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独眼竜の暴走と鬼の暴挙

小十郎の暴挙

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喜多の手紙の内容が明らかに…
でも、その前に絶倫な政宗をどうぞ

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目が覚めると隣でめごの静かな寝息が聞こえる。そのことで政宗は何とも言えぬ幸福感に包まれるれ、つい、腰を抱き寄せ体を密着させてしまう。だが、すぐに後悔する。めごの体から漂う匂いと柔らかな感触に下半身はしっかり反応したのだ。

「うぅぅん…。」
めご?」
「あ…。」
「起きたか…。」
「藤次郎様?」
「あーーー、その~~~、なんだ…。」
「?」
「ちと、マズいことになってきた…。」
「え?」

政宗はどうしたものかと思ったが、今更隠したところでどうにもならない。半ばやけくそ気味にめごの手を取り、自らの股間に持っていく。

「!!!」
「ダメか?」
「ダメだと言ってもするのでしょ?」
「はははは…。」
「もぉ…。」
「しばらく触れておらなんだし。 昨夜の仕切り直しもしたい。」

政宗はめごに覆い被さると唇を重ねる。そのまま性急に体を繋げた。めごははじめキツく締め上げていたが、すぐに柔らかく包み込むように蠢く。政宗は激しく腰を打ち付ける。やがて漏れ始めるめごの甘い吐息に煽られ激しく奥を穿った。まだまだ若輩の政宗にはそれ以上持たせることができず、あっという間に熱を解き放ってしまう。

「藤次郎様…。」
「うん?」
「湯殿に…。」
「ああ、そうだな。」

二人はこっそり寝所を抜けて湯殿へ向かったのだった。

―――――――それから一刻後―――――――

二人は朝餉を取っていたのだが…。

めご…。」
「……………。」
「まだ、怒っておるのか?」
「別に…。」

めごは黙々と膳に箸をつける。おまけに政宗とは視線を合わせない。政宗は箸を咥えたまま、どうしたものかと考えていた。

(まぁ、俺のせいだから仕方ないが…。)

などと思っていたら、鋭い視線でが飛んでくる。更に叱責の言葉が飛んできた。

「藤次郎様!!」
「は、はひ。」

政宗は突然のことに素っ頓狂な声が上がった。その姿にめごは呆れると同時に怒っていることが馬鹿らしく思えてつい吹き出してしまう。

「め、めご?」
「もう、藤次郎様ったら…。 お行儀悪いですよ。」
「へ?」
「箸、口に咥えたまでらっしゃいます。」
「あ…。」
「もう、怒ってませんから…。」
「す、すまん…。」
「出来れば、ああいうことは褥だけにしてくださいね。」

めごは頬をほんのり赤く染めながら俯いた。政宗は首是をして、朝餉を掻き込む。
実は湯殿でめごの湯に浸かった姿にまた勃ち上がってしまった政宗は我慢できずにその場でまた繋がってしまった。それも、後ろから獣ように激しく…。
ただでさえ寝起きに抱かれた上に湯殿でまた交わることになるなど思ってもみなかっためごは政宗の絶倫ぶりに腹を立てていたという訳である。

「あ~~~。」
「藤次郎様?」
「そう言えば、俺に話があると言っていなかったか?」

政宗はめごが『話がある』と言われていたことを思い出し口にした。すると、めごは視線を落とし、暗い表情になる。その只ならぬ雰囲気に政宗は眉を顰める。すると、めごは一通の文を差し出した。

「これは?」
「片倉家に里帰りしている喜多からの文です。」

その言葉に小十郎の妻・夕の出産が近づいていることを思い出した。

「おお、そう言えば小十郎のところはそろそろ産み月であったな。」
「はい…。」
「祝いの品は何が良いか、考えねば…。」
「藤次郎様…。」
「うん? どうした?」
「まずはこの文をお読みいただいてもよろしいでしょうか。」
「これは其方に届いた文であろう?」
「はい。 ですが、藤次郎様に読んでいただきたく…。」

めごの悲壮なまでの表情に胸騒ぎを覚え政宗はその文に視線を走らせた。読み進むうちに文を持つ両手が震える政宗は読み終えるとそれを握り潰した。

「生まれてきた、子を…、殺す、だと…?」

そう、喜多の文に書かれていたのは小十郎が間もなく生まれてくる我が子が男児おのこであったならば殺すと言っていることを知らせるとともに助命願い政宗に口添えしてもらいたいとの文だった。政宗は小十郎のその行為に怒りを隠しきれないと同時に悲しかった。
小十郎と妻の夕はそれは仲睦まじい夫婦である。互いが互いを労わり合えるその姿に政宗は常日頃から自らもそのようにありたいと思っていた。それが、このような暴挙ともいえる行為に出るとは到底信じれなかった。

「藤次郎様…。」
「何か…、何か、訳があるはずだ。」
「はい、私もそう思います。」
「小十郎は先行して檜原ひばら峠に向かっている。 まず、思いとどまるように文を送る。」
「そうしてやってください。」
「理由はその後聞く。 めご、喜多には何も心配せずとも良いと伝えてくれ。」
「はい。」
「それから、夕には伊達を支える元気な男児おのこの誕生を祈っておると…。」

政宗はめごの肩に手を置き、にこりと微笑む。めごは安堵の表情を浮かべた。

それからすぐに政宗は蘆名を撃退すべく出陣した。だが、先の内応工作の失敗が響いてか戦況は芳しくない。とはいえ、伊達家当主となった初戦ということもあり、政宗は総攻撃をかけるべく檄を飛ばす。だが、それを諫め、撤退を促すのは小十郎だった。

「ここで引き下がれば伊達の面目は丸潰れじゃ!!」
「そのような小事に拘っては奥州平定など夢のまた夢ですぞ!!!」
「くっ!」

一歩も引き下がらぬ小十郎に政宗の苛立ちは頂点に達しようとしていた。

(明日のために恥を忍べと?! なら、何故、嫡男となる子を殺すなどと!!)

政宗はもはや限界だった。小十郎の胸倉を掴み睨み付ける。

「なら、お前はどうなんだ。」
「は?」
「お前は『生まれて来た子が男児おのこであったなら殺す』と。
 そのように言うておると聞いた。」
「なぁっ!!」

その場にいた者たちが一斉に驚く。そして、その視線が小十郎に注がれる。

「小十郎、お前ほどの男が何故…。」
「そうだ、男児おのこなればゆくゆくは伊達家を支える一人となろうものを!!
 それを間引くというのか?!」
「まさか、子供嫌いとでもいうのではないだろうな?!」

皆が小十郎を責め立てる中、ただ一人腕を組み思案顔の男がいた。鬼庭おにわ綱元だ。その様子に気付いた政宗は表情を変えず、低い声で言い放つ。

「綱元、言いたいことがあるなら申せ。」
「殿、小十郎を離してやってください。」
「…………。」

政宗は胸倉を掴んでいた手を離す。すると、小十郎はその場に尻もちをついた。力なく項垂れるその姿に、政宗は訳がわからない。

「此度、小十郎が間引きを考えたのは殿への忠義故ではなかろうかと…。」
「どう言う意味だ?」
めご姫様が輿入れされてはや六年。 未だ男児おのこを上げておらませぬ。
 それを差し置いて男児おのこを上げることを憚ったのでは?」
「小十郎、そうなのか?」
「…………。」

小十郎は俯いたまま答えなかった。政宗にはそれが答えたと思えた。

「ふ、ふふ、ふふふ、はっはっはっ!!」
「と、殿?」
「この大馬鹿者が!!!!!」

政宗は右拳をしっかり握りしめ、小十郎を殴った。そして、再び胸倉を掴むと一喝する。

「そのようなものは忠義ではい。 ただの暴挙じゃ!!」
「殿…。」
「俺より先に男児おのこを上げずになんとする?!」
「え?」
「俺の嫡男の傅役もりやくは小十郎、お主の子を以外に誰がおるというのじゃ!」
「と、殿…。」
「なぁ、小十郎、先日送った文の通り。 生まれてくる子の命、この俺に預けてくれまいか?」
「し、しかし…。」
「先のことなど誰にもわからぬ。 折角できた子じゃ。 皆で祝ってやろう。
 男児おのこだというて殺すのは思いとどまってくれ。」
「御意…。」

いつの間にか政宗の手は小十郎の右肩に置かれている。小十郎が顔を上げるといつものどこか悪戯っぽい顔をした政宗がいた。ニカッと笑うその姿に小十郎は涙が溢れた。

「なれば、陣払いじゃ!」
「え?」
「総攻めでは…。」
「蘆名如きいつでも叩き潰せる。 じゃが、小十郎の子の産声は今しか聞けぬじゃろ?」
「はは、左様にございますな。」
「そうであろう?」
「確かに…。」
「そうと決まれば『善は急げ』。 皆の者、小十郎の子の顔を見に帰ろうぞ!!!」

政宗の号令一下、伊達軍は米沢へと引き上げたのだった。

それからしばらくして、小十郎の子が生まれる。皆が望んだとおりの男児おのこであった。左衛門さえもんと名付けられたその子は後の大坂の陣で『鬼小十郎』と恐れられる二代目片倉小十郎重綱である。伊達家は新たな命の誕生とともに奥州平定の歩みをまた一歩前進したのであった。


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お読みいただきありがとうございます

なんだかんだといちゃラブな政宗とめごなのでした
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