底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎

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急接近

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「ふ~ん、ふふふふ~んふ~ん」

 伸太に下級ポーションを使って4時間が経過。既に時間は11時を回り、東京A市に向かう高速道路に乗り込んでいた。ワシは鼻歌を歌いながら、リムジンで150キロを出して移動している真っ最中だ。

「さてと……どんなもんかの」

 会場からはかなりの距離をとった。今からでは、いくらチェス隊であろうと、索敵にはかなりの時間がかかるだろう。

「……いや」

「近づいてきているのう……確実に」

 感じる。残り一つのスチールアイから、確実にこちらに向かって動いている人影が見える。通常、ワシのスチールアイは何かをしながらだと使いにくいが、あくまで使いにくいだけだ。使えないなど一言も言っていない。それに道もまっすぐなので、スチールアイに集中できた。
 人影の数は4つ、スーパーマンのように飛行しながら移動している……夜の視界の悪さで、誰かまでは認識できないが、こちらに向かって確実に進んでいる。

(速度は170キロ程度か……ワシのスチールアイが追いきれない。恐るべき速度じゃ)

 このままでは追いつかれてしまう。何とかして振りきらなければ。
 そう思い、ワシはさらにアクセルを踏み込んだ。








 ――――








『標的、さらに速度を上げて移動しています』

「ありがとうございます! さすがですねぇ!」

『いえ……』

 騎道優斗は無線でつながっている相手と通信を取る。通信をとっているのはチェス隊の索敵スキル保持者のようで、位置を無線で知らせていた。

「じゃあ、また変化があったら連絡ください! ではでは!」

『は、はぁ……では』

 通信が切れる。そんな1連の動作中も、Max170キロの速度で移動し続けていた。

「よかったじゃないか優斗。異能大臣が根回ししてくれたんだろ?」

 宗太郎が優斗に向かって話しかける。宗太郎が話しかけている間も、優斗は夢見心地のようで、口が裂けたのかと思うほどニヤついていた。

「まったくだぜ! おかげでチェス隊の娘と二人っきりで会話できるなんて……異能大臣には感謝しないとな!」

「…………」

「…………」

 そんな2人とは対照的に、雄馬と友燐は沈黙しながら移動していた。

「おい! 雄馬! お前一体どうしたんだ? 出発した時から元気がないぜ?」

 優斗は先ほどから沈黙しっぱなしの雄馬に喋りかける。異性である友燐より、兄弟である雄馬の方が喋りかけやすいようだ。

「……都合がよすぎると思わないか?」

「はぁ? どういうことだよ」

「……友燐、お前も感づいているはずだ。今、俺たちの置かれている立場を」

「……まぁ」

「? はぁ? 一体どういうことだよ」

 優斗と宗太郎は一体何のことかわかっていない様だ。
 雄馬はやれやれといった表情をしながら、2人に対して説明を始めた。

「不自然だと思わないか? おそらく、ウルトロンとか言う代物はかなり貴重なものなんだろう。だとしたら、俺たちのような任務もしていない高校生に任せるか?」

「そんなもん決まってんだろ? 俺たちがハイパーだからさ!! 期待されてるってやつに決まってるぜ!」

「期待されてるとしてもだ。普通に考えてこんな隠密任務をさせるか? 相手方の情報も渡されていない。あまりにも危険すぎる。こんな任務、もっとベテランがやるべき任務なんだ。あまりにも不可解すぎる」

「そんなもんか……? でもよ、先に交戦した黒のポーンによってもう瀕死状態だって聞いたぜ? 黒のビショップが言ってたらしいから信憑性も高いし……そこまで疑うほどじゃねーんじゃねぇか?」

「瀕死の状態でここまで速くリムジンを運転できるか?」

「そこは……人質を使ってるって言われたじゃねぇか!」

「…………どうだかな」

 話を聞くに、伸太のできるだけの情報が4人の耳に入っている様だ。
 優斗との会話を切り上げ、また雄馬は沈黙し、考え込む。
 優斗と宗太郎は気にしないことにしたのか、2人で会話し始めたようだ。

 そんな中、雄馬は考える。

(なぜだ……優斗と宗太郎は気にしていないようだが、こんな任務、俺たちのようなひよっ子がやっていい任務では無い
……これではまるで、犯人を捕まえるわけではなく、犯人を試すかの様な……)

「おい雄馬! 出力落ちてるぞ!」

 考え込んでいると、横から宗太郎の声が聞こえる。どうやら魔剣の出力を無意識のうちに落とし、飛行する速度が下がっていた様だ。

「……すまない」

 魔剣に意識を集中し、出力を戻す。それによりスピードが元に戻り、高速で移動し始める。

「とにかく、目の前の事に集中せねばな」








 ――――








「まずい……確実に距離を詰められておる……!」

 初めて4人の人影を確認して1時間が経過。8キロ以上の距離があった敵は、今やあと1キロと言う所まで接近してきていた。

「どうする……まだ東京にはたどり着いておらんぞ……!」

 かなりまずい展開だ。このままいけば、あと30分としないうちにリムジンへ到着されてしまう。高速道路でのリムジン。これほど目立つものはない。到着されてしまえばすぐにでも見つかり、つかまってしまう。

「せめて乗り換えができれば……!」

 乗り換えて通常車にできれば、到着されてもぱっと見わからないためまだ時間稼ぎはできるだろう。それに車によっては、さらに速いスピードを出せる車もあるはずだ。

「……しかしの~」

 ここは高速道路だ。周りの車ももちろん高速で動いている。そんな映画みたいな乗り換えなんてできやしないし、伸太が動けない以上、ワシがもし筋肉ムキムキの18歳だったとしても不可能だろう。
 となると、ワシ1人で4人を相手にするわけだが……

(100%無理じゃな……)

「伸太は……」

 ワシは運転しながら伸太のいる後ろを振り向く。時たま伸太の容体を目線でチェックしていたが、凄まじい生命力だ。
最初のほうは普通の人間と変わらないとか言っていたが、時間が経てば経つほど、伸太の異常性が確認できた。

 最初の方がわからなかったが、体が治ると言うより、体が形を維持しようとする力が半端ではない。おそらく動脈も切れていてもっと血が出てもいいはずだが、既に血は完全とは言えないとはいえ止血されており、肌色もそこまで悪いわけではない。しかし、だからといって戦えるような肉体をしていない。伸太の助けは期待できない。

「くそ……何か……何か手は……」

『この先、100メートルでサービスエリアです』

 考え込んだ瞬間、リムジンのナビが音を出す。こちらはかなり絶望的な状況にもかかわらず、呑気なことだと少し苛立つ。

「うるさいのう……そんなことを言うなら、ナビも少し考えて……サービスエリア?」

 その時、ワシの頭に浮かんだ名案。頭の中に電流が走る。例えるならば、わからなかった問題が解けたときのような爽快感。硬いペットボトルの蓋が開いた時のような達成感。そのような感じのものが体の中を駆け巡る。

「これじゃ……これならいける! ようやったぞナビ!!」


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