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第二章 異世界に飛ばされて

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 罠は、設置した場所にそのままあった。近づいても物音も鳴き声もしない。

 「生きてるんだよね?」

 思わず小声でそう聞いたぐらい静かだ。

 「生きてるよ。さっきはゴソゴソ動いてた」

 私はドキドキしながら罠の中をのぞいた。生まれたときからここに住んでいて、野生動物をそれなりに見てきているケンさんが戸惑うぐらい珍しい生き物とはどんな姿をしているのだろう。怖いような、それでいて楽しみなような気持ちだった。だが、檻状になった金属の隙間から見えたのは珍しいどころの見た目ではなかった。

 「…なんだこれ」

 思わずそう呟いた私に、ケンさんが言う。

 「ね、めっちゃ変な奴でしょ」

 「うん。こんな動物見たことない。なんかすごく…変わった見た目だね」

 そう言いながら、私はその生き物から目が離せなかった。大きさはモルモットより一回り大きいぐらいだろうか。やけに頭でっかちで、コロコロ太っていて、動物というよりは雪だるまに近いフォルムだ。初め黒っぽく見えた体は、ひどく汚れているだけで体毛は白いようだった。

 初めはこちらに尻を向けていたが、私たちの様子が気になるのかモゾモゾと体の向きを変えてこちらを見上げた。顔が見えて、私はますます驚いた。

 まるでマスコットキャラクターのようだ。小さな子どもや十代の女の子を中心に人気が出そうな、甘ったるいタイプの顔立ちをしている。目はいわゆる「ぴえん」そっくりで、丸くウルウルしていた。鼻は極端に小さいのか、この距離からは確認できない。だがマズルは立派に盛り上がって存在を主張しており、口周りが赤く染まっているせいで余計に目立っていた。イチゴの汁だ。

 「あらまー可愛らしいお顔」

 私の言葉が白々しかったのだろう、ケンさんは笑った。

 「絶対思ってないよね」

 図星を突かれ、私も笑った。子どもの頃は、この生き物のように分かりやすく「可愛らしい」見た目をしたキャラや小動物が好きだったが、大人になった今はそれほど心を動かされない。まあ仔猫や仔犬などの無邪気な仕草なんかはキュンとくるけれど、私が心から可愛いと思うのはむしろ大きな動物だ。

 最近ではジンベイザメやシャチ、シロイルカを見に水族館に行くのが楽しい。ゾウやホッキョクグマも大好きだし、いつか大型犬をこの家にお迎えするのが私の目標だ。今のところバーニーズマウンテンドッグかグレートピレニーズが候補だが、ジャーマンシェパードやドーベルマンも素敵だし迷う。迷うのがまた楽しい。ケンさんも犬派で、大型犬を飼うことにも賛成してくれている。

 「まあまあ。ケンさんだって可愛いとは思ってないでしょ?」

 「うん、思わないよ。僕はリオちゃんと違って、心にもないことは言わないし。正直だから」

 「ちょっと待ってよ、その言い方だと私が嘘つきみたいじゃん」

 「アハハ」

 「アハハじゃないよ!」

 ケンさんとはいつもこんな感じだ。結婚したばかりだが、付き合いは長いからお互いに遠慮がない。夫婦であると同時に気の合う友達と暮らしているみたいで居心地が良いが、あまり新婚っぽくはないかもしれない。ケンさんは面白そうに笑っていたが、ふと真面目な顔になった。
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