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一章 勇者編
3話 始まりの日 後編
しおりを挟む「誰か‥誰か‥‥」
魔の荒野で魔物を倒し続けて数時間、限界が近づき始めてきた頃、突然、途切れ途切れの声が地面の下から聞こえてきた。
相手はまだこちらに気づいていない様子だ。
「何者だ!?」
「あ‥あなた‥は‥‥?」
ルドラが怪しい声に戸惑っていると、途切れ途切れだった声が急に明瞭に変化した。
「失礼しました。私はアルテナです。この世界の創造神です」
「創造神はクロノス神だろう?くだらない嘘を吐くな」
「本当です。1000年前にクロノスがこの世界に侵攻してきて私は敗れて封印されたのです」
「そう言われても本当のことかわからないな」
「そうですよね。では、これではどうでしょう?」
その声とともにルドラの体が白く光り始めた。
「ステータスを確認してください。創造神アルテナの加護というものが与えられている筈です」
慌てて確認すると、確かに創造神アルテナの加護というものが授けられていた。
ステータスは、世界の創造神以外が影響することはできないので、この声の主のいうことは間違えてないのだろう。
「これだけでは信じられないかも知れませんが、少しだけ話を聞いてください。その後判断して欲しいのです」
ルドラはアルテナの声にまるで母のような温かさを感じていた。
だからこそ、話を聞く気になったのだろう。
「私はこの星ロゼッタの創造神で、真名はアルテナと言います。私がこのような状態になったのは、今から数千年前、異世界から侵略してきたクロノスとの戦いに敗れ、封印されたからです」
その声の主はそういって話し始めた。
「大陸の北に開けられた時空の狭間からクロノスとその配下が現れ、今の神国のあたりにあった国を滅ぼして拠点にしました。そして、私たちは彼らを追い払おうとして戦闘になりました。
はじめは優勢で、クロノスの配下は全て倒したのですが、クロノスの邪気に触れた私の仲間たちが暴走し始めて、それに対処しながらクロノスと戦うのは無理があったみたいでやられてしまいました。
最後の力でこの世界からは追い出しましたが、その際に神力を失ってしまいました」
神力とは神々の持つ力で、人々の信仰心によって生じるものだ。
アルテナはその神力を失ってしまったので、神としての存在が保てなくなっていたのだ。
「私が力を取り戻すには失った神力を集めるしかありません。しかし、クロノスの洗脳のせいで信仰心が集まらないのです」
アルテナは最後の力を振り絞ってクロノスをこの世界から追い払ったが、クロノスの干渉を完全に断ち切れたわけではなかった。
クロノスが拠点にしていた神国を中心に精神干渉がかけられているほか、数百年に一度はわずかな時間ながら地上に現界できてしまう。
「もうすぐわたしが力を失ってから二千年が経ちます。この世界の結界も限界が近いです。結界がなくなればクロノスがやってきて、今度こそこの世界は滅びてしまいます。どうかお願いします。クロノスからこの世界を守ってください」
「‥‥わかった。これまでの常識とあまりに違いすぎてまだうまく飲み込めてないけど、あなたのことを信じる」
普段のルドラならこのような判断はしなかっただろうが、不思議とアルテナの言葉は信じる気になった。
ルドラには知る由もないことだが、ここが神国から最も遠い場所であるため精神干渉の影響がほとんどないこと、人としての限界を超えたことで精神耐性が高くなり、過去に受けていた精神干渉からも解放されたこと、そして、ルドラをはじめこの世界の生命の母である創造神アルテナに出会えたことなどの条件が全て揃った奇跡的なことだった。
「ありがとうございます。ルドラさん、あなたには私の代行者として神聖スキルを集めることをお願いします」
神聖スキルとは、人の限界を超越することで得られるスキルで、名前に相応しい強力な性能を持っている。
元々はアルテナの力の一部で、全ての神聖スキルが揃った時、アルテナは復活することができる。
こうして、ルドラは創造神アルテナの代行者となり、世界を救う仲間を集める冒険が始まった。
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