたわけだ」
両方の手首が締めつけられていることに気づく。崢のそれぞれの手に拘束されていた。まさに今の自分が女であるという構図にも気づいた。薄い壁の向こうから渡ってくる女の凄まじい喘ぎ。ふっ、唇だけで小さく笑う崢。
「先生に怒られるかな」
あまりにも静かな声だ、それは篤史の耳に降りてくる。
至近距離である。というより身体が密着していた。何かいい匂いがした。香水でもない、シャンプーとも少し違う、ふわりと漂う、柔らかな、よく分からぬ匂い。密着して初めて気づいた。
「いい匂いがする」
篤史の耳元で崢は言った。いい匂いがする、それは自分が思っていたことだ。崢もまた、同じことを思っていたわけか。
何かが耳に当たった気がした。得体の知れぬ、熱いもの。崢の唇か、それとも舌か。確かにそれは篤史の耳たぶのあたりを這った。
反射だった。どこにどのように力を込めたのか自分でも分からぬままに篤史は崢の身からすり抜けるとそのまま玄関へ走った。途中で足がもつれて躓き、物が倒れて派手な音を立てた。
「夜道に気をつけろよ」
あまりにも静かな声が背中にかかる。
身を翻して崢を振り向く。尻もちをついたような恰好になった。落ち着きはらった目が篤史を見下ろしながら笑っていて、やがて崢は篤史の前に便所座りをすると、
「連絡先教えてよ」
と言った。スマホなら一応持ってんだよ、と笑う。
だから篤史はポケットに手を入れてそこからスマートフォンを取り出そうとするも手がもつれて床にそれを落とすこととなった。何をこんなに慌てているわけか。手に汗が滲んでいた。急に走ったりしたからか動悸がするし身体が妙に熱かった。
頬にひやりと冷たいものが当たった。崢の手のひらだった。
「りんご色だ」
そう言って崢は、ふっ、と笑った。
りんご色、それが自分の頬の色であることがようやく分かった。そんな篤史を眺めて崢は笑っていて、
「可愛いな」
と言った。
「おまえな」
崢の声が降りてくる。静か過ぎる声だった。篤史を見下ろす表情も、また。
「俺が助けなきゃ今頃こうなってたわけだ」
両方の手首が締めつけられていることに気づく。崢のそれぞれの手に拘束されていた。まさに今の自分が女であるという構図にも気づいた。薄い壁の向こうから渡ってくる女の凄まじい喘ぎ。ふっ、唇だけで小さく笑う崢。
「先生に怒られるかな」
あまりにも静かな声だ、それは篤史の耳に降りてくる。
至近距離である。というより身体が密着していた。何かいい匂いがした。香水でもない、シャンプーとも少し違う、ふわりと漂う、柔らかな、よく分からぬ匂い。密着して初めて気づいた。
「いい匂いがする」
篤史の耳元で崢は言った。いい匂いがする、それは自分が思っていたことだ。崢もまた、同じことを思っていたわけか。
何かが耳に当たった気がした。得体の知れぬ、熱いもの。崢の唇か、それとも舌か。確かにそれは篤史の耳たぶのあたりを這った。
反射だった。どこにどのように力を込めたのか自分でも分からぬままに篤史は崢の身からすり抜けるとそのまま玄関へ走った。途中で足がもつれて躓き、物が倒れて派手な音を立てた。
「夜道に気をつけろよ」
あまりにも静かな声が背中にかかる。
身を翻して崢を振り向く。尻もちをついたような恰好になった。落ち着きはらった目が篤史を見下ろしながら笑っていて、やがて崢は篤史の前に便所座りをすると、
「連絡先教えてよ」
と言った。スマホなら一応持ってんだよ、と笑う。
だから篤史はポケットに手を入れてそこからスマートフォンを取り出そうとするも手がもつれて床にそれを落とすこととなった。何をこんなに慌てているわけか。手に汗が滲んでいた。急に走ったりしたからか動悸がするし身体が妙に熱かった。
頬にひやりと冷たいものが当たった。崢の手のひらだった。
「りんご色だ」
そう言って崢は、ふっ、と笑った。
りんご色、それが自分の頬の色であることがようやく分かった。そんな篤史を眺めて崢は笑っていて、
「可愛いな」
と言った。
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