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『アルバイト探し(4)』
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『アルバイト探し(4)』
オレにアルバイトは無理だと断言する先生。
「やっぱり。そんな流れだと思いました」
正直、ある程度は予想していたとはいえ、その真剣な表情からしてオレが考える以上に、トラブルを引き寄せるのだろう。
「男性の外見うんぬんの話はしたくないがな? お前の場合は顔が良すぎる」
「いやぁ、それほどでも」
「自覚はあるだろう」
「……そう聞かれて、はい、とうなずくのはイヤなヤツじゃありませんか?」
「顔が良くても高慢な性格であれば話は別だ。女も犯罪者にはなりたくないからな。不用意に近づいて訴えられる危険があれば近づかないが、お前は性格も柔らかいからダメなんだ」
褒め殺しとはまた違う、なんとも歯がゆい感覚。
「そもそも男の場合、働かなくとも金なんてどうとでもできる。大きな声では言えんが、ライトな方法ならお茶活、まとまった金なら姉活、妊活。それ以前に、男子学生の大半は親族の女が山ほど小遣いをくれるから金に困る方が珍しいんだが……ご両親は海外だったな。仕送りはどうなんだ?」
「あ。えーと」
う。オレが唯一突っ込まれたくない話題に移ってしまった。
この世界のクソ女神様が、そのあたりは上手い事やってくれているようだが、細かい設定はオレも知らされていない。
考えてみれば、未成年のアルバイトとなると保護者の承諾が必要になるのか?
うまい言い訳がないかとうなっていると、冬原先生が何を勘違いしたのか。
「すまない、宮城。家庭の事情に立ち入ってしまったな。担任として力になれることは少ないが、何かあれば遠慮なく言ってくれ。女の私に言いにくい事であれば、山崎先生もいらっしゃる」
急に大人の顔になる冬原先生。
根は真面目で面倒見のいい人だ。時折、面白くなるだけで。
「いえ。えーと、そこまで深い話でなくて……その、ボクも両親がどこにいるのかわからなくて。生活費の振込はされていますけど、ボクの食費ってそれなりなんで、自由に使えるお金に余裕はないんです」
「確かにお前はよく食べるからなぁ」
冬原先生がオレの為に持ってきてくれる昼食の弁当箱は、次第に大きくなっている。
「追加の小遣いをねだるにしても、連絡がとれなくて」
しどろもどろと、考えながら言い訳を作っていく。
「そうだったのか。私としては一度ご挨拶を、と思っていたが」
「妊活のですか?」
半分冗談で聞いてみるが、この世界まだまだオレの知らない事は多いからな。念のためだ。
「バっ、バカモノ! 担任としてだ。男子生徒を受け持った場合、親御さんがどんな教師が担任かと心配されることも多いからな。あらかじめこちらから顔見せに行く事が多い」
「面倒ですねぇ」
「後の大面倒を回避するために、保険として目先の面倒をこなすのさ」
この世界の男子生徒を受け持つ先生は大変そうだ。
しかし目の前に、実際に男子生徒に手を出してしまった人もいるし、世の中には隠された真実が多くあるんだ。
「というわけで、宮城。お前がどうしてもアルバイトをしたいというのであれば、止める事はできないが、重々身の回りには気を付けろ」
「……いえ、さすがにそんな顔をする先生に、これ以上ご心配をおかけするのはボクとしても本意ではないのでやめておきます」
「そ、そうか」
露骨にホッとした表情になる冬原先生。
逆にオレは渋面だ。
「そうなるとボクは日々の食費を節約して、小遣いを溜めるしかないわけですね」
うーん。節約した所で夏までに交通費、それに宿泊費まで溜められるか?
出来れば三人分の費用を貯めたい。この世界の男はどうか知らないが、誘った以上はオレがカッコよく出したいのだ。
などと考えていると、冬原先生がテーブルの上に身を乗り出して小声でこんな事を提案してくる。
「み、宮城。お前は私から金を受け取らないと言ったが、デートでの食事代なんかは甘えてくれるよな? もしお前さえ良ければ、昼だけとは言わず朝も夜も食べさせてやる。食費が浮くぞ、どうだ?」
さきほどの、心底心配しているという表情からうってかわり、ニヘラっと実にだらしない顔になった先生の心情は実に読みやすい。
「ベッドも一緒という意味ですか? 同棲はさすがにマズイですよ」
こうして校外で連れ添って一緒にいるだけでも周囲を気にしているのに、同じ部屋から同じ学園に通い始めたら絶対にどこかでボロが出る。
あと以前、本人も言っていたが、オレとの肉欲の日々にただれて、まともに仕事にも行かなくなりそうだ。
オレは冬原先生を好ましく思っている。オレが原因で身を持ち崩してほしくない。
あと、女教師というオプションはぜひ現役のままでいて欲しい。
「そ、そうだな。やはりそうだよな……」
「誤解しないでください。先生の事がキライなわけではないですからね?」
やたらと凹んでしまった先生を慰めようと、乗り出してテーブルについていた手をそっと握る。
キザな仕草だと思うが、これくらいが丁度いいのだろう。
すると、みるみる機嫌が良くなっていく冬原先生。
「ふふ、周囲の視線が気持ちいい。これはクセになりそうだ」
フードコートにはまばらに空席があるが、オレたちのテーブルの周囲だけは満席だ。
「ところで宮城。男はこういった場では気を付けるべき事がある。お前は常時ウエルカムな雰囲気を出しているからなおさらだ。よく聞け」
先生がふと思い出したようにして、また真剣な顔になった。
オレにアルバイトは無理だと断言する先生。
「やっぱり。そんな流れだと思いました」
正直、ある程度は予想していたとはいえ、その真剣な表情からしてオレが考える以上に、トラブルを引き寄せるのだろう。
「男性の外見うんぬんの話はしたくないがな? お前の場合は顔が良すぎる」
「いやぁ、それほどでも」
「自覚はあるだろう」
「……そう聞かれて、はい、とうなずくのはイヤなヤツじゃありませんか?」
「顔が良くても高慢な性格であれば話は別だ。女も犯罪者にはなりたくないからな。不用意に近づいて訴えられる危険があれば近づかないが、お前は性格も柔らかいからダメなんだ」
褒め殺しとはまた違う、なんとも歯がゆい感覚。
「そもそも男の場合、働かなくとも金なんてどうとでもできる。大きな声では言えんが、ライトな方法ならお茶活、まとまった金なら姉活、妊活。それ以前に、男子学生の大半は親族の女が山ほど小遣いをくれるから金に困る方が珍しいんだが……ご両親は海外だったな。仕送りはどうなんだ?」
「あ。えーと」
う。オレが唯一突っ込まれたくない話題に移ってしまった。
この世界のクソ女神様が、そのあたりは上手い事やってくれているようだが、細かい設定はオレも知らされていない。
考えてみれば、未成年のアルバイトとなると保護者の承諾が必要になるのか?
うまい言い訳がないかとうなっていると、冬原先生が何を勘違いしたのか。
「すまない、宮城。家庭の事情に立ち入ってしまったな。担任として力になれることは少ないが、何かあれば遠慮なく言ってくれ。女の私に言いにくい事であれば、山崎先生もいらっしゃる」
急に大人の顔になる冬原先生。
根は真面目で面倒見のいい人だ。時折、面白くなるだけで。
「いえ。えーと、そこまで深い話でなくて……その、ボクも両親がどこにいるのかわからなくて。生活費の振込はされていますけど、ボクの食費ってそれなりなんで、自由に使えるお金に余裕はないんです」
「確かにお前はよく食べるからなぁ」
冬原先生がオレの為に持ってきてくれる昼食の弁当箱は、次第に大きくなっている。
「追加の小遣いをねだるにしても、連絡がとれなくて」
しどろもどろと、考えながら言い訳を作っていく。
「そうだったのか。私としては一度ご挨拶を、と思っていたが」
「妊活のですか?」
半分冗談で聞いてみるが、この世界まだまだオレの知らない事は多いからな。念のためだ。
「バっ、バカモノ! 担任としてだ。男子生徒を受け持った場合、親御さんがどんな教師が担任かと心配されることも多いからな。あらかじめこちらから顔見せに行く事が多い」
「面倒ですねぇ」
「後の大面倒を回避するために、保険として目先の面倒をこなすのさ」
この世界の男子生徒を受け持つ先生は大変そうだ。
しかし目の前に、実際に男子生徒に手を出してしまった人もいるし、世の中には隠された真実が多くあるんだ。
「というわけで、宮城。お前がどうしてもアルバイトをしたいというのであれば、止める事はできないが、重々身の回りには気を付けろ」
「……いえ、さすがにそんな顔をする先生に、これ以上ご心配をおかけするのはボクとしても本意ではないのでやめておきます」
「そ、そうか」
露骨にホッとした表情になる冬原先生。
逆にオレは渋面だ。
「そうなるとボクは日々の食費を節約して、小遣いを溜めるしかないわけですね」
うーん。節約した所で夏までに交通費、それに宿泊費まで溜められるか?
出来れば三人分の費用を貯めたい。この世界の男はどうか知らないが、誘った以上はオレがカッコよく出したいのだ。
などと考えていると、冬原先生がテーブルの上に身を乗り出して小声でこんな事を提案してくる。
「み、宮城。お前は私から金を受け取らないと言ったが、デートでの食事代なんかは甘えてくれるよな? もしお前さえ良ければ、昼だけとは言わず朝も夜も食べさせてやる。食費が浮くぞ、どうだ?」
さきほどの、心底心配しているという表情からうってかわり、ニヘラっと実にだらしない顔になった先生の心情は実に読みやすい。
「ベッドも一緒という意味ですか? 同棲はさすがにマズイですよ」
こうして校外で連れ添って一緒にいるだけでも周囲を気にしているのに、同じ部屋から同じ学園に通い始めたら絶対にどこかでボロが出る。
あと以前、本人も言っていたが、オレとの肉欲の日々にただれて、まともに仕事にも行かなくなりそうだ。
オレは冬原先生を好ましく思っている。オレが原因で身を持ち崩してほしくない。
あと、女教師というオプションはぜひ現役のままでいて欲しい。
「そ、そうだな。やはりそうだよな……」
「誤解しないでください。先生の事がキライなわけではないですからね?」
やたらと凹んでしまった先生を慰めようと、乗り出してテーブルについていた手をそっと握る。
キザな仕草だと思うが、これくらいが丁度いいのだろう。
すると、みるみる機嫌が良くなっていく冬原先生。
「ふふ、周囲の視線が気持ちいい。これはクセになりそうだ」
フードコートにはまばらに空席があるが、オレたちのテーブルの周囲だけは満席だ。
「ところで宮城。男はこういった場では気を付けるべき事がある。お前は常時ウエルカムな雰囲気を出しているからなおさらだ。よく聞け」
先生がふと思い出したようにして、また真剣な顔になった。
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