トキメキは突然に

氷室龍

文字の大きさ
上 下
14 / 20
恋人編~同棲始めました~

那須高原へ行こう~其の弐~

しおりを挟む
えっと、視点が何度か変わります。
そして途中、人外の視点が登場します。

********************************************
那須高原へ行こう~其の弐~

私たちは車に揺られて那須高原を目指してます。
雅之さん、とっても嬉しそう。
全然起きないから、ちょっと意地悪なこと囁いたら顔面蒼白になって飛び起きたのには笑ってしまった。
多分、デートプランとか考えてくれてたんだろうなぁ。
次の週末は彼に付き合おうと思う。
だって、彼のカバンの中に私が見たいって言ってた映画のチケットが入ってたから…。

「雅之さん、疲れてないですか?」
「大丈夫だが、無理しすぎるのもよくないな。
 どっかのSAで休憩するか。」
「そうですね。」

そうやって休憩を取りつつ目的のコテージに到着したのはお昼前。
しょっちゅう利用しているので勝手知ったるなんとやら。
荷物の片づけはあっという間に終わって二人で昼食取ってます。

「佳織はここへはよく来るのか?」
「はい、近くの牧場に馬を預けてるので…。」
「馬?」
「中川物産の野田専務が私の母の弟なのは知ってますよね。」
「ああ。 遥香の結婚式の時に…。」
「実家が生産牧場をしていることは?」
「去年、専務と会った時に聞いた。」
「牧場に預けてる馬はそこで生まれた仔なんです。
 でも、色々事情があって競走馬になれなくて…。
 無理を言って私が引き取ってそこの牧場に預けてるんです。」
「なるほど、その仔に会いに来てるという訳か。」
「はい。」

食後のコーヒーを飲みながらその話をしつつ、私はここに来た目的も話すことに。

「で、この後その牧場に向かいたいんです。」
「俺も一緒に?」
「一緒に乗馬を楽しみたいと思ってるんです。
 ダメ、ですか?」
「ダメってことはないが、俺、初心者だぞ?」
「そこは心配しなくてもいいですよ。
 私が手取り足取り教えます。」
「ぶっ!」

あ、雅之さんがむせた。
もう、絶対変な想像してる。

「兎に角、この後牧場に向かいたいんで車出してくださいね。」
「あ、ああ、わかった。」

そのあと、二人で件の牧場に向かいました。
本当の目的は話さずに…。
でも、なんとなく大丈夫なような気がする。
きっとあの仔は雅之さんこと分かってくれるはずだから…。

****************************************************************

俺はいつも通り、放牧場で草を食んでいた。
ここは故郷によく似ていて、静かで穏やかな時が流れている。
俺の名前は『アリオーン』。
競走馬になれなかった俺を助けてくれた彼女が付けてくれた。
遠い異国の神話に出てくる神様の息子で神速の名馬の名前だそうだ。
出来損ないの俺にどうしてそんな名前をくれたのか?
周りの人間たちも不思議がった。

「だって、この仔の走る姿は今まで見てきた中で一番キレイだから。」

彼女はそう言ってほほ笑んで、俺に生きる場所を与えてくれた。
本来なら俺はこんなところでのんびりしてる場合じゃない。
俺のことを救ってくれた彼女のためにもここにいる他の奴ら同様に観光客を背に乗せて乗馬ツアーに参加しなきゃならない。
でも、俺は嫌だった。
彼女以外は乗せない。
それは俺のなけなしのプライドだ。
そんな彼女としばらく会っていない。

≪佳織、どうしてるのかなぁ?
 そういや、こないだ来たとき新しい恋人ができるかもって言ってたなぁ。
 そいつと楽しく過ごしてるからここに来ないのかなぁ。≫

などと、ぼんやり考えながら草を食んでるとどこからともなく口笛が聞こえてくる。
それは俺のことを呼ぶ口笛。
会いたくてしょうがない彼女の口笛だ。
俺は口笛のする方へと駆け出した。
彼女が会いに来てくれた。
それだけで俺は嬉しくて、体は高揚感でいっぱいになる。
やがて見えた彼女の姿。
だが、その隣には今まで見たことのない男が立っていた。
それは彼女の好みど真ん中の男だった。

****************************************************************

「ブルルルル…。≪佳織…。≫」
「アリオーン!
 元気だった? なかなか来れなくてごめんね。」

私は目の前の青鹿毛の馬の顔を撫でてやる。
目を細め気持ちよさそうにしてるのがわかる。
でも、すぐに隣の雅之さんに気付いて鼻息荒くしてる。

「佳織、この馬がそうなのか?」
「うん、この仔がアリオーン。
 競走馬にはなれなかったけど、走るフォームが綺麗だから無理言って私が引き取ったの。
 調教入る前だったから、乗馬用の訓練させてここに置いてもらってる。」
「へぇ…。」
「でも、変にプライドが高くて私以外は乗せないんだけど。」
「それって牧場的には…。」
「ブルルルル!!!≪うるせぇ!≫」
「わぁっ!」
「アリオーン!」
「フゥゥ≪チッ≫」

アリオーンの鼻息がかなり荒い。
雅之さんに敵意むき出しだ。
やっぱ気に入らないのかなぁ。
出来たらアリオーンに認めてほしいんだけど…。

「佳織さ~~~ん。」
「速水さん。」

馬房のある方から声がして振り返ると、牧場の管理を任せてる速水さんだ。

「流石ですね。
 口笛だけでこいつが戻ってくるなんて。
 俺たちじゃどんなに呼んでもダメななのに…。」
「こいつにとって佳織は特別な存在ってことか…。」

雅之さんが真剣な顔でアリオーンを見ている。
えっと、何だか対決オーラが見えるのは気のせいでしょうか?

「佳織さん、これ…。」
「あ、すみません。」
「久しぶりだからこいつを思いっきり走らせてください。」
「分かりました。 ありがとうございます。」

速水さんが持ってきてくれたのはいつも使ってる鞍だった。
私はアリオーンに鞍をのせて腹帯を締めてやる。
準備は整ったのだけど…。
何故か、アリオーンは雅之さんをじっと見てます。

「…………。」
「ブルルルルルル…。」

まさに一触即発な感じが否めないんですが。

「佳織…。 俺、こいつに乗ってもいいか?」
「え? で、でも。 この仔…。」
「良くわからんが『乗れ』って言われてる気がするんだ。」
「そ、そう?」
「ああ。 基本的なことはさっき教えてもらったから大丈夫だ。」

雅之さんがそう言って譲らない。
それに答えるかのようにアリオーンが策に掛けてあった手綱を咥えてきて雅之さんに差し出す。

「フッ、フゥゥゥ…。≪とっとと乗りやがれ≫」
「喧嘩売ってるのか?」

手綱を受けとりながら雅之さんはアリオーンを睨んでます。
大丈夫かな?
なんか、不安になってきたんだけど…。
でも、雅之さんは受けて立つって雰囲気を醸し出しててとても止めれる状態ではないです。
雅之さんはさっき教えて通りに手綱をつけます。
その姿が様になってて思わず見とれてしまう。
あっという間にアリオーンの背に乗ってしまいました。
うわぁ、これでティンガロンハットとか被ったら完全にアウトローのガンマンじゃないですか!
ヤバい、超カッコいい。
などと、興奮気味に見とれていたら、アリオーンが嘶きとともに走り出してしまいました。

「ヒィィィィィィィン!!!≪全速力で走ってやるぜ≫」
「うぉっ!!」

それでも、雅之さんは落ち着いていて全然振り落とされる気はしない。
やっぱ、スポーツやってた人はバランス感覚が違うんだろうね。
明らかにアリオーンは振り落とす気満々なのに雅之さんは体がブレてない。
流石です、惚れ直しちゃいますわ。

――――――――一方、雅之は――――――――

「くっ! こいつ…。」
「フッ、フッ、フッ。」

俺は必死で鞍にしがみつく。
手綱を引いても止まる気配はない。

「おい、いつまでそんな走り方をするつもりだ!」

俺は一喝して思いっきり手綱を引く。
すると、コイツは前足を跳ね上げ嘶く。

「うわっ!」

俺は振り落とされてしまった。

「痛…。」
「ブルルルルルゥゥゥ≪その程度かよ≫」
「なんだ、コイツ…。」
「ブゥゥゥゥゥ!!≪俺はアリオーンだ≫」
「やっぱり、喧嘩売ってるのか?」
「フゥゥゥ!!≪よくわかったな≫」
「…………。」

何だろう、何故かコイツの言ってることがわかるような気がする…。
ああ、きっと俺は試されてるんだ、佳織に相応しい男かどうか。

「なぁ、お前から見て俺はどう見えるんだ?」
「フッ、フゥゥ!≪とりあえず、及第点≫」

何だろう、コイツの目は『認めってやっていい』と言っているようだった。

「ありがとな。」
「ヒィィン≪佳織を泣かすなよ!≫」

俺はコイツの…、アリオーンの首を撫でてやった。
すると、アリオーンが俺の頬を舐めてた。

「うぉ! 何する?!」
「ブルルルル≪友情の証だ≫」

で、結局俺は再びアリオーンの背に乗せてもらった。
さっきとは違い気持ちよさそうに走っている。
ああ、きっとこいつは走ることがとても好きなんだ。
そうわかる走りだった。
やがて元いた場所に戻ってきた。

「雅之さん、大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫だ。 ちょっと振り落とされそうになったけどな。」
「振り落とされって、怪我とかしてないですか?」
「全然大丈夫だ。」
「ならいいですけど。」

俺は佳織を引き寄せ、そのまま唇を重ねる。
突然のことに佳織の顔が赤くなっているのがわかる。

「ま、雅之さん?!
 い、いきなりどうしたんですか?」
「うん? いとしい恋人に口付けしただけだ。」
「…………。」

佳織は真っ赤になって俯いた。
俺はアリオーンに勝ち誇ったような笑みを向けた。
ヤツは地団太を踏むように前足を掻く。
すると、少し離れていき、振り返ったかと思うと走り出し、俺たちを隔てていた柵を乗り越えた。

「え?」

驚いて唖然としていると、ヤツが近づいてきて…。

「ヒィィィィィィィン!!!≪佳織から離れやがれ!!≫」

嘶きとともに噛みつかれたのだった。

「いでででで…。 や、やめろぉぉ!!」

牧場内に俺の雄たけびが響き渡った。
それでもヤツは怒りを収める様子はなかったのだが。

「アリオーン!!! それ以上やったらご飯抜きよ!!!!」

という、佳織の一喝であっという間におとなしくなった。
恐らく、佳織の後ろに真っ赤に燃え上がる炎のような怒りのオーラが見えたのかもしれない。

教訓
佳織さんは怒らせてはいけない人です。

かくして、俺とアリオーンの初対決は引き分けに終わったのだった。
コイツに認めてもらえたのはもう少し後の話である。

************************************************

アリオーンは祖父似の青鹿毛です。
父はダービー馬のSW。(Y.T氏に初めてダービー勝たせてくれた馬で、超有名な映画ではないです)
母はグランプリホースのSL(某三冠馬と同世代の遅咲きホース)産駒
って、設定です。
すみません。
氷室が昔追っかけてた馬の子供をどうしても出したくてこんなはなしになっちゃいました。
時々出てくるかもしれません。
因みにアリオーンの誕生日は父と同じ5月2日。
競走馬としては遅生まれです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

禁断のプロポーズ

菱沼あゆ
恋愛
「課長っ!  結婚してくださいっ」  自販機の前で、直訴のように叫んだ志貴島未咲。   珈琲片手に遠崎夏目は言った。 「そうか。  わかった。  日取りの方はちょっと待て」  姉の自殺の真相を探るため、あるツテをたどって、姉が勤めていた大企業に入り込んだ未咲。  姉と同じ第二秘書課に配属されるが、そこは顔だけ良ければいいと言われる、通称『愛人課』だった。  未咲は姉の日記に繰り返し出ていた同期の夏目に近づこうとするが。  彼は実は、会長の隠し子で、いきなり遠い課の課長になってしまう。  夏目に近づきたいと思う未咲は、久しぶりに会った夏目に勢い余って、結婚を申し込んでしまった。  だが、何故か、夏目はそれを承諾。  真相を追う二人の、奇妙な同居生活が始まった――。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる

あさの紅茶
恋愛
学生のときにストーカーされたことがトラウマで恋愛に二の足を踏んでいる、橘和花(25) 仕事はできるが恋愛は下手なエリートチーム長、佐伯秀人(32) 職場で気分が悪くなった和花を助けてくれたのは、通りすがりの佐伯だった。 「あの、その、佐伯さんは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、その節はお世話になりました」 「……とても驚きましたし心配しましたけど、元気な姿を見ることができてほっとしています」 和花と秀人、恋愛下手な二人の恋はここから始まった。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

処理中です...