底辺男のミセカタ 〜ゴミスキルのせいで蔑まれていた俺はスキル『反射』を手に入れて憎い奴らに魅せつける〜

筋肉重太郎

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 ざわめく、ざわめく。

 もやもやする。こんなに苦しい日は今まであっただろうか。

 1から4時間目の教室での授業が全く頭に入らなかった。
 昼休みになってお昼ご飯を食べる時間になる。いつもなら学食に行くかお弁当を開くかしているのだがどうもその気になれない。

「桃鈴さん! 一緒にご飯食べない?」

 1人の女生徒が僕に話しかけてくる。
 この人は千聖さん……登校中、紛れもなくあの時に僕を誘ってきた女の子だ。いろんな人に分け隔てなく接していて笑顔が良い子なのだが……あまり僕は好きではない。

「ごめん……今日おべんと持ってきてないんだ……」

「あ……え? ……そっか……」

 いつも何度も誘ってくるのにお弁当を持ってきてないことと、僕の心情を感じ取ったのか、今日はすぐに離れていった。




 …………結局、ご飯は食べなかった。




「どうしました?」

「あっ……ごめん……」

 6時間目が過ぎた後、僕達ハイパーランクの特別授業が行われていた。なんでもハイパーランクは貴重で早く戦力となってもらいたいかららしい。

 特別授業はハイパーランクだけの秘密の授業らしく週に何回か不定期に行われている。

 僕がボーッとしていたのが気になったのか、となりの語部かたりべ友隣とりんちゃんが話しかけてくる。

「いえ、貴方様が謝る事では……申し訳ありません。出過ぎた真似を」

「いや、そんなに謝らなくても……」

 友隣ちゃんは丁寧口調で言葉を返してくる。この子を含めた4人はいつも桃鈴様なんて呼んでくるがもう慣れてしまった。

 友隣ちゃんはこの高校で有名な護衛騎士団なんて言われている4人の1人で、この高校でもトップクラスの実力を持っている。

 ……護衛騎士団なんて勝手に組まれても困るのだが。

「では、改めて」

「……うん」

 ギャリン、ギャリンと模擬刀とは思えない音を立て、目にも止まらぬ速度で切り合う。

「……ふっ!」

 友隣ちゃんが剣を振り下ろすが、僕はそれに難なく対応する。


 それをいつまで続けていても……僕の心は晴れなかった。








 ――――








「……桃鈴様」

「…………雄馬くん」

 帰ろうとして高校の門をくぐろうとしたその時、目の前に雄馬くんが現れた。

「今日、桃鈴様は元気がないように見えました」

「…………ごめんね」

 僕は咄嗟に謝ってしまう。謝ったことにより雄馬くんの顔が少し歪んだ。

「桃鈴様。あの男の事など気にする必要はありません」

 僕にとって重要なところを指摘される。その言葉に腕に力が入る。

「全てはあの男がやった事、桃鈴様のせいではありません。誰のせいでもございません」

「……わかってるよ」

「本当にわかっておられ「大丈夫だから……」……ッ!」

 僕の声を聞いて雄馬くんは押し黙る。今の声は僕も驚くほどに弱々しい声だった。








 ――――








 トコトコと夜の道を散歩する。昔は散歩する伸太の後ろをこっそりついていったっけ。

 ……伸太は夜に何かがあっていなくなったとニュースに言われていた。伸太のスキルは人を殺せるほど強い能力ではない。
 だったらあの現場を作った主犯がきっといるはず、と思うと自然に僕は外へ出ていた。

「…………」

 ゆっくりと夜の街を散歩していく、その体に秘めたる想いを持ったまま。




 ……結局、その夜は何もなかった。

 そんなのを何回も繰り返して……6日がたった。

「ちょっと、あれ……」

 廊下の知らない女生徒が僕を見て言う。

 ごはんを1回も口にしなかったことによりあまりにもお腹が凹んで、目の下には隈ができている。

「桃鈴様!」

 気がつくと目の前に友隣ちゃんがいた。一体いつからいたのだろうか。

「貴方様の体はもう限界です! 足や腕ももうくだけそうで、顔もやつれている! 今日のところは学校をやすんで……」

「大丈夫なの……大丈夫だから……」

僕は自分でも信じられないほど弱々しい声で返す。

「いえ! 貴方様は大丈夫では「おねがい……」……なっ!」

「もう少し……もう少しだけ……」

「…………」

 視界が急ににじんでくる。何度目を擦ってもずっと視界がにじんだままだ。疲労による眩暈かな?








 ――――








「桃鈴様」

「……ゆ、まくん?」

 下校中、目の前に雄馬くんが立ってくる。

「桃鈴様、少しこちらへ」

 手を掴んで引っ張って来る。その手からは強い力が感じられ離す気がないことがわかる。連れていかれるとそこは学校の屋上だった。

「桃鈴様……」

「桃鈴さん」

「……あ」

 そこにいるのは、友隣ちゃんと、最近話していた三山くんだった。

「桃鈴様、もう諦めましょう」

 友隣ちゃんが言ってくる。

「そうだよ! 何もあいつのために君がそんなになる必要は無い!」

 ……三山くんが言ってくる。

「でも……僕……僕は……」

「桃鈴様」

 雄馬くんが険しい顔で僕を見てくる。

「もうあと1日だけにしてください。夜に外を歩いているのを私は知っています。見つからなければもうこんな生活をやめてください。いいですね?」

 ……なんで知ってるんだ? ……でもこれ以上迷惑をかけることができない。

「…………わかったよ」





 あの後、下校した僕はすぐさま家を出て、また散歩をし始めた。








 ――――








「……」

 夜の道をただひたすらに歩く。もう何時間経ったんだろうか、スマホの時計を見てみるともう11時になっていた。

「…………」


 ひたすら歩くといっても、何の考えもなしに歩いていると言うわけでもない。伸太がいなくなったのは路地裏だ。そこを重点的に探せばもしかしたら…と言う希望を持って探していた。

「…………」

 すると……

「……ん?」

 精神力放出から感じ取れる気配。それも単体ではなく複数、それが軍隊のように一寸の狂いもなく並列して進んでいる。

「……レベルダウン?」

 レベルダウンが動いているのはかなり珍しいことである。それが動いたとなるとよほどの事態があったことがわかる。

「……もしかして」

 伸太が関係しているかもしれない。そう思うとフラフラだった足がまるで嘘のようにかけ出す。精神力放出を使い足裏から精神力を放出することでバイク並の速度を出す。


(ついた……)

 たどり着くが、そこにはレベルダウンが隊列を組んで行進している以外に人影らしきものはなかった。

「……やっぱ、いないか」

 当たり前と言えば当たり前、あるわけない希望に縋ってしまった。

 元来た道を戻ろうとしたその時。

「……ん?」

 精神力放出でぴょんぴょんと飛び跳ねる様に動く精神力を感じる。
 それにはどこか……なじみのある感覚がした。
 それはレベルダウンの近くで着地し、レベルダウンを見ていた。
 ……鼓動が早くなる。視界が揺らぐ。できるだけ気配を殺しゆっくりゆっくりと近づいていく。やがてそれはペタンと座り込み何か安心したような表情をしていた。

「伸……太……?」

 それは紛れもなく伸太だった。やっと振り向いてくれた。やっとその顔が見れた。達成感と安堵感に包まれる。だが、

「……!」

 伸太は後ろを振り向いて走り出した。

「!? 待って!!」

 僕は懸命に手を伸ばす。やっと見つけたんだ。逃してなるものか。僕も走って手を伸ばし捕まえようとする。


 だが……


 その手は。


 無情にも。


 なににも触れる事はなく、


 彼は急に消えた。


「あああ……」

 手を何度も握っては開き、握ってを開きを繰り返す。




「あ……あああっ……あっ……あっ……あああ」

 僕はそのまま崩れ込み……まるで精神異常者のように、ペタペタと彼がいた地面に触れる。



 ――――何の意味もないのに。
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