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やったるか
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「あー……えっと……」
冷や汗をかく俺を見ながら、黒犬は尻尾を振り、財布をくわえながら俺を見る。褒めて欲しいのだろうか、財布をくわえたまま座り始めた。
「…………はぁ」
俺は黒犬の前に座り込み、右手を鼻に近づける。犬と言うのは匂いを嗅がないと安心しない。よって自分の匂いを嗅がせることによって、安心させると言う事だ。
黒犬が右手を嗅ぐのに満足したように、右手から鼻をはずす。どうやら安心したようだ。
「……よしよし」
早速頭を撫でる。犬の頭を撫でるなんて初めてだが、どうやらこちらの才能はあったようだ。黒犬は気持ちよさそうに体をくねらせている。
……まぁ、せっかく慣れているんだし、気持ちよくなってもらった方がこちらも気分が良い。
「よ~しよしよし………よ~しよし………」
右手で黒犬を撫でている間、左手を使って、ゆっくりとソフトに、優しく黒犬の口から財布を手繰り寄せる。
(キタ! きたぞ!!)
そうやって、ついに黒犬の口から財布を入手することに成功した。右手の平に、茶色の財布をしっかりと握る。もう離さない。もう逃しはしないぞ。
中身を確認し、銀行から金を引き出すカードがちゃんと入っていることを確認する。この時代の銀行はカード制だ。この1枚がなければ、金を引き出す事すらできない。こんな板切れ1つに人生がかかっているのだ。怖い時代である。
(勝った! 終了!! この戯れ終了!! もうとっとと不動産屋へ行こう!!)
なんかテンションがおかしい。ありえないことの連続で、脳が疲れているのだろう。ああやばい。頭が痛くなってきた。
黒犬にはかわいそうだが、財布を取り戻したことだし、そっと逃げさせてもらおう。野良犬を引き取れるほどお金はないし、俺のような追われている身では、食わせてやることさえ難しくなってくるだろう。こいつ自身も、ある程度裕福で幸せそうな家庭に拾われた方が幸せに違いない。
黒犬から頭を離し、ゆっくりゆっくりと、警戒されないよう、黒犬から目を離さず立ち上がる。そうして立ち上がりきった後。体を右へ向け、走る準備を整え……
「いい人に拾ってもらえよ……じゃなっ!!!!」
急激に後ろを振り向き、凄まじい勢いでダッシュする。交通量の多い歩道なので、さすがに反射は使わないが、今までの濃い戦いによって培われた高校1年生のダッシュだ。そこそこ速い。
俺はすれ違う方々に、走りながら謝罪し続け、黒犬を振り切ろうと走り続ける。
犬の速度と言うのは最低でも16.6キロ。速いタイプの犬種だと、30キロを超えると言う。
チワワでも27.7キロ。一般男性の速度を軽く超越している。あの黒犬もチワワ程度の大きさだったため、それくらいの足はあるだろう。
走りやすい場所だったならば。
ここは歩道である。地面はコンクリートで整備されており、交通量も多い。すれ違った人に何度も謝罪する俺の姿を見れば、その交通量は見てとれるだろう。
犬の事については詳しくはないが、こんな状況では、ろくに速度も出せないはずだ。
蛇が草むらでは人間を超える速度を持つが、平坦な場では人間には追いつけないように、こんな場の状態では、足が太く、グリップが利く人間の方が有利なはず。
多分そのはずだ。
(振り切れる……振り切れるぞ!!!)
このまま不動産屋へ直行だ。
――――
「ハァ……ハァ……」
あの後、俺は全力疾走を続け、不動産屋の前までたどりついていた。人間とは成長するものだ。俺のスタミナも多少伸びていると言う事だろう。
俺は膝に手をつけ、いかにも疲れていますよと言うポーズをとる。
「なのに…………」
「なんでついてくるんだよ……」
「ハッ…………ハアッ……ハッ、ハッハッ」
俺の後ろには、ぴったりと黒犬がついてきており、舌を口から出し、肩で息をしていた。
しかし、疲れていても目だけはこちらに向いていて、ついてくる意志が感じられる。
(もう付き合いきれん……とっとと不動産屋に入って、興味をなくしてもらおう)
俺は、膝から手を離し、すぐ横の不動産屋に目を向ける。
不動産屋は壁から自動ドアまでガラス張りで、壁に物件の写真と値段の書いた紙がいくつもはってあるよくある作りだ。不動産屋に入るのはもちろん初めてだし、こうゆうのは遠目でしか見たことなかったため、少し緊張してしまう。
「よし……入るぞ……」
満を持して自動ドアの前に立つ。ウィーンと言う機械音を立て、一人暮らしへの登竜門が開かれた。
「いらっしゃいませー」
自動ドアに入ると、元気良い挨拶が耳に入り、俺は不動産屋に入ったんだということを実感させる。
席につくと、アドバイザー? らしき方から、よくわからん様々な説明を聞き流す。
その時、あの黒犬は……
(何やってんだあいつ……)
不動産屋の前を右へ左へ、ガラスに突っ込んで頭をぶつけたりして、どうにかして俺の元へ行こうとしていた。
どうやら自動ドアの仕組みを分かっていないらしく、突然俺の元へいけなくなったことにかなり焦っているらしい。
「あの~…お客様?」
「あっ! すみません!! つい……」
まずい、聞き流していることがばれてしまった。せめて聞いているふりはしなくては。
そう言いながらも、俺の目はちらちらと黒犬の方を向いていた。
客の1人が自動ドアを通り、不動産屋の中に入っていく。
それを見たことによって、黒犬もそのことに気づいたのか、自動ドアのある部分に立ち、前方を前足で何もない前方をお手の応用で確認する。
もちろんそこにはガラス張りの自動ドア。前足は音を立て、自動ドアにぶつかった。
「……ハッ!!」
(気づいた……!)
しかし、さすがは俺の財布の位置を察知した黒犬だ。両足で自動ドアに触れ、その存在をしっかりと確認する。
すると……
「……ハッハッ」
(……!!)
なんと自動ドアの前で、両足を何度も地面に叩きつけ始めた。どうやら自動ドアの仕組みを理解したらしい。
(本能的なのか考えたのかは知らないが……頭よすぎないか? 新しい犬種的なやつか?)
「お客様?」
「はい!! 聞いてます!!!!」
しかし、もともとのサイズがチワワ程度しかないので、自動ドアを開けるにも一苦労だ。十数回自動ドアの前で両足を叩きつけた後、ようやっと自動ドアが開く。
「……ハァッ!!!!」
(明らか喜んでるなぁ……)
めちゃめちゃにうれしそうだ。何がそこまであの黒犬を喜ばせるんだ。
黒犬は俺を見つけると、俺に向かって駆け出そうとしてくる。
しかし。
ここは不動産屋。無論、人間のための施設だ。こんなところに犬なんてもの入れちゃいけない。当然のように従業員に止められる。体をつかまれ、外に出て行かされそうだ。
(……まぁ、仕方ないよな。俺の金だっていつまでもつか分かんないんだし)
「では、お求めの物件の要望等はありますか?」
おっと、そんなことを考えているうちに、肝心の物件の条件を聞かれる。これは重要だ。少し緊張するが、ここではっきりと条件を決めなくては今後の生活を大きく左右する。
「はいっ! えっと……できれば、安いマンションでちゃんとトイレとお風呂が分けてあるところがいいです!」
よし言えた。特に一人暮らしにとって、特にトイレとお風呂が分けてあるのは重要だ。ユニットバスとかマジで不便だからね。あ、あくまで個人の感想であることをお忘れなく。
「……はい! わかりました! では少々お待ちを……」
そう言い、従業員は専用の巨大スマートフォンをチェックし、俺の要望に合った物を探していく。
「……はい! お待たせ致しました!」
思ったより早かった。さすがは現代技術といったところか。
「ではこちらの物件は……」
遂に始まる。そう思い、気合を入れ直したその時。
「ワン!! ワーン!!!!」
不動産屋の室内に、大きな犬の声がこだまする。声が聞こえた方を振り向くと、従業員に取り押さえられながらも、必死に俺の元に向かおうとする黒犬の姿があった。
「ワンワン!!!」
「申し訳ありませんお客様。すぐに外に出しますので……」
泣き叫ぶ黒犬の声。目の前の従業員が謝罪するが、俺はそんな事は聞いていなかった。
俺が感じていたのは、目の前の事だけだった。
黒犬が泣き叫ぶ声。
従業員に群がられ、強引に外に出されようとする。
必死に抵抗する黒犬。
その姿は。
昔の俺を彷仏とさせた。
「…………あの、今更なんですけど、要望の追加ってできますか」
「え? あっ、はい。今ならすぐにでも……」
「じゃあ、今までの要望にプラスで……」
「ペットOKなところってあります?」
冷や汗をかく俺を見ながら、黒犬は尻尾を振り、財布をくわえながら俺を見る。褒めて欲しいのだろうか、財布をくわえたまま座り始めた。
「…………はぁ」
俺は黒犬の前に座り込み、右手を鼻に近づける。犬と言うのは匂いを嗅がないと安心しない。よって自分の匂いを嗅がせることによって、安心させると言う事だ。
黒犬が右手を嗅ぐのに満足したように、右手から鼻をはずす。どうやら安心したようだ。
「……よしよし」
早速頭を撫でる。犬の頭を撫でるなんて初めてだが、どうやらこちらの才能はあったようだ。黒犬は気持ちよさそうに体をくねらせている。
……まぁ、せっかく慣れているんだし、気持ちよくなってもらった方がこちらも気分が良い。
「よ~しよしよし………よ~しよし………」
右手で黒犬を撫でている間、左手を使って、ゆっくりとソフトに、優しく黒犬の口から財布を手繰り寄せる。
(キタ! きたぞ!!)
そうやって、ついに黒犬の口から財布を入手することに成功した。右手の平に、茶色の財布をしっかりと握る。もう離さない。もう逃しはしないぞ。
中身を確認し、銀行から金を引き出すカードがちゃんと入っていることを確認する。この時代の銀行はカード制だ。この1枚がなければ、金を引き出す事すらできない。こんな板切れ1つに人生がかかっているのだ。怖い時代である。
(勝った! 終了!! この戯れ終了!! もうとっとと不動産屋へ行こう!!)
なんかテンションがおかしい。ありえないことの連続で、脳が疲れているのだろう。ああやばい。頭が痛くなってきた。
黒犬にはかわいそうだが、財布を取り戻したことだし、そっと逃げさせてもらおう。野良犬を引き取れるほどお金はないし、俺のような追われている身では、食わせてやることさえ難しくなってくるだろう。こいつ自身も、ある程度裕福で幸せそうな家庭に拾われた方が幸せに違いない。
黒犬から頭を離し、ゆっくりゆっくりと、警戒されないよう、黒犬から目を離さず立ち上がる。そうして立ち上がりきった後。体を右へ向け、走る準備を整え……
「いい人に拾ってもらえよ……じゃなっ!!!!」
急激に後ろを振り向き、凄まじい勢いでダッシュする。交通量の多い歩道なので、さすがに反射は使わないが、今までの濃い戦いによって培われた高校1年生のダッシュだ。そこそこ速い。
俺はすれ違う方々に、走りながら謝罪し続け、黒犬を振り切ろうと走り続ける。
犬の速度と言うのは最低でも16.6キロ。速いタイプの犬種だと、30キロを超えると言う。
チワワでも27.7キロ。一般男性の速度を軽く超越している。あの黒犬もチワワ程度の大きさだったため、それくらいの足はあるだろう。
走りやすい場所だったならば。
ここは歩道である。地面はコンクリートで整備されており、交通量も多い。すれ違った人に何度も謝罪する俺の姿を見れば、その交通量は見てとれるだろう。
犬の事については詳しくはないが、こんな状況では、ろくに速度も出せないはずだ。
蛇が草むらでは人間を超える速度を持つが、平坦な場では人間には追いつけないように、こんな場の状態では、足が太く、グリップが利く人間の方が有利なはず。
多分そのはずだ。
(振り切れる……振り切れるぞ!!!)
このまま不動産屋へ直行だ。
――――
「ハァ……ハァ……」
あの後、俺は全力疾走を続け、不動産屋の前までたどりついていた。人間とは成長するものだ。俺のスタミナも多少伸びていると言う事だろう。
俺は膝に手をつけ、いかにも疲れていますよと言うポーズをとる。
「なのに…………」
「なんでついてくるんだよ……」
「ハッ…………ハアッ……ハッ、ハッハッ」
俺の後ろには、ぴったりと黒犬がついてきており、舌を口から出し、肩で息をしていた。
しかし、疲れていても目だけはこちらに向いていて、ついてくる意志が感じられる。
(もう付き合いきれん……とっとと不動産屋に入って、興味をなくしてもらおう)
俺は、膝から手を離し、すぐ横の不動産屋に目を向ける。
不動産屋は壁から自動ドアまでガラス張りで、壁に物件の写真と値段の書いた紙がいくつもはってあるよくある作りだ。不動産屋に入るのはもちろん初めてだし、こうゆうのは遠目でしか見たことなかったため、少し緊張してしまう。
「よし……入るぞ……」
満を持して自動ドアの前に立つ。ウィーンと言う機械音を立て、一人暮らしへの登竜門が開かれた。
「いらっしゃいませー」
自動ドアに入ると、元気良い挨拶が耳に入り、俺は不動産屋に入ったんだということを実感させる。
席につくと、アドバイザー? らしき方から、よくわからん様々な説明を聞き流す。
その時、あの黒犬は……
(何やってんだあいつ……)
不動産屋の前を右へ左へ、ガラスに突っ込んで頭をぶつけたりして、どうにかして俺の元へ行こうとしていた。
どうやら自動ドアの仕組みを分かっていないらしく、突然俺の元へいけなくなったことにかなり焦っているらしい。
「あの~…お客様?」
「あっ! すみません!! つい……」
まずい、聞き流していることがばれてしまった。せめて聞いているふりはしなくては。
そう言いながらも、俺の目はちらちらと黒犬の方を向いていた。
客の1人が自動ドアを通り、不動産屋の中に入っていく。
それを見たことによって、黒犬もそのことに気づいたのか、自動ドアのある部分に立ち、前方を前足で何もない前方をお手の応用で確認する。
もちろんそこにはガラス張りの自動ドア。前足は音を立て、自動ドアにぶつかった。
「……ハッ!!」
(気づいた……!)
しかし、さすがは俺の財布の位置を察知した黒犬だ。両足で自動ドアに触れ、その存在をしっかりと確認する。
すると……
「……ハッハッ」
(……!!)
なんと自動ドアの前で、両足を何度も地面に叩きつけ始めた。どうやら自動ドアの仕組みを理解したらしい。
(本能的なのか考えたのかは知らないが……頭よすぎないか? 新しい犬種的なやつか?)
「お客様?」
「はい!! 聞いてます!!!!」
しかし、もともとのサイズがチワワ程度しかないので、自動ドアを開けるにも一苦労だ。十数回自動ドアの前で両足を叩きつけた後、ようやっと自動ドアが開く。
「……ハァッ!!!!」
(明らか喜んでるなぁ……)
めちゃめちゃにうれしそうだ。何がそこまであの黒犬を喜ばせるんだ。
黒犬は俺を見つけると、俺に向かって駆け出そうとしてくる。
しかし。
ここは不動産屋。無論、人間のための施設だ。こんなところに犬なんてもの入れちゃいけない。当然のように従業員に止められる。体をつかまれ、外に出て行かされそうだ。
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そう言い、従業員は専用の巨大スマートフォンをチェックし、俺の要望に合った物を探していく。
「……はい! お待たせ致しました!」
思ったより早かった。さすがは現代技術といったところか。
「ではこちらの物件は……」
遂に始まる。そう思い、気合を入れ直したその時。
「ワン!! ワーン!!!!」
不動産屋の室内に、大きな犬の声がこだまする。声が聞こえた方を振り向くと、従業員に取り押さえられながらも、必死に俺の元に向かおうとする黒犬の姿があった。
「ワンワン!!!」
「申し訳ありませんお客様。すぐに外に出しますので……」
泣き叫ぶ黒犬の声。目の前の従業員が謝罪するが、俺はそんな事は聞いていなかった。
俺が感じていたのは、目の前の事だけだった。
黒犬が泣き叫ぶ声。
従業員に群がられ、強引に外に出されようとする。
必死に抵抗する黒犬。
その姿は。
昔の俺を彷仏とさせた。
「…………あの、今更なんですけど、要望の追加ってできますか」
「え? あっ、はい。今ならすぐにでも……」
「じゃあ、今までの要望にプラスで……」
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