3 / 13
第一章 幸せだったちいたん
3
しおりを挟む
眠りに落ちたちいたんは、夢を見た。というより、何者かがちいたんの怠惰でのんきな夢の世界に忍び込んできたのだ。
明るい花畑で蝶々を追いかけていたちいたんは、何やら変な声を聞いた気がして立ち止まった。
「ひっひっひ…。間引くんじゃ…こういうやつを」
あたりは突然暗くなり、黒い頭巾をかぶった老婆が現れて、ブツブツ言いながらちいたんに向けて手をかざした。
「イヤッ!イヤッ!」
老婆が何をしようとしているのか分からなかったが、ちいたんは本能的な恐怖を感じて逃げようとした。しかし、あっけなく老婆の手でむんずと掴まれてしまう。
「ンー!」
「この世界のちい族は…増えすぎた…。こいつらの原産地は…厳しい環境じゃ。弱い個体は…自然淘汰される。だが、ここじゃ…増えるばかり。これでは近い未来…食糧難不可避。環境を守りたい…やつがいるんじゃ」
「ンンー…ンムグ…」
「殺すと…証拠が残る。人道的配慮…コンプラ…うるさい世の中じゃ。片付けも…面倒じゃ。手っ取り早く…送ってやろう…どこか適当な…厳しい世界に…!」
「!?イヤッ、ヤダーッ!!」
ちいたんは必死で身をよじり、逃れようともがきながら大声で叫んだ。老婆の言っていることの一割も理解できなかっただろうが、自分の身に危険が迫っていることは十分伝わったのだろう。
「なすすべなく…わめくばかり…。この不細工の、痴れ者がッ…!どっかに…いけーーーーッッ!!」
老婆の手から奇妙にうねる波のような光線が発せられた。それがちいたんの体を包むと、視界がぐにゃりと歪んだ。
「!?!?」
「さらばじゃ」
ちいたんは飛んでいった。この世界と別の世界を隔てる壁を通り抜けて。
こんな風に、ちいたんは地球に転移してきた。
日本という小さな島国の、ちょうど真ん中あたりにある田舎の町。空中にヌッと出現したちいたんは、そのまま田んぼの真ん中にドボンと落下した。本当に運が良かった。もしコンクリートだったら、異世界転移した次の瞬間に死んでいたかもしれない。
あまりに突然のことで、ぽかんと開いていたちいたんの口の中にはしこたま泥が入った。オェオェとえずきながら、がむしゃらにもがく。ちいたんの体型と運動能力では、まともな泳ぎなどできるわけがない。それでもどうにか助かったのは、水が少なくて底に足が着いたからだ。
頭のてっぺんから足の先まで、くまなくコーティングされたかのように全身もったりとした泥に覆われたちいたんが、現状を理解できぬまま天を仰いで慟哭した。
「ヴッ、ウウッ…ヴーッ!!ウワァァーーーン!!」
カエルが跳ね、ドジョウが逃げる。夜の深い時間だったため、存在するはずのない生き物の叫びを聞いたのは田んぼとその周辺に住む生き物たちだけだった。
明るい花畑で蝶々を追いかけていたちいたんは、何やら変な声を聞いた気がして立ち止まった。
「ひっひっひ…。間引くんじゃ…こういうやつを」
あたりは突然暗くなり、黒い頭巾をかぶった老婆が現れて、ブツブツ言いながらちいたんに向けて手をかざした。
「イヤッ!イヤッ!」
老婆が何をしようとしているのか分からなかったが、ちいたんは本能的な恐怖を感じて逃げようとした。しかし、あっけなく老婆の手でむんずと掴まれてしまう。
「ンー!」
「この世界のちい族は…増えすぎた…。こいつらの原産地は…厳しい環境じゃ。弱い個体は…自然淘汰される。だが、ここじゃ…増えるばかり。これでは近い未来…食糧難不可避。環境を守りたい…やつがいるんじゃ」
「ンンー…ンムグ…」
「殺すと…証拠が残る。人道的配慮…コンプラ…うるさい世の中じゃ。片付けも…面倒じゃ。手っ取り早く…送ってやろう…どこか適当な…厳しい世界に…!」
「!?イヤッ、ヤダーッ!!」
ちいたんは必死で身をよじり、逃れようともがきながら大声で叫んだ。老婆の言っていることの一割も理解できなかっただろうが、自分の身に危険が迫っていることは十分伝わったのだろう。
「なすすべなく…わめくばかり…。この不細工の、痴れ者がッ…!どっかに…いけーーーーッッ!!」
老婆の手から奇妙にうねる波のような光線が発せられた。それがちいたんの体を包むと、視界がぐにゃりと歪んだ。
「!?!?」
「さらばじゃ」
ちいたんは飛んでいった。この世界と別の世界を隔てる壁を通り抜けて。
こんな風に、ちいたんは地球に転移してきた。
日本という小さな島国の、ちょうど真ん中あたりにある田舎の町。空中にヌッと出現したちいたんは、そのまま田んぼの真ん中にドボンと落下した。本当に運が良かった。もしコンクリートだったら、異世界転移した次の瞬間に死んでいたかもしれない。
あまりに突然のことで、ぽかんと開いていたちいたんの口の中にはしこたま泥が入った。オェオェとえずきながら、がむしゃらにもがく。ちいたんの体型と運動能力では、まともな泳ぎなどできるわけがない。それでもどうにか助かったのは、水が少なくて底に足が着いたからだ。
頭のてっぺんから足の先まで、くまなくコーティングされたかのように全身もったりとした泥に覆われたちいたんが、現状を理解できぬまま天を仰いで慟哭した。
「ヴッ、ウウッ…ヴーッ!!ウワァァーーーン!!」
カエルが跳ね、ドジョウが逃げる。夜の深い時間だったため、存在するはずのない生き物の叫びを聞いたのは田んぼとその周辺に住む生き物たちだけだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる