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独眼竜、傾奇者に諭される
政宗の詫び
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――――――――紫雲楼――――――――
慶次は薄雲の奏でる琵琶を聞きながら酒を飲んでいた。
「そろそろか…。」
「なんぞ言いはった?」
「そろそろ左衛門佐が来る頃かと思ってな。」
「なんでまた…。」
その言葉を遮るように障子が開けられた。そこに立っていた男の姿を見て慶次はニヤリと笑う。
入ってきたのは左衛門佐こと真田信繁。ため息をついて向かいに座る。
「よぉ、首尾はどうだった?」
「上々といったところでしょうか…。」
「ほぉ。」
「藤次郎殿は晴れやかに帰っていかれましたのであちらは問題ないでしょう。」
「残るはあの方か…。」
「前田殿は心当たりがあるのですか?」
「うん? まぁな。」
慶次は杯を信繁に渡し、酒を注ぐ。それをグイッと飲み干す信繁。
「それで、前田殿はどうなさるおつもりか?」
「伊達の出方次第かな?」
「そうですか…。」
「まずはあそこが収まってくれねばな。」
「あのお二人は心配ないでしょう。」
「そうか…。」
そこから二人の男は静かに酒を酌み交わす。浮雲は口を挟まず、ただ琵琶を奏でるだけだった。
*********************************************
さて、時をさかのぼること半刻。政宗は信繁を連れて屋敷に戻ってきた。出迎えたのは泣きそうな顔をした五郎八とそれを追いかけてきたらしい乳母だった。
「ととしゃまぁ。」
「五郎八、如何した?」
「かかしゃまが…。」
「…………。」
政宗は五郎八を抱き上げながら困った顔をしていた。そこへ信繁が毬を差し出す。
「これはそれがしからの土産にございます。」
「わぁ!」
五郎八は先ほどまでの泣きそうな顔が打って変わって明るくなる。信繁が笑顔を向けていたせいもあるのだろう。政宗が降ろしてやると五郎八は喜んで乳母に駆け寄り、そのまま奥へと下がっていった。
「藤次郎殿、あとはあなた次第です。」
「分かっておる。」
「まぁ、心配はしておりませぬが。」
「源次郎…。」
「買い物ならいつでも付き合いますぞ。」
そう言い残して信繁は去っていった。それを見送りながら政宗は一つため息をつく。どう話を切り出すか。
そればかり考えいたせいか夕餉でもまともに話ができず、逆に気まずい空気が流れる。何も言いだせぬまま、寝所で政宗は大の字になって天井を睨み続けた。意を決したように起き上がると五郎八の寝所へと向かう。
「入るぞ。」
「殿?」
「五郎八は?」
「はい、先ほど寝付いたところです。」
「そうか…。」
愛が優しく布団を掛けてやると、五郎八はむにゃむにゃと口を動かし寝息を立てる。政宗は向かいに控える乳母に目配せをする。
「お方様、後のことは私にお任せを…。」
愛は乳母の言葉に少し驚くが、すぐに政宗の意向であることに気付き苦笑する。政宗の顔が少し赤いのがその証拠といえた。愛はそのまま手を引かれ、寝所へ連れられる。先に入り、政宗が後ろ手に障子を閉める。
「殿?」
政宗は返事をせず、黙って胡坐をかいて座る。その緊張した面持ちに愛は向かいに静かに座った。
「愛、すまなかった!!」
「え?」
いきなり頭を下げた政宗に愛は驚きのあまり狼狽える。政宗は懐から例の扇を取り出すと差し出す。
「慶次殿から話は聞いた。」
「!!」
「すまなかった。 これは詫びの印だ。」
「殿…。 顔を上げてください。」
「いや…。」
「それではお話しできませぬ。」
愛のいつにない強い口調に政宗はそろそろと顔を上げる。そこには困惑の表情があった。
「愛、俺は…。」
「あ、あの…、その件はもう気にしておりませんので…。」
「兎に角、これは受け取ってくれ!」
政宗は扇を愛に握らせる。だが、愛はそれを目の前に置くと、首を横に振った。
「このような気遣いは不要です。 伊達家の安泰を考えれば当然のことでしょう。
お世継ぎを上げるぬは私の不徳であり、殿はお気になさらず…。」
「もう、呼んではくれぬのか?」
「え?」
「藤次郎と呼んではくれぬのか?」
「そ、それは…。」
愛は政宗の悲しげな顔に胸を締め付けられる。気付けば寝間着の合わせ目をギュッと握りしめていた。
「愛、もう俺のことは『藤次郎』と呼んではくれぬのか?」
「そ、それは…。」
「それほどに俺が許せんのか?」
「殿が悪いわけではありませぬ。 先ほどから申し上げておる通り、お世継ぎを上げれぬ私が…。」
「愛…。 俺は慶次殿から『女心の分からぬ阿呆だ』と罵られた。」
「…………。」
「俺はほんに阿呆であった。 あのように残り香をつけて帰っているに気づきもしないとは…。」
「え?」
「すまぬ。」
「あ、あの、殿はお気づきではなかったのですか?」
「全く…。」
愛はその返事に目を丸くした。政宗のしょぼくれた姿をまじまじと見ていると今までの自分の考えが馬鹿らしくなり思わず吹き出していた。
「愛?」
「殿は面白い方でございます。」
「そうか?」
「残り香に気付いておいででなかったなど、誰が思いましょうや。」
「むぅぅ…。」
「でも、よかった。」
「?」
「正直申しますと、もう飽きられてしまわれたのかと思っておりました。」
「なっ!」
「漸くできた子も姫でしたし…。
お手元に置いておかれるのは既に実家がなく、帰る場所のない私に同情しておられるのだと。」
「そ、それは違う!! 愛、其方は俺にとってかけがえのない女子だ。
だから、頼む。 もう一度『藤次郎』と呼んではくれまいか…。」
「…………。」
「愛、この扇を広げてみてくれ。」
「え?」
愛は再び握らされた扇を渋々広げる。そして、そこに描かれた絵に息が止まる思いだった。
「祇園に腕のよい職人がいるからと…。 そこで見つけたのだ。 良く描けておるだろ?」
「はい…。」
「その職人は三春で見た景色に心打たれたようでなぁ。
それを見つけてどうしてもこれを其方にと思い、譲ってもらった。」
「そ、そう、でしたの…。」
愛は声を詰まらせる。そこに描えがかれているのは幼き日に別れを告げた故郷・三春の景色。
梅と桃と桜が一度に咲き乱れる様。最早、誰もいない里の変わらぬ景色だった。
「愛、こんな阿呆な俺だが最後まで付き合うてくれぬか?」
「殿…。」
「あーーー。」
「?」
「そ、その、なんだ…。」
「はい。」
「二人の時は…。」
政宗は視線を泳がせながら言いにくそうにしている。愛は何が言いたいのか察したようで微笑み、コクリと頷く。
「はい、藤次郎様。」
「愛」
政宗がそっと抱き寄せれば、愛はその胸に飛び込むようにその身を預ける。二人はどちらともなく唇を重ねた。そして、そのまま褥に倒れ込む。
「よいか?」
「ここまで来て拒むとでも?」
「わかった。 ただ…。」
「ただ?」
「優しくしてやれぬやも。」
「優しくしてくださったことなどありましたか?」
「むぅぅぅ。」
「でも、嬉しゅうございました。 こんな私でも求めてくださるのだと…。」
「愛…。」
政宗はそれ以上言わせないとばかりに再び唇を重ねた。愛はいつものように眼帯を外し、その右目に口付ける。それが合図となったかのように政宗は合わせ目から手を入れ、白いまろやかな双丘を揉みしだく。愛から甘い喘ぎが漏れ始める。政宗は帯を解き、愛の裸形を露わにする。そして、自らも全てを脱ぎ捨て双丘の頂の赤い実に吸い付いた。それだけではない。右手を下へと這わせ太腿を撫でまわす。
「あぁぁん…。」
「愛?」
「あまり、意地悪、なさらない、で…。」
見上げると愛の潤んだ瞳が見える。だが、政宗は意地の悪い笑みを見せるとそのまま舌を這わせていく。やがて辿り着いた足の付け根の蜜口はしとどに蜜を零していた。女の香りを放つそこに躊躇なく舌を這わせる。秘裂を丁寧に舐め上げると愛は背を逸らせる。
「い、いや…。 そこは…。」
「何がだ? 愛のここはもっと欲しいと言っている。」
「そ、そんな…。」
「ほれ、指を入れれば食いちぎらんとばかりに締め付ける。」
「そ、それ、以上、は…。」
「欲しいか?」
「あぁん…。」
「俺が欲しいか?」
「とう、じ、ろう、さま…。」
「どうだ?」
「おね、がい…。 いじ、わ、る、しないで…。」
「なら、俺が欲しいと言え。」
「あんっ! お、お願い…。 私に、藤次郎様を…。」
「ああ、くれてやるとも。」
政宗は体を起こすと逸物に手を添え、狙いすましたように愛の体を貫いた。待ち焦がれたものを与えられ、愛は甲高い嬌声を上げる。政宗も久々に味わう感覚に自身の欲望を抑えることはできなかった。激しく抽挿を繰り返し、愛の中を蹂躙していく。そして、お互いがお互いを貪るように求めあう。気付けば愛は何があっても話すまいと足を絡め、政宗も腰をしっかり掴み何度も奥を穿つ。やがて迎える絶頂。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「愛!!」
愛の中が蠢き政宗の逸物を締め上げる。いつもならそこで腹に力を入れて耐えるところだが、抗うことなく己の欲の塊である白濁を解き放った。
「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。」」
体を重ね乱れた息を整える。そうしているうちに愛はあることに気付いた。それは今し方達したばかりの政宗の逸物がいつの間にやら力を取り戻していたのだ。
「とう、じ、ろう、さま?」
「すまぬ。」
「え?」
「今宵は俺の気が済むまで付き合うてくれ。」
そう言い終えると、政宗は自身の体を起こし、更に愛の体も引き起こした。気付けば座したまま繋がる格好になっていた。
「あんっ!」
「愛!! 今宵はもっと深く繋がり合おうぞ。」
「やぁんっ! ふ、深い…。 あっ。」
政宗はお構いなしに穿ち続ける。障子には乱れる愛の影が映る。それは扇情的で政宗の欲情を煽るに十分だった。余りに激しい抽挿に愛はあっという間に達する。くたりと政宗に身を預けた。そのしっとりと汗に濡れた背を撫でながら耳元で更に囁く。
「愛、獣のように交わろう。」
朦朧とした意識の中でそう囁かれ愛はその意味を理解することができなかった。その意味を理解したのはうつ伏せにさせられ、後ろから貫かれ、激しく揺さぶられてからのことである。
「と、とうじ、ろうさまぁ。」
「うん? ここか? ここが良いのか?」
「あぁっ!! やぁ!!」
「愛の体はそうは言っておらぬぞ。」
「そ、そん、な…。」
「もっとくれ、と…。 そう言って俺を締め付けてくるわ。」
「あんっ! だ、だめぇ!! そ、そこはぁぁ。」
いつしか愛の喘ぎは涙声になっていた。だが、それが決して嫌で上げているものではない。それは感じ過ぎて苦しくて上げたものだった。政宗はそれに気付いている。だから、決して抽挿をやめなかった。寝所に響く愛の喘ぎはますます大きくなる。それに合わせて肉のぶつかる音や淫靡な水音も大きくなった。政宗の荒い息遣いが短くなるにつれ、愛は絶頂を迎えた。背を仰け反らせ身を強張らせたと覆ったらそのまま褥へ沈むように倒れ込む。それとほぼ時を同じくして政宗も白濁を解き放った。全てを吐き出し終え、力を失くした逸物を引き抜く。蜜口からは収まりきらなかった白濁が太腿を伝い流れ落ちる。その淫靡な様を知るのは自分だけだと思うと政宗の心は満ち足りていった。そして、愛の隣に寝転ぶとその体を抱き寄せる。
「少々やりすぎたか…。」
「藤次郎さま、今宵は、もう、お許、し、ください…。」
「ああ、わかった。」
「…………。」
愛の返事はなかった。代わりに聞こえてきたのは静かな寝息。余程疲れたのであろう。政宗は苦笑せざるを得なかった。ふと、あることを思い出し、起き上がり寝間着を羽織る。障子を開け放つと声を掛けた。
「誰かある。」
ザザッと、音がすればそこには黒い脛当をした一人の男が現れる。
「お呼びでございますか?」
「伍兵衛か。」
「はっ。」
「すまぬが明朝、古田織部に『大野修理の申し出をお受けいたす』と伝えてくれ。」
「畏まりました。」
伍兵衛は山の民、いわゆる忍びである。すぐにその姿は闇へと消えていった。小十郎に作らせた『黒脛巾組』の三番組組頭。間違いなく宗易殿に伝えてくれるだろう。
政宗は寝所に戻ろうと障子に手を掛けたところで険しい表情となった。
「隠れてないで出て来い。 今なら見逃してやる。」
「流石は『独眼竜』といったところか…。」
太々しい声とともに植え込みから一人の男が現れた。
「何処の者か? と言っても教えるわけはないか…。」
「…………。」
「当ててやろうか?」
「?」
「お主の主は山城守であろう?」
「!」
男の一瞬の動揺を政宗は読み取った。男は腰の物に手を掛ける。
「なら、好都合。」
「?」
「一つ、言伝を頼まれてくれ。」
「言伝?」
「近々、古田織部の元で茶席をもうける。
その際に前田慶次郎殿とともに招待したい、とな。」
「それは…。」
「昼間の詫びだ。 そう伝えればわかるはずだ。」
「…………。」
「聞けぬか?」
「言伝、承りました。」
男はそのまま塀を乗り越え、闇へと消えていった。政宗は夜空を見上げ、これからのことを思案していた。
「そろそろ、紅葉の季節か…。」
深まる秋の色に人肌が恋しくなり政宗は愛の眠る寝所へと戻る。羽織っていた寝間着を再び放り投げ、褥に潜り込む。愛の体を抱きしめ、その温もりを感じながらまどろみの海へと漕ぎ出したのだった。
慶次は薄雲の奏でる琵琶を聞きながら酒を飲んでいた。
「そろそろか…。」
「なんぞ言いはった?」
「そろそろ左衛門佐が来る頃かと思ってな。」
「なんでまた…。」
その言葉を遮るように障子が開けられた。そこに立っていた男の姿を見て慶次はニヤリと笑う。
入ってきたのは左衛門佐こと真田信繁。ため息をついて向かいに座る。
「よぉ、首尾はどうだった?」
「上々といったところでしょうか…。」
「ほぉ。」
「藤次郎殿は晴れやかに帰っていかれましたのであちらは問題ないでしょう。」
「残るはあの方か…。」
「前田殿は心当たりがあるのですか?」
「うん? まぁな。」
慶次は杯を信繁に渡し、酒を注ぐ。それをグイッと飲み干す信繁。
「それで、前田殿はどうなさるおつもりか?」
「伊達の出方次第かな?」
「そうですか…。」
「まずはあそこが収まってくれねばな。」
「あのお二人は心配ないでしょう。」
「そうか…。」
そこから二人の男は静かに酒を酌み交わす。浮雲は口を挟まず、ただ琵琶を奏でるだけだった。
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さて、時をさかのぼること半刻。政宗は信繁を連れて屋敷に戻ってきた。出迎えたのは泣きそうな顔をした五郎八とそれを追いかけてきたらしい乳母だった。
「ととしゃまぁ。」
「五郎八、如何した?」
「かかしゃまが…。」
「…………。」
政宗は五郎八を抱き上げながら困った顔をしていた。そこへ信繁が毬を差し出す。
「これはそれがしからの土産にございます。」
「わぁ!」
五郎八は先ほどまでの泣きそうな顔が打って変わって明るくなる。信繁が笑顔を向けていたせいもあるのだろう。政宗が降ろしてやると五郎八は喜んで乳母に駆け寄り、そのまま奥へと下がっていった。
「藤次郎殿、あとはあなた次第です。」
「分かっておる。」
「まぁ、心配はしておりませぬが。」
「源次郎…。」
「買い物ならいつでも付き合いますぞ。」
そう言い残して信繁は去っていった。それを見送りながら政宗は一つため息をつく。どう話を切り出すか。
そればかり考えいたせいか夕餉でもまともに話ができず、逆に気まずい空気が流れる。何も言いだせぬまま、寝所で政宗は大の字になって天井を睨み続けた。意を決したように起き上がると五郎八の寝所へと向かう。
「入るぞ。」
「殿?」
「五郎八は?」
「はい、先ほど寝付いたところです。」
「そうか…。」
愛が優しく布団を掛けてやると、五郎八はむにゃむにゃと口を動かし寝息を立てる。政宗は向かいに控える乳母に目配せをする。
「お方様、後のことは私にお任せを…。」
愛は乳母の言葉に少し驚くが、すぐに政宗の意向であることに気付き苦笑する。政宗の顔が少し赤いのがその証拠といえた。愛はそのまま手を引かれ、寝所へ連れられる。先に入り、政宗が後ろ手に障子を閉める。
「殿?」
政宗は返事をせず、黙って胡坐をかいて座る。その緊張した面持ちに愛は向かいに静かに座った。
「愛、すまなかった!!」
「え?」
いきなり頭を下げた政宗に愛は驚きのあまり狼狽える。政宗は懐から例の扇を取り出すと差し出す。
「慶次殿から話は聞いた。」
「!!」
「すまなかった。 これは詫びの印だ。」
「殿…。 顔を上げてください。」
「いや…。」
「それではお話しできませぬ。」
愛のいつにない強い口調に政宗はそろそろと顔を上げる。そこには困惑の表情があった。
「愛、俺は…。」
「あ、あの…、その件はもう気にしておりませんので…。」
「兎に角、これは受け取ってくれ!」
政宗は扇を愛に握らせる。だが、愛はそれを目の前に置くと、首を横に振った。
「このような気遣いは不要です。 伊達家の安泰を考えれば当然のことでしょう。
お世継ぎを上げるぬは私の不徳であり、殿はお気になさらず…。」
「もう、呼んではくれぬのか?」
「え?」
「藤次郎と呼んではくれぬのか?」
「そ、それは…。」
愛は政宗の悲しげな顔に胸を締め付けられる。気付けば寝間着の合わせ目をギュッと握りしめていた。
「愛、もう俺のことは『藤次郎』と呼んではくれぬのか?」
「そ、それは…。」
「それほどに俺が許せんのか?」
「殿が悪いわけではありませぬ。 先ほどから申し上げておる通り、お世継ぎを上げれぬ私が…。」
「愛…。 俺は慶次殿から『女心の分からぬ阿呆だ』と罵られた。」
「…………。」
「俺はほんに阿呆であった。 あのように残り香をつけて帰っているに気づきもしないとは…。」
「え?」
「すまぬ。」
「あ、あの、殿はお気づきではなかったのですか?」
「全く…。」
愛はその返事に目を丸くした。政宗のしょぼくれた姿をまじまじと見ていると今までの自分の考えが馬鹿らしくなり思わず吹き出していた。
「愛?」
「殿は面白い方でございます。」
「そうか?」
「残り香に気付いておいででなかったなど、誰が思いましょうや。」
「むぅぅ…。」
「でも、よかった。」
「?」
「正直申しますと、もう飽きられてしまわれたのかと思っておりました。」
「なっ!」
「漸くできた子も姫でしたし…。
お手元に置いておかれるのは既に実家がなく、帰る場所のない私に同情しておられるのだと。」
「そ、それは違う!! 愛、其方は俺にとってかけがえのない女子だ。
だから、頼む。 もう一度『藤次郎』と呼んではくれまいか…。」
「…………。」
「愛、この扇を広げてみてくれ。」
「え?」
愛は再び握らされた扇を渋々広げる。そして、そこに描かれた絵に息が止まる思いだった。
「祇園に腕のよい職人がいるからと…。 そこで見つけたのだ。 良く描けておるだろ?」
「はい…。」
「その職人は三春で見た景色に心打たれたようでなぁ。
それを見つけてどうしてもこれを其方にと思い、譲ってもらった。」
「そ、そう、でしたの…。」
愛は声を詰まらせる。そこに描えがかれているのは幼き日に別れを告げた故郷・三春の景色。
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「殿…。」
「あーーー。」
「?」
「そ、その、なんだ…。」
「はい。」
「二人の時は…。」
政宗は視線を泳がせながら言いにくそうにしている。愛は何が言いたいのか察したようで微笑み、コクリと頷く。
「はい、藤次郎様。」
「愛」
政宗がそっと抱き寄せれば、愛はその胸に飛び込むようにその身を預ける。二人はどちらともなく唇を重ねた。そして、そのまま褥に倒れ込む。
「よいか?」
「ここまで来て拒むとでも?」
「わかった。 ただ…。」
「ただ?」
「優しくしてやれぬやも。」
「優しくしてくださったことなどありましたか?」
「むぅぅぅ。」
「でも、嬉しゅうございました。 こんな私でも求めてくださるのだと…。」
「愛…。」
政宗はそれ以上言わせないとばかりに再び唇を重ねた。愛はいつものように眼帯を外し、その右目に口付ける。それが合図となったかのように政宗は合わせ目から手を入れ、白いまろやかな双丘を揉みしだく。愛から甘い喘ぎが漏れ始める。政宗は帯を解き、愛の裸形を露わにする。そして、自らも全てを脱ぎ捨て双丘の頂の赤い実に吸い付いた。それだけではない。右手を下へと這わせ太腿を撫でまわす。
「あぁぁん…。」
「愛?」
「あまり、意地悪、なさらない、で…。」
見上げると愛の潤んだ瞳が見える。だが、政宗は意地の悪い笑みを見せるとそのまま舌を這わせていく。やがて辿り着いた足の付け根の蜜口はしとどに蜜を零していた。女の香りを放つそこに躊躇なく舌を這わせる。秘裂を丁寧に舐め上げると愛は背を逸らせる。
「い、いや…。 そこは…。」
「何がだ? 愛のここはもっと欲しいと言っている。」
「そ、そんな…。」
「ほれ、指を入れれば食いちぎらんとばかりに締め付ける。」
「そ、それ、以上、は…。」
「欲しいか?」
「あぁん…。」
「俺が欲しいか?」
「とう、じ、ろう、さま…。」
「どうだ?」
「おね、がい…。 いじ、わ、る、しないで…。」
「なら、俺が欲しいと言え。」
「あんっ! お、お願い…。 私に、藤次郎様を…。」
「ああ、くれてやるとも。」
政宗は体を起こすと逸物に手を添え、狙いすましたように愛の体を貫いた。待ち焦がれたものを与えられ、愛は甲高い嬌声を上げる。政宗も久々に味わう感覚に自身の欲望を抑えることはできなかった。激しく抽挿を繰り返し、愛の中を蹂躙していく。そして、お互いがお互いを貪るように求めあう。気付けば愛は何があっても話すまいと足を絡め、政宗も腰をしっかり掴み何度も奥を穿つ。やがて迎える絶頂。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「愛!!」
愛の中が蠢き政宗の逸物を締め上げる。いつもならそこで腹に力を入れて耐えるところだが、抗うことなく己の欲の塊である白濁を解き放った。
「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。」」
体を重ね乱れた息を整える。そうしているうちに愛はあることに気付いた。それは今し方達したばかりの政宗の逸物がいつの間にやら力を取り戻していたのだ。
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「え?」
「今宵は俺の気が済むまで付き合うてくれ。」
そう言い終えると、政宗は自身の体を起こし、更に愛の体も引き起こした。気付けば座したまま繋がる格好になっていた。
「あんっ!」
「愛!! 今宵はもっと深く繋がり合おうぞ。」
「やぁんっ! ふ、深い…。 あっ。」
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「あぁっ!! やぁ!!」
「愛の体はそうは言っておらぬぞ。」
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「もっとくれ、と…。 そう言って俺を締め付けてくるわ。」
「あんっ! だ、だめぇ!! そ、そこはぁぁ。」
いつしか愛の喘ぎは涙声になっていた。だが、それが決して嫌で上げているものではない。それは感じ過ぎて苦しくて上げたものだった。政宗はそれに気付いている。だから、決して抽挿をやめなかった。寝所に響く愛の喘ぎはますます大きくなる。それに合わせて肉のぶつかる音や淫靡な水音も大きくなった。政宗の荒い息遣いが短くなるにつれ、愛は絶頂を迎えた。背を仰け反らせ身を強張らせたと覆ったらそのまま褥へ沈むように倒れ込む。それとほぼ時を同じくして政宗も白濁を解き放った。全てを吐き出し終え、力を失くした逸物を引き抜く。蜜口からは収まりきらなかった白濁が太腿を伝い流れ落ちる。その淫靡な様を知るのは自分だけだと思うと政宗の心は満ち足りていった。そして、愛の隣に寝転ぶとその体を抱き寄せる。
「少々やりすぎたか…。」
「藤次郎さま、今宵は、もう、お許、し、ください…。」
「ああ、わかった。」
「…………。」
愛の返事はなかった。代わりに聞こえてきたのは静かな寝息。余程疲れたのであろう。政宗は苦笑せざるを得なかった。ふと、あることを思い出し、起き上がり寝間着を羽織る。障子を開け放つと声を掛けた。
「誰かある。」
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「お呼びでございますか?」
「伍兵衛か。」
「はっ。」
「すまぬが明朝、古田織部に『大野修理の申し出をお受けいたす』と伝えてくれ。」
「畏まりました。」
伍兵衛は山の民、いわゆる忍びである。すぐにその姿は闇へと消えていった。小十郎に作らせた『黒脛巾組』の三番組組頭。間違いなく宗易殿に伝えてくれるだろう。
政宗は寝所に戻ろうと障子に手を掛けたところで険しい表情となった。
「隠れてないで出て来い。 今なら見逃してやる。」
「流石は『独眼竜』といったところか…。」
太々しい声とともに植え込みから一人の男が現れた。
「何処の者か? と言っても教えるわけはないか…。」
「…………。」
「当ててやろうか?」
「?」
「お主の主は山城守であろう?」
「!」
男の一瞬の動揺を政宗は読み取った。男は腰の物に手を掛ける。
「なら、好都合。」
「?」
「一つ、言伝を頼まれてくれ。」
「言伝?」
「近々、古田織部の元で茶席をもうける。
その際に前田慶次郎殿とともに招待したい、とな。」
「それは…。」
「昼間の詫びだ。 そう伝えればわかるはずだ。」
「…………。」
「聞けぬか?」
「言伝、承りました。」
男はそのまま塀を乗り越え、闇へと消えていった。政宗は夜空を見上げ、これからのことを思案していた。
「そろそろ、紅葉の季節か…。」
深まる秋の色に人肌が恋しくなり政宗は愛の眠る寝所へと戻る。羽織っていた寝間着を再び放り投げ、褥に潜り込む。愛の体を抱きしめ、その温もりを感じながらまどろみの海へと漕ぎ出したのだった。
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