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第一章 幸せだったちいたん
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眠りに落ちたちいたんは、夢を見た。というより、何者かがちいたんの怠惰でのんきな夢の世界に忍び込んできたのだ。
明るい花畑で蝶々を追いかけていたちいたんは、何やら変な声を聞いた気がして立ち止まった。
「ひっひっひ…。間引くんじゃ…こういうやつを」
あたりは突然暗くなり、黒い頭巾をかぶった老婆が現れて、ブツブツ言いながらちいたんに向けて手をかざした。
「イヤッ!イヤッ!」
老婆が何をしようとしているのか分からなかったが、ちいたんは本能的な恐怖を感じて逃げようとした。しかし、あっけなく老婆の手でむんずと掴まれてしまう。
「ンー!」
「この世界のちい族は…増えすぎた…。こいつらの原産地は…厳しい環境じゃ。弱い個体は…自然淘汰される。だが、ここじゃ…増えるばかり。これでは近い未来…食糧難不可避。環境を守りたい…やつがいるんじゃ」
「ンンー…ンムグ…」
「殺すと…証拠が残る。人道的配慮…コンプラ…うるさい世の中じゃ。片付けも…面倒じゃ。手っ取り早く…送ってやろう…どこか適当な…厳しい世界に…!」
「!?イヤッ、ヤダーッ!!」
ちいたんは必死で身をよじり、逃れようともがきながら大声で叫んだ。老婆の言っていることの一割も理解できなかっただろうが、自分の身に危険が迫っていることは十分伝わったのだろう。
「なすすべなく…わめくばかり…。この不細工の、痴れ者がッ…!どっかに…いけーーーーッッ!!」
老婆の手から奇妙にうねる波のような光線が発せられた。それがちいたんの体を包むと、視界がぐにゃりと歪んだ。
「!?!?」
「さらばじゃ」
ちいたんは飛んでいった。この世界と別の世界を隔てる壁を通り抜けて。
こんな風に、ちいたんは地球に転移してきた。
日本という小さな島国の、ちょうど真ん中あたりにある田舎の町。空中にヌッと出現したちいたんは、そのまま田んぼの真ん中にドボンと落下した。本当に運が良かった。もしコンクリートだったら、異世界転移した次の瞬間に死んでいたかもしれない。
あまりに突然のことで、ぽかんと開いていたちいたんの口の中にはしこたま泥が入った。オェオェとえずきながら、がむしゃらにもがく。ちいたんの体型と運動能力では、まともな泳ぎなどできるわけがない。それでもどうにか助かったのは、水が少なくて底に足が着いたからだ。
頭のてっぺんから足の先まで、くまなくコーティングされたかのように全身もったりとした泥に覆われたちいたんが、現状を理解できぬまま天を仰いで慟哭した。
「ヴッ、ウウッ…ヴーッ!!ウワァァーーーン!!」
カエルが跳ね、ドジョウが逃げる。夜の深い時間だったため、存在するはずのない生き物の叫びを聞いたのは田んぼとその周辺に住む生き物たちだけだった。
明るい花畑で蝶々を追いかけていたちいたんは、何やら変な声を聞いた気がして立ち止まった。
「ひっひっひ…。間引くんじゃ…こういうやつを」
あたりは突然暗くなり、黒い頭巾をかぶった老婆が現れて、ブツブツ言いながらちいたんに向けて手をかざした。
「イヤッ!イヤッ!」
老婆が何をしようとしているのか分からなかったが、ちいたんは本能的な恐怖を感じて逃げようとした。しかし、あっけなく老婆の手でむんずと掴まれてしまう。
「ンー!」
「この世界のちい族は…増えすぎた…。こいつらの原産地は…厳しい環境じゃ。弱い個体は…自然淘汰される。だが、ここじゃ…増えるばかり。これでは近い未来…食糧難不可避。環境を守りたい…やつがいるんじゃ」
「ンンー…ンムグ…」
「殺すと…証拠が残る。人道的配慮…コンプラ…うるさい世の中じゃ。片付けも…面倒じゃ。手っ取り早く…送ってやろう…どこか適当な…厳しい世界に…!」
「!?イヤッ、ヤダーッ!!」
ちいたんは必死で身をよじり、逃れようともがきながら大声で叫んだ。老婆の言っていることの一割も理解できなかっただろうが、自分の身に危険が迫っていることは十分伝わったのだろう。
「なすすべなく…わめくばかり…。この不細工の、痴れ者がッ…!どっかに…いけーーーーッッ!!」
老婆の手から奇妙にうねる波のような光線が発せられた。それがちいたんの体を包むと、視界がぐにゃりと歪んだ。
「!?!?」
「さらばじゃ」
ちいたんは飛んでいった。この世界と別の世界を隔てる壁を通り抜けて。
こんな風に、ちいたんは地球に転移してきた。
日本という小さな島国の、ちょうど真ん中あたりにある田舎の町。空中にヌッと出現したちいたんは、そのまま田んぼの真ん中にドボンと落下した。本当に運が良かった。もしコンクリートだったら、異世界転移した次の瞬間に死んでいたかもしれない。
あまりに突然のことで、ぽかんと開いていたちいたんの口の中にはしこたま泥が入った。オェオェとえずきながら、がむしゃらにもがく。ちいたんの体型と運動能力では、まともな泳ぎなどできるわけがない。それでもどうにか助かったのは、水が少なくて底に足が着いたからだ。
頭のてっぺんから足の先まで、くまなくコーティングされたかのように全身もったりとした泥に覆われたちいたんが、現状を理解できぬまま天を仰いで慟哭した。
「ヴッ、ウウッ…ヴーッ!!ウワァァーーーン!!」
カエルが跳ね、ドジョウが逃げる。夜の深い時間だったため、存在するはずのない生き物の叫びを聞いたのは田んぼとその周辺に住む生き物たちだけだった。
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