底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎

文字の大きさ
上 下
67 / 151

変わらない

しおりを挟む
(な……にを…………)

 浅間ひよりは困惑していた。
 成長していないとはどういうことなのか、それに何より、犯罪者相手に組み伏せられ、手首を突き刺され、首を握られている自分自身に憤りを感じていた。

「ぐ……おあ……」

「…………」

 駄目だ。そんなことを考えている暇は無い。ここから脱出することが難しいのならば、他のチェス隊員が来てくれることを祈り、時間を稼ぐほかない。少なくとも彼が私を止めるのに必死な以上、民間人に被害を与えるのは不可能のはずだ。

 とにもかくにも、どうにかして時間を稼がなくては。

 私は、酸素が足りない脳をフル回転させ、時間を稼ぐ方法を見つけ出す。

「ゴホッ……なん、で……」

「……」

「なんで……わ、か……た?」

 伝えた。聞こえたはずだ。
 時間を稼ぐことしかできない私が、唯一出せる方法。なぜ私をこの状態まで持っていくことができたのか。

 これを聞くことには2つの意味がある。
 1つ目は単に時間を稼ぐこと。そしてもう一つが……本当に私の弱点を知られたのか、この2つである。特に、後者を聞き取ることができれば、私の人間関係を洗い、彼が誰だか特定できるかもしれない。

 そう、この質問には1つの言葉に2つの意味があるのだ。

 ……それに、なぜバレたのか。純粋な興味も……ないわけではない。



 ……意味が3つになってしまった。




 とにかく、この考えは、彼が応じてくれないと何の意味もない。ここは、彼を刺激しないようじっと待ち、答えてくれるのを待つしかない。


「……俺が」

(きた……!)

 きた。来たぞ。思いのほか早かった。単にバカなんだろうか? それとも、敵が来ても対処可能と思ったのか? どちらにしても、時間を使ってくれるのはありがたい。

 私は、周りを見ながらも、彼の言葉に耳を傾けた――








 ――――








 田中伸太が浅間ひよりを組み伏せ、最初に思った事は何か。

 それは…………





(勝った!! 勝った勝った勝った!!!)





 勝利した事による高揚感。その1つだけだった。

 女を刺したことよりも、女を泣かせた事よりも、逆にそれが高揚感を煽り、勝ったと言う実感を沸かせていた。

(もう……相手が男だろうが女だろうが関係ない。勝ったものが全てを決めるんだ……こんな感じだったのかぁ……あいつらはこんな感じで俺を見ていたのかぁ……通りで俺をいじめていたわけだ)

 初めての勝利。はじめての勝ちの感覚が伸太の体を支配する。

 うれしい、うれしい、うれしい。

 初めて努力が実り、形になった瞬間であった。少し目頭が熱くなる。

(……いかんいかん、まだ任務は終わってない。冷静にしなければ、冷静に、冷静に……)

 伸太は心を落ち着かせ、冷静さを保とうとする。だが、はじめての勝利の快感は消せないのか、少し口がにやけていた。


「……俺が最初に気づいたのは、お前が途中からオーラとやらで、無限に攻撃を仕掛けてきた時だ」

 浅間ひよりの口車に乗り、まんまと喋り始めた田中伸太だったが……無論、伸太自身もそのことに気づいていないわけではない。

(時間は稼がれて居るかも知れんが…………ハカセから連絡がない。ハカセならば、この状況になった瞬間にスチールアイで呼び出す、もしくは指示を出すはず……それがないと言う事は、まだ逃走経路が確保できていないと言う事か……)

 実はその通りである。実はハカセ。2人の戦いの途中から、離脱して逃走経路を探していたのだ。

 そのハカセは今……

(まずい……なかなか逃走経路が見つからん……)

 逃走経路を探しに奮闘していた。
 なぜ逃走経路探しにそこまで時間がかかるのか。理由は神奈川の特殊な車の構造にあった。

 ハカセは駐車場に置いてある車のガラスを叩きながら思った。

(くそっ……やはり、ここも付与エンチャントガラスか……!)

 付与エンチャントガラス。すべての原因はそれにあった。
 もともと、付与エンチャントと言うのは、スキルの1種で、物を強化したり、物に能力を与えることを言う。ものに能力等をかけられるスキルのことを付与エンチャントスキルと言い、本来は希少価値が高く、頼むには相応の資金が必要となる。

 ……だが、神奈川の体制は違った。

 ハカセたちが知る由もない話だが、その絶大な資金力と軍事力を使い、他県から付与エンチャントスキル保持者を収集した。それにより、コストを下げて、一般庶民にも流通させることに成功したのである。

 故に、神奈川の車はほぼ、スキルの息がかかっていた。

「ぬぬぬ……」

(まずいな……どこもかしこも付与ガラス付きの車ばかり……このままでは経路を確保できん……! 最初に用意しとった車も、レンタカーの店員に無理を言って、付与ガラスでない最後の車を回してくれたものじゃし……相当きついな……)

 それならば車のロックを解除して侵入すれば良いと考える人もいるだろう。だが、神奈川派閥の車はロックに対しても徹底されており、なんと指紋認識だ。

 さすがのハカセといえど、見たこともない人の指紋を真似ることはできない。

(何か……何かないか? 神奈川のようなシステムの車ではない車……神奈川のものでは無い車…………神奈川のものではない?)

「そうじゃ……! 神奈川の車じゃなくてもいいんじゃ……!」

 そうやってハカセはスチールアイを巨大化させ、上に乗る。
 その行く先は…………会議の会場だ。








 ――――








「攻、撃を……し、かけた時……?」

「……ああ」

 浅間ひよりは田中伸太の言葉を聞きながら、考え込んでいた。

(あのタイミングで……? 何か隙でも見せたか……?)

「あの時、俺が着目したのが、お前の攻撃パターンだ」

「…………」

「あの時、お前はわざわざオーラキックとオーラナックル、その順番で"交互"に攻撃していた……変じゃないか? 予備動作なしのオーラナックルなんて物がありながら、わざわざそんな交互に攻撃するなんて……攻撃速度だけで言えば、両手でオーラナックルを連続で放つ方がいいはず、なのにお前はキックとナックルの組み合わせを、何度も何度も打ってきた……それは何故か?」

「…………」

「その疑問に対しての俺の答えは……元々存在しないんだよ……予備動作なしのオーラナックルなんて」

「…………!!」

 今まで、ノーリアクションだった浅間ひよりの顔が歪む。伸太はその表情の変化から、自分の考えが当たりだったことに気がつく。

「お前のオーラナックルには、おそらく溜めが必要なんだ。
オーラナックルのエネルギーを貯めるためのな……そしてそれは、どんな体制であろうと行うことができたんだ」

「おそらく、あの正拳突きの構えはオーラナックルを打つために必要なものじゃない。オーラナックルを放つための"オーラを貯める"ための牽制のようなものなんだろ? あの構えをとれば、よほどの馬鹿じゃない限り警戒するからな……それと同時に、あの構えを取るか取らないかで、相手の警戒心を煽ることもできる……お前なりのトリックだったわけだな」

「…………」

 その推理を聴き、浅間ひよりは完全に沈黙してしまった様だ。それを肯定と受け取ったのか、伸太はその推理を確信に変え、話しながらハカセの指示を待つ。

「その構えの代わりに、オーラキックを採用することによって……オーラキックを打ちながら腕にオーラを貯めて、オーラナックルを打っている間、足にオーラを貯める……これが無限攻撃の正体だったんだ」

「だが、俺はそれを見破り、遂にお前をここまで追い詰めた……」

「……何、が、言い、たい……んですか」

 首を締められているため、途切れ途切れの声で浅間ひよりが言葉を出す。あまりにも図星だったのか、少し泣いているような声をしていた。

 しかし、そんなものは関係ないと言いたげに、伸太は言葉を投げつける。

「そんな工夫もしたのに、あんたは俺を倒せなかった。前の戦いで圧勝していたのに…… 1ヵ月で俺に越されたんだ」

「戦ってみて……お前は変わっていなかった。1ヵ月前に戦ってた時と、お前は何にも変わらなかった」









「だから最初に言っただろ? ……成長してないって」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...