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独眼竜と三春の姫

愛との蜜月と五郎ハの誕生

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あれから政宗は昼夜問わずめごと睦むようになる。勿論、朝議には出るが終わればすぐに屋敷に引きこもる。それもすべて奥方のためと聞き及んでおるので皆仲睦まじい夫婦めおとなのだと苦笑いをしていた。そんな中、ただ一人だけその様子に不信感を募らせる男がいた。治部じぶ少輔しょうゆう・石田三成だ。

「三成、また眉間に皺が寄っておるぞ。」
「吉継…。」
刑部ぎょうぶ殿の言われる通りだ。
 そのように難しい顔ばかりしていると皆恐れて近寄らなくなるぞ。」
「兼続までそのような…。」

眉間に皺が寄りすぎていたのかそう声をかけてきたのは無二の親友、刑部ぎょうぶ少輔《しょうゆう》・大谷吉継と山城守やましろのかみ・直江兼続だった。

「伊達の動きがおかしい。」
「あれは奥方を甲斐甲斐しく世話をしておるからであろう?」
「本当にそれだけか怪しいものよ。」
「三成殿は何故なにゆえそのように勘ぐられる。」
「伊達の奥方が伏せるようになったのは殿下が茶席に誘ったすぐ後からだ。」
「ああ…。」

それを聞いて、吉継と兼続は納得し肩を竦める。その様子に三成は訳がわからず、また眉間に深い皺を寄せた。

「三成、恐らくお主の思っておるようなことではないと思うぞ。」
「吉継、其方そなたまで伊達の片棒を担ぐというのか?!」
「待て待て、そう言うことではない。」
「では、どういうことだ!!」
「三成殿、『百聞は一見に如かず』。 伊達殿の邸を訪ねれば、おのずと答えは見えるでしょう。」
「兼続がそう言うのであれば…。」

鼻息荒く吉継の胸倉を掴んだ三成を制したのは兼続だった。

「誰かあるか?」
「お呼びでございますか。」
「すまないが伊達屋敷に走ってもらえぬか?」
「伊達屋敷に、でございますか?」
「石田治部と大谷刑部、それに直江山城守が奥方の見舞いを兼ねて参上したいと伝えてくれ。」
「はっ。」

兼続が呼んだ男はあっという間に走り去った。越後・上杉家の家老である兼続お抱えの忍び・軒猿衆のきざるしゅうなのであろう。

「さて、では我らも参ろうか。」

兼続は柔らかく笑い、二人を促す。三成はまだ何ぞ文句を言いたいようであったが吉継に背中を押されて渋々伊達屋敷に向かうのだった。

――――――――伊達屋敷――――――――

政宗がめごしとねに組み敷いて激しく奥を穿っていたところに、慌ただしく駆け寄る足音が聞こえてきた。戸の向こうに控えた家臣が声を掛ける。

「と、殿!!」
「何事か? ここには誰も近づくなといったはずだ。」

政宗は構わずめごを揺さぶり続ける。余りの激しさに声を抑えきれず、めごは喘ぎを漏らす。外に控える家臣もその声に居たたまれない。

「い、今し方、直江山城守様の使者が参り、石田治部様・大谷刑部様と奥方様を見舞いたいと…。」
「なに?」
「間もなく御三方が到着されるかと…。」
「ふん! 放っておけ。
 俺は今それどころではない。」
「し、しかし!」
「なら、待たせておけ。」
「そ、それでは…。」
「伊達者は支度に手間が掛かるとでも言っておけ。」

政宗はそれ以上何も指示を出さなかった。室内からはめごの甲高い嬌声が上がり、政宗の荒い息遣いが聞こえてきた。家臣はそそくさとその場を離れるよりほかなかった。

――――――――客間――――――――

さて、客間に通された三成・吉継・兼続の三人はそこで待ちぼうけを食らうことになる。出された茶を飲み干し、手持無沙汰となった三人。特に三成は片眉がピクピクと痙攣でも起こしたかのように引きつっている。既に怒りは爆発寸前といったところであった。それを止めようと吉継が声を上げんとしたまさにその時、奥の襖が開き政宗が現れた。それに安堵したのもつかの間、政宗のその姿に三人全員がギョッとする。
何と、政宗は寝間着姿に直垂を羽織っただけ。しかも胸元は肌蹴ており、薄っすらと汗も浮かんでいる。情事の後を思わせるのは十分だった。

「伊達家では客を待たせて睦言を優先させる家風がおありなのか?」
「あ?」
「い、いや、そ、その…。」
「ああ、この格好を言われておられるか?」
「…………。」
「これは妻が啼いてよがるものでな。」
「な、啼いてよがる、だと?!」
「妻に乞われ、その望みを叶えぬなど男がすたるというものだ。」

政宗はあっけらかんと答えた。その姿に堪忍袋の緒が切れたのか拳を震わせ三成は躍りかかろうとした。それを兼続が後ろから羽交い絞めにして押しとどめる。

「伊達殿! それでは奥方が伏せっておるとは嘘ということでございますか?!」

吉継の言葉に政宗の雰囲気が一変した。それは彼の渾名あだな・『独眼竜』を彷彿とさせる怜悧な気を纏わせ始めたからだ。それを全身で感じ、三人は一瞬でその場に固まる。

「治部殿…。」
「な、なんで、ござろう…。」
「俺は殿下の妙な噂を聞きつけた。」
「妙な噂?」
「おおよ。 殿下は臣従した大名の妻に手をつけては食い漁っておると…。」

その言葉を発した政宗の左目が刃の如き光を放った。三成は振り上げた拳を静かに降ろす。その様子に兼続は拘束を解いた。すると、三成は政宗の前に進み出て胡坐をかき、両の拳を床に着け頭を下げた。

「伊達殿、申し訳ない!!」
「治部殿?」
「殿下の女癖の悪さは再三注進しておるが一向に収まらぬ。
 『英雄色を好む』と思うて捨て置いた私の不徳といたすところだ。」
「頭を上げられよ。」
「いや、そうはいかぬ。
 伊達殿の奥方を不安にさせておるのが自分の不甲斐なさ故と思えば…。」

これには政宗も苦笑せざるを得ない。頭を掻いてどうすべきか思い悩んでいると、両脇に控える吉継と兼続が肩を竦めている。

(ああ、石田治部とはこういう男なのか…。)

政宗は石田治部は頭が固く融通の利かない文官だと思っていた。だが、蓋を開けてみればこの男は真っ直ぐで義に厚く、誰よりも弱い者の味方である。ふと、政宗は三成の旗印を思い出した。

【大一大万大吉】

『一人は皆のために、皆は一人のために、さすれば皆幸福になれる』

確か、そのような意味があったと思い出す。なれば、この目の前で頭を下げる男に本心を打ち明けてもよいだろうと思えた。

「治部殿、頭を上げられよ。」
「そういう訳には…。」
「それでは話ができぬ故、頭を上げられよ。」

三成はおずおずと頭を上げる。するとそこには真っ直ぐ自分を見据える政宗の姿があった。その姿に何か強い決意が感じられ、三成は自然と背筋が伸びた。

「治部殿、此度のめごが仮病を使って殿下のお誘いを断ったことは詫びる。」
「伊達殿?」
「だが、俺としてはどうしてもめごを行かせるわけにはいかなかったのだ。」
「?」
めごは上洛する折り、辱めは受けぬと…。
 何かあれば懐に隠し持つ匕首あいくちで自ら命を絶つと、そう言い置いて米沢を発った。」
「「「!!!」」」

政宗の言葉に三人は絶句する。だが、大名の奥方であればその覚悟は当然といえた。それに対して、政宗の顔は苦悶に歪んだいる。

「知っての通り、既に俺には側室との間に男児がある。
 だが、めごとの間にはいまだ女児すらいない。」
「伊達殿…。」
「俺はめごに子を抱かせてやりたい。
 故に此度のような仕儀と相成った。 すまぬ。」

今度は政宗が深々と頭を下げた。これに慌てた三成たち三人。まさか、『独眼竜』と渾名される英傑が頭を下げるとは思っていなかったのだ。

「伊達殿、頭を上げてくだされ。」
「いや、そういう訳にはいかぬ。」
「伊達殿、我らはあなたの真意が聞ければそれで十分なのです。」
「刑部殿、それは…。」
「伊達殿が朝議の後、すぐに屋敷に引きこもるので三成は叛意はんいがあるのではないかと疑ておったのだ。」
「その実が奥方を思うてのことであれば我らは何も申しませぬ。」

政宗はその言葉にようやく頭を上げる。三人の男は皆申し訳なさそうにしていた。

「此度のことは不問といたします。」
「かたじけない。」
「奥方に早うややができるとよいですな。」
「なれば、滋養に良いものでも贈らせましょう。」

こうして、三成・吉継・兼続の三人は晴れやかな顔をして伊達屋敷を後にしたのだった。

――――――――寝室――――――――
三人を見送った後、政宗は再び寝室へと戻ってきた。先程まで眠っていたのであろうか、めごは気だるげに体を起こす。政宗はその体をそっと抱き寄せ、額に口付けを落とす。

「藤次郎様?」
めご其方そなたのことは俺が必ず守る。」
「はい…。」

二人の間に言葉は必要なかった。どちらともなく唇を重ね、再び褥へと倒れ込む。先程の情事からそれほど時が経っていないせいもあり、すぐに甘い吐息を漏らし始めるめご。蜜口に指を這わせれば、既に蜜を溢れさせていた。政宗は再びナカに押し入る。抽挿を繰り返せば、快楽に溺れるように喘ぎを漏らし始めるめご。政宗はその姿に煽られ、激しく腰を打ち付けるのだった。
二人の情事は日が暮れるまで続く。その行為が終わりを迎えたのは月が高く昇った夜半過ぎだったのは言うまでもない。

その後も毎日のように睦み合った。政宗にとってはめごを繋ぎ止めるかのように必死だったのかもしれない。それはめごも同じであったようで決して拒むことがなかった。そんな二人に吉報が届いたのは夏が終わりを告げ、紅葉や楓が赤く色好き始めたころだった。

「藤次郎様…。」
めご?」

めごは政宗の手を取り、自身の腹に沿わせた。

「ま、まさか…。」
「はい。」
「あ、あぁ…。」
「ややが…。」
「で、でかした!!」
「きゃっ!!」

政宗は喜びのあまりめごを抱き上げた。政宗の破顔して喜ぶさまにめごは苦笑せざるを得ない。それでも、自分に子が出来たことを殊の外喜んでくれてるのだから嬉しくないわけがない。政宗の元に輿入れしてはや14年。漸く二人のもとに降りて来てくれたこの子を愛おしく思わぬはずがなかった。翌年六月、生まれた子は女児であった。

「う~~~む、まさか女子おなごであったとは…。」
「藤次郎様?」
「まいったな…。」
「?」
「実は女子おなごの名前を考えていなかった。」
「は?」
「ああ、もう、よいか。 今更、新しい名前を考えるのも面倒だ!!」
「藤次郎様?」
「よし、決めた! 其方は五郎八いろはじゃ!」
「え?」
五郎八いろはよ。 早う大きゅうなれ。
 俺は其方そなたのためなら何でもしてやるぞ!!」
「藤次郎様ったら…。」

政宗は娘に頬擦りしながら健やかな成長を祈ったのだった。



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