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『アルバイト探し(5)』
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『アルバイト探し(5)』
冬原先生いわく、男に群がる野次馬にもいくつかパターンがあるらしい。
まずシンプルに、若いイケメンを間近で見たい勢力。大半の野次馬がここに属する。このテーブル周辺の人口密度の増加もコレが理由だ。
オレだって美少女や美女の近くの席が空いていれば、チラ見目的でそこに座るかもれしない。
次に盗撮目的の野次馬。
「見つかればお縄の可能性もある。それでも覚悟を決めた者は、あの手この手で盗撮をする。所詮はスマホのカメラだからな。被写体との距離は近い方がいい。大胆な奴ほど接近戦を挑んでくる」
これもなるほどだ。
さすがに前世のオレはそこまでしなかったが、気持ちはわかる。
「最後にコンタクト目的の女だ。私のような特に若くもなく、金も持っていなさそうな女が、お前のような若いイケメンを連れているんだ。親族でない限りほぼ姉活だと思われる。そして野次馬はこう思うのさ。あんな女でも付き合ってくれる男の子なら、自分にもワンチャンあるのではないか、と」
冬原先生が周囲をわざとらしく見回し、オレも釣られて視線を追った。
すると、サッと目をそらしたのが十人以上。
顔をそらしながら手元のケータイを隠したのは十人くらい。
そして冬原先生を睨んでいる、もしくはオレに笑顔を向けたのが数人。
「お前と視線が合ってもなお、私を見ている女、もしくはお前を見ている女。そのへんには注意しておけよ?」
彼女たちは野次馬の中でもタチの悪い、フルコンタクト系過激派勢力との事だった。
「私がいる間は近寄ってこないから安心しろ。そして私がこんな場所でお前から離れる事はない。男を守るのは女の役目だからな」
キリっとした顔で言い終えた先生の目は、とてもキラキラしていた。
なるほど?
「……それも昔から言ってみたかったセリフですか?」
「うむ。まさか本物の若い男を前にして、実現できるとは思っても見なかった」
冬原先生はまた古い夢の欠片を回収したようだ。
ほふっと息を吐いて冬原先生がイスに座りなおした時。
「あ」
そでに紙コップのコーヒーがひっかかり、見事にオレに向かって倒れた。
長く居座るつもりだったらしく、Lサイズのアイスコーヒーはまだ半分以上が残っていた。
津波のように襲い掛かったコーヒーの波は、オレの詰襟とズボンを濡らした。
「す、すまん、宮城!」
慌てて立ち上がる冬原先生。
「大丈夫ですよ。ちょっと冷たいですけど黒地ですし。ああ、けど中のカッターシャツに染みるとマズいですね」
オレは立ち上がり、詰襟だけを素早く脱ぐ。
周囲から、おお、というため息が聞こえてきた。
男でも上半身の裸体は乳首も含めて性的部位とはとらえられないはず(写真やテレビなどでもモザイクは入らない)だが、学生服を脱ぐというモーションが野次馬のレディたちには刺さったのかもしれない。
前世の感覚でいえば、カーディガンを脱いだノースリーブの女の子、ぐらいだろうか?
いや、ノースリーブを着る状況でカーディガンを羽織るだろうか?
例は悪いがだいたいそんなカンジだと予想する。
それくらいならサービスしても、冬原先生も文句は言わないだろう。
「し、しかし。風邪でもひいてしまったら大変だ」
と思いきや、冬原先生はひどく慌てて、オレの体を拭こうとハンカチを取り出していた。
いつものクセでオレの体に接触しようとしてくるが、さすがに衆目が多いココではマズいかもしれない。
好戦的な野次馬が先生を陥れるチャンスとばかりに、通報しようものならトラブルになってしまう。
オレは差し出されたハンカチを持つ先生の手をきゅっとつかむ。
そしてそのまま体を引き寄せ、耳元に口を近づけてこう言った。
「じゃあ、この後シャワーのある場所に連れて行ってもらえませんか?」
野次馬が反応する前に、すぐに体を離す。
固まった冬原先生がハンカチを手から落とした。
「落ちましたよ?」
「ハッ!?」
すぐにそれを拾って、コーヒーで濡れているテーブルをガッシガシと拭き始めた。
「こ、これでいいだろう。多少の汚れは勘弁してもらって……よし! カ、カゼを引いてしまう前に行こうか!」
ハッキリどこへとは言わないが、十分な匂わせゼリフをオレよりも周囲の野次馬に向けて口にする先生。
実に楽しそうな顔をしているので、オレも少しだけ協力する事にした。
「はい。行きましょう。ボクも体が冷えてきましたから、はやく温まりたいです」
オレは先生と腕を組んで体を寄せる、いや、密着させる。
「おほっ……ん?」
どこから出たのかわからない声をあげた冬原先生だが、ふと真顔になる。
「制服から何か落ちたぞ。生徒手帳か?」
「あ」
腕にかけていた制服から胸ポケットに入れていた生徒手帳が落ちていた。
「気を付けろ。男の写真が添付されているような落とし物は、まずまともに返ってこないからな」
「どうしてでしょう?」
「警察に届けても本人から感謝されるわけでもない。であれば、手元の写真を有効活用したいからだよ」
「なるほど」
「生徒手帳だぞ? 100パーセント確実に男子高校生が身に着けていたものだ。しかも見た目は最高のお前の写真付き。その価値、はかり知れんだろうな」
「見た目だけですか?」
からかうように聞くと、にへらっ、とだらしない顔になった冬原先生。
「バカ言え。中身も最高なのは私だけ……いや、私と春日井だけの秘密だ」
密着してヒソヒソ話をしていたのが、イチャイチャしていると思われたのか周囲からの視線が痛いものになってきた。
「いかん。刺激しすぎた。未成年の男子学生をかどわかしていると通報される前にここから……おい、まだ何か落ちているぞ? それは……名刺か?」
「え? あ。そう言えば中に挟んだままだっけ」
電車で体調不良になった時、助けてくれたお姉さんの名刺だ。
いずれ改めてお礼をと思っていたのに、完全に忘れていた。
「学生のお前がなぜ名刺などを持っている? ま、まさか姉活相手の……」
「違いますって。ともかくここから出ましょうか。歩きながらお話します」
オレは先生をうながし、緊張感の増したフードコートから立ち去った。
冬原先生いわく、男に群がる野次馬にもいくつかパターンがあるらしい。
まずシンプルに、若いイケメンを間近で見たい勢力。大半の野次馬がここに属する。このテーブル周辺の人口密度の増加もコレが理由だ。
オレだって美少女や美女の近くの席が空いていれば、チラ見目的でそこに座るかもれしない。
次に盗撮目的の野次馬。
「見つかればお縄の可能性もある。それでも覚悟を決めた者は、あの手この手で盗撮をする。所詮はスマホのカメラだからな。被写体との距離は近い方がいい。大胆な奴ほど接近戦を挑んでくる」
これもなるほどだ。
さすがに前世のオレはそこまでしなかったが、気持ちはわかる。
「最後にコンタクト目的の女だ。私のような特に若くもなく、金も持っていなさそうな女が、お前のような若いイケメンを連れているんだ。親族でない限りほぼ姉活だと思われる。そして野次馬はこう思うのさ。あんな女でも付き合ってくれる男の子なら、自分にもワンチャンあるのではないか、と」
冬原先生が周囲をわざとらしく見回し、オレも釣られて視線を追った。
すると、サッと目をそらしたのが十人以上。
顔をそらしながら手元のケータイを隠したのは十人くらい。
そして冬原先生を睨んでいる、もしくはオレに笑顔を向けたのが数人。
「お前と視線が合ってもなお、私を見ている女、もしくはお前を見ている女。そのへんには注意しておけよ?」
彼女たちは野次馬の中でもタチの悪い、フルコンタクト系過激派勢力との事だった。
「私がいる間は近寄ってこないから安心しろ。そして私がこんな場所でお前から離れる事はない。男を守るのは女の役目だからな」
キリっとした顔で言い終えた先生の目は、とてもキラキラしていた。
なるほど?
「……それも昔から言ってみたかったセリフですか?」
「うむ。まさか本物の若い男を前にして、実現できるとは思っても見なかった」
冬原先生はまた古い夢の欠片を回収したようだ。
ほふっと息を吐いて冬原先生がイスに座りなおした時。
「あ」
そでに紙コップのコーヒーがひっかかり、見事にオレに向かって倒れた。
長く居座るつもりだったらしく、Lサイズのアイスコーヒーはまだ半分以上が残っていた。
津波のように襲い掛かったコーヒーの波は、オレの詰襟とズボンを濡らした。
「す、すまん、宮城!」
慌てて立ち上がる冬原先生。
「大丈夫ですよ。ちょっと冷たいですけど黒地ですし。ああ、けど中のカッターシャツに染みるとマズいですね」
オレは立ち上がり、詰襟だけを素早く脱ぐ。
周囲から、おお、というため息が聞こえてきた。
男でも上半身の裸体は乳首も含めて性的部位とはとらえられないはず(写真やテレビなどでもモザイクは入らない)だが、学生服を脱ぐというモーションが野次馬のレディたちには刺さったのかもしれない。
前世の感覚でいえば、カーディガンを脱いだノースリーブの女の子、ぐらいだろうか?
いや、ノースリーブを着る状況でカーディガンを羽織るだろうか?
例は悪いがだいたいそんなカンジだと予想する。
それくらいならサービスしても、冬原先生も文句は言わないだろう。
「し、しかし。風邪でもひいてしまったら大変だ」
と思いきや、冬原先生はひどく慌てて、オレの体を拭こうとハンカチを取り出していた。
いつものクセでオレの体に接触しようとしてくるが、さすがに衆目が多いココではマズいかもしれない。
好戦的な野次馬が先生を陥れるチャンスとばかりに、通報しようものならトラブルになってしまう。
オレは差し出されたハンカチを持つ先生の手をきゅっとつかむ。
そしてそのまま体を引き寄せ、耳元に口を近づけてこう言った。
「じゃあ、この後シャワーのある場所に連れて行ってもらえませんか?」
野次馬が反応する前に、すぐに体を離す。
固まった冬原先生がハンカチを手から落とした。
「落ちましたよ?」
「ハッ!?」
すぐにそれを拾って、コーヒーで濡れているテーブルをガッシガシと拭き始めた。
「こ、これでいいだろう。多少の汚れは勘弁してもらって……よし! カ、カゼを引いてしまう前に行こうか!」
ハッキリどこへとは言わないが、十分な匂わせゼリフをオレよりも周囲の野次馬に向けて口にする先生。
実に楽しそうな顔をしているので、オレも少しだけ協力する事にした。
「はい。行きましょう。ボクも体が冷えてきましたから、はやく温まりたいです」
オレは先生と腕を組んで体を寄せる、いや、密着させる。
「おほっ……ん?」
どこから出たのかわからない声をあげた冬原先生だが、ふと真顔になる。
「制服から何か落ちたぞ。生徒手帳か?」
「あ」
腕にかけていた制服から胸ポケットに入れていた生徒手帳が落ちていた。
「気を付けろ。男の写真が添付されているような落とし物は、まずまともに返ってこないからな」
「どうしてでしょう?」
「警察に届けても本人から感謝されるわけでもない。であれば、手元の写真を有効活用したいからだよ」
「なるほど」
「生徒手帳だぞ? 100パーセント確実に男子高校生が身に着けていたものだ。しかも見た目は最高のお前の写真付き。その価値、はかり知れんだろうな」
「見た目だけですか?」
からかうように聞くと、にへらっ、とだらしない顔になった冬原先生。
「バカ言え。中身も最高なのは私だけ……いや、私と春日井だけの秘密だ」
密着してヒソヒソ話をしていたのが、イチャイチャしていると思われたのか周囲からの視線が痛いものになってきた。
「いかん。刺激しすぎた。未成年の男子学生をかどわかしていると通報される前にここから……おい、まだ何か落ちているぞ? それは……名刺か?」
「え? あ。そう言えば中に挟んだままだっけ」
電車で体調不良になった時、助けてくれたお姉さんの名刺だ。
いずれ改めてお礼をと思っていたのに、完全に忘れていた。
「学生のお前がなぜ名刺などを持っている? ま、まさか姉活相手の……」
「違いますって。ともかくここから出ましょうか。歩きながらお話します」
オレは先生をうながし、緊張感の増したフードコートから立ち去った。
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