【R18】転生先は男女比1:30の貞操逆転世界~ビッチを夢見る三十路の魂~

尾和 ハボレ

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『空手部の近況と変わらぬ現在』

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『空手部の近況と変わらぬ現在』

冬原先生のケータイが鳴った。チラリと見た先生は、はぁ、とため息をつく。

「学園からです。失礼します」

氷雨社長が軽くうなずくと先生が呼び出しに出る。

オレもミルクティーに口をつけ、会話を控える。

「お疲れ様です、冬原です。あ、山崎先生。どうされました?」

山崎先生の名を聞いて、氷雨社長がピクリと反応する。

そういえばこの人も空手部OGだったな。

しかも擁護教諭、つまり保健の先生である山崎先生の目を盗んでは保健室備え付けのコンドームをパチり、冬原先生と分け合っていたという。

そして空手部に代々受け継がれていたブラックサンダーの前オーナーでもある、と。

凛々しくも堂々とした氷雨社長を前にすると、そんな話とても信じられないが、山崎先生の名前に反応するあたり真実なのだろう。

こんな凛々しい美人があのブラックサンダーで……と思うと、言い難い興奮を覚えてしまう。

「はい。はい、ええ……ああ、すみません。お手間おかけしまして。わかりました。これから私もその病院に向かいます。失礼します」

病院という単語が出たため、オレと氷雨社長が目を合わせた。何事だろう?

「ふう。失礼しました」

通話を終えた先生がケータイをバッグにしまう。

「どうした美雪。山崎からの電話だったのだろう? 病院とは?」
「ウチの生徒が繁華街の方でケンカ沙汰になったらしく数人が軽傷との事です。ちなみにウチの方は空手部主将です」
「ほう後輩か。相手は?」
「街の酔っ払いたちですね。絡まれていた男の子を助けるために」
「酔っ払いたち? つまり我らが空手部の当代主将は一人で複数相手に向かっていったわけか」
「押忍」
「やるじゃないか」

心配そうな顔をしていた氷雨社長がニヤリと笑った。

「互いのケガの具合は?」
「ウチの主将が拳に擦過傷。相手は腹や背中に打撲。そんな所です」
「ほう。要するに自分は無傷で、相手には見えない場所にダメージか。絡まれていた男の子は?」
「その子の通報で表ざたになったようです。こちらはもちろん無傷です」
「ますますやるじゃあないか。助けられた男の子からすればヒーローだな、はっはっはっ!」

満足そうに笑う氷雨社長。

一方でオレはこういうシチュエーションでも、女の子がヒーローと呼ばれるんだな、と場違いな感心していた。

「宮城君」
「あ、はい。なんでしょう」

足を組み直しながら氷雨社長がオレを見る。

「君ならどう思う? 酔っ払いに絡まれた時、さっそうと助けに来た同年代の女を」
「ええと。カッコいいと思います」
「連絡先ぐらい教えてしまうかな?」
「そうですね。お礼もしたいですし」

そう答えると氷雨社長と冬原先生が互いを見て笑いあった。自虐的な笑みだった。

「どうしました?」
「いや、なんでもないよ、宮城君。気にしないでくれ」

いや、めっちゃ気になるんですが。

そう思っていると冬原先生が口を開く。

「そうだぞ、気にするな宮城。決して私たちが過去に似たようなシチュエーションで男の子を助けた時、やりすぎて男の子には泣かれた挙句、相手の酔っ払いから訴えられそうになったわけではないからな」
「言うな馬鹿者」

ウチの空手部、よく廃部にならないな。

春日井さんには生徒会に誘われているけれど、その前に怖いもの見たさで空手部を見学してみたい気もする。

「そういうわけで、私はそのヒーローを引き取りに行かなくてはいけません。本日はここで失礼します」
「そうか。ご苦労だな。では今日のところはここで……」

解散、と言いかけた氷雨社長だったが、冬原先生が待ったをかける。

「あー、先輩。すみませんが宮城を学園まで送ってもらえませんか? 私はこの足で現地に向かいますので」
「ん? う、うむ。宮城君さえ良ければ私はもちろん構わないが」

きょとんとする氷雨社長だが、すぐに落ち着いた声でオレを見る。

冬原先生がオレと氷雨社長の仲を積極的に取り持とうとしているのか、単に急いでいるのかの判断はつかないが、オレとしても氷雨社長とはもう少し話がしたいと思っていた。

できれば二人で。

「ボクも氷雨社長ともう少しお仕事の話ができたら嬉しいですし、お願いしてもいいでしょうか?」
「君がよければもちろん。慌ただしい面接だったし、疑問があれば何でも聞いて欲しい」

ニッコリと笑う氷雨社長。

「では話もまとまったようですし、私はお先に失礼します。宮城、失礼のないように」
「はい、先生も今日はありがとうございました」

立ち上がった先生にオレが頭を下げると、氷雨社長も軽く手を上げて挨拶を返す。

「……」
「……」

冬原先生を見送って、ふと氷雨社長と目が合う。

「さ、さて! では送りがてら話を聞こう。学園でいいのかな?」
「はい、よろしくお願いいたします」

氷雨社長についてホテルの駐車同に向かう。

「この車だ。どうぞ乗ってくれ」

黒塗りの高級車の前で氷雨社長が後部座席を指した後、自分は回り込んで運転席へ乗り込んだ。

オレはすっとぼけたふりで、助手席に乗り込んだ。

「み、宮城君?」
「はい?」

ハンドルを握ったまま、氷雨社長が顔だけを横に向けてオレを見る。

オレはすっとぼけ顔のまま、氷雨社長を見つめ返しながら、あざとく首をかしげた。

「何か?」
「い、いや。シートベルトを頼むよ」
「はい」

オレがシートベルトを留めると、ゆっくり車が動き出す。

先生のスポーツカーと違って、高級車特有の滑るようなお尻の感覚に揺られながら街中を走っていく。

「……」
「……」

無音だ。

音楽もラジオもかかっていな車中は無音のまま、時間だけがぎこちなく流れていく。

こういう空気が苦手な人もいるだろう。しかも同乗しているのは仕事先、仕事相手だ。

オレだってこれが前世だったら、胃をキリキリさせながら何か話題を探したに違いない。

しかし今のオレはあえて無言を貫いている。

なぜか?

氷雨社長から話を振ってもらうためだ。

せっかくの男女逆転、かつ偏った比率のこの世界。

こちらからガツガツいくのではなく、ガツガツこられてみたいのが男心というもの。

四人のセフレさんたちは、今でこそガツガツくるが、導入部分のアプローチはオレからだった。

夏木さんを校舎裏に呼び出したり、冬原先生を生徒指導室で押し倒したり、春日井さんや薫ちゃんを公園の物陰に引き込んだり。

最初の一歩と最後の決定打はいつもオレだ。

今回は最初から最後まで“年上に落とされる高校生”というシチュエーションを楽しんでみたい。

果たして大人の女性はどうやって年下のコを落としにかかるのか。実に興味深いテーマだ。

そう考えながら無言で待っていると、ようやく氷雨社長が口を開いた。

「宮城君」
「はい」
「何か、その。仕事に関して聞きたい事があるのだろう?」
「あ、はい。ええと」

とはいえ、実のところ仕事に関して聞きたい点もあった。

仕事内容である発表会での荷物持ち。

小さいながらも発表会という名目で、服の発表が行われ、それを来たモデルさんも参加するという話だった。

つまりそれは、特設の通路みたいな舞台の上を、モデルさんたちがセクシーな感じで歩いてターンして帰っていくアレがあるのではないかと。

そうであれば、ぜひ生で女性モデルさんがセクシーな姿で歩く姿を見てみたい。

専門用語があるのかもしれないが、そのあたりにうといオレは、曖昧ながらも氷雨社長に尋ねかけた。

「通路……? ああ、それはランウェイの事だね。今回はそこまでの規模ではないよ。場所もさほど大きくないホテルのフロアだから仮設での用意も難しい。発表する水着もモデルに着せて、私たちと一緒にフロアを歩く程度のお披露目だ。それは他のメーカーも同様だ」

ファション業界のことは無知レベルのオレだが、前世では聞いたこともない形式だ。

つまり氷雨社長のようなメーカーの人が、女性モデルとオレのようなエサ役の男とワンセットになって、スポンサーやクライアントが出席するフロアに集まるわけか。

なかなかカオスな光景では?

しかし、そうなると氷雨社長が連れてくるモデルさんも仲良くなれる可能性もあるかも?

「モデルさんというのは、つまり、ええと」

オレがモデルさんは若くてきれいな人ですか? と遠回しに聞こうとしたものの、氷雨社長が慌ててこう付け加えた。

「ああ、すまない。モデルの事を言っていなかった。もちろん君に対して不埒な視線や言葉を投げかけないよう厳重に釘をさしておく。それにモデルたちもプロだ。カバン持ちの男性にちょっかいをかければ、次からはどこからも声をかけられなくなって失業だ。早々、間違いは犯さないから安心して欲しい」

カバン持ちという役割が確立している以上、それについてのルールも存在するわけだ。

「先ほどの説明で、カバン持ちの仕事は色目を使われ下心見え見えの会話に応じること、とは言ったが、お偉いさんだってそのあたりは心得ている。過度なアプローチをすれば同業から後ろ指だ」

ううむ。そういう事なら、セクシーな女性モデルさんからナンパされる嬉しいイベントはなさそうだ。実に残念。

そんなことをツラツラと話しながら車は順調に進み、見慣れた学園に到着した。さすがに黄門に横付けする事はなく、人通りの少ない裏道に車が停まる。

「お疲れ様だったね。しかしここから家は近いのかい? 男の子が一人で出歩くには微妙な時間だと思うが、良ければ自宅まで送っていこうか?」

夕暮れよりもやや夜に近い時間。

昼ほど明るくはないが人通りも多いし、外灯もある帰り道だ。心配されるほどでもない。

送り狼を期待して家まで送ってもらおうとも思ったが、初日にオトされるというのも少し風情が無いし、社内での会話も仕事ばかりの内容だったから誘うにしてもムードに欠ける。

それに繰り返すが、今回のオレはオトされたい系男子。自分からグイグイ行くことは控えるスタイルだ。

「いえ、ここで大丈夫です。今日はお時間をいただきありがとうございました。ケーキもご馳走様でした」
「いや、こちらこそありがとう。実に有意義な一日だった」

オレのビジネスライクな返事に対し、氷雨社長はサッと身を引いて社会人として大人の振る舞いを見せた。

……自分からそっけなくしておいてなんだが、もう少しガッついて欲しいと思うのは勝手すぎるだろうか。

そうして去っていく黒塗りのセダンへ頭を下げて見送ったオレは、これからの事やカバン持ちの仕事について考えながら家路についた。
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