底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎

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幕間 その3 急転直下

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 その話し合いから2時間がたった。

 既に会場にはマスコミが所狭しと並び、僕たちの出場を心待ちにしている。こういうのには慣れていると思っていたが、いざとなるとやはり緊張してしまうものだ。

 既にチェス隊は全員出場しており、それだけでもカメラのシャッターを切る音が止まらない。特に黒のクイーンや白のクイーンに向かってのカメラは他とは比べ物にならないレベルだった。

「皆さん、わざわざこんなところまでご足労いただき、誠にありがとうございます」

 今回の神奈川代表が壇上の上から喋り出す。誰かというのが少しわからないが、神奈川代表として選ばれている以上、ある程度は有名人だと言うのがわかった。

「今回は有意義な会議になる事を、心の底から願っております」

 しかし……実際の会議と言うのはどうにもパーティー感が強い。どちらかというと明るい雰囲気だ。これも神奈川ならではなのだろうか。

「今回の会議に参加してくださる東京派閥の方々です!!」

 パチパチと言うまばらな拍手を受けながら、異能大臣を筆頭に入場する。シャッターを切る音はもちろんここでも止まらなかった。

「改めて異能大臣。このような会議に来ていただき、誠にありがとうございます」

「いえいえこちらこそ、この会議で新たな歴史が紡がれることを願っております」

 互いに社交辞令を終えて、2人で壇上へ上がる。
 本会場は意外にも中学校の体育館のような仕組みで、壇上が存在し、その上で会議すると言うものだった。
 今回の会議はいたってシンプルである。壇上にある机と椅子に座り込み、そこで2人が話し合いをし、その下で僕たちが立って周りを監視する。その奥からマスコミたちがカメラで撮影をすると言う感じだ。
 それだけでミッションクリア。目的達成である。


 ……これから起きる事を知らずに。








 ――――








 遂に代表同士が壇上へ上がり、会議が始まった。
 何を話しているのかはマイクでよく聞こえる。
 だが、互いにレベルの高い会話をしているのか、僕には一片たりとも理解できるものではなかった。
 ……そこから数分が経つと、2人は急に立ち上がりマイクを使って喋り出す。

「……これにて、会議を終了いたします」

 互いの代表から放たれた衝撃の一言。それにどよめくマスコミたち。きっとテレビの前の方々も同じ反応をしていることだろう。
 実際、僕にとっても衝撃の一言だ。会議がこんなに早く終了するわけがない。短くても30分はかかるだろう。

 それがたった数分で終了?意味がわからない。

 それを証明するかのように、チェス隊からも驚いている方が多々見えた。

「皆様! ご安心ください! 実は、我々は会議を事前に終わらせていたのです!」

(……え?)

「言うなれば、これはその結果発表……これからの東京と神奈川の未来を聞いてもらうために集まっていただきました!!」

 いきなりのことで理解が追いつかない。
 すでに会議を終了させていた?結果発表?正直よくわからないが、唯一わかる事はこの後代表から放たれる言葉は、間違いなくこれからの東京派閥に大きな影響を及ぼすと言うことだ。
 マスコミもそれに気づいたのか、黙ってカメラを代表2人に向けている。

「我々神奈川派閥と東京派閥は…………」







「今日をもって、正式に同盟を結ぶことを発表いたします!!!」


 その言葉、その意味。それがお互いの派閥にとってどんな意味を持つのか。

 歓喜?

 驚愕?

 どちらにせよ、これでこの会議が歴史に名を残すことになるのは確定した。

「「「「「「おおおーーーー!!!!!」」」」」」

 マスコミたちの驚きと歓喜の入り混じった声。会場を揺らすほどの大歓声は僕でも聞いたことのないような大きな音を出した。

「そこで! 同盟を祝い、東京派閥に渡したいものがあります!」

 そうやって神奈川代表は僕たちにも見えるように、金庫のようなものを置いた。神奈川代表は金庫のノブを回し、重そうに中身を持ち上げ、僕たちに見せつけた。

「長年の研究を経て、ついに完成した人工鉱石……ウルトロンです!」

「「「「「「おおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」」」

 その瞬間、今日一の大歓声が会場を包む。あのウルトロン?と言うものがどんなに価値があるのか分からないが、チェス隊の反応を見るに、ウルトロンを渡すと言うこと自体は知っていたようだった。


「では、皆さん!! これより、ウルトロンの贈呈に移りたいと思います!!」

 その一言にマスコミのテンションもどんどん上がっていく。
 ついに決まった東京、神奈川同盟。そしてウルトロンの引き渡し。歴史の教科書に残る瞬間だろう。
互いの代表同士が立って近づき、直々に手渡しされる。


「……では……どうぞ!」

 神奈川代表の言葉に反応、異能大臣が手を伸ばしウルトロンに触れたその時。



 天井が崩壊した。

 急に壊れる天井。現れる黒い人影。どこかの舞台かと思われるほどの神秘的な光景。

 その人影は代表からウルトロンを奪い取り、たかだかに叫んだ。



「さあ!! 魅せつけてやるよ!!!!」








 ――――








 その後、警備隊のミスもあり、あの犯罪者を取り逃してしまう。
 悲鳴が上がる会場。さっきまでの大歓声とうってかわって急に事件現場へと成り下がってしまった。
 だが、こんな時にでも黒のクイーンは折れなかった。

「旋木! 紫音! 里美! あなたたち3人であの男を追いなさい!! 他のチェス隊は周りの警備! 被害者を最優先で助けなさい!」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

 さすがは歴戦のクイーン。どんな時でも冷静だ。
 それにすぐさま反応する黒のチェスたちも練度を積んでいる様に感じる。

「よし……私たち白のチェスもあの男を追って「まて!!」……なんですか?長官」

「お前たち白のチェスは待機だ!! 私のそばを離れるのは許さん!!」

「なっ……しかし! 今回は奪われているものがものです! 黒のチェスが警備をしているのだから問題はないと思いますが!」

「だめだ!! 黒のチェスは私の護衛をしているわけではない! 白のチェスはここで待機だ! ……それともいいのか? ここにはマスコミがある。長官命令を無視したと言って白のチェスに罰を下してもいいんだぞ!!」

「…………了解しました」

 対して白のチェスは……長官に邪魔され、会場で待機することになったようだ。


そんな中、震えている女の子が1人。

「……桃鈴様?」

「あ……あ……あ」

 稀代の天才、桃鈴才華である。

「桃鈴様!! 一体どうなされたと言うのですか!? 呼吸も少し変だ! 一体何があったのです!?」

 騎道雄馬が大声を出し、桃鈴才華に訴えかける。
 その震えは止まらない。だが、それに対する返答を話だした。

「あの……魂の色は……あの精神力は……あの輝きは……」

「……!!」

「そんな……そんなぁ……なんで……そんなに黒くなっちゃったの……僕のせいなの……」

 ぽつりぽつりとこぼれた言葉だけで、騎道雄馬は何に対してここまで震えているのかと言うのが、直感で理解できてしまった。それに気づくと、自然に手に力が入る。

「あ……伸……」

 桃鈴才華が会場に侵入した張本人の名前をこぼそうとした時。

 爆発音が鳴り響いた。


「う、うわああぁぁぁ!!!」

「なに!? 一体何なの!!」

「ひっ、ひぎゃぁあぁぁぁぁぁぁ!!!! 天井が倒れてくる!!」

 会場で爆発物が爆発したのだ。通常、爆発物など爆発する前に検知系のスキル保持者に察知されるものだが……犯人探しに夢中だったのだろう。爆発物に気づかず爆発してしまった。
 それだけではない。爆発したことにより柱が壊れ、天井が迫ってくる。それは、全てを押し潰そうと言わんばかりに近づいてくる。


 ……だが。


 天井が落ちてくる事はなかった。

「……こ……これは……」

 それは大きな壁。城壁と言うべきだろうか。その城壁によって、会場の壁を支え、倒壊を止めたと言うわけだ。

「皆さん! 大丈夫ですか!!」

 その壁の発生源は……白のクイーン、硬城蒼華だった。
 さすがは神奈川1位。二次災害程度ならば、余裕で防ぎ切れる様だ。

「私の王女プリンセスの城・キャッスルによって、会場の倒壊は防ぎました! もう安全です!!」

 硬城蒼華が周りのマスコミや神奈川のお偉いさんに向かって訴えるが、我慢ならない女が1人。

「ふざけるな!!! なにが安心だ!!」

「……長官」

 そう、長官。神奈川派閥、チェス隊の指揮を取る者である。

「安全ならば、わざわざ爆発なんかさせるな!! もう少ししで私と言う限りなく重要な命がなくなるところだったんだぞ!!」

「……すいません」

「もういい!! 貴様の謝罪など聞き飽きた!」

 そうやって蒼華に背中を向けると、チェス隊の1人に近づく。近付かれた隊員はびくっと背中を震わせ、おびえている様だった。

「おい、お前」

「ひっ……何でしょうか……」

「今すぐにあの男を追っているチェス隊をここに戻す様に連絡を入れろ。今すぐにだ」

「……え?」

「早くしろ!!!」

「ひっ……は、はい!」

 半ば脅迫と言えるような形で、隊員に命令を出す長官。そこには長官と言えるようなオーラはなかった。

「長官!! それはあまりにもーーーー」

 他のチェス隊の隊員はもちろんのこと、斉藤や蒼華まで長官を説得しようとしたが、長官の意思は一向に変わらず……ただ時間が流れていくだけだった。
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