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『氷雨社長のお仕事(1)』
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『氷雨社長のお仕事(1)』
「氷雨先輩の会社は下着メーカーだ。それもオーバーサイズ専門のブランドだ」
「!」
冬原先生の言葉を耳にして、オレは再び冊子に目を戻す。
なるほど! 確かに大きなお胸のモデルさんばかりだと思ったら、そういう事か!
オレは人を外見ではなく中身で判断する誠実な男なので、下着ではなくその中身の事ばかり考えてしまった。
今、謎はすべて解けた。
氷雨社長が口ごもったのは、おっきなオッパイが、男性の嫌悪対象となっているこの世界ゆえの懸念だろう。
確かにこっちのモデルさんもあっちのモデルさんも実にデカい。
「美雪の言う通りだ。実店舗は事務所併設のサンプル置き場のような小さなものが一つだけで、メインは受注通販という形態をとっている」
「なるほど」
「……どうだろうか。気分を害していないなら話を続けても良いかな?」
オレが冊子から目を離さないのをどうとらえたのか、氷雨社長の声は暗い。
一方、オレの返事は。
「俄然、興味がわいてきました。天職の予感すらしています」
「……ふふ、そうか。では続けさせてもらおう」
気を使ったと思われているのだろう。
けれど冬原先生にはオレの本心から返事とわかっているようで、自分の胸を見つつ、なんとも微妙な顔をしていた。
オレはそんな先生をよそに、シンプルな疑問を氷雨社長へ投げかける。
「しかし、ボクは男ですし、お役に立てるとは思えませんけれど」
「道理だな。だが、こちらを見て欲しい」
開かれていた雑誌をペラペラとめくり、その手が止まる。
「起用されているのは豊満な女性モデルだけではない」
「なるほど」
そこにはデッかい女性と横並びで映っている男性モデルの姿がある。
こちらは下着ではなく、両者ともに水着姿だった。
シチュエーション的に浜辺でデートという雰囲気だ。
オレの魔眼には男の水着姿をスルーする便利機能もついているため、さっきは見逃していた。
「私の会社は下着を扱う為、男性モデルを起用する事はないのだが……近いうちに下着以外も手掛けたいと思っている。オーバーサイズのメーカーは少ない。アウターにしろ、水着にしろ、ブルーオーシャン……競合他社が少ないのさ」
「それはつまり、客層も薄い、という事では?」
つい思ったままの疑問を口にしてしまった。
言葉にしてから失礼だったかと思ったが、氷雨社長は感心したようにうなずいた。
「そうとも言える。だがビッグサイズの下着を扱うメーカーが少ない理由は世間の目だよ。贅肉を着飾っても仕方ないというのが一般的な認識だからな。ビッグサイズの商品は機能性特化で、スポーツブラのような装飾が無く耐久性があり伸縮に強いものが主流だ。私ほどのサイズだとアウター一つとってもスーツ以外まともな選択肢がないし、スーツの形もみっともないものさ」
自身のご立派様を見下す氷雨社長。
おいたわしや。
すぐにでもその双丘、もとい、双子山を撫でて慰めたい気持ちでいっぱいだが、今は我慢だ。
「オーバーサイズの下着は小さな量販店には置いていない。下着専門店でも棚に並ぶ数も種類も少ない。とはいえ、それを必要とする女がいないわけでもない。我が社はそういった少ない客層を総ざらいする事で利益を上げた。社の名前が売れ始めた今、下着以外に手を出しても勝機はあると思っている。オーダーに近いため単価は上がるが、胸の大きな女たちにとって選択肢が増えるというのは喜ばしいものなのさ」
と、再び自身の胸を見る氷雨社長の説得力は抜群だ。
「なるほど」
高額な通販主軸といっていたし、薄利多売の逆というわけだ。ある種のブランドだな。
「ではボクの仕事というのは、こういったモデルさんと一緒に写る事、ですか?」
まさかのモデル業のお誘いだろうか。
だが先生はカバン持ちの仕事と言っていた。
「む。宮城君はモデル業務に抵抗はない、のかな?」
それまでとは一転して、氷雨社長の声と表情に真剣さが宿る。
興味がないわけではないが、予想されるデメリットの方が勝る。
オレの初志はビッチであり、気に入った女の子と手あたり次第に仲良くなる事だ。
日の当たる場所でキャーキャー言われる芸能人ではない。
もちろん、そちらも捨てがたいが二兎を追う者なんとやらだ。
というわけで、やんわりとお断りする。
「抵抗がないわけではないですが。顔を出すのは恥ずかしいですし」
「どこに出ても恥ずかしくない顔だと思うが。いや、お世辞ではないよ?」
氷雨社長の目に真剣さが増した。これはちょっとイヤな予感がする。
「そうですね。ボクもそう思います。ご覧のようにイケメンですし」
オレは冗談で場を和ませながら、断る理由を追加しておく。
「ただ、不特定多数の人に一方的に認知されるというのは怖いですから」
それらしい理由をとってつけてみるが。
「もっともだ。男性であれば用心はしすぎる事はない。もちろん、そういう仕事に従事する男性の為に安全面などは最大限の配慮が尽くされる。もし宮城君が将来、モデル業に興味を持ったならぜひ私に連絡を……」
熱っぽくなってきた氷雨社長の迫力にオレがおされていると、冬原先生のフォローが入った。
「先輩。氷雨先輩。今回、そこまでのお話は……」
「お、あ、おっと。そうだった。失礼した。すまないね、宮城君。今の事は忘れてく……いや、心の片隅に留めておいてくれるとありがたい
コホン、と咳払いを一つして氷雨社長がカタログを開く。
そこには水着姿のスレンダーな女性たちが華やかに映っている。
「私の次の目標は水着だ。デザイナーや工場の手配は終わっている。第一弾のラインナップに関しては試作品が上がり、次回の発表会でお目見え予定だ」
「そうなんですか」
下着ブランドが水着に進出するらしい。
そのあたりの事はよくわからないが、氷雨社長はイケると踏んでいるのだろう。
だが、ここまで聞いていてもアルバイトの内容はいまだベールの向こう側だ。
やはりよくわからない。
「氷雨先輩の会社は下着メーカーだ。それもオーバーサイズ専門のブランドだ」
「!」
冬原先生の言葉を耳にして、オレは再び冊子に目を戻す。
なるほど! 確かに大きなお胸のモデルさんばかりだと思ったら、そういう事か!
オレは人を外見ではなく中身で判断する誠実な男なので、下着ではなくその中身の事ばかり考えてしまった。
今、謎はすべて解けた。
氷雨社長が口ごもったのは、おっきなオッパイが、男性の嫌悪対象となっているこの世界ゆえの懸念だろう。
確かにこっちのモデルさんもあっちのモデルさんも実にデカい。
「美雪の言う通りだ。実店舗は事務所併設のサンプル置き場のような小さなものが一つだけで、メインは受注通販という形態をとっている」
「なるほど」
「……どうだろうか。気分を害していないなら話を続けても良いかな?」
オレが冊子から目を離さないのをどうとらえたのか、氷雨社長の声は暗い。
一方、オレの返事は。
「俄然、興味がわいてきました。天職の予感すらしています」
「……ふふ、そうか。では続けさせてもらおう」
気を使ったと思われているのだろう。
けれど冬原先生にはオレの本心から返事とわかっているようで、自分の胸を見つつ、なんとも微妙な顔をしていた。
オレはそんな先生をよそに、シンプルな疑問を氷雨社長へ投げかける。
「しかし、ボクは男ですし、お役に立てるとは思えませんけれど」
「道理だな。だが、こちらを見て欲しい」
開かれていた雑誌をペラペラとめくり、その手が止まる。
「起用されているのは豊満な女性モデルだけではない」
「なるほど」
そこにはデッかい女性と横並びで映っている男性モデルの姿がある。
こちらは下着ではなく、両者ともに水着姿だった。
シチュエーション的に浜辺でデートという雰囲気だ。
オレの魔眼には男の水着姿をスルーする便利機能もついているため、さっきは見逃していた。
「私の会社は下着を扱う為、男性モデルを起用する事はないのだが……近いうちに下着以外も手掛けたいと思っている。オーバーサイズのメーカーは少ない。アウターにしろ、水着にしろ、ブルーオーシャン……競合他社が少ないのさ」
「それはつまり、客層も薄い、という事では?」
つい思ったままの疑問を口にしてしまった。
言葉にしてから失礼だったかと思ったが、氷雨社長は感心したようにうなずいた。
「そうとも言える。だがビッグサイズの下着を扱うメーカーが少ない理由は世間の目だよ。贅肉を着飾っても仕方ないというのが一般的な認識だからな。ビッグサイズの商品は機能性特化で、スポーツブラのような装飾が無く耐久性があり伸縮に強いものが主流だ。私ほどのサイズだとアウター一つとってもスーツ以外まともな選択肢がないし、スーツの形もみっともないものさ」
自身のご立派様を見下す氷雨社長。
おいたわしや。
すぐにでもその双丘、もとい、双子山を撫でて慰めたい気持ちでいっぱいだが、今は我慢だ。
「オーバーサイズの下着は小さな量販店には置いていない。下着専門店でも棚に並ぶ数も種類も少ない。とはいえ、それを必要とする女がいないわけでもない。我が社はそういった少ない客層を総ざらいする事で利益を上げた。社の名前が売れ始めた今、下着以外に手を出しても勝機はあると思っている。オーダーに近いため単価は上がるが、胸の大きな女たちにとって選択肢が増えるというのは喜ばしいものなのさ」
と、再び自身の胸を見る氷雨社長の説得力は抜群だ。
「なるほど」
高額な通販主軸といっていたし、薄利多売の逆というわけだ。ある種のブランドだな。
「ではボクの仕事というのは、こういったモデルさんと一緒に写る事、ですか?」
まさかのモデル業のお誘いだろうか。
だが先生はカバン持ちの仕事と言っていた。
「む。宮城君はモデル業務に抵抗はない、のかな?」
それまでとは一転して、氷雨社長の声と表情に真剣さが宿る。
興味がないわけではないが、予想されるデメリットの方が勝る。
オレの初志はビッチであり、気に入った女の子と手あたり次第に仲良くなる事だ。
日の当たる場所でキャーキャー言われる芸能人ではない。
もちろん、そちらも捨てがたいが二兎を追う者なんとやらだ。
というわけで、やんわりとお断りする。
「抵抗がないわけではないですが。顔を出すのは恥ずかしいですし」
「どこに出ても恥ずかしくない顔だと思うが。いや、お世辞ではないよ?」
氷雨社長の目に真剣さが増した。これはちょっとイヤな予感がする。
「そうですね。ボクもそう思います。ご覧のようにイケメンですし」
オレは冗談で場を和ませながら、断る理由を追加しておく。
「ただ、不特定多数の人に一方的に認知されるというのは怖いですから」
それらしい理由をとってつけてみるが。
「もっともだ。男性であれば用心はしすぎる事はない。もちろん、そういう仕事に従事する男性の為に安全面などは最大限の配慮が尽くされる。もし宮城君が将来、モデル業に興味を持ったならぜひ私に連絡を……」
熱っぽくなってきた氷雨社長の迫力にオレがおされていると、冬原先生のフォローが入った。
「先輩。氷雨先輩。今回、そこまでのお話は……」
「お、あ、おっと。そうだった。失礼した。すまないね、宮城君。今の事は忘れてく……いや、心の片隅に留めておいてくれるとありがたい
コホン、と咳払いを一つして氷雨社長がカタログを開く。
そこには水着姿のスレンダーな女性たちが華やかに映っている。
「私の次の目標は水着だ。デザイナーや工場の手配は終わっている。第一弾のラインナップに関しては試作品が上がり、次回の発表会でお目見え予定だ」
「そうなんですか」
下着ブランドが水着に進出するらしい。
そのあたりの事はよくわからないが、氷雨社長はイケると踏んでいるのだろう。
だが、ここまで聞いていてもアルバイトの内容はいまだベールの向こう側だ。
やはりよくわからない。
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