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不穏な気配
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ビルの前に2人の男が立っている。1人は黒のスーツを全身にまとい、髪の毛はセットし、胸ポケットのお守りが特徴的な男だ。
もう1人は季節に合っていない黒のジャケット。髪はボサボサで黒目黒髪、ジャケットとお揃いにするかのように、黒い犬を連れていた。
「いやぁ~それにしても、田中伸太様に覚えてもらえるとは!! 光栄の極みですね」
まずい。俺の名前について、田中伸太だと確信を持たれてしまっている。既になぜばれたのかと理由を聞いてしまったため、今更違うといってももう遅い。
嫌な展開だ。相手は闇サイトの代表者。すなわち、闇サイトには完全にばれてしまったと見ていいだろう。もし、俺が大阪にいるということが何かしらで東京か神奈川にばれてしまえば、その瞬間ゲームオーバー。大阪を離れる事を強制されてしまう。
かくなる上は…………
(…………殺すか?)
これらの俺にとって不利益な状況を一転させる最強の一手。目の前の黒スーツの殺害だ。
不安要素を下から絶ち切り、これからばれるんじゃないかとハラハラする必要もなくなる。幼稚園の時などで体験する芋掘りのように、風呂場のカビを下から断絶するように、不安要素の根っこから引き抜くのだ。
(……しかし、闇サイトでの仕事はやりづらくなってくる……)
俺の使用している闇サイト"千斬"は闇サイトの中でもかなり良質なサイトだ。ウィルスなどがコンピューターに入る心配もなく、裏の人間の求人サイトの様な扱いだ。
千斬が利用できなくなってしまえば、また裏サイト探しからのスタートとなってしまう。その過程で、悪質な裏サイトにアクセスし、住所情報でも特定されてしまえば、それこそ本末転倒。結局情報がばれてしまい、何の得にもなりはしないだろう。
だとすると、今ここで殺すのは得策ではない。
(……仕方がない)
もはや俺が田中伸太だと完璧に知られてしまった。ならば、知られているとわかった上で、物事を進めていくしかない。
「…………おい、質問に答えろよ」
「え? ああ……なぜわかったのか? と言うことですよね? 簡単な話ですよ。金の象像を奪える人なんてごく少数……と言うわけで、あなたが何者なのかを調べることになり、あの時のあなたの姿や形、服のブランドなどを調べ、特定したんですよ……意外と簡単でしたよ?」
なるほど、服のブランドか……いや、しかし……
「服のブランド程度でわかるのか? 俺と同じブランドの服を着てるやつなんて山のようにいるだろ?」
「いやいや! 何をいってるんですか!! 神奈川の都市に大事件を起こしたあなたは、今や裏社会の時の人ですよ! そんな人に注目しないわけがないじゃないですか!!!」
(時の人…………?)
「俺ってそんなに有名なのか?」
「当たり前じゃないですか!!!黒いジャケットを身にまとい、東京の警察を殺し尽くし、神奈川の街を火の海にした話は、派閥が違う関係なしに、今や裏社会では黒ジャケットと言われ日本中に広がっていますよ!」
「そういう事か……」
確かに、黒スーツに報酬を受け取りに行った時も、今現在も黒いジャケットを身に付けている。金の象像を奪ったことによる注目と、黒いジャケットを身に付けていたことによって俺だとばれてしまったと言うわけだ。
(それにしても黒ジャケットって……ダサイなぁ)
いや、今はそんなことを考えている暇は無い。
「……まて、て事は、俺が田中伸太だって事が日本中にばれているってことか?」
「いえいえ、ご安心ください。黒ジャケットが田中伸太様だと言う事は知られていませんよ」
「じゃあ、なんでお前は名前を知っていたんだ?」
「ウチには優秀な諜報員がいましてね……元々、黒ジャケット様については調べていましたので、何とか今日までに知ることができたと言うわけです」
「…………」
「…………ああ! 気にしないでいいですよ!! 我々は名前をばらしはしません。そんなことをしても、我々に得はありませんからね」
「……本当だな?」
「神に誓って」
…………今は信じるしかない。人の口なんて、口止めするスキルでもないと止める方法は無いのだから。
しかし、既に日本中に俺の話が広がっているだと。それは都合が悪い。俺の目標のためには、裏社会の奴らにかまっている暇は無い。どうにか良い案はないものか。
「それで、今回お呼びした理由なのですが……」
俺が解決案について考えているなんて事はつゆ知らず、黒スーツは俺に向かって喋り始める。
「あなたの黒ジャケットとしての強さを見込んで……」
いっそのこと、服を全て着替えるのも1つの手だ。服さえ着替えてしまえば俺だと特定するのは難しいだろう。
しかし、このジャケットには少なからず思い入れがある。俺の決意とこれからの道を共に決めた高校生活の時代に唯一残った遺品と言える。
思い出の詰まった……なんては言わないが、今更これを手放すのには、少し抵抗感がある。
どうにか服装を変えることなく、俺だとバレない方法はないのか。
「ウチのサイトの中でも、重要な任務を優先して田中伸太様にを受けてもらいたいのです!!」
(もういっそのこと、整形手術でも受けるか? しかし、その分の金はどれくらいかかるか分からないし…………ん?)
「…………はい?」
――――
「はぁー…………」
「クゥーン…………」
あれから数十分、午後2時。
俺とブラックは今、我が家のドアの前に立っている。
あの時、黒スーツが俺と話したかった理由は、重要な任務を優先して俺にこなしてほしいと言う事だった。
なんでも、俺に対しては特別にパソコンのメールに優先的に重要な任務を送ってくれるらしい。
無論、重要な任務であればあるほど、報酬も多い。俺の黒ジャケットとしてのブランドが初めて輝いた瞬間である。
俺は断る理由もなく、二つ返事でオーケーを出し、闇サイトとの協力関係が決まった。
(まさか、黒ジャケットだと名が売れていたおかげで、こんなに嬉しい誤算があるとは……これで重要な任務を達成すれば金の問題は一気に解決する! よし!! これであのクソ袖女とはおさらばだぜ!!!)
俺はルンルン気分でドアノブを捻り、我が家の出入口に入ると…………
「……お?」
「…………お帰りなさい」
明るい家の中、玄関に入ってくる人物が1人。俺の家にいる人物といえば、1人しかいなかった。
しかし、様子がおかしい。どこかモジモジとしている。どこか我慢しているように頭を伏せ、目だけはちらちらとこちらを向いていた。
「……どうした?」
「いっ! いえ!! なんでも…………あっ、そっ、そうだ! 持ち物! ジャケットでも何でも持ちますよ!」
「えっ…………あ、ああ……」
持ち物は何もなかったので、俺はジャケットを脱ぎ、袖女に渡す。袖女はそれを受け取り、俺と同じ歩幅でリビングへと向かっていた。
「お昼ごはんは……」
「いや、途中のコンビニで食べておいた」
「あっ、そ、そうですか…………」
「…………」
(何かあったのか……? いや、俺がわざわざ考えることでもないか)
1日前と様変わりした明らかにおかしい言動、態度。それに一瞬うろたえたが、俺が気にすることでもないと思い、頭を切り替える。
「ウ……ウウ…………?」
ブラックも相当混乱しているようで、高速で首を振り、俺と袖女を交互に何度も見ていた。
「あっ、あの…………」
「ちょ……」
リビングに向かう途中、何度も俺に話しかけようとしてくるので、俺は無視を決め込んでいた。
なんか面白い。こいつが俺に話しかけるのに失敗して、しゅんとしている姿を見ると、なんだかゾクゾクしてくる。俺はSなのかもしれない。
「あっ…………あの!!!」
ついに袖女も覚悟を決めたのか、俺の服の裾をつかみ、俺を止める。
…………まぁ、そろそろ反応してやってもいいだろう。
「…………なんだよ」
「その…………えっと…………」
やはりいいにくい事なのか、少し言いあぐねている様だ。そんなにもったいぶられては、こちらも気になってしまう。
袖女の言葉が気になり、俺も待つこと数分。
「…………っ!」
袖女も決心したようで、ずっと伏せていた顔を持ち上げ、俺と目を合わせる。
そして、言葉を発した。
「…………一緒に、ゲームしませんかっ!!!」
「…………」
言い切ったらしい袖女はよほど恥ずかしかったのか、一気に顔を真っ赤にし、伏せる。
はただ、目線だけはチラチラとこちらを向いていて、返答を待っているようだった。
「あの……どうでしょうか…………」
「…………」
どうやら、俺の1日はまだまだ終わってくれないらしい。
もう1人は季節に合っていない黒のジャケット。髪はボサボサで黒目黒髪、ジャケットとお揃いにするかのように、黒い犬を連れていた。
「いやぁ~それにしても、田中伸太様に覚えてもらえるとは!! 光栄の極みですね」
まずい。俺の名前について、田中伸太だと確信を持たれてしまっている。既になぜばれたのかと理由を聞いてしまったため、今更違うといってももう遅い。
嫌な展開だ。相手は闇サイトの代表者。すなわち、闇サイトには完全にばれてしまったと見ていいだろう。もし、俺が大阪にいるということが何かしらで東京か神奈川にばれてしまえば、その瞬間ゲームオーバー。大阪を離れる事を強制されてしまう。
かくなる上は…………
(…………殺すか?)
これらの俺にとって不利益な状況を一転させる最強の一手。目の前の黒スーツの殺害だ。
不安要素を下から絶ち切り、これからばれるんじゃないかとハラハラする必要もなくなる。幼稚園の時などで体験する芋掘りのように、風呂場のカビを下から断絶するように、不安要素の根っこから引き抜くのだ。
(……しかし、闇サイトでの仕事はやりづらくなってくる……)
俺の使用している闇サイト"千斬"は闇サイトの中でもかなり良質なサイトだ。ウィルスなどがコンピューターに入る心配もなく、裏の人間の求人サイトの様な扱いだ。
千斬が利用できなくなってしまえば、また裏サイト探しからのスタートとなってしまう。その過程で、悪質な裏サイトにアクセスし、住所情報でも特定されてしまえば、それこそ本末転倒。結局情報がばれてしまい、何の得にもなりはしないだろう。
だとすると、今ここで殺すのは得策ではない。
(……仕方がない)
もはや俺が田中伸太だと完璧に知られてしまった。ならば、知られているとわかった上で、物事を進めていくしかない。
「…………おい、質問に答えろよ」
「え? ああ……なぜわかったのか? と言うことですよね? 簡単な話ですよ。金の象像を奪える人なんてごく少数……と言うわけで、あなたが何者なのかを調べることになり、あの時のあなたの姿や形、服のブランドなどを調べ、特定したんですよ……意外と簡単でしたよ?」
なるほど、服のブランドか……いや、しかし……
「服のブランド程度でわかるのか? 俺と同じブランドの服を着てるやつなんて山のようにいるだろ?」
「いやいや! 何をいってるんですか!! 神奈川の都市に大事件を起こしたあなたは、今や裏社会の時の人ですよ! そんな人に注目しないわけがないじゃないですか!!!」
(時の人…………?)
「俺ってそんなに有名なのか?」
「当たり前じゃないですか!!!黒いジャケットを身にまとい、東京の警察を殺し尽くし、神奈川の街を火の海にした話は、派閥が違う関係なしに、今や裏社会では黒ジャケットと言われ日本中に広がっていますよ!」
「そういう事か……」
確かに、黒スーツに報酬を受け取りに行った時も、今現在も黒いジャケットを身に付けている。金の象像を奪ったことによる注目と、黒いジャケットを身に付けていたことによって俺だとばれてしまったと言うわけだ。
(それにしても黒ジャケットって……ダサイなぁ)
いや、今はそんなことを考えている暇は無い。
「……まて、て事は、俺が田中伸太だって事が日本中にばれているってことか?」
「いえいえ、ご安心ください。黒ジャケットが田中伸太様だと言う事は知られていませんよ」
「じゃあ、なんでお前は名前を知っていたんだ?」
「ウチには優秀な諜報員がいましてね……元々、黒ジャケット様については調べていましたので、何とか今日までに知ることができたと言うわけです」
「…………」
「…………ああ! 気にしないでいいですよ!! 我々は名前をばらしはしません。そんなことをしても、我々に得はありませんからね」
「……本当だな?」
「神に誓って」
…………今は信じるしかない。人の口なんて、口止めするスキルでもないと止める方法は無いのだから。
しかし、既に日本中に俺の話が広がっているだと。それは都合が悪い。俺の目標のためには、裏社会の奴らにかまっている暇は無い。どうにか良い案はないものか。
「それで、今回お呼びした理由なのですが……」
俺が解決案について考えているなんて事はつゆ知らず、黒スーツは俺に向かって喋り始める。
「あなたの黒ジャケットとしての強さを見込んで……」
いっそのこと、服を全て着替えるのも1つの手だ。服さえ着替えてしまえば俺だと特定するのは難しいだろう。
しかし、このジャケットには少なからず思い入れがある。俺の決意とこれからの道を共に決めた高校生活の時代に唯一残った遺品と言える。
思い出の詰まった……なんては言わないが、今更これを手放すのには、少し抵抗感がある。
どうにか服装を変えることなく、俺だとバレない方法はないのか。
「ウチのサイトの中でも、重要な任務を優先して田中伸太様にを受けてもらいたいのです!!」
(もういっそのこと、整形手術でも受けるか? しかし、その分の金はどれくらいかかるか分からないし…………ん?)
「…………はい?」
――――
「はぁー…………」
「クゥーン…………」
あれから数十分、午後2時。
俺とブラックは今、我が家のドアの前に立っている。
あの時、黒スーツが俺と話したかった理由は、重要な任務を優先して俺にこなしてほしいと言う事だった。
なんでも、俺に対しては特別にパソコンのメールに優先的に重要な任務を送ってくれるらしい。
無論、重要な任務であればあるほど、報酬も多い。俺の黒ジャケットとしてのブランドが初めて輝いた瞬間である。
俺は断る理由もなく、二つ返事でオーケーを出し、闇サイトとの協力関係が決まった。
(まさか、黒ジャケットだと名が売れていたおかげで、こんなに嬉しい誤算があるとは……これで重要な任務を達成すれば金の問題は一気に解決する! よし!! これであのクソ袖女とはおさらばだぜ!!!)
俺はルンルン気分でドアノブを捻り、我が家の出入口に入ると…………
「……お?」
「…………お帰りなさい」
明るい家の中、玄関に入ってくる人物が1人。俺の家にいる人物といえば、1人しかいなかった。
しかし、様子がおかしい。どこかモジモジとしている。どこか我慢しているように頭を伏せ、目だけはちらちらとこちらを向いていた。
「……どうした?」
「いっ! いえ!! なんでも…………あっ、そっ、そうだ! 持ち物! ジャケットでも何でも持ちますよ!」
「えっ…………あ、ああ……」
持ち物は何もなかったので、俺はジャケットを脱ぎ、袖女に渡す。袖女はそれを受け取り、俺と同じ歩幅でリビングへと向かっていた。
「お昼ごはんは……」
「いや、途中のコンビニで食べておいた」
「あっ、そ、そうですか…………」
「…………」
(何かあったのか……? いや、俺がわざわざ考えることでもないか)
1日前と様変わりした明らかにおかしい言動、態度。それに一瞬うろたえたが、俺が気にすることでもないと思い、頭を切り替える。
「ウ……ウウ…………?」
ブラックも相当混乱しているようで、高速で首を振り、俺と袖女を交互に何度も見ていた。
「あっ、あの…………」
「ちょ……」
リビングに向かう途中、何度も俺に話しかけようとしてくるので、俺は無視を決め込んでいた。
なんか面白い。こいつが俺に話しかけるのに失敗して、しゅんとしている姿を見ると、なんだかゾクゾクしてくる。俺はSなのかもしれない。
「あっ…………あの!!!」
ついに袖女も覚悟を決めたのか、俺の服の裾をつかみ、俺を止める。
…………まぁ、そろそろ反応してやってもいいだろう。
「…………なんだよ」
「その…………えっと…………」
やはりいいにくい事なのか、少し言いあぐねている様だ。そんなにもったいぶられては、こちらも気になってしまう。
袖女の言葉が気になり、俺も待つこと数分。
「…………っ!」
袖女も決心したようで、ずっと伏せていた顔を持ち上げ、俺と目を合わせる。
そして、言葉を発した。
「…………一緒に、ゲームしませんかっ!!!」
「…………」
言い切ったらしい袖女はよほど恥ずかしかったのか、一気に顔を真っ赤にし、伏せる。
はただ、目線だけはチラチラとこちらを向いていて、返答を待っているようだった。
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