底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎

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あなをほる作戦

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 今は午後2時40分。

 あと20分で会議が始まる。

 額から流れるこの汗は夏の暑さによるものなのか、それとも冷や汗なのか。
 俺は遠くのビルの頂上から、望遠鏡で交渉会場を覗いていた。

(そろそろハカセから合図があるはずだ……)

 41分、42分と過ぎる度に、なんともいえない高揚感となぜか湧き出てくる背徳感に心がふるわせられる。

 何分経っただろうか?何十分経っただろうか?

 1秒経つごとに1秒前のことが脳内から消えていく。


 ……そして、その時がやってくる。


「待たせたな……作戦開始だ」








 ――――








「あなをほる作戦……?」

「まぁ聞いてけ、聞いてけ~」

 ハカセは自信ありげにその作戦を説明した。
 内容は……ごく単純なものだが、理由を聞いていくとその行動ひとつひとつに、意味や根拠がしっかりと立っており、すばらしい作戦だと思えた。


 ……だが、たった1つ思うところがある。


 …………名前ダセぇ~


 ダサい。ダサすぎる。学校の俺の置かれている環境上、名前付けに縁がなかったが、そんな俺でもダサイと思えるレベル。何と言う事だ。ハカセのレベルと言うのは俺の想像を遥かに超越したものだったのだ。

「あ~……作戦名……変えたほうがよくないか?」

「? なんじゃ? あなほり作戦の方がよいか?」

「……いや、やっぱりそのままでいいや」

 ダメだ。変えようとするともっとひどくなってしまう。
 なんでこういう頭の良い人に限ってネーミングセンスがひどいのか。

 この地球の伝統にでもなっているのだろうか。

「……んで、俺はハカセが指定したビルから交渉現場を監視してればいいんだな?」

「うむ。だが、監視用にこれを持っていけ」

 そう言って、ハカセは俺に望遠鏡を渡してきた。
 今の望遠鏡と言うのは、ネットを使うことによってモニターやテレビに超高画質で映し出すことができると言うものが多い。
 だが、ハカセに渡されたのは、昔ながらの覗くタイプの望遠鏡だった。

「ずいぶんと渋いのを使わせるんだな」

「ネットを使うタイプは履歴から特定されかねんからのう……こいつがちょうどいいんじゃ」

 なるほど、そういうことか。

 自分の頭の中で勝手に納得しつつ、俺は"あなをほる"作戦について確認し始める。

「その後は……文字通り、穴を掘るんだよな?」

「うむ、建物がアリ1つ通さない鉄壁の要塞。上がダメなら下からと言う事じゃ」

 そう、ハカセの作戦は文字通り、穴を掘ることなのである。
 ハカセが言うには、最新技術がてんこ盛りの神奈川では古典な方法が効果的面なんだと。

「しかし……そこから交渉会場につなげるにしても、時間がかかるぞ? 1時間でとてもやりきれるわけが……」

「あほたれ、そのためにオヌシのスキルを使うんじゃよ」

「俺の反射ってことか?」

「そうじゃ、反射を使って地面を拒絶すれば、硬くて石ころだらけの土も、まるで豆腐のように掘り進めることができるわい」

 なるほど、俺のスキルがあるからこその作戦と言うことか。

「それと……ワシのスチールアイを1つ、お前につける。そうすれば、最短距離で交渉会場の真下までいけるはずじゃ……後はワシがスチールアイから通信を送って、ウルトロンが保管されてある部屋の真下に穴をつなぎ、ウルトロンを強奪できれば……作戦完了。東京方面にとんずらするだけと言う訳じゃのう……くぅ~! 我ながら完璧すぎるのう!」

 ハカセが自画自賛しているところを俺は眺める。

 ハカセってこんなナルシストキャラだっけ? もうすぐ作戦と言うだけあって、テンションがおかしくなっているのだろうか、俗に言うキャラ崩壊だ。

「……でもさ、チェス隊に周りを感知できるスキル持ちがいるんじゃないか?そうなったら、この作戦自体破綻しちゃうけど……そこのところはどうなんだ?」

「そこの心配はなかろう。ワシの計算では、伸太が反射で掘り進むことができれば、5分もかからず交渉会場にたどり着く。感知系のスキルの弱点として、感知できるだけで本人が強いわけでは無いから対処できない弱点があるんじゃよ。ウルトロンがある部屋も、ウルトロンを保管するためだけの部屋らしいからな……わからなくなる心配もないかつ、オヌシが掘っている時はまだまだマスコミのいるメイン会場に、チェス隊も含めて全員いるはずじゃ……あまりマスコミには知らせたくないじゃろうから、対処に少なからず時間がかかるはず……何の心配もしなくて良いぞ」

「……それならいいんだが」

「よし……早速配置に着くぞい! 伸太はワシが指定したビルについておけ!」








 ――――








(……きた、遂に来た!)

 俺はハカセの言葉を聞いた途端、人気のない路地裏に向かってビルの屋上から飛び降り、足に反射を使うことで、ホバリングのように着地する。

「ハカセ、もう掘っていいんだな?」

「ああ、かまわん……遠慮なくやってやれ」

 ハカセからの許しが出た瞬間、俺はコンクリートの地面にバッと手を触れる。
 すると、途端にコンクリートは砕け散り、残ったのは人1人分が入ることのできる穴が空いた地面のみとなった。


「よし……やるぞ!」

 ここからは時間との勝負だ。







 1分ほど経った頃、俺は既に交渉会場の真下あたりまで来ていた。ハカセのスチールアイによる位置情報の手助けもここまで早く到着できた要因の1つと言えよう。

「ん……ついたぞハカセ。交渉会場のほぼ真下だ」

「ようやった! 後は……出口がちょうどウルトロンの保管部屋になるようにするだけじゃ」

 そう言ったハカセは、スチールアイを通して出口の微調整を始める。
 ハカセの指示を聞いていると、最初の真下の位置はウルトロンの位置とかなりずれているようだった。

 あのまま地上に出てきていたらと思うと、ゾッとしてしまう。

 俺もハカセも、スピーディーに調整していたこともあって、ものの1から2分でウルトロンの真上と思われる場所にたどり着くことができた。

「……よし……完璧、完璧じゃ! とっとと奪って帰ってこい!そのまま東京までおさらばじゃ!」

「…………ああ、そうしよう」

 今回の任務はもうすぐ終了する。

 "たたかう"を選んだ俺であったが、正体がばれることもなく奪えそうだ。初めて神様に感謝してしまったかもしれない。

 右腕を真上の土に触れて、反射を発動させる。
 ボゴッと音を立てて、コンクリートごと崩壊した。
 その瞬間、真っ暗だった地中の世界に地上の光が差し込まれる。

 後はそこにあるウルトロンを奪うだけ。

 奪うだけ、奪うだけ、奪うだけ……


















 …………え?





「伸太!! 今回の任務は面白いほどうまくいったぞ! さぁ、とっとといただいて行くとしようかの! さぁ、早くウルトロンをーー「どれだ……?」……?」

「なぁ……ハカセ……」



「どれがウルトロンなんだ?」


 俺の目の前に広がっていたのは……


 無数に散らばった小型の金庫だった。




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